2020年出版関連動向回顧と年初予想の検証

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photo by Ryou Takano
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 HON.jp News Blog 編集長の鷹野が、2020年の年初に書いた出版関連動向予想を検証しつつ、2020年を振り返ります。

2020年概況

 まず、2020年の概況から。出版科学研究所が年末に発表(出版月報12月号)した紙の出版物推定販売額は1兆2100億円台の見込みで、対前年比約2%減とのこと。前年実績からすると、1兆2113億円前後でしょうか。ここ数年に比べると減少幅が小さく、「健闘した1年だった」という見解が出ています。

 書籍は約1%減、雑誌は約2%減の見込み。同じく前年実績からすると、書籍が6656億円前後、雑誌が5560億円前後といったところでしょう。なお1~11月では、コミックス(単行本)が前年同期比約23%と激増です。集英社『鬼滅の刃』が桁違いなのはもちろんですが、それ以外の作品も伸びているとのこと。

 統計上、コミックスの多くは雑誌として扱われているため、裏を返せば、コミックス以外の雑誌が、コミックスの増加分以上に減少していることになります。1~11月で月刊誌は約0.7%減ですが、うち定期誌は約10%減、ムックは約15%減となっています。また、週刊誌は8.5%減です。コロナ禍で臨時休刊も多かったため、致し方ないところもあるでしょう。

 また、例年通り電子出版市場の数字は、この時期は集計中のため未発表です。7月に発表された上半期(1~6月)の出版市場は紙+電子で7945億円、前年同期比2.6%増のプラス成長でした。紙は6183億円(同2.9%減)、電子は1762億円(同28.4%増)。これが下期どうなったか。詳細は年明け1月25日ごろの発表予定です。

2019年はどうだった?

 なお、2019年の紙の出版市場は1兆2360億円(対前年比4.3%減)で、うち書籍が6723億円(同3.8%減)、雑誌が5673億円(同4.9%減)。電子出版市場は3072億円(同23.9%増)。紙+電子の出版市場は1兆5432億円(同0.2%増)となり、2014年の電子出版統計開始以来はじめての前年比プラスでした。

 電子出版市場のうち、電子コミックは2593億円(同29.5%増)、電子書籍(文字もの)が349億円(同8.7%増)、電子雑誌が130億円(同16.7%減)でした。電子出版市場におけるコミックの占有率は、84.4%と非常に高いものとなっています。

 また、2019年のコミック市場は、紙が2387億円(同1.0%減)なのに対し、電子は2593億円(同29.5%増)と紙の市場を逆転しています。電子の市場占有率は52.1%。紙+電子のコミック市場は4980億円でした。

 2019年の紙の雑誌市場は5637億円ですが、ここにはコミックの多くが含まれた数字になっています。雑誌扱いコミックス1472億円とコミック誌722億円を除くと3443億円、電子雑誌130億円を加えると3573億円です。なおコミック市場は2017年の時点で、コミックを除いた雑誌市場を逆転しています。

 同じく、2019年の紙の書籍市場は6723億円ですが、書籍扱いコミックス193億円を除くと6530億円、電子書籍349億円を加えると6879億円です。つまり紙+電子の市場を書籍・雑誌・コミックの3ジャンルで考えると、市場占有率は書籍44.58%、雑誌23.15%、コミック32.27%となります。これが2020年にどうなったか。例年通りなら2月25日の発表で判明します。

年初にはこんな予想をしていた

 続いて、私が年初に予想していた2020年の動きについて。挙げたのは以下の5つです。

  • 出版社系ウェブメディアの逆襲
  • 書き手争奪競争の激化
  • マンガの輸出入がより活発に
  • 児童生徒向けの電書供給が本格化
  • 音声コンテンツ市場の拡大

出版社系ウェブメディアの逆襲

 主に「雑誌」という切り口での予想でした。2019年11月に「文春オンライン」が月間3億PVを突破、「東洋経済オンライン」も月間2億PV前後で推移していることなどから、他の雑誌社もさらにウェブへ注力するのでは? という想定でした。

 余談ですが、年初にこの予想を公開したのと同日に、月刊「創」編集長の篠田博之氏がYahoo!ニュース個人で「岐路に立たされた週刊誌が2020年への打開策として示した3つの方向性とは」という論考を公開、偶然に驚いた記憶があります。

自社PVの前年同期比は?

 では実際のところはどうだったのか? 日本ABC協会が四半期に1回公開している「雑誌発行社会員Web指標一覧」のデータから前年同期比を出してみました。直近で公開されている2020年7-9月期と、同時期の2019年7-9月期の、自社PVを比較しています。2020年自社PV上位20サイトの抜粋です。

法人名 サイト名 2019年3Q 2020年3Q 前年同期比
文藝春秋 文春オンライン 172,958,059 321,514,469 185.9%
講談社 現代ビジネス 101,622,580 257,323,274 253.2%
東洋経済新報社 東洋経済オンライン 193,211,974 203,089,154 105.1%
KADOKAWA コミックウォーカー 165,981,381 193,214,564 116.4%
主婦と生活社 週刊女性PRIME 108,192,076 174,488,817 161.3%
集英社 HAPPY PLUS(※1) 162,305,222 159,928,091 98.5%
小学館 NEWSポストセブン 137,201,844 127,400,234 92.9%
講談社 FRIDAYデジタル 38,105,847 94,132,784 247.0%
ダイヤモンド社 ダイヤモンド・オンライン 71,059,656 82,477,487 116.1%
KADOKAWA レタスクラブニュース 16,825,992 77,488,565 460.5%
KADOKAWA ザテレビジョン 70,807,679 75,803,697 107.1%
講談社 with online 47,060,564 74,245,871 157.8%
プレジデント社 PRESIDENT Online 45,689,469 73,736,078 161.4%
朝日新聞出版 AERA dot. 77,160,728 73,548,696 95.3%
光文社 女性自身 76,165,258 65,613,897 86.1%
KADOKAWA ウォーカープラス 118,758,841 40,147,332 33.8%
CCCメディアハウス ニューズウィーク日本版 29,815,821 32,399,840 108.7%
集英社 SPUR.JP(※2) 36,402,207 28,740,047 79.0%
光文社 Smart FLASH 21,355,273 27,310,376 127.9%
集英社 Marisol ONLINE(※2) 30,596,831 25,244,914 82.5%

(※1)「HAPPY PLUS」は、集英社の女性誌8つのサイトと、キュレーションサイト「HAPPY PLUS ONE」を合わせた「ウェブメディアプラットフォーム」という位置づけなので、この数字は9メディア合算と思われる(プレスリリース参照
(※2)どちらも「HAPPY PLUS」に含まれているサイト

 上位20サイトのうち、前年比プラスは13サイトでした。伸びとしては「レタスクラブニュース」「現代ビジネス」「FRIDAYデジタル」が突出しています。「日経や朝日より上」と称賛された「文春オンライン」は確かにすごいのですが、3億PVを突破したのがこの後の2019年11月なので、今年に限って言えば高値安定推移だったと言えるでしょう。

逆に、まとめサイトや投稿サイトは?

 その一方で、いわゆる「まとめサイト」はすでに“衰退”と言っていい状況にあるのではないでしょうか。無断転載でDeNA「WELQ」などが大きな問題となった2016年以降、Googleは専門性・権威性・信頼性をより重視するようになり、検索アルゴリズムの大幅アップデートを何度も行いました。

 その結果、たとえば2018年12月には歴史用語で新聞社など大手メディア系サイトや政府機関系サイトの順位が上昇し、反対に、まとめサイトや読者投稿型プラットフォーム・個人ブログが順位を落とすという現象が起きています。検索流入量は、検索結果の順位1つで大きく変わります。一般的に、運用型広告の収入はPVに比例するので、順位を落としたサイトは収入も減少したことでしょう。

 そのせいもあってか、まとめサイトの総本山的存在だった「NAVERまとめ」は、2020年9月末でサービス終了しました。また、これは私個人の体感ですが、炎上でPVを稼ぐタイプの悪名高いまとめブログ群を、ほとんど目撃しなくなりました。もちろん「Twitter」や「Facebook」といったSNSは観測範囲の問題もありますが、はてなブックマークのホットエントリーでも以前に比べると珍しくなったように思います。みなさんの観測範囲はいま、どうなっていますか?

 いまでもよく見かける(賑わっている)読者投稿型プラットフォームは、「Twitter」、Twitterまとめの「Togetter」、「はてな匿名ダイアリー」、「YouTube」、そして、2020年に急成長した「note」あたりでしょうか。若い世代には「Instagram」や「TikTok」がよく利用されているようです。

 また、これは次の項目とも関連しますが、小説や漫画などコンテンツの投稿サイトも、「少年ジャンプ+(ジャンプルーキー!)」をはじめとする出版社系が力を付けてきて、勢力を伸ばしている実感があります。

書き手争奪競争の激化

 主に「書籍」という切り口での予想でした。2019年に新規のノベルサービスが次々投入され、既存サービスでも投稿者に広告収益が分配されるプログラムが開始するなど、マンガ系サービスと同様、文字モノでもそういった「書き手にちゃんと対価で報いる」形での囲い込み傾向がより強くなるだろう、という想定でした。

noteの躍進とつまづき

 この文脈で特筆すべきは、2019年末にJEPA電子出版アワード大賞を受賞した「note」の躍進でしょう。2019年1月末に月間1000万アクティブユーザー(MAU)を突破、同9月には2000万と倍増したのに驚いていたら、2020年にはさらに猛烈な勢いでユーザー数が増え、5月には6300万を突破しています。

 2019年3月には法人向けプラン「note pro」を開始。MAU6300万突破のタイミングで、法人利用は1600件というリリースが出ています。2018年に資本業務提携した日本経済新聞や、2020年12月に資本業務提携した文藝春秋をはじめ、KADOKAWA、小学館、集英社、新潮社、日経BP、早川書房、河出書房新社、幻冬舎、光文社、ダイヤモンド社、NHK出版、ポプラ社など、多くの出版社やその編集部が、広報活動やコンテンツ配信に活用しています(詳細はyomoyomoさんによる2020年9月時点のまとめを参照)。

 5月時点で会員登録数は260万人。クリエイターが集まる場所に出版社自身が居を構える意味の一つは、もちろん書き手の獲得にあるでしょう。「note」での連載から書籍化した事例は、2020年だけで50冊以上にのぼるそうです(「noteからの書籍化」マガジンに実績がまとめられています)。また、「note」では頻繁に投稿企画が行われており、中には複数の出版社と合同開催した読書感想文コンテストといった企画もあります。

 ただ、今年の後半に入ってからは、残念な事件も起きています。8月には、「note」への投稿者IPアドレスが、記事詳細ページのソースコードから確認できてしまう不具合が発覚。過去に2記事以上投稿したことのあるユーザーすべてが対象という、影響範囲の大きいものでした。その余波で、「Wayback Machine」などのアーカイブから過去記事が一掃されてしまったり、辞めて他へ移りたくても過去記事をエキスポートする機能が無いといった点が指摘されたりしています。

 また同社の別サービス「cakes」では、10月にはDV相談問題の記事が、11月にはホームレス問題の記事が、12月には連載消滅の告発と、連続して炎上事件が勃発。しかも、それを糾弾する手段として「note」への投稿が選ばれるという、皮肉な現象も起きていました。

 「cakes」は誰でも投稿できるプラットフォームではなく、編集機能のあるメディアという位置づけだったはずなのですが、その方針がいつの間にか曖昧になり、編集がうまく機能しなくなってしまっていたようです。「cakes」でも「note」と同様、連載から書籍化という出版社とのコラボ事例も多かっただけに、いろいろ残念です。再起を期待します。

ノベルサービス戦争は続く

 呆気にとられたのが、「LINEノベル」が開始からたった1年でサービス終了してしまったこと。「LINEマンガ」の再現を想像していたのですが、残念。ヤフーとの経営統合が後から決まったとはいえ、いくらなんでも見切りが早すぎると感じました。

 日テレ、アニプレと組んだ「第1回 令和小説大賞」は応募総数累計4440作品と、いきなり電撃小説大賞並みに作品が集まっていただけに、IP創出(投資)という意味では決して悪くない船出だったように思うのですが。既存作品の配信やプロ作家による連載を、横書き単話形式で配信する部分が弱かったようです。

 他にも、クリーク・アンド・リバー「Portie」は、2019年4月に開始し11月に終了。講談社「セルバンテス」は、2019年2月に開始し2020年5月に終了。ディスカヴァー・トゥエンティワン「ノベラボ」は2019年9月に終了のお知らせが出ていましたが、2020年6月からデザインエッグへ事業継承され生き延びています。

 2019年の振り返り記事では「ノベルサービス戦争勃発」と形容しましたが、その戦争を勝ち残れなかったサービスは早々に脱落していってます。みんな見切り早い……まあ、ビジネスですもんね。韓国ウェブ小説や、中国ウェブ小説のように、ボーンデジタルの小説で巨大な市場が日本でも形成される日は来るのでしょうか。

 小説投稿サイト系での新しい動きとしては、1999年12月にサービスを開始した老舗でいまはKADOKAWAが運営している「魔法のiらんど」が4月に小説投稿特化型サイトへリニューアルしたり、小説家の中村航さんが代表の一般文芸特化型投稿サイト「ステキブンゲイ」がオープンしたりといった動きがありました。

 また、taskey「peep」と集英社「TanZak」が共同で「e-Story大賞」を開催したり、ホビージャパン「ノベルアップ+」が集英社「ウルトラジャンプ」編集部と共同企画でマンガ原作プロットコンテストを開催したり、といったコラボレーションもありました。

出版社系は?

 出版社では、とくに集英社が次々新しい手を打っているのが目立ちました。8月開始の女子向けマンガ投稿サイト「マンガ Meets」は、編集者からコメントがもらえたり担当希望が付いたりするシステム。作家と担当者が「出会える」という、講談社「DAYS NEO」と似た仕組みを新たに立ち上げています。

 逆に「ジャンプルーキー!」では、編集者のネームチェックを経ず「少年ジャンプ+」で自由に連載できる枠の争奪戦を開始しています。編集部員が担当に付かないやり方は、ある意味『バクマン。』に代表される「編集者不要論」に則っているとも言え、前述の「マンガ Meets」や「DAYS NEO」とは真逆の方向性です。 

 また、入賞企画から実際に「マワシヨミジャンプ」などが世に出た「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」の拡大版、「集英社スタートアップアクセラレータープログラム マンガテック2020」も開催されました。「AI/ハードウエア/XR」や「建築/美容/農業」など、あらゆるビジネスがマンガとコラボできる可能性がある、ということを世に問うた企画です。

Kindleインディーズマンガは……?

 アマゾンが2018年に開始した「Kindleインディーズ無料マンガ」は、「インディーズ無料マンガ基金」から年間数千万円規模の分配が行われるということで話題になり、2019年10月に「第1回Kindleインディーズマンガ大賞」の開催を発表、2020年3月には受賞作の発表が行われました。

 が、その後の動きについては、情報が出てきません。2019年7月の1周年のときには分配金の増額などの発表もあったのですが、2020年7月の2周年にはとくになにもなく。新着マンガは続々と出ており、Twitterで検索すると分配金の報告も散見されるので、間違いなく続いてはいるのですが。話題にならなくなった、というのが気になるところです。

U-NEXTオリジナル書籍配信の狙い

 面白い動きとしては、「U-NEXT」が町田康、誉田哲也、藤井太洋などのオリジナル書籍を読み放題で提供開始したことが挙げられます。月額会員なら追加料金なく読み放題というのは、アマゾン「Prime Reading」と同じやり方であり、うまいやり方だと思います。

 実はこれ、年末の「HON.jpブロードキャスティング」で西田宗千佳さんから解説があったのですが、狙いは「映像化」のための原作確保とのこと。つまり「Amazonプライム・ビデオ」や「Netflix」などがオリジナル作品を制作・配信していますが、「U-NEXT」は同じことを自社IPでやろうとしている、ということなのでしょう。該当箇所から始まる動画を貼っておきます。

 なお、「U-NEXT」の電子書籍事業は、2019年1月に東芝から承継した「BookPlace」を統合・リニューアル、それから1年で売上9.3倍に伸びるなど急成長しています。今後も注目しておきたいプラットフォームです。

マンガの輸出入がより活発に

 集英社「MANGA Plus」の取り組みが、2019年11月に開催された「国際マンガ・アニメ祭Reiwa Toshima(IMART)」の特別講演「ジャンプの世界戦略:MANGA Plus海外配信の狙い」で注目され、同年のJEPA電子出版アワードで「エクセレント・サービス賞」を受賞。マンガの輸出はもちろん、輸入についても今後もっと活発に行われるだろう、という想定でした。

 「MANGA Plus」立ち上げに携わった「少年ジャンプ+」副編集長・籾山悠太さんへのインタビューと、海賊版対策の実務を担当している集英社・編集総務部部長代理法務グループの伊東敦さんへのインタビューは、出版関係者必読でしょう。

輸出は?

 まず輸出について。新しい動きとしては4月に、講談社、コアミックス、コミックスマート、フレックスコミックスなど、11の出版社とパートナーシップを結んだ、海外向けのマンガ定額読み放題サービス「Mangamo(マンガモ)」が開始したことが挙げられます。月額4.99USドル。意外と安い。

 また、マンガの画像からOCRでテキストを抽出し、機械翻訳、吹き出しの中へ再配置、という工程をAIで自動化、人間によるその後の作業負荷を軽減するシステムを、東大発ベンチャーが「マンガ特化型AI自動翻訳」サービスとしてリリース、といった動きもありました。

 マンガ自動翻訳は、赤松健さんの「マンガ図書館Z」では以前から実装されていますが、自動抽出&自動翻訳のままなので、誤認識・誤翻訳が散見される点が指摘されていました。ただ、コストを考えたら、それしかやりようがなかったのも事実。逆に、集英社「Manga Plus」のように膨大な労力とコストをかけてすべて人力翻訳し続けるのも、限界があるでしょう。一部の「儲かる」作品だけが翻訳対象になってしまう。だから、こういった半自動の仕組みにも、一定のニーズがあるように思います。

 そういった中、「BOOK☆WALKER」の海外からの利用が8月単月で1億円突破というニュースもありました。2020年4~6月の第1四半期で、英語圏向けの「BOOK☆WALKER Global Store」は昨対比210%、「台湾BOOK☆WALKER」は同202%と、国内以上の成長率になっているそうです。ラノベがマンガの10倍売れている、というのも興味深いところ。「米Amazonで日本の作品が複数販売停止」といった米巨大IT企業による表現規制も、追い風になってそうです。

 この「BOOK☆WALKER」海外利用単月1億円突破のニュースについて、メディアドゥ取締役CBDOの溝口敦さんが「HON.jpブロードキャスティング」に登壇いただいたとき、「(我々もコンテンツ輸出事業を行っているので)とても勇気づけられる」とおっしゃっていたのが印象的でした。該当箇所から始まる動画を貼っておきます。

 また9月には、マンガで学習するという選択肢を世界に広めるサービス「Aha!Comics」がスタート。ドイツの初等教育向けに、かけ算学習マンガを公式サイトで無料公開、冊子3000部を無料配布するといった活動もありました。

輸入は?

 続いて輸入について。韓国発の縦スクロール(縦読み)マンガ「ウェブトゥーン」は、以前から「comico」や「LINEマンガ」にありましたが、ここへ来てカカオジャパン「ピッコマ」の攻勢もあり、日本でも本格的に受け入れられるようになっているようです。特筆すべき作品は、『俺だけレベルアップな件』でしょう。単行本は、KADOKAWAから発売されています。

 なお、「ピッコマ」アプリの月間販売金額が、7月以降「LINEマンガ」を逆転して首位になったというニュースもありました。これは「AppAnnie」のセールスランキングなので、「App StoreとGoogle Playの収益合計」であることに留意しておく必要があります。

 つまり、アマゾンや楽天など、ウェブ重視&自社決済中心のサービスは、ランキングに登場しづらいというわけです。「ピッコマ」が伸びているのは確かなんですが、「LINEマンガ」は「LINE Pay」決済に大幅な特典を付けるなど誘導を図っている点も見逃せないでしょう。

児童生徒向けの電書供給が本格化

 主に「教育」という切り口での予想でした。文科省「GIGAスクール構想」により、児童生徒向けICT端末が1人1台レベルで普及することから、もちろんコンテンツ供給市場も成長するだろうという想定でした。

「コロナ休校」対応の無料公開相次ぐ

 その動きを想定以上のものにしたのが、コロナ禍です。安倍首相(当時)が2月27日に、小中学校、高校、特別支援学校に臨時休校を要請。図書館も休館が相次ぎ、企業でもリモートワーク(テレワーク)が広がりました。そんな中、臨時休校対応という名目で、電子版の期間限定無料公開に踏み切る事例が相次ぎました。

 当メディアでは3月から4月にかけて、この動きを「すべて拾う」つもりで更新し続け、2カ月間の合計で200本超の記事を配信しています。関連記事は「COVID-19」タグを見ていただくのがいいでしょう。なお、一番読まれたのは「小学館版学習まんが 少年少女日本の歴史 全24巻が期間限定無料公開」のニュースでした。

 また、「学びを止めない」ための学校側の動きとして、司書教諭の有山裕美子さん(工学院大学附属中学校・高等学校)に寄稿いただいた「学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション(DX)」シリーズ(前編中編後編)も、非常に多く読まれました。

デジタル教科書、本格導入?

 また、政治的な動きも活発になっています。デジタル教科書購入代を国が一部負担するとか、平井デジタル改革担当相が萩生田文科相に教科書の原則デジタル化を提案とか、省令によりいまはデジタル教科書の利用が各教科の授業時間数の2分の1未満と制限されているのが来年度から撤廃される方針とか。読売新聞がこういう動きに反発する社説を出したり、特集を組んだりしていたのには苦笑い。GIGAスクール構想で補助金1人あたり4万5000円というパッケージが用意された結果、Chromebookの出荷台数が急速に伸びていることにも触れておきましょう。

電子図書館サービスに注目集まる

 児童生徒向けに限らず、電子図書館サービスへ急激に注目が集まった1年でもありました。小中高校向けでは「School e-Library」とJDLS「LibrariE」が伸びているようです。「LibrariE」導入館は全体で300館を突破と急増。11月末時点では、公共図書館が117館(TRC-DLプラットフォームを含む)、大学図書館が96館、学校図書館(小中高)が85館、その他6館という導入状況になっています。

 機関向けでは丸善雄松堂「Maruzen eBook Library」が大躍進。紀伊國屋書店の大学・公共図書館向け「KinoDen」も伸びているようです。公共図書館向けでは図書館流通センター「TRC-DL」が2020年12月時点で119自治体へ導入。ようやく公共図書館向けも、潮目が変わった感があります。

 そういった中、2019年末にニュースが流れた楽天の「OverDrive」売却は、売却益が出ているとはいえ、日本での事業は多くをメディアドゥが担っていたとはいえ、結果的、タイミング的には、あまりよろしくなかったのではないか、と思わずにはいられません。楽天主導で試験導入された浜松市、大阪市、神戸市はいずれも、残念ながら2020年に提供終了しています。つらい。

音声コンテンツ市場の拡大

 オーディオブック関連でオトバンク「audiobook.jp」やアマゾン傘下「Audible」の動向はもちろん、また流行り始めた「Podcast」や、ボイスメディア「Voicy(ボイシー)」「Himalaya(ヒマラヤ)」など、音声コンテンツ全般の動向に注目した予想です。

 実際、日刊工業新聞社ニュースイッチで「人気じわり…“聴く読書”オーディオブックは出版業界を救うか」という特集が組まれたり、「MDB Digital Search」からオーディオブック市場が2021年度に140億円、2024年度に260億円まで成長する見通しという予測レポートが出たりと、周囲の期待も高まっていました。

 中国で累計6億ダウンロード以上、月間アクティブユーザー1億2000万人以上という音声プラットフォーム「himalaya」が、日本でオーディオブック2万6000点以上を配信開始オトバンクとの業務提携記者発表会が3月初旬の日本でのコロナ禍開始直後で、急遽、Zoomを使ったリモート会見が実施されたのは印象的でした。

 2019年9月に100万人に達した会員数は、2020年10月には160万人を突破。ただ、オトバンク久保田社長は日刊工業新聞社のインタビューに、コロナ禍でオーディオブックにも「多少の追い風」「劇的に伸びたということはない」と答えています。謙遜でしょうか?

 いっぽう「Audible」は戦略発表会で、コロナ禍により「ポジティブな影響」が出ていると発言、有料会員数は約2倍に伸びたとのことです。また、「radiko」の会員が1000万人目前というニュースもありました。音声メディア「Voicy」は2021年から、再生回数に応じて配信者へ収益を還元するプログラムを開始するそうです。音声コンテンツ全体が盛り上がっているのは間違いないようです。

その他の大きな動き

政治(※立法・行政・司法)

  • リーチサイト規制とダウンロード違法範囲拡大の著作権法改正成る
  • 授業目的公衆送信補償金制度、コロナ禍を受け1年前倒しで暫定スタート
  • 図書館での権利制限DX対応、検討進む
  • 電子納本の実証実験終わるも、無償かつDRM無し以外への拡大はいまだ成らず
  • プラットフォーマー規制の検討が国内外で進む
  • 米大統領選挙とフェイクニュース問題で、SNSによる表現規制や政治広告抑制
  • コンプレックス広告問題
  • 国立国会図書館資料デジタル化に補正予算60億円が閣議決定
  • 出版物の総額表示再義務化問題

経済(※主に企業の動向)

  • Cloudflare社、海賊版サイト対策で出版大手4社と和解
  • アマゾン直接取引出版社の増加
  • 集英社、小学館、講談社、KADOKAWAなど、マンガに強い大手出版社が好決算
  • JPRO「BooksPRO」正式稼働で書誌情報流通の迅速化・円滑化が進む
  • NYT、WSJ、日経以外の有料メディアに勝算は?
  • スマホシフト開始から10年、フィーチャーフォン向けサービス終焉へ
  • パピレス・犬耳書店、Rena!へ統合
  • 東野圭吾、森絵都、百田尚樹、村上春樹、星海社など、ついに電子版配信開始
  • エピック・ゲームズなど、アップル決済手数料30%を問題視
  • アマゾンなどのサクラレビュー問題
  • 「まんが王国」ビーグリーがぶんか社グループを買収
  • スタジオジブリが場面写真の無償提供
  • グーグルがニュースメディアへ対価支払いへ
  • 「コミティブ」など、公式マンガ動画配信への動き
  • 米バズフィードがハフポストを統合へ
  • ペンギン・ランダムハウスがサイモン&シュスターを買収、ビッグ5がビッグ4に

社会(※文化・教育・ライフスタイルなど)

  • コロナ禍で展示会や即売会などリアルイベントの休止や延期相次ぐ
  • 図書館に本の除菌機設置相次ぐも、効果は……?
  • 絵本読み聞かせなど朗読動画を投稿(基本的に違法)しちゃう事例多発
  • ブックチューバー増える?
  • 鬼滅の刃フィーバー

技術

  • ICタグの価格低減や紙製化
  • ブロックチェーン×出版(アソビモ「DiSEL」、TART「CANDL」、Gaudiyなど)
  • AI技術の活用進む(記事自動作成、チャットボット、AI-OCRなど)
  • 同人誌即売会のオンライン開催(技術書典、VRのComicVketなど)
  • ディープフェイクポルノで初摘発
  • XR電書リーダー開発開始

2021年はどんな年に?

 さて、2020年ももうすぐ終わり。2021年はどんな年になるでしょうか? 毎年恒例の動向予想をお楽しみに。それではよいお年をお迎えください。

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著者について

About 鷹野凌 591 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)/ プロフィール画像は©鈴木みそ氏
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