《この記事は約 7 分で読めます(1分で600字計算)》
新型コロナウイルス感染拡大を受け、全国の小中高校などが臨時休校となった。そんな中でも「学びを止めない」ため、学校図書館はどのような取り組みを行っているか? また、そこにはどのような問題があるのか? 司書教諭の有山裕美子氏(工学院大学附属中学校・高等学校)に寄稿いただいた。前中後編の短期集中連載でお届けする。
改めて学校図書館を問い直す〈前編〉
【目次】
学校図書館の使命とは
私は学校図書館に関わり始めて、10年とちょっとになる。公共図書館からの転身だったので、最初はその違いに戸惑うことも多かった。学校図書館といえば、学校の中にある「図書室」のことで、多くの人にとっては、児童生徒が本を借りに行く場所という認識ではないだろうか。
実は、一般の人にはあまり知られていないかもしれないが、学校図書館は、学校図書館法[1]という学校図書館に関する独立法によって設置された機関である。その第2条では、学校図書館を「学校の教育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成することを目的として設けられる学校の設備」であると定義している。学校図書館は、読書も含めて学校の教育課程全体を支える設備なのである。
◆ 文科省の例示は「紙本の貸出し」と「本の紹介」だけだった
そんな学校図書館は、新型コロナウイルス感染蔓延を予防する処置として、全国で学校が休校を余儀なくされる中、どのような取り組みを行っていたのだろうか。4月23日、文部科学省から「学校休業中の学校図書館の取り組み事例」[2]が出された。そこで提示された取り組みは、以下の4点である。
- 時間を区切っての図書の貸出し
- 分散登校日を活用した図書の貸出し
- 郵送等による配達貸出し
- 学校司書によるおすすめの絵本の紹介など
紙本の貸出しと本の紹介のみを提示したこれらの例は、学校図書館の現状を踏まえた上での、最低限の提示だったのかもしれない。が、私はこの取り組み例が、ほかでもない学校図書館を所管する文部科学省から出されたことに、衝撃を受けた。
◆ そもそも出勤すらできない場合、紙本を貸出す対応はできない
もちろんこうした取り組みを否定するわけではない。困難な状況の中で、できることを模索し、できる手段をそれぞれの現場で検証した結果において、限定貸出しも郵送貸出しも可能になる。こうした取り組みを実現するにあたっては、多くの困難が伴ったであろうことは、容易に想像できる。こうした非常事態において、できることを考え提供していく姿勢は、学校図書館も同様である。
しかし、残念ながらここに挙げられた取り組みは、私の学校のように出勤することすらかなわない場合は、どれも実現不可能である。また、できるだけ多くの児童生徒に提供しようとした場合、これらの方法では、どうしても限界が出てきてしまうだろう。
そして、ここで改めて考えたいのが、「教育課程の展開に寄与する」学校図書館が、この非常事態に紙本の貸出しと本の紹介しか打つ手がなかったり、「図書室」という場所を失った際に、オンライン等を活用した手立てがほとんど出せなかったりしたとしたら、それはあまりにも情けない状況ではないか、ということだ。
予算や職員体制の問題もあるだろう。しかし、児童生徒の学びを支える機能としての学校図書館のあり方を、今こそ再考する必要があるのではないか。教育現場の非常事態に直面して、私は改めてそのことを強く感じた。
図書室という場を失ったときに、学校図書館に何ができるか
それでは、「図書室」という場所を失った学校図書館には、何ができるのか。それは「学校」という場を失ったときに、学校はどう教育を保証していくかという問いに似ている。
私は、司書教諭という立場で学校図書館に関わっている。司書教諭は学校図書館法で、学校図書館の専門的職務を掌らせるため置かれているもので、12学級以上の学校には置くことが義務付けられている。
2020年2月29日、私の勤務校でも、新型コロナウイルス蔓延を予防する処置として休校が決まった。突然の休校決定に、慌てて図書館便りを作成したり、貸出し無制限などの方法も考えたりした。が、実際のところ生徒たちに、図書館に立ち寄って本を選んで借りていくような余裕はなかった。
各担任は、ホームルームで生徒に必要最低限の注意を与え、課題を伝えることで手一杯の状況だった。その後、3月中に一度の登校日を除いて、この状況はそのまま3カ月近く継続していくことになる。
◆ いま使えるリンク集の提供や、電子図書館サービスの活用
生徒たちがリアルに集う場所を失って、私が最初に行ったことは、図書館のホームページに生徒たちが使えるサイトのリンク集を作ることだった。幸い、休校を受けて多くの学びのサイトや出版社等による無料の電子書籍提供などが行われ始めていたので、それらをまとめて発信した。
何より、リアルな「図書室」という場所を失った生徒に、可能な方法で可能な限りの情報を伝えたいと思ったことがきっかけである。学校図書館関係の友人たちの多くが、各校で同じようなサイトを作ってくれたことで、お互いの情報交換も可能になった。
次に行ったことは、Japan Knowledge や新聞データベースなどの学外ID[編注:構内ネットワーク限定ではなく、学外からでも使用可能なIDのこと]を発行してもらうことだった。また、幸いなことに本校は電子図書館を導入していたので、電子図書館の利用やデータベースの学外IDの利用を促す図書館便りを作成し、学内のSNSで配布した。
休校により学校図書館が使えない中で、電子図書館はその力を発揮した。4月に入ってからは新刊の購入、新入生の新規ID発行等も行うことができ、利用案内とともに配布した。国語科や英語科から、電子図書館を活用した課題が出たこともあり、その特集コーナーを作成し、生徒に案内した。利用数は普段の数倍になった。
◆ 図書室というリアルな「場」がなくても、それほど困らなかった
4月13日からは随時オンライン授業が始まり、私が担当する図書館を活用した授業「デザイン思考」も、中学全学年でスタートした。オンライン授業を始めて驚いたことがある。図書室という「場」がなくても、そこまで困らないのである。
私はこの授業を担当して6年目になる。もちろん手を伸ばせばすぐに手に取れる場所に図書があれば、いろいろ活用できる。雑誌も新聞も原紙だからこその、圧倒的な力がある。紙の本のめくり感や質感が大好きだという生徒も多い。
しかし、その状況を踏まえても、オンラインで授業を行う際に、そこまで困らないのだ。もしかしたら私が、学校図書館の紙の資料をうまく使えていなかったのかもしれない。が、実はここ数年の間に、少なくともICT活用を推進した本校では、紙の資料がそこになくても、むしろそれ以外の情報を使って学ぶことに、生徒自身はもちろん、私自身もかなり慣れてきていたのである。
いや、改めて指摘するまでもなく、生徒たちは既に紙の資料以外の方法で情報を入手することが当たり前の毎日になっている。学校図書館だけが、紙の情報に固執していたとしたら、社会からも生徒からも置いていかれてしまうだろう。
◆ 学校図書館の使命には、オンラインでもほとんど差異がない
新入生への学校図書館ガイダンスは、動画による学校図書館のバーチャルツアーを行い、使い方を簡単に説明した。本の貸出し方法は、実際の学校図書館の利用方法には触れず、電子図書館の使い方を説明した。電子図書館の本や、無料で読める本を紹介しているサイトを活用して、本の紹介を行い、オンラインで読書会を行った。
生徒が読んだ本の紹介は、教育用のソフトやアプリを活用して、写真や文字、音声などを使って作成、発表を行った。オンラインで、データベースの活用方法や検索方法、フェイクニュースなどのメディア情報リテラシーをテーマにした授業も行った。
これらの授業を通して、読書に興味を持ってもらうこと、ICTの使い方について知ること、そして情報を提供しその活用を図ること、といった学校図書館の使命には、オフラインでもオンラインでも、ほとんど差異がないことに、改めて気付かされたのである。
参考リンク
[1] 文部科学省「学校図書館法」昭和28年(1953年)制定
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/011.htm
[2] 文部科学省「休館中の図書館、学校休業中の学校図書館の取り組み事例」
https://www.mext.go.jp/content/20200423-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf
2020新型コロナウィルス対策下の学校図書館活動(青山学院大学 庭井史絵氏によるまとめ)
https://sites.google.com/view/covid19schoollibrary/top
工学院大学附属中学校・高等学校
あまり学校図書館は知らないので、とても興味深く読ませていただきました。続きが楽しみにしています。シェアさせてください。