Rakuten Koboの読み放題サービス「Kobo Plus」はいつ日本で提供されるのか?

【写真】ビジネスイベント「Rakuten AI Optimism」に登壇する Rakuten Kobo Inc. CEO マイケル・タンブリン氏
Photo by TAKANO Ryou
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 楽天グループ株式会社がパシフィコ横浜で開催したビジネスイベント「Rakuten AI Optimism」で7月31日、Rakuten Kobo Inc. CEO マイケル・タンブリン氏が登場しました。編集長・鷹野が取材を経て感じたことをレポートいたします(以下、常体)。

Kobo Plusは日本に来る? 来ない?

 楽天広報から本イベントの取材依頼を受けた私は、もしかしたらなにか新サービスの発表があるかも? という期待を抱いていた。とくに、日本ではまだ展開されていない書籍読み放題サービス「Kobo Plus」の情報があるかもしれないと思ったのだ。

 結論から言えば、日本で「Kobo Plus」が始まる時期は、今回は明らかにされなかった。しかしRakuten Kobo Inc. CEOのマイケル・タンブリン氏によると「すでに日本の出版社と話し合いをしている」そうだ。筆者のもとにそういった情報はまだ届いていないが、もしかしたら近いうちに動きがあるかもしれない。

 ならば、もし日本で開始されるとしたら、どのようなサービス展開になるか? などを、現状を踏まえつつ想像してみることにしよう。

そもそも「Kobo Plus」とは?

 午前中に開催されたビジネスカンファレンスで登壇したマイケル・タンブリン氏は、書籍読み放題サービス「Kobo Plus」について以下のように説明した。

(※Google AI Studioによる文字起こしと翻訳)

And so we introduced Kobo Plus first to the Netherlands in 2017. And it was a great success. (そして私たちは、2017年にまずオランダでKobo Plusを導入しました。そしてそれは大成功でした。)

We are now making Kobo Plus available in over 20 countries with 3 million titles available for unlimited reading. (現在、私たちは20カ国以上でKobo Plusを提供しており、300万タイトルが読み放題で利用可能です。)

And we’ve seen some fascinating changes in how people read. It turns out that patterns of reading behavior are different when you have somebody inside a subscription service compared to when they’re buying books one at a time.(そして、人々の読書の仕方にいくつかの興味深い変化が見られました。サブスクリプションサービス内の人と、一冊ずつ本を買う人とでは、読書行動のパターンが異なることが分かったのです。)

Not only are people inside a subscription reading twice as much, they are finishing books six times more often than individual e-book buyers.(サブスクリプション内の人々は、2倍多く読んでいるだけでなく、個々の電子書籍購入者よりも6倍も頻繁に本を読み終えています。)

They’re also reading more widely, reading more new and lesser known authors, and generally more willing to try books that they don’t know as much about or to spread into other categories that they are that they’re also interested in.(彼らはまた、より幅広く読んでおり、より多くの新しい、あまり知られていない著者を読み、一般的に、あまり知らない本を試すことや、興味のある他のカテゴリーに手を広げることにも積極的です。)

So Kobo Plus has become this very interesting tool for publishers who want to build awareness for books or authors who are not as well known, or books that have been in the market for several years and aren’t being shown in bookstores as often as they used to be.(このようにKobo Plusは、あまり知られていない本や著者への認知度を高めたい出版社や、市場に出てから数年経ち、以前ほど書店で展示されなくなった本にとって、非常に興味深いツールとなりました。)

We are, in many ways, giving second lives to hundreds of thousands of books, and we are giving first exposure to hundreds of thousands of lesser known authors.(私たちは多くの意味で、何十万もの本に第二の人生を与え、あまり知られていない何十万もの著者に初めての露出の機会を与えています。)

We still sell a lot of books the traditional way, but we aren’t afraid to embrace new models if that can help us make readers happy and if that can help us find new ways to create growth for authors and for publishers.(私たちは今でも従来の方法でたくさんの本を売っていますが、それが読者を幸せにし、著者や出版社に成長をもたらす新しい方法を見つける助けになるのであれば、新しいモデルを取り入れることを恐れません。)

【写真】Kobo Plusについて説明するマイケル・タンブリン氏

国と地域

 ここからはさまざまな情報が読み取れる。公開情報とも照らし合わせて考えてみよう。Rakuten Koboのヘルプ(英語版)1Kobo Plus: Common questions – Rakuten Kobo
https://help.kobo.com/hc/en-us/articles/360018976153-Kobo-Plus-Common-questions
によると、本稿執筆時点で「Kobo Plus」が展開されているのは、27の国と地域だ。

 北米はカナダ、アメリカ、メキシコ。南米はアルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー。欧州はイギリス、アイルランド、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス。アジアはインド、マレーシア、シンガポール、台湾、香港。オセアニアはオーストラリア、ニュージーランド。そして、南アフリカだ。

 料金は国によって異なるが、月額7.99ドルや9.99ユーロなど、円換算するとおおむね1000円~2000円くらいの範囲に収まる。ただしインドは149インド・ルピー(約250円)と激安だ。日本においても後発であることから、対ライバルとの関係や相場観で設定されることになるだろう。

メニュー

 これらの国と地域(フランスを除く)では、書籍読み放題サービスとともに、オーディオブック聴き放題サービスが展開されている点が興味深い。Read(書籍)と、Listen(オーディオブック)と、Read + Listenの、3つのコースが選択できる。

 ところが現状、日本の楽天グループにはオーディオブック専門サービスがない。そのため、もし日本で「Kobo Plus」が始まるとしたら、①フランスと同じように書籍だけで展開する、②オーディオブックも同時に開始する、③「楽天マガジン」など既存近接サブスクとセットにする、④いま楽天グループが力を入れている「楽天モバイル」とセットにする、などの可能性が考えられる。

 なお、④は「U-NEXT」との提携が始まったばかり2楽天の新プラン「Rakuten最強U-NEXT」登場! 実際オトク? 徹底解剖で分かったコト〈ケータイ Watch(2025年6月26日)〉
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/value/2025647.html
ではあるが、雑誌の読み放題はグループ内で「楽天マガジン」と競合するにも関わらず展開されている。多少の競合は気にしない方針なのかもしれない。

ラインアップ

 では、ラインアップ(カタログ)はどうか? マイケル・タンブリン氏の言う「300万タイトル」というのは、恐らく各国語版すべての合計だろう。アメリカでは2023年4月に「Kobo Plus」が開始されているが、その数カ月後に「Kindle Unlimited」「Scribd」などの競合サービスとの比較レビューを行った記事を見つけた3Kobo Plus Review: Is This the Best Kindle Unlimited Alternative?
https://bookriot.com/kobo-plus-review/

 そちらによると「Kobo Plusのカタログは、(先行する)競合他社のサービスとほぼ同様」だと評価されている。書籍読み放題サービスは日本においても後発となるため、競合他社サービスと見劣りしないラインアップが求められるだろう。

 なお、日本での展開交渉に時間がかかる理由を、マイケル・タンブリン氏はエキシビジョン(展示エリア)で午後に開催されたメディア向けトークセッションで以下のように説明していた。

And one of the reasons that those conversations take a little bit of time is that, um, we’re helping to educate publishers onto what a subscription service like Kobo Plus is beneficial for in their relationship with authors.(それらの交渉に少し時間がかかる理由の一つは、Kobo Plusのようなサブスクリプションサービスが、著者との関係においてどのような利益をもたらすかについて、出版社の方々に理解を深めていただく手助けをしているからです。)

Kobo Plus is especially good for helping discovery. It’s great for, um, for publishers to help readers find, um, authors who maybe don’t get as much attention, authors who are new in their career, or, um, or books that didn’t get the exposure that they should have, um, and helps them find new audiences. (Kobo Plusは特に、読者による「発見」を助けるのに非常に優れています。出版社が、あまり注目されていない著者やキャリアの浅い著者、あるいは本来受けるべき露出を得られなかった本を読者に見つけてもらうのに最適で、新しい読者層を見つける手助けになります。)

And that’s both for things like manga titles, but also for fiction and non-fiction titles as well.(これはマンガのタイトルだけでなく、フィクションやノンフィクションのタイトルにも当てはまります。)

 日本で展開する際に大きなポイントになるのは、恐らくこの「マンガの扱いをどうするか?」だろう。2016年にアマゾンが「Kindle Unlimited」を日本で開始したとき、ほどなくしてマンガを中心に配信が停止され、大手出版社から抗議の声が上がるという事件があった。

 当時、マンガの存在は「アマゾンの誤算」とまで言われた4アマゾン、読み放題の誤算 出版社と対立〈日本経済新聞(2016年10月5日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO07991200U6A001C1X11000/
。マンガは、文字モノとは消費速度が段違いだからだ。「読まれたページ数」で収益を分配すると、他ジャンルとの不均衡が発生してしまう。

 それゆえマンガをどう扱うか、他のジャンルとどうバランスをとるかは、「Kobo Plus」が日本で展開される際にも大きなポイントになるだろう。

【写真】トークセッションの際のマイケル・タンブリン氏

セルフパブリッシング

 また、マイケル・タンブリン氏はビジネスカンファレンスで「あまり知られていない何十万もの著者に初めての露出の機会を与えている」と発言している。これは恐らく、個人出版プラットフォームの「Kobo Writing Life」のことが念頭にあるのだろう。競合するアマゾン「Kindle Unlimited」と同様に、「Kobo Plus」にも個人出版の作品が登録できる。

 なお、「Kobo Writing Life」のヘルプには、「Kobo Plus」への登録に「no exclusivity(独占性なし)」と太字で示されている5What is Kobo Plus? – Kobo Writing Life Help Centre
https://kobowritinglife.zendesk.com/hc/en-us/articles/360058975432-What-is-Kobo-Plus
。この点、独占販売が要求される「Kindle Direct Publishing(KDP)」から「Kindle Unlimited」への登録とは差別化が図られている。

 日本でも2015年から「楽天Koboライティングライフ」は展開されているが、立ち上げに関わった担当者が異動(その後退社)してから、正直言って、競合他社に比べたらあまり力を入れているとは思えない状態が続いている。日本で「Kobo Plus」の展開が始まった際には、作家の発掘・育成といった裾野を広げる活動にも改めて力を注いで欲しいところだ。

端末

 なお、トークセッションでアピールされていたのは、楽天Koboのカラー電子ペーパー端末「Kobo Libra Colour」の話が中心であった。タイミング的に、競合社のアマゾンがカラー電子ペーパー端末「Kindle Colorsoft」を日本市場で展開を始めた直後ということもあるだろう。

 アピールポイントは自ずと「Kindle Colorsoft」との比較になった。「Kobo Libra Colour」には物理ページめくりボタンがあること。スタイラスペンがあること。また、画面サイズが7インチとひと回り大きく、見開き表示も可能であること、などだ。

 トークセッションでの説明が端末の話に終始したため、質疑応答で筆者はまっさきに挙手し「コンテンツも重要だと思うが」と前置きしたうえで「Kobo Plus」の日本展開について質問することにしたことを申し添えておこう。

【写真】Rakuten AI OptimismでのRakuten Koboブース

KoboはAIをどう活用するか?

 ところでこのイベントは、AIに焦点を当てた「Rakuten AI Optimism」という名称だ。では、Rakuten Koboは、AIをどう活用していくのだろうか? この点をマイケル・タンブリン氏は、ビジネスカンファレンスで以下のように説明していた。

At Kobo, we believe that when used in specific and strategic ways, AI offers major benefits to us as a bookseller.(Koboでは、特定の戦略的な方法で使用された場合、AIは書店としての私たちに大きな利益をもたらすと信じています。)

And to help us navigate the complex AI landscape, we’ve defined some core principles that guide how and when we use it.(そして、複雑なAIの状況を乗り切るのを助けるために、私たちはいつ、どのようにAIを使用するかを導くいくつかの中核的な原則を定義しました。)

These include asking ourselves,(これには、自問自答することが含まれます。)

“How can we make the best possible reading experience for our customers?”(どうすればお客様に最高の読書体験を提供できるか?)

“How can we respect the needs of authors and publishers and protect their intellectual property?”(どうすれば著者と出版社のニーズを尊重し、彼らの知的財産を保護できるか?)

“What is the best way to enrich a reader’s appreciation of a book and preserve and enhance the value of an author’s work?”(読者の本への理解を深め、著者の作品の価値を維持・向上させるための最善の方法は何か?)

 このような原則が掲げられているのであれば、恐らく「提供されたコンテンツを無断でAI学習用に用いる」といった狼藉は、Rakuten Koboでは行われないと考えていいだろう。

 逆にむしろ、「AIが生成した大量の価値が低いコンテンツ」が「本物の著者による正当な本を締め出しみつけにくくするリスク」であったり、「AIによる疑似海賊版がクリエイターの生活を脅かす」といった課題が指摘されていた。AI生成コンテンツや海賊版の検出・削除を行うなど、立ち向かう姿勢が強調されていた。

 また、AIを活用する方向では、本の推薦プロセスを洗練することや、よりよい本の分類やグループ化、パーソナライズ、自然言語検索機能などが挙げられていた。マイケル・タンブリン氏の登壇前日には、エージェント型AIツール「Rakuten AI」の本格提供開始が発表され、秋には「楽天市場」への搭載も予定していることが発表されている6楽天がエージェント型AIツール「Rakuten AI」の本格提供を開始し、楽天モバイルの「Rakuten Link」に搭載〈楽天グループ株式会社(2025年7月30日)〉
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2025/0730_01.html

 「楽天Kobo」でも、たとえば「ローマを舞台にした旅行記の本を探している」とか「メキシコシティに行くときに読むべき本は何ですか?」と質問するだけで済むようになるような検索機能に取り組んでいるそうだ。いずれにせよ「読書体験をより良くするためにAIを活用する」というスタンスを繰り返し強調しており、クリエイター・パブリッシャーへの配慮が感じられた。

脚注

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著者について

About 鷹野凌 884 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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