生徒向けの使えるリンク集が「学校図書館の自殺行為」と言われた ~ 学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション(DX)

工学院大学附属中学校・高等学校図書館
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 学校図書館は、紙の本を貸出したり本を紹介するだけの場所ではないと、司書教諭の有山裕美子氏(工学院大学附属中学校・高等学校)は訴える。では学校図書館には、どのような役割があるのか? 短期集中連載の、今回は中編。前編はこちら

改めて学校図書館を問い直す〈中編〉

 その一方で、先に挙げた使えるサイトのリンク集を作った学校図書館の仲間の一人から、こんな話を聞いた。同業の仲間から、こうしたリンク集を作ることは「学校図書館の自殺行為だよね」と言われたというのだ。

 インターネット上の情報をまとめて伝えることは、果たして学校図書館の自殺行為となるのか。実はこうした認識は、決して少数派ではないのではないか。そしてまた最初の問いに戻る。学校図書館は、紙の本を貸出し、本の紹介だけをする場所だと思われてはいまいか。

学校図書館と情報活用能力の育成

 それでは、学校図書館はどのように、教育課程の展開に寄与していけば良いのだろうか。「情報活用能力」の育成という観点から考察してみよう。

 この「情報活用能力」という言葉は、1986年4月の臨時教育審議会第二次答申において初めて登場した。臨教審では、この「情報活用能力」を「読み、書き、算盤と並ぶ基礎・基本」とし、学校教育においてその育成を図る必要性について提言し、「情報および情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的資質」と定義した。社会の変化に応じ、情報の正しい理解や、活用方法の重要性や、コンピュータの活用を視野に入れたものである。

◆ 学校図書館は「学習情報センター」と位置づけられた

 さらに、1990年には当時の文部省より、「情報教育に関する手引き」が出された。そこで重視されたのは以下の4点である。

  • 情報の判断、選択、整理処理能力および新たな情報の創造伝達能力
  • 情報化社会の特質、情報化の社会や人間に対する影響の理解
  • 情報の重要性の認識、情報に関する責任感
  • 情報科学の基礎及び情報手段(特にコンピュータ)の特徴の理解、基本的な操作能力習得

 これらの動きに伴って、1989年告示の学習指導要領では、中学校の技術・家庭科の選択領域として「情報基礎」が新設、他教科でも情報関連の分野が取り上げられ、さらには2003年には教科「情報」が後期中等教育に新設された。

 この間、学校図書館にはどのような動きがあったのだろうか。

 まず大きな点は、1997年の学校図書館法の改正により、12学級以上の学校に司書教諭が必置となったことだろう。翌年の「教育分野におけるインターネットの活用促進に関する懇談会」では、インターネットを活用することにより、学校図書館が「学習情報センター」としての機能を一層発揮すべきであるとされ、司書教諭の資質向上の必要性も指摘された。

◆ 学校図書館には、情報活用能力を育成する機能が求められているはずだった

 その後、社会情勢は大きく変化し、情報化社会へと舵を切る中で、学校現場にも多くのインターネットに関わる情報や機器が導入され、教育の中に取り入れられて来たことは周知の事実である。2010年に出された「教育の情報化に関する手引き」[3]では、校務の情報化に伴い、学校図書館に求められる機能をさらに発揮することが求められた。

 2015年には、文部科学省による「学校図書館ガイドライン」[4]が出された。その中では、学校図書館の目的・機能を改めて提示し、その「教育課程の展開に寄与する」という使命と、「読書センター」としての機能はもちろん、授業の中身を豊かにする「学習センター」としての機能、そして児童生徒の情報の収集・選択・活用能力を育成したりするために「情報センター」としての機能にも触れている。

 さらには、学校図書館に携わる教職員それぞれの役割についても取り上げている。例えば、司書教諭は、「学校図書館を活用した授業を実践するとともに、学校図書館を活用した授業における教育指導法や情報活用能力の育成等について積極的に他の教員に助言するよう努めることが望ましい」とされている。

 こうした文科省による要請や、社会の変化の動きを受けて、各学校図書館はそれぞれの学校の現状や教育目標等に照らし合わせながら、それぞれの現場で努力を重ねてきたはずである。

◆「情報教育に関する資料」には、なぜか学校図書館が一切出てこない

情報教育に関連する資料
文部科学省 教育課程部会 情報ワーキンググループの「情報教育に関連する資料」全54ページ内には“学校図書館”が一切触れられていない
 「学校図書館ガイドライン」が出された同じ年に、文部科学省教育課程部会情報ワーキンググループから、「情報教育に関する資料」[5]が出された。これは、2020年度から実施されている新学習指導要領を見据えた提案である。

 この資料の中では、情報教育の目標や、小・中・高等学校を通じた情報活用能力の育成について述べられているが、それらは3観点8分野に分けられていて、情報活用の実践力はもちろん、科学的な理解や情報モラルなどにも触れている。

 新学習指導要領では、小学校でプログラミング教育が導入されるという点なども踏まえ、情報の科学的理解に軸足を置き、情報通信ネットワークに重点を置いた内容であることは理解できるが、この「情報教育に関する資料」の中に、学校図書館は一切出てこないのである。

 この傾向は、新学習指導要領施行直前に出された、2019年の文部科学省の「教育の情報化に関する手引き」[6]にも引き継がれていく。

◆ 学校図書館は、情報活用能力の育成から切り離された?

 ここでいくつかの疑問が出てくる。例えば「情報活用能力」とは「ICT活用能力」とイコールなのか? という疑問である。コンピュータが登場して以来、社会の大きな変化を受けて、情報活用能力を育てることを目的とした「情報教育」は、ICT活用教育へと軸足が大きく動き始めた。

 そして、情報活用教育がICT活用教育にシフトするにつれ、情報学から図書館情報学が、そして情報教育から学校図書館が切り離されていくような危機感を抱いたのは、私だけではないだろう。

 また、その一方で、学校図書館が、情報活用能力の育成から切り離された(ように見える)要因の一つに、実は学校図書館(あるいは学校図書館を管理する学校)がそのICT化から目を背けてきた現実はなかったか、という疑問がわく。

 例えば、新聞の読み方や百科事典の使い方など、身近な資料の使い方を理解することによって情報を得るのと同様に、ICTを駆使して様々な情報を得ることはとても重要である。また、情報モラルやリテラシーは、どんな道具を使っても存在する。状況に応じて情報を集め、適切に取捨選択するためには、できる限り多くの方法を知っていた方が、有効な手段の選択につながるだろう。

 道具が変われば、その使い方やそこへたどり着く思考方法も変わる。そうしたあらゆる道具を使った「情報活用能力の育成」こそが、今、求められているのではないだろうか。

 学校図書館が扱う「情報」は、本だけではない。インターネットの情報も含めた、あらゆる「情報」である。あらゆる「情報」を扱う学校図書館は、「情報活用能力」の育成にどう関わるか。そして、そのことをどう学校教育の中に位置付けていくか。それは学校図書館に突きつけられた、大きな課題である。

学校図書館は期待されているか

 学校図書館は、学校に必ず設置しなければならない設備として、常に教育現場の中にあった(学校図書館法第3条)。そんな学校図書館が、学習指導要領に初めて登場したのは、1958年時の改訂である。

 さらにその次の1968年の改定からは、「学校図書館を計画的に利用すること」という記述が加わり、現在まで引き継がれている。2020年施行の新学習指導要領でも、児童生徒の主体的・対話的で深い学びに実現に向け、その自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実させることが期待されている。

 こうした内容を受けて、私は、学校図書館はあらゆる情報を取捨選択し、それらを構築し提供し、その活用についても指導・援助することで、児童生徒の学びを包括的にサポートする場所、つまりは情報活用能力の育成に関わる場所であると考えている。

 しかし、果たして学校図書館は、情報活用能力育成の場所として期待されているのだろうか。

◆ 学校図書館は「学校教育」から「生涯学習」へと移管された

 学校図書館は2017年に、文部科学省の「総合的な教育改革を推進するための機能強化」という名目で、それまでの初等中等教育局児童生徒課から、総合教育政策局地域学習推進課へと移管された。学校図書館が、「学校教育」から「生涯学習」へと移管されたわけである。

 図書館という機能が、児童生徒が生涯学び続けることを支援するという使命はその通りではあるが、なぜ教育現場から切り離されたのか。学校図書館はここでもまた、「教育課程の展開に寄与する」という役割から切り離されてしまったような脱力感を覚えた。

 公共図書館と学校図書館の担う機能は違う。前述したように、文部科学省は、学校図書館の機能を「読書センター」と「学習・情報センター」と位置付ける。ここに教員へのサポート機能が加わる。

 私は、学校図書館は、児童生徒の学びのプロセスを包括的に支える場所であると考えている。「学びのプロセス」とは、課題や疑問を見つけて、それらを解決するための情報を集め、取捨選択し、再構築し、伝え、振り返る、といった一連のプロセスだ。

 そこには「読書」も存在するし、情報の提供はもちろん、プロセスに応じて学習を支えることも、必須である。このプロセスには、当然のことながら、情報活用能力の育成も存在する。

◆ 学校図書館の「居場所」機能は付加価値に過ぎない

 最近は「居場所」としての図書館や家庭・地域における読書活動の支援なども言われているが、確かに居場所としての機能や、家庭や地域との連携もあるだろう。また、児童生徒の心に寄り添うことで、彼らの学びを支え、また、心を支えることにつながることもあるだろう。

 その一方で、児童生徒の居場所となり心に寄り添うこと自体は、学校図書館にかかわる教職員の付加価値に過ぎない。それらがことさらに学校図書館の業務として強調されることは、結果としてその専門性を否定する危険性もあることを付け加えておきたい。

 さて、冒頭の「学校図書館は期待されているか?」という問いであるが、自分自身に振り返ってみれば、残念ながら「あまり期待されていない」と認めざるを得ない。

 また、本校において、学校図書館は「本の貸出しと紹介」という認識からどこまで脱却できているかは甚だ疑問である。だからこそ、発信していくこと、「教育課程の展開に寄与できる」方策を提供し続けることが重要だと考えている。

参考リンク

[3]文部科学省「教育の情報化に関する手引き」(平成22年10月29日)について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm
[4]文部科学省「別添1 学校図書館ガイドライン」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm
[5]文部科学省教育課程部会ワーキンググループ「情報教育に関する資料」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/059/siryo/__icsFiles/afieldfile/2015/11/11/1363276_08_1.pdf
[6]文部科学省「教育の情報化に関する手引き」(令和元年12月)について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00117.html
工学院大学附属中学校・高等学校

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著者について

About 有山裕美子 3 Articles
工学院大学附属中学校・高等学校 国語科教諭・司書教諭/都留文科大学、法政大学、玉川大学非常勤講師 大学卒業後、公立小学校の教員に。出産を機に退職し育児中に通信教育で司書と司書教諭の資格を取得する。 8年半の公共図書館非常勤職員を経て、現在は中学・高等学校で国語科兼司書教諭を務めるほか、複数の大学で司書・司書教諭課程の非常勤講師を務める。学部、修士での専門は児童文学(モーリス・センダック研究)で、センダック作品のコレクターでもある。目下の関心は、STEAM教育と学校図書館、情報活用能力の育成など。
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