デジタルネイティブの生徒たちは自発的にオンラインイベントを企画した ~ 学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション(DX)

モデリングバトル
工学院大学附属中学校・高等学校図書館のプログラミング講座メンバー主催で開催された「第2回モデリングバトル」の様子
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 新型コロナウイルス感染拡大を受け、新学期からオンライン授業を行っている工学院大学附属中学校・高等学校。そこで働く司書教諭の有山裕美子氏は、生徒たちの自発的な動きに感心させられた。短期集中連載の、今回は後編。前編はこちら中編はこちら

改めて学校図書館を問い直す〈後編〉

改めて「情報」とは

 それでは、学校図書館で扱うべき「情報」とは何だろうか。IT用語辞典によれば情報とはインフォメーションであり、「物事の事情を人に伝えるもの。また、それを文字や図表、画像、音声、映像などを使って表現したもの」のことである。

 当然のことながら学校で扱う「情報」は多岐にわたる。印刷メディアであれば、教科書、新聞・雑誌、図書等。視聴覚メディアであれば、写真やポスターなどの紙の媒体もあれば、CDやDVD、ブルーレイディスクなどを媒体とした音声教材や映像教材がある。書画カメラや電子黒板、デジタルカメラ等を使用して伝える情報もある。放送メディアを使用して、校内放送やビデオ放送で情報を伝達することもあるだろう。

 最近は電子・通信メディアが発展してきているので、校内で活用するデジタルコンテンツも増えており、マルチメディア教材や学習ソフトウエア、教育用SNS等を活用して教育活動を展開している学校も少なくない。

 こうした状況の中で、学校図書館が扱う情報が、主に「図書」のままで良いのか。貸出しと本の紹介を主たる業務のままにしていて良いのか。

◆「情報活用能力」は、ICT活用能力とイコールではない

 多くの学校現場では、「情報活用教育=ICT活用教育」「学校図書館=読書/本による調べ学習」という認識になっていないだろうか。「情報活用能力」は、ICT活用能力とイコールではなく、サブセット(⊃)である。情報活用能力は紙やデジタルを問わずあらゆる形の情報活用を意味するのに対し、後者は情報通信技術(Information and Communication Technology)のみを活用する能力だ。あらゆる情報を提供し、それらを適切に使いこなす「情報活用教育」の必要性を、学校図書館は改めて声を大にして訴えていくべきだ。

 そのためには、学校図書館が、図書や図書館利用指導に固執するのではなく、柔軟にあらゆる情報を収集し、提供していく必要がある。例えばそれは、前述の図書館リンク集の提供は、「自殺行為」などではなく、むしろ学校図書館としての当たり前の資料提供の一環である、ということを学校図書館に関わるものの常識にしていくことである。

 私は、脱・学校図書館指導計画が必要だと考えている。学校図書館の利用方法や学校図書館資料の活用方法を伝えることは、確かに重要である。ただ、その一方で、学校図書館指導計画とすることで、自ずと学校図書館という「場」に利用者を縛り付けてしまう。

◆ 学校図書館のあり方を「場」というより「機能」で再定義しよう

 学校全体の「情報活用能力育成」に、どう学校図書館が関わるか、例えば教科「情報」や、他教科、学校教育目標としっかりと連携した「情報活用能力育成指導計画」が必要である。前述の「情報教育」の中で、当たり前のように学校図書館が登場するような認識である。

 改めて新学習指導要領を見ると、例えば高等学校の特別活動では、「自主的な学習を深める場として学校図書館やICTを積極的に活用する態度を養う」という記述が出てくる。学校図書館が、その「機能」ではなく、「場」として意識されると、そこには紙の本が積み上げられ、貸出しや本の紹介が主たる業務であるような、学校図書館像が浮かび上がってくる。

 学校図書館は、教科、学年を縦横断し、様々な分野を含めた広い視座によるアプローチを可能にする。テクノロジーだけではなく、様々な考え方を知り、それらを比較し、再構築するためにも、学校図書館の役割は重要である。改めて学校図書館に関わる教職員は、機能としての学校図書館のあり方を考えていく必要があるのではないか。

学校図書館は、情報活用能力育成のために何ができるか

 高度な情報社会の中で、今、教育現場ではICTを活用した様々な取り組みの整備が急務である。休校に伴うオンライン授業もその一つだろう。今回行ったような私の取り組みが理想、というわけではない。むしろ様々な課題を感じている。

 例えば、すべての生徒に対し、学校図書館として何が発信できるか、自分自身の授業を含めて、例えばオンラインの授業をどうサポートしていくか、一人一人のレファレンスにどう答えるかなど、生徒の学びをサポートする上での悩みは尽きない。

 もちろんそれは「図書室」という場所があっても、常に抱えてきた悩みではある。空間をともにすること、リアルで対面することで得られるコミュニケーションは、やはりバーチャルな空間では構築できないものがある。ともに学び合い、競い合うことで得られる力もまた大きい。

◆ 生徒たちが自発的にオンラインイベント企画を提案してきた

 そうした大人の逡巡をよそに、デジタルネイティブの生徒たちは新しい活動を考え出す。その一つが、オンラインによる「モデリングバトル」という取り組みだ。

 本校の図書館には「Fabスペース」という、自由にものづくりができるスペースがある。そこで活動しているメンバーが、休校中に、いつもは図書館で開催している「モデリングバトル」というイベントを「オンラインで行いたい」と提案してきた。

 要望を受けて、早速オンラインで会議を実施、4月、5月にそれぞれ一回ずつ開催した(第1回第2回)。詳しくは本校のブログをお読みいただきたいが、この「モデリングバトル」という取り組みでは、お題を決めてそのお題に沿った作品を、3Dモデリングソフトを使ってデザインすることを競う。

 採点は、その出来栄えはもちろん、お題の意図に沿って表現できているか、実際に使えるものかなどが競われる。休校中に行われた2回のバトルのお題は、どちらもこの新型コロナウイルスで変化してきた社会の課題をどう解決していくか、というものだった。

 これらのお題の発案も、生徒たちだ。予測不可能な未来を生きる生徒たちに必要な力は、こうした「社会課題を解決する」ことなのではないかと、私は考えている。

◆ オンラインで自発的に仲間を募り、哲学対話を始めた生徒も

 学校図書館は、情報を収集し、取捨選択し、再構築する場所である。こうしたプロセスにおいて、課題を発見し、その課題解決のための情報収集の方法を学び、それらを形にし、仲間と共有し、さらにその先へとつなげていくこともまた、学校図書館の役割である。

 今回思いがけずオンラインで授業を行う場面になって、生徒たちの学び合いの機会が奪われてきたように感じていた私の疑念は、生徒たちによってあっという間に覆された。どんな場面でもその状況に合わせて柔軟に対応していく。こうしたメタ認知能力をどう身につけていくかということが、まさしく現代の学校教育に求められている大きな役割であろう。

 広くオンラインで仲間を募り、哲学対話を始めた生徒たちもいる。先日その取り組みに見学者として参加させてもらったが、その中身はもちろん、そこでの活発な議論や運営の方法にも感心させられ、改めて生徒たちの持つ可能性や行動力、創造力に圧倒された。

 彼らの自発的な活動を、大人は見守るしかない。しかし、どこかで、例えば情報収集や扱いの場面で、「学校図書館」に相談してくれる日が来ないかと、ワクワクしながら待っている。

◆ 学校図書館も、変化が求められている

 緊急事態宣言が解除されて、徐々に学校も再開され始めた。それに伴って、学校図書館の対応もいろいろ考えられている。感染リスクを回避するための入退室の際の消毒、貸出し時のカウンターの距離の取り方、本の消毒など、開館する上での注意事項はいろいろあるだろう。もちろん私たちには、そうした目に見える対応も当然必要だ。

 しかし、果たしてそれだけで十分だろうか。新型コロナウイルスと付き合う毎日は、これからも続いていく。また、新たな感染症の脅威が起こらないとも限らない。私たちは、教育活動を支える情報拠点である学校図書館として、いかなる場合も児童生徒に継続的に必要な情報が提供できるような、持続可能な方法を模索しなければならない時代に来ているのだ。教育現場が新たな時代に変化していく中で、学校図書館も変化していく必要がある。

主体的・対話的で深い学びと学校図書館

 新学習指導要領を象徴する言葉の一つに「主体的・対話的で深い学び」という言葉がある。時代の要請を受けて、学校教育は知識を詰め込む教育から、課題発見・解決型の学びへと変化してきた。

 児童生徒は、自ら課題を発見し、例えば前述の「モデリングバトル」のようなモノづくりを通して、仲間と対話しながら試行錯誤する。その中で、他のことにも応用できるメタ認知能力を形成していくことにより、まさしく予測不能な未来に対応する力をつけていく。

 今我々はまさしく予想不可能な未来を生きているわけであるが、例えば今回のようにリアルな場としての「学校」を失う場合もあれば、電力が使用できなくなり、インターネットが遮断された未来が来ないとも限らない。東日本大震災の翌日に、石巻日日新聞が手書きの新聞を発行したことを記憶している人もいるだろう。

◆「図書館は成長する有機体である」

 図書館員を目指した者であれば、誰もが一度は目にしたであろう「ランガナタンの図書館学の五法則」。その中の一つに「図書館は成長する有機体である」という言葉がある。この言葉通り、まさしく図書館は、時代の変化やその要請に敏感に反応し、成長していかなければならないことを痛感している。

 学校図書館もまた、教育の波に乗り遅れないように、児童生徒の学びをサポートし、「教育課程の展開に寄与する」という使命を果たし、その時代に応じて必要な「情報」を伝えていく責務がある。

 多様性を認め、伝えることは図書館の得意分野である。時代の変化に柔軟に対応しながら、その場に応じた適切かつ必要な情報を、選択収集し、児童生徒に伝えて行くことを学校図書館の重要な使命として、これからもできることから一つひとつ対峙していく必要性を、私は痛感している。

 承前、学校図書館と公共図書館の使命は違うと言った。しかし、図書館が担う根本的な役割は共通しており、また生涯を通じて学び続けるために不可欠な仕組みであることは言うまでもない。学校図書館だからこその役割はもちろん、「学校」と言う狭い視野にとらわれることなく、広く社会につながる「情報教育」のあり方もまた、同時に考えていく必要があるだろう。

 新学習指導要領では、社会に開かれた教育課程もまた、重要なキーワードになっている。学校図書館は学校教育、その上の高等教育、そして社会をつなぐ窓でもありたい。

〈了〉

参考リンク

工学院大学附属中学校・高等学校図書館ホームページ
https://www.fab-library.com/
工学院大学附属中学校・高等学校
https://www.js.kogakuin.ac.jp/

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著者について

有山裕美子
About 有山裕美子 3 Articles
工学院大学附属中学校・高等学校 国語科教諭・司書教諭/都留文科大学、法政大学、玉川大学非常勤講師 大学卒業後、公立小学校の教員に。出産を機に退職し育児中に通信教育で司書と司書教諭の資格を取得する。 8年半の公共図書館非常勤職員を経て、現在は中学・高等学校で国語科兼司書教諭を務めるほか、複数の大学で司書・司書教諭課程の非常勤講師を務める。学部、修士での専門は児童文学(モーリス・センダック研究)で、センダック作品のコレクターでもある。目下の関心は、STEAM教育と学校図書館、情報活用能力の育成など。
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mituaki honda
mituaki honda
2020年6月18日 08:42

連載、興味深く読ませていただきました。ありがとうございます。シェアさせてもらいます。