侵害コンテンツのダウンロード違法範囲拡大は、どういう目的で導入されようとし、どういう制度になろうとしているのか?

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 共同通信産経新聞などによると、自民党文部科学部会などの合同会議が2月25日に開催され、海賊版対策の「ダウンロード規制法案」を了承したという。本稿では、そもそもこの「ダウンロード規制」はどういう目的で導入されようとしているのか? 現行はどういう制度なのか? それがどう変わろうとしているのか? などについて、改めて、なるべくかみ砕いて解説する。

「ダウンロード規制法案」とは?

 共同通信や産経新聞などの言う「ダウンロード規制法案」というのは、ちょうど1年前に「スクショ違法化?」と大騒ぎになり、国会提出が断念された著作権法改正案の修正版のこと。前回は、日本漫画家協会や出版広報センターなど権利者側からも、表現活動の萎縮を懸念する声が挙がっていたが、再募集されたパブリックコメントや検討会などを経て修正が入ったことにより、今国会で成立する可能性が非常に高くなっている。

なぜ法改正をするのか?

文化庁当初案 概要説明資料より
文化庁当初案 概要説明資料より(クリックで拡大)
 今回の法改正の目的は「海賊版サイト」の規制だ。そして、2019年10月5日のコラムで書いたことの繰り返しになるが、今回のメインターゲットは「リーチサイト」だ。海賊版サイトはストリーミング形式だけではない。文化庁の資料によると、「漫画村」が閉鎖された後から、最大手のリーチサイトへのアクセス数が伸びているという。

 このリーチサイトからリンクされているのが、侵害コンテンツがアップロードされているサイバーロッカー(ストレージサービス)だ。リーチサイトのリンクは運営者が用意するものだけでなく、不特定多数からの投稿も可能になっている。サイバーロッカーの収入源は、有料会員になると素早くダウンロードできたり、ダウンロード回数制限できたりと使い勝手がよくなるモデル。そして、リーチサイトの収入源は、サイバーロッカーからのアフィリエイトだという。

 問題は、現行法では侵害コンテンツへリンクを貼る行為は、違法と言えない点だ。そのためリーチサイトは、摘発できないとされてきた。また、サイバーロッカーは権利者が削除依頼をすると、意外ときちんと対応するらしい。そのため、プロバイダ責任制限法での摘発もできないでいた。

 要するに、やってることは真っ黒なのに、法の網の目をくぐり抜けてしまっていたのだ。リーチサイトの代表例である「はるか夢の址」の運営者は2017年10月に逮捕されたが、これは強制捜査によって、侵害コンテンツのアップロードを運営者自ら行っていたことが判明したためだ。自らアップロードしないと、あまり儲からなかったようだ。

まず「リーチサイトの違法化」が目的

文化庁当初案 概要説明資料より
文化庁当初案 概要説明資料より(クリックで拡大)
 つまり、まずこの「リーチサイトの違法化」が、今回の法改正の主目的と言えるだろう。リーチサイト運営者と、リンク提供者のどちらも、今後は違法になる。URLの一部を☆などの記号に置き換えたものや、侵害コンテンツへの到達を容易にするボタンなども規制対象になる。

 なお、リーチサイト問題は文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会で2013年から審議され続けてきた。Googleなどの検索サイトや、故意・過失がない場合を対象としないよう、かなり丁寧に絞り込みが行われている。

 そのためこのリーチサイト規制については、昨年の文化庁当初案に対し、あまり反対意見が出ていなかった。しかし、再募集されたパブリックコメントと検討会を経て、当初案では非親告罪とされていたのが、警察・検察の恣意的な判断で摘発可能なことを権利者側からも問題とされ、親告罪に変更されている。

サイバーロッカーからのダウンロードも抑止したい

 さて、リーチサイト規制を行った上で、なぜダウンロードの違法範囲も拡大するのか? まず大前提として、著作権者には自分の著作物を他人が勝手に利用するのを差し止める権利がある。しかし、私的使用のための複製は著作権法第30条で認められている。たとえばインターネット上にあるテキストや画像を勝手にダウンロードしても、現行法では合法だ。

一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と不正商品対策協議会(ACA)の発表資料より
一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と不正商品対策協議会(ACA)の発表資料より(クリックで拡大)
 しかし、私的使用のための複製であっても、違法にアップロードされたものだと知っていた上で音楽と映像をダウンロードする行為は、2009年に違法化され、2012年に刑事罰化された。一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と不正商品対策協議会(ACA)の発表によると、この違法化・刑事罰化と取り締まり強化により、「Winny」「Share」といったP2Pのファイル共有ソフトのユーザー数は激減しているという。つまり、一定の効果があったと評価されているのだ。

 そして、音楽・映像以外にも、マンガ、雑誌、写真集、文芸書、ビジネスソフト、ゲーム、学術論文など、幅広い分野で被害が確認されているという。根本的には「違法な情報源から積極的に便益を享受しようとするユーザーの行為に正当性はない」というのが、ダウンロード違法範囲拡大の大義名分だ。

 「アップロードをしっかり取り締まればいい」といった意見にも一定の理はある。ただ、権利者がリーチサイトやサイバーロッカーなどで海賊版を発見、削除要請を送り、削除されるまで、どうしても時間がかかってしまう。そのため、削除されるまでのあいだに侵害コンテンツがダウンロードされてしまうのだという(出版広報センター「STOP! 海賊版」ページ参照)。

 また、そうやってダウンロードされた侵害コンテンツのうち、とくにマンガは二次利用され二次被害が起きているようだ。昨年11月に開催された国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)の特別講演に登壇した集英社の担当者によると、サイバーロッカーからダウンロードされたマンガが紙芝居風動画に加工され、YouTubeなどに大量アップロードされているという。YouTubeだけで、違法アップロードが月に2万件ほどあり、削除申請が追いつかないらしい。

 つまり、侵害コンテンツのダウンロード行為を違法化することにより、音楽・映像のような抑止効果を狙っている、というのが今回の規制強化の趣旨だ。

現行はどういう制度で、今後はどうなるのか?

 しかし、昨年の文化庁当初案は、あまりに広範囲に網をかけすぎていた。影響範囲が大きすぎると日本漫画家協会や出版広報センターなど権利者側からも懸念の声が挙がり、見直しが図られることになった。以降では、1年前のコラムをベースに、現行制度の内容と、今後どう変わろうとしているのかを、判明している範囲で解説する。

1. 著作権法は親告罪が原則(悪質なものを除く)

 まず大前提として、著作物を「利用」するには、原則、著作権者の許可が必要だ。この場合の「利用」というのは、コピーをしたり、ウェブで公開したりといった行為を指す。読んだり、聴いたり、観たりするのは、法律の上では「使用」といって、利用とは区別される。著作権者には、他人が無断で利用するのを差し止めたり、損害賠償を請求したりできる権利がある。

 そして、著作権侵害は刑事罰の対象にもなっている。罰則は、最高で10年の懲役や1000万円以下の罰金と、かなり重めだ。ただし「親告罪」といって、悪質なケースを除き、著作権者などの告訴がなければ、検察は公訴を提起できない。

 つまり、著作権者がとがめた場合に限って著作権侵害になる可能性がある、ということになる。逆に言えば、著作権者が許諾しているなら合法だ。権利の保護と利用のバランスは、親告罪であることによって保たれている側面もある。

2. 私的使用目的の複製は合法

 また、著作権法には「こういう場合なら無断で利用できる」という規定がいくつも設けられている。そのうちの1つが「私的使用目的の複製(著作権法第30条)」である。個人的、または、家庭内など限られた範囲内で使用する目的であれば、無断で複製しても合法、という規定だ。

 現行法では、スクリーンショットは合法だ。それは、この私的使用目的の複製にあたるからだ。ただし、スクリーンショットを撮ったあとにツイッターなどへ投稿するのは、私的使用目的の複製ではなく「アップロード」なので、公衆送信権の侵害として現行法でも違法になる可能性がある。

 SNSなどではほぼ日常的に、無断でアップロードされていると思われる画像を見かける。これは合法行為ではなく、多くの場合、著作権者に見逃してもらっているだけだ。数が多すぎて追い切れないのと、実際にそれによって経済的な損失が発生することは少ないからと思われる。

 この辺りは著作権者によって、大きく意見が異なる点でもある。「むしろ宣伝になって良い」という人もいれば、「いやいや絶対に許せない」という人もいる。だから、客観的な立場で「これは違法か合法か」を問われると、「違法となる可能性がある」「権利者次第です」と答えるしかなかったりするのが難しいところだ。

3. 私的使用目的の複製でも違法になる場合がある

 さて、私的使用目的の複製には「次に掲げる場合を除き」という例外が複数あり、当てはまると違法になる可能性がある。その例外の1つが、先ほども触れた「違法アップロードされた録音または録画ファイルだと知った上でダウンロードする行為」だ。

  • 違法にアップロードされたファイルだと知らなければ合法
    (違法かどうかはっきりしない場合も問題ない)
  • 自動公衆送信じゃなければ合法
    (メールやメッセージの添付ファイルで勝手に送りつけられても問題ない)
  • ストリーミング閲覧やキャッシュは合法
    (YouTubeのようにブラウザで閲覧するなら問題ない)
  • 「デジタル方式」の複製じゃないなら合法
    (アナログ方式の複製は劣化するので問題ない)
  • 現行法は、録音または録画ファイルに限る(※)

 実は上記のように、違法となるケースは現時点でもかなり限定されている。2012年には刑事罰化されているが、その対象は「有償」で提供されているファイルに限定されている。なお、これまでのところ摘発された事例はゼロだ。もちろん今後もゼロとは限らないが、実際問題、摘発するのは難しいと考える。

 私的使用目的の複製以外にも、たとえば「引用」「非営利の演奏など」「時事事件の報道目的」「キャッシュ」など、無断で利用しても問題ないケースはたくさんある。詳しくは、文化庁による解説「著作物が自由に使える場合」をご参照いただきたい。

 私的使用目的の複製ではないとしても、他の自由に使える場合に該当するなら、違法ではない。スクリーンショットをアップロードする行為を「違法」だと断定できないのは、それが「引用」や「時事事件の報道目的」であれば合法だから、という理由もあるのだ。

4. 違法範囲が録音録画以外にも拡がる

 そして、冒頭で触れた「ダウンロード規制法案」というのは、これまで「違法アップロードされた録音または録画」に限定されていたダウンロード違法の範囲(前項箇条書き最後の※)を拡大することだ。つまり今後は、文章、写真、イラスト、ゲームなど、あらゆる著作物が違法対象になる。ただし、これはあくまで「違法アップロードされた著作物」をダウンロードする行為が違法になるかもしれない、という話だ。

 もしいま想定されている通りに法改正され違法範囲が拡がったとしても、そもそも公式サイトにアップロードされている画像のダウンロードやスクリーンショットは問題ない。公式サイトなら、適切に著作権処理された「合法」ファイルだからだ。

 では「違法アップロードされた著作物」かどうかを、一般ユーザーが簡単に判別できる方法はあるだろうか? まったく同じファイルでも、著作権者がアップロードすれば合法だが、第三者が無断アップロードすると違法になる可能性がある。つまり、ファイルの見た目だけでは、ダウンロードするのが合法か違法かは判別できない。

 ではどういう場合なら、確定的に違法アップロードされた著作物だと断言できるのか? 私見だが、権利者が「あそこにあるのは違法ファイルだ!」とか「あそこは違法サイトだ!」と、名指ししている場合に限られるだろう。あるいは、正規版を示す「ABJマーク」が貼られていないサイトは違法の可能性が高いと判断されるようになるかもしれない。なお余談だが、本稿執筆時点でアマゾン、アップル、グーグルはホワイトリストに載っていない。果たして今回の法改正後に、対応するだろうか?

5. 複数のセーフティネットが用意された

 ではどういう場合なら問題ないのか? を、追加された複数のセーフティネットを含め、改めて整理しよう。

  • 【前提】私的使用目的のダウンロードは合法
  • 違法にアップロードされたファイルだと知らなければ合法
    (違法かどうかはっきりしない場合も問題ない)
  • 自動公衆送信じゃなければ合法
    (メールやメッセージの添付ファイルで勝手に送りつけられても問題ない)
  • ストリーミング閲覧やキャッシュは合法
    (YouTubeのようにブラウザで閲覧するなら問題ない)
  • 「デジタル方式」の複製じゃないなら合法
    (アナログ方式の複製は劣化するので問題ない)
  • 現行法は、録音または録画ファイルに限る

 ここまでが従来の条件だ。そして追加のセーフティネットとしてまず、著作権法第30条の2(付随対象著作物の利用)、いわゆる「写り込み」の権利制限規定が拡充される予定だ。この制限規定は従来、「写真の撮影」「録音または録画」に限られていた。また、対象行為も「複製」と「翻案」だけに限られていた。

 実は、本稿執筆時点では最終の議事録や報告書がいまだに公開されておらず、「写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)」を元に判断するしかない状態なのだが、恐らく今後は、スクリーンショットや模写、生放送・生配信など、技術・手法などを限定せず広く対象に含める形になるようだ。

 また、「公衆送信」や「演奏」「上映」なども含めた包括的な規定になり、分離困難な場合という条件も外すらしい。これにより、例えばTwitterの投稿をスクリーンショットした際、恐らく違法アップロードであろうアイコンが入り込んでも問題ない、という形になるようだ。

 そして、録音・録画以外の著作物への違法範囲拡大については、以下のセーフティネットが適用される予定である。こちらは録音・録画には適用されない条件なので、注意が必要だ。

  • 二次創作作品やパロディなどの二次的著作物は対象から除外(民事)
  • 軽微なものは除外(マンガ1話の半分程度や4コママンガの1コマなどは軽微なものと言えないとして例示されている)
  • 著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合は除外(特別な事情の立証義務は利用者側が負うことになる)

 ちなみに最後の条件は、検討会の議論では意見が真っ二つに割れて結論が出せず、政治判断で入れることになった。ここは、山田太郎議員が54万票パワーを活かし、頑張った結果と言っていいだろう。

私見:やはり難解すぎる点が問題

 さて、ここまで長々と説明してきたが、筆者はやはりこの説明の難しさが最大の問題だと考える。「基本これは合法だけど、そのうちこの場合だけ違法、だけど、他の条件に合致すれば合法」のように、条件分岐が複雑すぎるのだ。

 少なくとも筆者には、この複雑奇怪な条件を小学生や中学生でも理解できるよう、平易に説明できる自信はない。教える側も、どこまで理解できるだろうか。ヘタをすると単純に「ダウンロードもスクショも、とにかくぜんぶダメ!」などといった乱暴な説明がなされてしまいかねないことを、改めて危惧する。

 今回は改正案の附則に、普及啓発・教育等や刑事罰に関する運用上の配慮、施行状況のフォローアップについての規定を追加すること、とされている点が辛うじて救いか。いずれにせよ、近々自民党内での手続きが終わり、3月には改正案が閣議決定され、今国会で成立する可能性が高いのは確かだ。

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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