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いま、海賊版サイト対策を目的とした、著作権法の改正が検討されています。そんな中、「スクショもNG」などといった報道もあり、不安になっている方も多いようです。日本マンガ学会など、クリエイター側からも反対の声が上がっています。さらに、法学者や弁護士などが「海賊版対策に必要な範囲に限定すべき」と緊急声明を出しています。
本稿では、そもそも現行の「ダウンロード違法」とはどういう制度なのか? それがどう変わろうとしているのか? などについて、なるべくかみ砕いて解説します。
【目次】
1. 著作権法は親告罪が原則(悪質なものを除く)
まず大前提として、著作物を「利用」するには、原則、著作権者の許可が必要となります。この場合の「利用」というのは、コピーをしたり、ウェブで公開したりといった行為を指します。読んだり、聴いたり、観たりするのは、法律の上では「使用」といって、利用とは区別されます。著作権者には、他人が無断で利用するのを差し止めたり、損害賠償を請求したりできる権利があります。
そして、著作権侵害は刑事罰の対象にもなっています。罰則は、最高で10年の懲役や1000万円以下の罰金と、かなり重めです。ただし「親告罪」といって、悪質なケースを除き、著作権者などの告訴がなければ、検察は公訴を提起できません。
つまり、著作権者がとがめた場合に限って著作権侵害になる可能性がある、ということになります。逆に言えば、著作権者が「いいよ!」と言ってるなら合法です。権利の保護と利用のバランスは、親告罪であることによって保たれている側面もあります。
2. 私的使用目的の複製は合法
また、著作権法には「こういう場合なら無断で利用できる」という規定がいくつも設けられています。そのうちの1つが「私的使用目的の複製(著作権法第30条)」です。個人的、または、家庭内など限られた範囲内で使用する目的であれば、無断で複製しても合法、という規定です。
現行法でスクリーンショットが合法なのは、この私的使用目的の複製にあたるからです。ところが、スクリーンショットを撮ったあとにツイッターなどへ投稿するのは、私的使用目的の複製ではありません。これは「アップロード」なので、公衆送信権の侵害として現行法でも違法になる可能性があります。ここは勘違いしやすい部分なので、注意が必要です。
ツイッターなどではほぼ日常的に、無断でアップロードされていると思われる画像を見かけます。あれは合法行為ではなく、多くの場合、著作権者に見逃してもらっているだけです。数が多すぎて追い切れないのと、実際にそれによって経済的な損失が発生することは少ないからだと思われます。
もっとも、この辺りは著作権者によって、大きく意見が異なります。「むしろ宣伝になって良い」という人もいれば、「いやいや絶対に許せない」という人もいます。だから、客観的な立場で「これは違法か合法か」を問われると、「違法となる可能性がある」「権利者次第です」と答えるしかなかったりします。
3. 私的使用目的の複製でも違法になる場合がある
さて、私的使用目的の複製には「次に掲げる場合を除き」という例外が複数あり、当てはまると違法になる可能性があります。その例外の1つが「違法アップロードされた録音または録画ファイルだと知った上でダウンロードする行為」です。2009年の法改正で追加された、比較的新しい条件です。
- 違法にアップロードされたファイルだと知らなければ合法
(違法かどうかはっきりしない場合も問題ない) - 自動公衆送信じゃなければ合法
(メールやメッセージの添付ファイルで勝手に送りつけられても問題ない) - ストリーミング閲覧やキャッシュは合法
(YouTubeのようにブラウザで閲覧するなら問題ない) - 「デジタル方式」の複製じゃないなら合法
(アナログ方式の複製は劣化するので問題ない) - 現行法では録音または録画ファイルに限る(※)
実は、ご覧のように、違法となるケースはかなり限定されています。また、2012年には刑事罰化されていますが、その対象は「有償」で提供されているファイルに限定されています。なお、これまでのところ摘発された事例は、1つもありません。
私的使用目的の複製以外にも、たとえば「引用」「非営利の演奏など」「時事事件の報道目的」「キャッシュ」など、無断で利用しても問題ないケースはたくさんあります。詳しくは、文化庁による解説「著作物が自由に使える場合」をご参照ください。
私的使用目的の複製ではないとしても、他の自由に使える場合に該当するなら、問題ありません。スクリーンショットをアップロードする行為を「違法」だと断定できないのは、それが「引用」や「時事事件の報道目的」であれば合法だから、という理由もあるのです。
4. 違法範囲が録音録画以外にも拡がる、かもしれない
そして、いま検討されているのは、これまで「違法アップロードされた録音または録画」に限定されていたダウンロード違法の範囲(前項箇条書き最後の※)を拡大することです。つまり今後は、文章、写真、イラスト、ゲームなど、あらゆる著作物が違法対象になる、かもしれないのです。
ただし、これはあくまで「違法アップロードされた著作物」をダウンロードする行為が違法になるかもしれない、という話です。もしいま想定されている通りに法改正され違法範囲が拡がったとしても、公式サイトにアップロードされている画像のダウンロードやスクリーンショットは問題ありません。公式サイトなら、適切に著作権処理された「合法」のファイルだからです。
では「違法アップロードされた著作物」かどうかを、私たちが簡単に判別できる方法はあるでしょうか? まったく同じファイルでも、著作権者がアップロードすれば合法ですが、第三者が無断アップロードすると違法になる可能性があります。つまり、ファイルの見た目だけでは、ダウンロードするのが合法か違法かは判別できないのです。
グレーゾーンとされている「二次創作」はどうでしょうか? これは本稿の最初でも書いた、親告罪であるのがポイントになります。要するに、著作権者次第です。厳しい人ならアウト、優しい人ならセーフ。ただ、そもそもアップロードが黙認されている状態なら「確定的に違法」と断言はできないので、ダウンロードはセーフになる可能性が高いでしょう。
ではどういう場合なら、確定的に違法アップロードされた著作物だと断言できるのでしょうか? 私見ですがそれは恐らく、著作権者が「あそこにあるのは違法ファイルだ!」とか「あそこは違法サイトだ!」と、名指ししている場合に限られるように思います。
5. 海賊版対策に必要な範囲に限定すべき?
このような法改正が検討されているという報道を受け、マンガ家などクリエイター側からも反対の声が上がり始めました(リンク)。創作の参考にするためのダウンロードが、違法だと言われかねないためです。“こんな違法化「誰が頼んだ」” という報道も、複数ありました(リンク・リンク)。
実は、文化庁がこの年末年始に募集していた「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ(2018年12月)」に関するパブリックコメントに提出された意見がすでに公開(リンク)されており、中間まとめの法改正方針に賛同しているのが誰かは明らかになっています。
それは、一般社団法人日本書籍出版協会、一般社団法人日本雑誌協会、一般社団法人日本新聞協会、一般社団法人日本レコード協会、一般社団法人日本電子書籍出版社協会、デジタルコミック協議会、一般社団法人出版物貸与権管理センター、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構、一般社団法人学術著作権協会、一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会、一般社団法人日本知的財産協会(次世代コンテンツ政策プロジェクト)、日本行政書士会連合会といった業界団体や、大手出版社などです。
さて2月19日には、知的財産法・情報法研究者などによる「『ダウンロード違法化の対象範囲の見直し』に関する緊急声明」と、その補足資料「『ダウンロード違法化の対象範囲』の具体的制度設計のあり方について」が公表されました(リンク)。賛同者は最初の時点で84名1団体、2月20日夜時点では95名1団体になっています。
この緊急声明で述べられているのは、法改正にはもっと慎重な議論が必要だということと、民事も刑事も、そもそもの発端である「海賊版」問題への対策に必要な範囲に限定すべきだ、ということです。「原作のまま」「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」といった、条件の追加が提案されています。
こういった意見を受けこれからどうなるかは、本稿執筆時点ではまだ不透明なままです。
[追記:出版広報センターからも、ダウンロード違法化の対象範囲拡大について「ネットユーザーやクリエイタの表現行為を萎縮させるようなことがあってはなりません」という見解が発表されました。]
私見:難解すぎる点が問題
さて、ここまで長々と説明してきましたが、私が今回の件で個人的に最大の問題だと思っているのは、この説明の難しさです。著作権法は難解すぎます。著作権の制限規定は個別具体的に設けられているので、「基本これは合法だけど、そのうちこの場合だけ違法、だけど、他の条件に合致すれば合法」みたいに、条件分岐が複雑すぎるのです。
そして、ダウンロードやスクリーンショットというのは、対象が合法か違法かを問わず、いまや老若男女問わず、多くの人々が日常的に行っている行為でしょう。その一部を違法にする検討が進められているわけですが、その「一部」というのがどこからどこまでなのか、完璧に理解できている人が、どれだけいるでしょうか?
もちろん「私の説明が悪い」という意見は甘んじて受けます。少なくとも私には、この複雑奇怪な条件を、小学生や中学生でも理解できるように説明できる自信がありません。しかし、小学生や中学生でも、日常的に関係することなのです。教える側も、どこまで理解できていることでしょう。ヘタをすると「ダウンロードもスクショも、とにかくぜんぶダメ!」などといった乱暴な説明がなされてしまいかねないことを危惧します。