「スクショ違法化」にしないための落としどころはどこか? ~ 著作権法は権利保護と権利制限のバランスが重要だ

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2月8日開催「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」後のブリーフィングで、自身のパソコンに保存されている画像のサムネイル表示を示すマンガ家の赤松健氏
2月8日開催「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」後のブリーフィングで、自身のパソコンに保存されている画像のサムネイル表示を示すマンガ家の赤松健氏(中央)
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 海賊版サイト対策を目的とし「スクショ違法化」などが盛り込まれた著作権法改正案は、権利を守られる側のマンガ家や出版社などからも反対の声が挙がったことにより、3月時点では国会への提出が見送られた。

 しかし、9月30日に文化庁からの意見募集(パブリックコメント)が始まるなど、法整備へ向けての動きが再び活発になっている。本稿では、そもそもなぜ法改正が行われようとしているのか? そして、どこが落としどころなのか? を論考してみる。

そもそもなぜ法改正が行われようとしているのか?

 まず、ブロッキングの是非などの激論が交わされるきっかけとなった、ストリーミング形式の海賊版サイト「FreeBooks」や「漫画村」などの猛威が直前にあったため、多くの人がその印象に引きずられている感があることを指摘しておく必要があるだろう。

 そのためか、「ストリーミング形式の海賊版サイトには対抗できないから、ダウンロード違法範囲を拡大しても意味がない」といった意見も散見される。しかし、海賊版サイトはストリーミング形式だけではないのだ。

メインターゲットは「リーチサイト」

文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より
文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より
 海賊版サイト対策は数年前から文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会で審議され続けており、リーチサイト問題は2013年から議題に挙がっている。なお、リーチ(leech)はヒルのこと。

 リーチサイトは、リーチサイトとは別に運営されているサイバーロッカー(ストレージサービス)にアップロードされている、侵害コンテンツへのリンク集という位置づけだ。リンクは運営者だけが用意するのでなく、不特定多数からの投稿も可能になっている。

 現行法では、リンクを貼る行為そのものは違法と言えない。そのためリーチサイトは、摘発できないとされてきた。また、リーチサイトは出版社からの削除依頼には、意外ときちんと対応する場合も多いようだ。また、海賊版を発見し、削除要請を送り、削除されるまでにはどうしても時間がかかるため、それまでのあいだに侵害コンテンツがダウンロードされてしまうという問題もあるようだ(出版広報センター「STOP! 海賊版」ページ参照)。

摘発事例はアップロード行為も行っていた

 リーチサイトの代表例だった「はるか夢の址」の運営者は、2017年10月に逮捕され、2019年1月には大阪地裁が実刑判決を出した。しかしこの事例は、「はるか夢の址」運営者への家宅捜査により、実際にはアップロード行為が行われていることが判明し、罪に問えることとなった事例だ。詳しくは骨董通り法律事務所 for the Arts 弁護士 二関辰郎氏のコラムを参照いただきたい。

 つまり、現行法のままではリーチサイトを規制できないから、法律を改正したいのだ。いま検討されている法整備は、まずこのリーチサイトを摘発可能な形にすることに主眼が置かれている。「スクショ違法化」という理解しやすいキャッチフレーズが騒ぎになったこともあってか、パブリックコメントのサブタイトルも「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」になっている。

 しかし、文化庁が関連資料として添付している「概要説明資料」の1番目に書かれているのは「リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応」で、「ダウンロード違法化の対象範囲の拡大」は2番目なのだ。

文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より
文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より

リーチサイト規制にも絞り込みが必要

 なお、3月に国会提出が見送られた改正案では、リーチサイト運営者には5年以下の懲役・500万円以下の罰金(併科も可)の刑事罰が課せられること、非親告罪とすること、そして、「原作のまま」や「権利者の利益が不当に害される」場合に限るといった絞り込みが、リーチサイト規制には盛り込まれていなかったことを、改めて指摘しておく必要があるだろう。

 詳しくは高木浩光氏のブログを参照いただきたいが、非親告罪ということは要するに、著作権者が問題としていない「リンク集」であっても、警察や検察側の判断で摘発が可能ということ。これがどれだけ恐ろしいことかは、たとえば暗号通貨のマイニングツールが不正指令電磁的記録に関する罪(通称ウィルス罪)に問われた「コインハイブ事件」(地裁で無罪判決)などを思い起こしていただくと良いだろう。

文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より
文化庁から2月22日に自民党・公明党に示された条文審査資料より

どこが落としどころなのか?

 いっぽう、ダウンロード違法範囲拡大に関しては、法学者や弁護士などが「海賊版対策に必要な範囲に限定すべき」といった緊急声明を出した(解説記事参照)こともあり、かなり論点は絞られている。公益社団法人日本漫画家協会が2月27日に発表した「『ダウンロード違法化の対象範囲見直し』に関する声明」では、以下の3要件にまとめられている。

  1. くり返し複製する「反復」行為を対象とすること。(刑事罰のみ)
  2. 原作マンガ等を原作のまま、まるごと複製する行為を対象とすること。
  3. 権利者の利益が不当に害される場合に限定すること。

 この3要件がきちんと盛り込まれるのであれば、いま再燃しかけているような「スクショ違法化」にはならない、ということを認識しておく必要がある。ここを落としどころとするなら、パブリックコメントには「この3要件をきちんと盛り込むべし」と意見すべきだ。さもないと、ミスリードや誤解という話で、突っぱねられてしまう可能性がある。

なぜ「スクショ違法化」にならないのか?

 1つめの「反復」条件は、悪質な場合に限り刑事罰の対象とするということ。落としどころとしては妥当な線だ。そもそも、さきに違法化・刑事罰化された違法録音録画のダウンロードでも、これまで逮捕事例はない。文化庁の過去資料でも「悪質性の高い行為に限定」とされており、ここは大きな問題にならないだろう。

 次の「まるごと複製」がポイントとなる。これがあれば「スクショ違法化」にはならないからだ。スクリーンショットはほとんどの場合、まるごとではなく一部の複製となる。マンガは、ページ単位でバラバラにアップロードするのが容易いし、録音録画に比べたら閲覧にも支障がないが、仮にバラバラにアップロードされたページをすべてスクリーンショットしたら、恐らくそれは結果的に「まるごと複製」に該当すると解釈されるだろう。

 少し視点を変え、現行法ですでにダウンロード違法化されている、録音録画の権利者団体側から見てみよう。「まるごと複製」が民事での要件に追加されると、正直、若干規制が弱まった感は否めない。

 ただ、仮に分割アップロードされた録音録画を一部だけダウンロードしても、作品を楽しむことはできない。つまり、「まるごと複製」じゃなければ、ユーザーにはメリットがないし、権利者にとってもデメリットにならないと言えるのだ。これは、権利者団体側も譲歩可能ではなかろうか。

「権利者の利益が不当に害される場合に限定」の攻防が本丸

 3つめの要件である「権利者の利益が不当に害される場合に限定」は、いま刑事罰の条件になっている「正規版が有償で提供されているものに限る」を、民事にも適用するということ。これも、録音録画の権利者団体側から見ると、規制が弱まる形になる。こちらは正直、ハードルが高いように感じる。

 現行法でも、テレビで放送されただけの番組は、有償著作物等にはあたらないとして、刑事罰からは除外されている。これが民事でも除外されるとなると、当然のことながら反発が予想される。私は、次の攻防の本丸は、ここになると考える。なお、これはダウンロードの話であり、アップロードは有償無償問わず規制されたままだ。

 権利者の利益が不当に害される場合に限定すると、たとえばマンガの「話売り」は対象となるが、「無料連載」は対象外となる。この場合、単行本化など有償に切り替わったタイミング以降が違法の対象となる。無料だったときにダウンロード保存したファイルは、配信が有償に切り替わったとしても、遡及適用されない、という形になるだろう。

保護と利用のバランスが重要

 昨年末に「保護期間の延長」「一部非親告罪化」などの権利保護強化が、1月1日からは「柔軟な権利制限規定」「教育の情報化対応」「障害者対応」「アーカイブ利活用」などの権利制限規定が、ほぼ同時に施行された。詳しくは、こちらの解説記事をご覧いただきたい。

 その際にも末尾で書いたが、著作権法第1条の「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」という条文は、「権利保護」による創作へのインセンティブと、「権利制限」による公正な利用の確保を、うまくバランスをとっていこうという趣旨だ。

 これは、文化庁が今回のパブリックコメントの回答様式1番目で言っている、“「深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること」と「国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと」という2つの要請を両立”させることと、方針は一致している。

 ダウンロード違法範囲拡大は、端的に言えば、権利保護の強化だ。だから、利用者側が反対するのは、当然のことなのだ。しかし、民事にも「まるごと複製」「権利者の利益が不当に害される場合に限定」要件を適用するのは、録音録画の権利者団体側からすると、権利制限の強化だ。

 そもそも利用者と権利者の利益は相反する。権利保護が強すぎても駄目だし、権利制限が強すぎても駄目なのだ。うまくバランスをとるというのは、利用者にも権利者にも、どちらにもある程度、痛みを要求するということでもある。双方の利益を考えたとき、どこまでなら譲れるのか、どこなら落としどころにできるのかを、話し合いながら探っていくことが重要ではないだろうか。

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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