実効性のない法律に意味はあるのか?「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」レポートと考察

赤松健氏
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 「二次創作のイラストをダウンロードするのも違法となる可能性がある」「悪意ある侵犯者には効果がないような法改正にどんな意味があるのか?」 ── 2月8日に参議院議員会館で開催された「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」では、マンガ家の竹宮惠子氏や赤松健氏など、本来は著作権法で権利を守られる立場であるクリエイター側から、このような疑問や反対の声が上がった。本稿ではこの集会のレポートを交えながら、いまどのような改正が行われようとしているのか、どのような影響が考えられるのかを考察する。

(※以下、わかりやすくするため、本来の条文には存在する括弧書きを省いてある場合がある)

これまでは合法だった行為が違法になる

 いま検討されている著作権法の改正を簡単に説明すると、要するに「これまでは合法だった行為が違法になる」ということだ。著作権者には、自分の著作物を他人が勝手に利用するのを、差し止める権利がある。しかし、私的使用のための複製は著作権法第30条で認められており、たとえばインターネット上にあるテキストや画像を勝手にダウンロードしても、それは合法である。

著作権法第30条(私的使用のための複製)

 著作権の目的となつている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

 ただしこの条文には、「次に掲げる場合を除き」という除外条件が付いている。2009年の法改正によって、映像や音声のファイルに限り、それが違法にアップロードされたものであることを知りながらダウンロードする行為は違法となった。

三 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

 さらに、2012年の法改正によって、違法にアップロードされた「有償」で提供されている映像や音声のファイルをダウンロードする行為には、刑事罰が科されることになった。なお、この刑事罰化以降、これまでのところ摘発された事例は1つもない。

 なお、合法なのはあくまで個人や家庭内など「私的」な範囲に限定されており、たとえば会社で新聞や書籍などを勝手にコピーするのは本来、違法だ。そのため、許可をまとめて簡単に取れる、日本複製権センター(JRRC)などの仕組みが用意されている。

合法か違法かを分ける条件が複雑すぎる

 ここまでをまとめると、以下のようになる。正直、合法か違法かを分ける条件が複雑すぎて、どれだけの人が正確に把握しているか疑問だ。いや、もっと正直に言うと、とっさに判断できるかというと、筆者もあまり自信がない。

  • 【前提】私的使用目的のダウンロードは合法
  • 違法にアップロードされたファイルだと知っていたらダメ
    (違法かどうかはっきりしない場合は問題ない)
  • 違法なのは映像ファイルや音声ファイルに限る(※)
  • 自動公衆送信じゃなければ合法
    (メールやメッセージの添付ファイルなら問題ない)
  • ストリーミング閲覧やキャッシュは合法
    (YouTubeでの閲覧なら問題ない)
  • デジタル方式の複製じゃなければ合法
    (ブラウザに表示されたものを印刷するなら問題ない)
  • これらに該当するかどうかの立証義務は、権利者側にある(親告罪)
  • 刑事罰化されたのは、有償著作物のみ

 さて、いま検討されている法改正は、映像や音声に限定されている違法範囲(上記の※)を、著作物全般に広げるというものだ。いまは、右クリックして「名前を付けて画像を保存」したり、スマホでスクリーンショットを撮ったりするのは、私的使用なので合法である。

 ところが、いま検討されている法改正が行われると、「この行為はもしかしたら違法かもしれない」という判断が、すべての人に、すべての場合において必要になる。それは果たして可能なのだろうか? 実効性はあるのか? というところが焦点となる。
 

ファイルが合法か違法かを判別する方法はあるのか?

大屋雄裕氏
法学者・大屋雄裕氏
 集会で法学者の大屋雄裕氏が指摘していたのは、主観要件の問題だ。つまり、「その事実を知りながら」という内心の事実を、本人以外が証明するのは不可能である。あるファイルがダウンロードされたという、客観的事実は検証できる。しかし、「違法ファイルだと知らなかった」「違法ファイルだとわからなかった」と主張されたら、もうお手上げなのだ。

 また、インターネット上にあるファイルが合法か違法かを、どうやって判断すればいいのか、という問題もある。そこが合法な販売所や配信所であるかどうかは、いちおう「エルマーク」や「ABJマーク」で判別可能だ。これらのマークは商標登録されているので、仮に海賊版サイトが偽って表示したとすると、その行為も違法となる。

 まれに、権利処理がちゃんと行われていない「違法」なファイルが流通してしまっている場合もある。ただ、さすがにそんなことをユーザーが知り得るはずがなく、その責任は販売・配信側にある。そういう意味で、「マークがあれば安心」なのは間違いない。

 ただ、残念ながら、たとえばABJマークのホワイトリストには、アマゾン、アップル、グーグルといった大手の海外プラットフォームが載っていない(1月25日時点)。当然のことながら「マークがないから違法」「マークがないから海賊版サイト」などとは、決して言えない状態にある。つまり、違法アップロードされたファイルがある場所かどうかを、マークで判別することはできないのだ。

二次創作物のダウンロードは合法か?

 また、投稿サイトやSNSなど、だれでもアップロードが可能な場所に、こういったマークは表示されていない。プラットフォームが、合法であることを保証などできないからだ。では、1つ1つのファイルが合法か違法かの判別が、ユーザーに可能だろうか? たとえばあなたは、Twitterのタイムラインに流れてきたテキストやイラストなどが、誰かのパクリではないことを瞬時に判断できるだろうか?

 筆者は普段、細心の注意を払っているつもりだが、それでも、それが後から「パクツイ」であったことに気づくことがある。もちろんこういうケースは「その事実を知りながら」にはあたらないわけだが、これまではすべて合法だった行為が、いちいち「これは合法か? 違法か?」を判断しなければならないのだ。これは正直、相当なストレスになるだろう。

マンガ家・赤松健氏
マンガ家・赤松健氏
 集会で、マンガ家の赤松健氏と竹宮惠子氏がとくに懸念を示していたのは、二次創作のイラストやマンガをダウンロードする行為の合法性についてだ。赤松氏は、自身のパソコンのハードディスクがどういう状態かを、フォルダのサムネイル表示を印刷して持参し、明かしてくれた。

 現状、pixivなどで見かけた良さげなイラストは、それが合法にアップロードされたものなのかどうかは気にせずどんどんダウンロードし、次の創作の参考にしているという。ダウンロードは合法だからだ。もちろんそこには、二次創作のイラストやマンガも含まれている。これはクリエイターに限った話ではないだろう。いまは、社会的にだれもがやってることが、犯罪になってしまう可能性があるのだ。

 文化庁は「違法なものを創作の参考にするのはいかがなものか?」という見解だが、マンガ家が日々行っている創作のための活動の実態を、もう少し知って欲しいと赤松氏は言う。もちろん、マンガ家などの権利者を守ろうとしてくれているのもわかるが、ブロッキング法制化がダメになったからといって、少し強引に進めすぎていないだろうか? と疑問を投げかける。

 大屋氏はこの点について、文化庁は勘違いしていると言う。アイデアを練るには、人の創作物をまず自分の中へ取り入れる段階がある。ダウンロードして観賞しても、使わないものもたくさんある。表に成果を出す段階が創作や研究であり、自分の中に取り入れる段階まではすべて私的使用なのだと指摘する。

マンガ家・竹宮惠子氏
マンガ家・竹宮惠子氏
 竹宮氏は、二次創作はいまでもグレーゾーンと言われる中、黙認されているという建付けの中でビクビクしながらバランスをとってやっているのだと指摘した。二次創作はデッドコピーではないが、ある意味で海賊版のようなものだ、と。刑事罰が付くような大きい法律ができると、萎縮してしまう。コミュニティが崩れてしまうかもしれないと、危惧を表明した。

抑止効果はほんとうにあるのか?

 映像や音声の前例は「もっぱら抑止効果として機能している」と、文化庁は主張している。ところが大屋氏によると、その「抑止効果として機能」しているかどうか、客観的事実が検証されているわけではないという。

 たとえば、一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、Winny や Shareといった「ファイル共有ソフトの利用実態調査」を行っている。これによると2007年以降ノード数は減少傾向にあり、とくに2012年10月の違法ダウンロード刑事罰化のタイミングでは大幅な減少傾向が見られる。

 しかし、それが本当にダウンロード違法化や刑事罰化の効果なのか、一斉捜査でアップロードでの逮捕者が続発したせいなのか、ソフトウェア作者の逮捕による影響なのか、比較検証が充分でないと大屋氏は言う。

 また、たとえば歩行者が赤信号で横断する行為は道路交通法違反(罰則規定もある)だが、実際に取り締まられることは、まずない。そのため実効性がなく、日常的に法が犯されている状態になっている。遵守されない法律に、抑止効果はあるのだろうか? と大屋氏は疑問を投げかける。

編集者・藤本由香里氏
編集者・藤本由香里氏
 編集者で明治大学教授・日本マンガ学会理事の藤本由香里氏はこの点について、悪意ある侵犯者に対しては効果がなく、逆に、まじめな一般ユーザーの萎縮を招く可能性があると指摘する。むしろ、違法アップロード者にどう対処するかが喫緊の課題ではないか、情報開示請求が難しいなどの問題解決を急ぐべきだ、とも指摘した。

 藤本氏は、「現在、有償で販売されている」「まとまりのある著作物を」「販売しているそのままの形で」「著作権を明確に侵害してると認識される場所から」「単行本をまるごと、あるいは数話をまとめて」「繰り返し」くらいの限定が必要だと私見を述べた。

筆者のオピニオン

 ダウンロード違法化は、「事実を知りながら」という主観要件を立証するのが、ほとんど不可能だという点に尽きるのではないか。いったいなんのための法律なのか。意味のない法律であれば、むしろ積極的に反対する理由もないとさえ思えてしまうのが、罠なのかもしれない。
 他に興味深かったのは、同時に検討されているリーチサイト規制については、大屋氏曰く「法律家や法学者からは、まったく反対意見が出ていない」という点。要件がしっかり詰められているからか。「リンク行為が違法になり得る」というのは、ダウンロード違法と同程度には警戒されていいようにも思うのだが。

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この記事の著者について

About 鷹野凌 325 Articles
HON.jp News Blog 編集長。NPO法人HON.jp 理事長。明星大学/二松學舍大学/実践女子短期大学の非常勤講師で、デジタル編集論/表象メディア演習/デジタル出版論/デジタル出版演習を担当。出版学会員/デジタルアーカイブ学会員。主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)
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