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本稿は、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-改変禁止 4.0国際(CC BY-NC-ND 4.0)ライセンスに基づき、骨董通り法律事務所 for the Arts 弁護士 二関辰郎氏のコラムを転載しています。
2019年1月17日、大阪地裁は、海賊版サイト「はるか夢の址(あと)」の運営者など3名に対し、それぞれ懲役3年6か月、3年、2年4か月の実刑判決を出した。「はるか夢の址」はいわゆるリーチサイトである。そのサイト自体に著作物が掲載されているわけではなく、著作物のデータを蔵置したサイトに利用者を誘導するリンクを集めて掲載したサイトのことだ。この事件では、いかなる行為が犯罪とされたのか。この判決が報道されるにあたり、その点が明確ではない報道や、むしろミスリーディングと言ってよい報道が目立ったように思う。そこで、その点を論じてみたい。
リーチサイトとはどのようなサイトか
まず、リーチサイトとはそもそもどのようなものか。リーチサイトにはアプリを利用したものもあるが、サイト型と言われる一般的なリーチサイトの仕組みは次の図のとおりである。図中の①から⑦までを順を追って読んでいただくと流れがわかる(説明として手抜き)。ちなみに、ときおり指摘されるとおり、「リーチ」は”reach”(到達)ではない。”leech”(動物のヒル。転じて人や財産を食い物にする意)である。 この図で示されているとおり、ユーザの行為(④~⑦)以外に①から③の3つの行為がかかわっている。これら3つの行為それぞれを別の人物が行う場合もあれば、同一人物が行う場合もある。このように複数の行為があるため、どの行為が刑事事件で罪とされたのかをきちんと把握することが重要になる。
リーチサイトにかかわる上記仕組みでは、次のように収益がかかわってくる。すなわち、ユーザがリーチサイトを経由してストレージサイトから著作物をダウンロードすることは、いちおう無償でも可能である。しかし、その場合には、広告が表示されたり、スピードが遅かったり、1日あたりにダウンロードできるファイル数に制限が課されたりする。そのため、非常に使い勝手が悪いが、有料会員になってストレージサイトに会費を支払えば、それらの制約がなくなりスムーズに利用できるようになる。しかも、ダウンロードしたファイルは自由にコピーして人に送ることができたりする。そのように集められた会費は、必ずしもすべてがサイバーロッカーの収益になるわけではなく、著作物のデータをアップロードした人物に報奨金としてキックバックされる仕組みになっていたりする。その場合、リーチサイトの投稿者は、報奨金を得るために、せっせと著作物のデータをストレージサイトにアップロードすることになる。こうして、海賊版が増殖していくという仕組みである。
リーチサイトには法律的にどのような問題があるか
上の図で「ストレージサイト」に著作物をアップロードする行為(図の①)が著作権者に無断で行われた場合に、著作権侵害(公衆送信権侵害)になることに問題はない。
いわゆるリーチサイトで問題となるのは、リーチサイトに著作物の所在を示すリンクを掲載する行為(図の③)である。この行為をどのように評価すべきかについては、これまでさまざまな議論が行われてきた。差し当たり、ネットで読めるものとして、「リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応に関する論点整理(案)」を紹介しておく。
リーチサイトは放置すべきではない、という結論自体は、一般に皆の一致するところと言ってよさそうである。しかし、リーチサイトを違法と言ってよいか、あるいはリーチサイト規制の制度設計をどのように行うか、に関しては、さまざまな論点や立場がある。違法か否か、あるいはいかなる制度設計を行うかという問題は、本来は位相を異にしており、一緒に論じるのはやや乱暴ではある。しかし、まあコラムなので硬いことは言わず、一つのリストで一覧できる点を優先させたい。で、論点をいくつかと並べると、
- リンク自体は著作物ではないし、リーチサイト自体は違法な情報を流すわけではないので、原則として著作権侵害の正犯にはならないのではないか
- 違法な情報をアップロードする行為が正犯になるとしても、アップロードした時点で既遂だとすると、犯罪はそれで完成しているので、それ以降にリンクを張る行為は幇助にならないのではないか
- リンクが幇助しているのは、読みに行く行為、つまりユーザの行為であって、ユーザの行為が違法でないとすると*、共犯の従属性からいって、リンクを貼る行為も違法にはならないのではないか
*ユーザの行為を違法にする「ダウンロード違法化」の立法もちょうど論争になっている。が、それはまた、別のお話
- 幇助にはなるとしても、著作権侵害の幇助に対しては差止請求を認めない判例の趨勢からすると、リーチサイトへの差止請求は難しいのではないか
- リンクを貼る行為は、インターネットにおける意見交換や情報摂取の過程で重要な役割を果たしている。このように表現の自由にとって重要なリンクを貼る行為一般に委縮効果を及ぼすような仕組みを構築してはいけないのではないか
といった具合である。
これらの点がいろいろと検討された結果、リンクを貼る行為一般を対象とするのではなく、そのうち、「類型的に侵害コンテンツの拡散を助長する蓋然性が高い悪質なものに限定して差止請求権の対象とすることが妥当」といった方向性が、上記法制・基本問題小委員会で打ち出された。
「はるか夢の址」とはどのようなサイトか
「はるか夢の址」はリンクを投稿するサイトで、リンクの投稿行為(最初の図で③)と、サイトという場を設定する行為(最初の図で②)を別の人物が行っていた(少なくとも建前上は別の人物が行っているとされていた)。サイト運営者は、投稿者について13段階の階級を制定し、「優良投稿」をするとポイントや勲章が付与され、階級が上がっていく仕組みを作っていた。ネットに初めて出回るニーズの高い最新雑誌や新刊コミックへのリンク掲載は「優良投稿」とされるわけだ。そのように投稿者を競わせる仕組みなどを巧みに作った結果、「はるか夢の址」には新作(より正確には、新作にたどりつけるリンク)が多数掲載され、最盛期には月間訪問者数が1200万人規模とも言われる大型海賊版サイトに育った。
その後、2017年7月に強制捜査が行われてサイトが閉鎖され、同年10月に関係者の逮捕に至った。
本判決で罪となった行為
今回出された判決では、著作物をアップロードする行為(最初の図の①)とリンク掲載行為(最初の図の③)の両方が、罪となる行為として記載されている。
①と③の行為の両方があいまって著作権侵害になったようにも読める一方、「はるか夢の址」に関して別途逮捕された別の被告人について、すでに言渡済の別の事件の判決では、①(アップロード)の行為だけで既遂になった者もいる。そうすると、①の行為が罪となる行為で、③の行為は余事記載にすぎないようにもとれる。いずれにせよ、③(リンクを貼る行為)だけで犯罪とされたわけでないのは確かだ。
報道はどう伝えたか
しかし、この判決を伝えた新聞記事をみると、対象行為を正確に伝えない報道が目立ったように思う。
たとえば、毎日新聞(2019年1月18日朝刊)は、「判決によると、...人気漫画や週刊誌のデータ68点が違法に投稿された別のサイトのリンク(URL)を、48回にわたって掲載するなどした」として、③(リンクを張る行為)にのみ触れている(「など」に①のアップロード行為を読み込んでほしい、と言うのかもしれないが、一般読者(一般読者でなくても)には難しい)。
朝日新聞(同日朝刊)は、「複数の投稿者と共謀し、サイトに人気漫画「NARUTO-ナルトー」など68点が読める海賊版サイトのリンク先を著作権者の許可を得ずに掲載し、多くの人が読める状態にした」とし、やはり③の行為に焦点をあてている。「複数の投稿者と共謀し」とあって、共謀により①の行為もカバーされていることを示唆する趣旨かもしれないが、何を投稿した者かが記載されておらず、直ちにそうとは読み取りにくい。さらに、直後に、「リーチサイトをめぐっては、海賊版が読めるリンクを集めて掲載しただけで著作権法違反が成立するか識者間でも意見が分かれていた」と締めくくっている。「意見が分かれていたが、今回の判決はリンクを集めて掲載しただけで著作権法違反が成立するとの結論を出した」という意味に受け取ってしまう読者もいるかもしれない。
共同通信や時事通信は、「...書籍計68点のデータをアップロードし、海賊版サイトのURLを『はるか夢の址』に掲載するなどした」(共同通信1月17日)、「...人気漫画などの海賊版をインターネット上で公開。リーチサイト『はるか夢の址(あと)』に海賊版へのリンクを掲載し、不特定多数が閲覧できるようにして、計68点の著作権を侵害するなどした」(時事通信同日)とし、①の行為を③の行為とともに記載している。
おわりに
もし、リンクを貼る行為だけでも現行法下で著作権侵害になって刑事罰を科せるとなれば、リーチサイトの法制化は必要ないという話になりうる。しかし、今回の判決は、明らかに罪となるアップロード行為とセットで有罪判決を出したものであり、リンクを貼る行為だけで著作権侵害になると判断したものではない。その点は確認しておく必要がある。
(なお、本判決の量刑についても書こうかと思いましたが、すでにそこそこの長さになったことと、被告人が3名とも控訴したとの情報に接したこともあり、今回は控えておきます。)
転載元:リーチサイト「はるか夢の址」の運営者に実刑判決――リンクの法的位置づけと、どの行為が犯罪とされたか 二関辰郎|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts