《この記事は約 20 分で読めます(1分で600字計算)》
著作権の保護期間延長に反対していた6団体は1月10日、共催で公開シンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」を東京ウィメンズプラザにて開催した。主催は青空文庫、本の未来基金、デジタルアーカイブ学会、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、インターネットユーザー協会、thinkC。以下、詳細にレポートする。
昨年12月30日にTPP11が発効し、2016年の改正著作権法が施行。これまで死後50年間が原則だった著作権の保護期間は、70年間へ延長された。本シンポジウムは、過去作品の保存と継承や新たな創造・ビジネス・教育・研究開発のため、保護期間延長後の世界で私たちになにができるかを共に考える目的で開催された。
【目次】
著作権制度は常に、複合的、有機的に見なければいけない
中山信弘氏(東京大学名誉教授)は基調スピーチで、著作権法は第1条に掲げられた目的「文化の発展に寄与」しているのだろうか? という根源的な疑問を投げかけた。個人的には、自分の本や論文は自由にコピーしてもらったほうが、世の中のためになると思うこともある、と中山氏。でもそれでは出版社や書店が困ってしまうのもわかる。しかし、高い本は学生が買えない。果たしてそういう世の中でいいのだろうか? と問いかける。 著作物はその価値を、国や権威のある団体機関などが判断するのではなく、市場が判断する。つまり、価値はマーケットが決めている。アダム・スミスの言う「神の見えざる手」に委ねられているのだ。法制度としては独占的利用権を与えるしかなく、それによって収益を上げることが新たな創作へのインセンティブとなる。世界中の著作権法がそれを前提として設計されている。それに代わる制度は、まだ現れていないと中山氏。
ただ、「今世紀末まで著作権が残るかどうかは断言できない」という。著作権は「その時代の技術の産物」だからだ。情報の複製や伝達手段によって規定される。つまり、現在の著作権制度は未来永劫変わらないものではないのだ。アナログの時代にはアナログに適した制度が、デジタルの時代にはデジタルに適した制度がある。これからは金銭的なものだけがインセンティブではない、という認識が必要だと中山氏は訴える。
Wikipediaやクリエイティブ・コモンズなどで、喜んで無償で働いている人もいる。名誉、使命感、奉仕など、理由は人それぞれ。従来は、プロの作家や作曲家が作品を生み出し、一般市民は享受するだけという一方向だったので、制度設計は比較的簡単だった。デジタル時代は、だれもがクリエイターになれる、プロとアマの境界がわかりづらい、ある意味フラットな世界だ。だから、著作権制度の設計が難しくなったという。なにに焦点を合わせて制度設計すればいいか、わからないのだ。
著作権法は大きく改正され、TPP11による保護期間延長や非親告罪化だけでなく、フェアユース的な権利制限規定もできた。とはいえたとえば「パロディ」には踏み込めておらず、まだ充分ではないと中山氏。著作権法は単独で機能しているわけではない。憲法の、表現の自由とも関わってくる。著作権法には、他人の創作活動を阻害する機能もあるのだ。
今回の法改正で追加された権利制限は、デジタル対応が中心だから表現の自由は問題にならなかったが、今後はもっと踏み込んで考えなければならないという。著作権を強くすれば、創作へのインセンティブが増すわけではない。著作権制度は常に、複合的、有機的に見なければいけないと中山氏。これは、法律家にとっては当たり前の話だが、蛸壺的な見方をする人がいないとも限らないと釘を刺し、基調スピーチを締めくくった。
著作権保護期間が延長されるに至った経緯は?
続いて福井健策氏(弁護士、thinkC世話人)から、「期間延長問題の経緯」についての報告がなされた。内容的には、昨年11月に公開された記事「著しく短縮して語る著作権延長問題の歴史と、これからどうなり、何をしていくのか」を、さらに圧縮したもの。以下、要点のみ列記する。
なにがどう変わるのか?
- 原則:著作者の死亡翌年から50年 → 70年に
- 匿名・変名・団体名義:公表翌年から50年 → 70年に
- 映画:公表翌年から70年(変わらず)
- 実演・音源(著作隣接権):実演・発行などの翌年から50年 → 70年に
- 戦前・戦中の連合国作品(戦時加算):延長賛成派が「20年延長とバーターで」と主張していたが、確定後もまだ政府交換公文で「加算は存続」と明記されている
なにができるのか?
- アーカイブの振興(民間・公共、ジャパンサーチなど)
- 絶版など市場で流通していない作品の活用策
- さらなる権利者不明作品(オーファン)対策
- 戦時加算の撤廃努力
- パブリック・ライセンス、「権利表明」の普及
- デジタルライセンス市場の充実
- 情報のルールメイクはどうあるべきか?(経緯から学ぶ)
今後、我々になにができるか、すべきなのか
続いてライトニングトークが行われた。
最終20年のアーカイブを可能にする条項
生貝直人氏(東洋大学准教授、デジタルアーカイブ学会理事)からは、アメリカの著作権法が改正され保護期間が延長された際に設けられた第108条(h)の最終20年条項について解説がなされた。アメリカでは絶版などで商業利用されていない作品は、図書館などの非営利団体であればデジタル・アーカイブ化して配信してもよい、とされているのだ。そこで、日本でも第31条に4項を設けてはどうかと提案する。これは、保護期間は延長した上で、権利制限によって解決を図るアプローチなので、TPP11にも日欧EPAにも矛盾しないという。
また、EUでは2016年の「デジタル単一市場のための著作権指令案」で、文化遺産機関による絶版作品の利用について、拡大集中権利管理制度(ECL)の導入が示された。さらに、2018年9月に採択された議会修正提案7条1a項では、ECLなどのライセンス手段が機能しない分野について、文化遺産機関が絶版作品をオンライン公開することを可能とする権利制限規定を導入することを、加盟国に求める提案がなされたという。生貝氏はこの、アメリカとEU両方のアプローチを、日本にも導入しようと提案する。
今後の青空文庫
大久保ゆう氏(青空文庫)はビデオレターで、今後の青空文庫のチャレンジについて説明した。まず1月1日に、保護期間延長によって公開できなくなった20年ぶんの作家名一覧を公開。これは、保護期間延長による影響を知らせるものだ。そして、これからどうするかは、同じく1月1日に公開された「そらもよう」の「20年先の種を蒔く――真実は時の娘」で示されている。
- まずあくまでパブリックドメインの重要性にこだわる
- もちろん著作権あり作品も受け入れる
- 孤児作品の扱いも検討する
- 市民活動としての青空文庫を広める
- 国外・世界での青空文庫の利用状況を調査する
大久保氏は、故・富田倫生氏(青空文庫呼びかけ人)の「パブリックドメインは天に宝を積み上げる営みの、出発点」という文章を引用し、「うちの空さえ青ければいい」わけではないのだと訴える。つまり、1回限りとか特定のサイトでだけ利用できるといった、権利が制限される形での利用と、社会の共有財産として自由に利用できる状況(=パブリックドメイン)とは、大きく異なるというのだ。
また、今後は「著作権あり作品」や「孤児作品」の受け入れも検討する。現状、どちらも実験段階であり、本格的にやるならワーキングチーム(恐らく本の未来基金が中核になる)で詰めていく必要がある。まず、自分たちの作品が提供できるか? というところから試していきたいという。
また、市民活動として広めていくため、図書館などでワークショップをやっていきたいとのこと。すでに水面下で企画があれこれ動いているそうだ。また、実際に海外でどう使われているか、施設や機関、利用者に取材したいので、情報をお寄せください、とのことだ。
【ゆるやかに募集中】
青空文庫がさまざまな場所で色々に活用されている実情を知りたいと思っています。海外や特殊な場所での利用、個人の変わった活用など、エピソードや取材許可、ささいな情報も含めて、よろしければお寄せください。 info@aozora.gr.jp #著作権延長後— 大久保ゆう (@bsbakery) 2019年1月10日
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
渡辺智暁氏(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事長)はまず、保護期間延長と同時に施行された「非親告罪化」について言及。なにができなくなるのか? 「原作のまま」とはどういうことか? など、グレーゾーンについて「Yahoo!知恵袋」などに質問している人が少なくないという。つまり、利用してもよいコンテンツはなにか、わかりやすいと助かるというわけだ。
たとえば先般、ゲーム実況動画について任天堂が許諾するというニュースが流れた。これは積極的に評価すべきトレンドだと渡辺氏。今後、権利確認コストは確実に増えていく。そして、利用形態は多様化していく。そういった中、権利者があらかじめ「使ってもいいよ」と意思表示をするクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのような仕組みは、ますます重要になってくる。
国立国会図書館のスキャンデータを活用して出版社や作家へ還元する提案
赤松健氏(漫画家、日本漫画家協会理事)はまず、thinkTPPIPの方々に「みなさんの活動のおかげで日本の二次創作文化が守られました。本当にありがとうございました」と御礼を述べた。そして「マンガ図書館Z」で実業之日本社と組んで進めている実証実験(参考記事「孤児著作物をより利活用しやすくするための大きな前進!権利者団体が実行委員会を結成し実証事業を開始」)について説明。そして新たな提案として、国立国会図書館にあるスキャンデータを著作権管理団体を通じ広告を付けて配信するモデルを紹介した。
国立国会図書館は、1968年以前のスキャンデータを多数保有している。これを、著作権管理団体が拡大集中許諾と裁定制度申請によって読者へ無料配信、広告収益を作家や出版社へ還元する、という構想だ。これは、2008年4月の日本出版学会春季研究発表会特別シンポジウムで、当時国立国会図書館の館長だった長尾真氏が私人として提唱した、通称「長尾構想」に近いモデルと言えるだろう(参考記事「公共性とビジネスの狭間で 国会図書館、書籍電子配信の取り組み」)。
赤松氏が強調したのは、絶版で権利を失っている出版社に対しても、収益を還元すること。これは、実業之日本社と行っている実証実験を踏まえた上でのことだ。「ぜったいそうしたほうが、うまくいく」と自信をのぞかせた。
孤児著作物(オーファン)問題をどう解決していくか
瀬尾太一氏(写真家、日本複製権センター代表理事)は、「70年延長の張本人のように言われています」と苦笑いをしながら、権利者団体が行っている裁定制度の実証事業について説明した。これは、孤児著作物(オーファン)を利用するための裁定制度を、権利者団体がほぼ代行するというものだ(参考記事)。
実証実験を行う中で見えてきた課題は、「大量処理への対応」「事務的手続きの円滑化」「対応可能な範囲の拡張」の3点。実際のところ、著作権よりも、肖像権や疑似著作権などのほうが問題になるのだという(参考記事「疑似著作権、所有権、肖像権…… デジタルアーカイブには著作権以外にも課題が山積」)。
瀬尾氏は「保護期間延長により、これから孤児著作物は必ず増える。その責任は、かなりの範囲を権利者団体が負うべきだ」という。そして、シンギュラリティ(人工知能が人間の知性を超える技術的特異点)を向かえるときの著作権のありかたを「未来への夢想」として、ブロックチェーンなどの新しい技術を用い、広く浅く徴収された著作権利用料を創作者へ精密かつ適正に自動分配できる仕組みを、「社会的サブスクリプションモデル」として研究すべきだと語った。
ブロックチェーンやリーガルテックは著作権管理を変える
永井幸輔氏(弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)は今回の保護期間延長で、「法」に対する失望を覚えたという。「法」ではなく「技術」で代替・エンパワメントを図っていく必要があり、エンジニアなどもっと幅広い人の協力が必要だと語る。
ブロックチェーンにできそうなこととしては、簡単な登録や改ざんの困難さ、高い透明性のデータベース、許諾・決済・配分の即時・透明化、配信実績の透明化、零細作品・アマチュア作品の流通促進、少額・条件付きなど柔軟な配分レートの設定、N次利用のツリー可視化、原著作者と二次著作者間の収益配分、データの物理メディアライクな売買・貸し借り、利用権のトークン化、違法利用対策、独自の仮想通貨によるエコノミー形成などを挙げた。
総括シンポジウム「個別対策と今後の政策形成」
続いて、これまでの登壇者に加え、上野達弘氏(早稲田大学教授)、太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センターセンター長)、田中辰雄氏(慶應義塾大学教授)、富田晶子氏(青空文庫、本の未来基金運営委員)が登壇、総括シンポジウムが行われた。司会の津田大介氏(ジャーナリスト、インターネットユーザー協会代表理事)はまず、未登壇者から発言を求めた。
上野達弘氏は、戦時加算は計算が難しいのが問題だと説明。イギリス・フランス・アメリカは3794日(約10年4カ月)、ベルギーは3910日(約10年8カ月)、保護期間に加算される。この戦時加算は一般に、戦勝国による敗戦国へのペナルティだと思われているが、そうではないという。理論的には、一方的に破棄できる可能性があると、文化審議会でも指摘しているそうだ。 太下義之氏は、今回の保護期間延長と、全国で公立文化施設が多数整備された1990年代が、日本の文化政策の大きな転換点だったという。
保護期間の延長は、アメリカから強く要望されてきた。実はこの1990年代の公立文化施設の整備も、日米構造協議を契機とする内需拡大策によるものだという。国からの強い働きかけにより、地方債を大量に発行し、箱物が多数整備された。それは文化振興のためではなく、対米追随型の「メタ政策」なのだ。
アフター平成の政策論としては、もちろん成長前提では政策を組めないため、権利の縮減(負の配分)がに関する知恵が必要だと太下氏。保護期間の部分短縮も、もちろん簡単なことではないが、議論していくべきだと語る。
田中辰雄氏は「著作権厨をなんとかしたい」と語る。赤松氏の提案はすばらしいが、おそらくやろうとすると、リスク回避のため館長のところで却下されると予測する。逆に、ザルにすると「おれが知らないうちにアップされてた!」というトラブルが起こる。少々問題があっても、国民全体で合意があればOKなのに、そういう議論がなされていないのが問題だという。
世の中には、著作権にうるさい人がいっぱいいる、と田中氏。それにより、せっかくの試みもシュリンクしてしまうし、議論も封殺されてしまうのだ、と。二次創作については、相当程度の国民の支持があったからなんとかなった。だから、「孤児著作物の活用は、文化政策にとって良いこと」という合意形成をしたい。そのためには「著作権厨」をなんとかしたい。「ネトウヨ」とか「パヨク」みたいに、「著作権厨」というネガティブなイメージのレッテルを貼る言葉を広めていけばいいのではないか、と提案した。
富田晶子氏は、「こういう場に青空文庫の人がいることが重要」と福井氏から言われ、ここに座っていまますと挨拶。青空文庫には正月から、どんどんファイルが入稿されていると、現在の状況を語った。ただ、このままでは先細りになるのは間違いないため、具体的な活動として、孤児作品をどう活用できるか? という観点で裁定制度を体験してみたという。
申請は、瀬尾氏のところの事務局がやってくれるので簡単だったそうだ。ところが、申請したのは明治時代の短い作品だが、補償金額は3万2400円と言われてしまい「あー、これは無理だ」と感じたという。青空文庫でボランティア活動をしているのは、学生や年金で細々と生活しているような人も多いという。そういう人たちにこの額が負担できるのか。
裁定制度の改善で、国や地方公共団体に関しては補償金が要らなくなった。だけど、まだ民間については必要。果たしていまの裁定制度に、実効性はあるのか? 一般の人が使えるのか? と疑問を投げかけだ。
thinkCが始まった12年前とはなにが変わった?
司会の津田氏は「もっとお通夜みたいな状態になるかと思ってたが、前向きな提案ばかりだ」と喜んだ。12年前に thinkC を始めたときより、みんなの意識が変わっているというのだ。瀬尾氏から「ブロックチェーンを活用」という提言が出たことに「胸が熱くなった」と笑みを浮かべた。いろんなことを、時が変えたというのだ。12年前(2006年)というと、まだiPhoneもなかった。サブスクリプションもなかった。ではこの12年で、どんなことが変わったか? と、登壇者に質問を投げかけた。以下、敬称略で発言を列記する。
永井 法改正では、状況の変化に間に合わないことがわかった。技術的なところで解決すべきだ。
生貝 12年前に、インターネットに載ってない知識は存在しないも同然と言ったら怒られた。いまはそんなこと言っても怒られない。オープンにアクセスできる知識を増やし、若者たちが豊かな知識に囲まれるようにしたい。利用者のために実現してほしい。
渡辺 大きく変わったのは個人の力。2006年ごろは Wikipedia が注目された。インターネットで個人が力を発揮するのは、当たり前のことに。警戒しなければいけないこと、注意しなければいけないことは、もちろんいっぱいある。アーカイブも、個人のコレクターを活かせばいいのではないか。クラウドファンディングのような仕組みで、作家に還元すればよい。
上野 著作権法を仕事にしているが、12年前から「保護だけではなく、バランスが重要」と言われていた。しかし、どうしても権利保護が強かった。自由な活動は、どうしても持続が難しい。仕事でやってる人は疲れない。だから、この活動が12年経っても続いているのは、ほんとうに素晴らしいことだ。
太下 12年間、感慨深い。議論のコモンズができた。今日はまったく事前打ち合わせをしていないが、こんなに有意義な時間になった。ブロックチェーンによって、日本にアートのマーケットができるかも。描いた絵は、売ってしまったあとに値上がりしても、これまでは作家に還元されなかった。ブロックチェーンなら追跡できる。ブロックチェーンは、通貨には向いてない。むしろ、アーカイブのメタデータに活用できるのではないか。
田中 良くなったのは、議論が深みを増したこと。だれもが創作者になったという、巨大な変化が起きた。残念なのは、必ずしもこういう議論が、一般の人に広まっていないこと。議論が共有されていないこと。
瀬尾 12年前、延長賛成派として、津田氏・福井氏と激論した。著作権が唯一無二の至高のものではなくなった。AIが壊した。人々のあいだに漂うものになった。生活が変わる。時代の転換期。権利者とか利用者とか言ってる場合じゃない。いっしょにやらないと。受ける準備は権利者側にある。出版社も。とにかくできることぜんぶやらないと。法に頼る時代は終わった。スキームで解決しよう。ソフトローをどうやってミックスするか。権利者団体をみんな呼んで、今日と同じような場を開きませんか?
赤松 著作権とは直接関係ないが、出版社以外のデビュー方法が増えた。ネットでバズって、ネットでマネタイズできるようになった。そのためには、セルフプロデュースやセルフブランディングが必要。今後は、漫画家が芸人化していくのかも?
富田 青空文庫はだれよりも早く、延長問題を取り上げてきた。以前も署名活動を行ったが、紙に書いてもらい大臣へ持参した。いまは change.org であっというまにできるようになった。保護期間が70年になって、むしろみんなが結束できるようになったかもしれない。瀬尾氏とはもう、話をしている。これからが楽しみ。今日はキックオフ。富田倫生が生前、表現の自由をめぐる戦いは、なくなることはないと言っていた。
津田 もう think してる場合じゃないということ。福井氏もすっかり、デジタル弁護士になった。当時、「ぼくは携帯持たない主義」って言ってたのに。
福井 ですよね。まさか津田氏が、「残念なSNS」なんて言い出すなんて(笑)。瀬尾氏の提案、ぜひやりましょう。損得なしでやってると、世の中は飽きてしまう。TPPが来るのは早すぎた。工夫をしてきたつもりだけど、力不足で届かなかった。でもこの12年は、決して無駄だったとは思わない。最大なのは、多くの出会いがあったこと。富田倫生と出会えた。著作権保護期間問題には、すべてが詰まってた。弁護士としても成長できた。
質疑応答
【Q.】ブロックチェーンは、レコード会社などが不要になってしまうので、反対されるのでは?
瀬尾 ブロックチェーンは魔法じゃない。管理しなきゃいけない部分は確実にある。
津田 より権利者団体が必要とされるようになるかも。
瀬尾 囲い込みはできなくなる。健全化。
永井 権利者団体や管理団体が訴訟を提起、みたいなのはブロックチェーンがあっても必要。クリエイティブ・コモンズの会議で「じぶんたちがいなくなる社会を実現できたらいいよね」なんてことを議論している。
【Q.】デジタル・アーカイブにおいては、絶版に限らずすべてにして、ダメだという権利者からオプトアウトというのはどうか?
生貝 さすがに絶版じゃないと、営利企業が困ってしまいそう。
【Q.】自分の死後、著作権放棄ってなにか方法ある?
渡辺 生存中であれ死後であれ、クリエイティブ・コモンズの提供しているツールとして「CC0」がある。著作物性はないけどもしかしたら……というものにあらかじめ付与することで、利用者に自由な利用を保証する。
【Q.】アーカイブは個々のコレクターが担っても?
生貝 まんなかの領域を作るには、専門職がゲートキーパーになる必要がある。ナショナルデジタルアーカイブの役割高まる。自分たちが持ってるコレクションというより、個人が持ってるものを集める。
【Q.】テキストの検索・分析など、改正著作権法の権利制限は?
福井 1月13日に明治大学知的財産法政策研究所でシンポジウム「平成30年著作権法改正の評価と課題」をやる。参加費無料で500名まで。
【Q.】今後のアーカイブやオーファンワークス活用のため、わたしになにができるでしょう?
福井 デジタルアーカイブ学会にぜひご参加を。
瀬尾 どうやったら世の中で利用されるか、というのをみんなで考えよう。どうやって共有するかを、作り手側が考える。利用者側は、作り手側の気持ちを考える。「著作権」って言うと必ずトラブルになるので、言わないほうがいいのかも。
生貝 ヒト・モノ・カネ。著作権は、ボランティアとか公共。ビジネスモデルではなり立ちづらい。お金の話はややこしいので、法律論に逃げてたのかも。文化を支えるためにはお金が必要。どうやって支えていくのか? を正面から議論する必要がある。
締め
中山 老人にはデジタルが理解できないので困る。でもデジタルは人類史上最大の革命。デジタル革命は短期間で社会へ大変な影響を与えた。著作権は、デジタル抜きで考えられない。もう10年もすれば、わたしがわからないような、楽しい世界になるだろう。
津田 中山氏が基調スピーチで「著作権制度は、その時代の技術の産物」と語ったとおり、著作権は技術によって変わっていく。thinkC などの活動は一区切り付いたが、これから第二幕が始まる。この12年は、決して無駄ではなかった。当時、数年で延長が決まるだろうと言われてた。10年遅らせられた。自分にとっては、社会問題と関わるきっかけとなった。この場に育ててもらった。