「読売読書世論調査と学校読書調査」「電子書籍・電子雑誌の制度収集説明会」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #544(2022年10月23日~29日)

虔十書林
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 2022年10月23日~29日は「読売読書世論調査と学校読書調査」「電子書籍・電子雑誌の制度収集説明会」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

消費者庁のステマ検討会、景表法「指定告示」に追加する案も〈通販通信ECMO(2022年10月25日)〉

 消費者庁の「第5回 ステルスマーケティングに関する検討会」を受けての報道です。私は傍聴していませんが、事務局から出ている「主な検討事項のこれまでの整理と今後の検討の視点」という資料を見るに、規制の方向性がおおむね固まったようです。

 広告表示に「優良誤認」や「有利誤認」があれば現行法でも規制可能なので、問題は優良誤認や有利誤認がないステマに絞られています。そして、日本弁護士連合会から2017年2月に提出された「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」にある、景品表示法5条3号の指定告示にステマを追加することが、早期に実現可能な方法ではないか、と。

 ……えーっと、つまり、もう5年以上前に提言されていたやり方での規制に、ようやく着地しそうなところまで来た、ということでしょうか。検討会が始まってからは2カ月かかってないので、検討会を開くと決めるまでが長かった? なお、Googleトレンドで確認したら、「ステマ」のピークは2012年1月でした。この問題、もう10年以上経ってるのか……。

説明会「有償等オンライン資料(電子書籍・電子雑誌等)の制度収集開始について」〈国立国会図書館―National Diet Library(2022年10月27日)〉

 2023年1月から始まる、オンライン資料収集制度(いわゆる「電子書籍・電子雑誌」の納本制度)拡大についての説明会が開催されました。説明資料と動画が公開されています。「有償」または「DRMあり」も制度収集義務の対象になるということで、気になる点をいろいろ質問してきました。ただ、質疑応答部分はカットされちゃってますね。「後日回答」とされた内容もあったので、そのうち「よくある質問」のページあたりに反映されるのかも。

 #542で「気になっていること」として挙げたのが、制度収集の対象が「2023年1月1日以降に発行された」とある点。つまり、既刊はどうすれば? という話。これは、「義務の対象外」だけど「寄贈いただけるとありがたい」というスタンスであることがわかりました。つまり、2022年までに発行された電子書籍・電子雑誌を納本してもOKです。

 そのうえで、メタデータの必須項目である「出版者」の名称が以前と現在とでは異なっている場合は、「当時の出版者名で入力」との回答でした。つまり、これで「日本独立作家同盟」時代の刊行物も納本できるし、当時の出版者名で登録すればよいことがわかりました。登録には「デジタルデポジットシステム」のアカウントが必要になるので、さっそく申し込んでおきました。

 ちなみに、質疑応答では他に「当館が運用する資料検索サービスの検索結果から、販売ナビゲートを行う予定」の詳細を尋ねています。というか「販売ナビゲートのリンク先は1カ所だけなのか?」という質問になかなか答えてくれなかったので、何度も確認することになったのですが(結局、明確な回答は得られていないが、恐らく1カ所だけ)。まあ、結果として「出版者が販売ナビゲートに期待している」と感じてくれたならよいのですが。

社会

※デジタル出版論の連載はお休みしました。

本選び「書店で」がトップ42%、1か月に「本を読んだ」横ばい47%…読売世論調査〈読売新聞オンライン(2022年10月26日)〉

 読書推進月間をテーマとした読売世論調査。「質問と回答」によると、「本を読んだ」の「本」は、「電子書籍を含み、マンガや雑誌は除きます」とのこと。他にも積ん読の冊数や「電子書籍で本、マンガを読んだことがありますか」などの質問があります。

 なお、この「電子書籍を含み、マンガや雑誌は除きます」という尋ね方は、文化庁「平成30年度国語に関する世論調査」と同じ。読売が18歳以上に対し、文化庁は16歳以上なので、対象年齢が少し異なります。

小中高生、電子書籍に比べ「紙の本読みやすい」…読書傾向調査〈読売新聞オンライン(2022年10月27日)〉

 上記の読売世論調査とほぼ同時に出ていましたが、こちらは全国学校図書館協議会(全国SLA)の学校読書調査。2021年までは毎日新聞社と実施してきた調査ですが、今年の4月に「諸般の事情により調査活動を終了することとなりました」というお知らせが出ており、どうなるんだろう? と少し心配していました。

 全国SLAの公式サイトにはまだ情報が出てませんし、読売の記事にも詳細が載っていない(紙面にはもう少し詳しく載ってそうですが……そして読売以外の報道は見つけられませんでした)ので、どういう実施体制だったかは分かりません。が、ひとまず「続いた」ことは喜ばしい。わあい。

 しかしこの「紙の本のほうが読みやすい(わかりやすい)」と「スマホやタブレットなどのほうが読みやすい(わかりやすい)」については、記事で取り上げている「紙のほうが上回っている」ことより、実はそれほど差が付いていないことのほうが興味深いです。若いから順応性が高いのかしら?

 記事に出ている数値を並べ替えてみましょう。以下「スマホやタブレット」を「電子」とします。小学生は、紙が45.6%に対し電子が34.4%です(11.2ポイント差)。中学生は、紙が40.4%に対し電子が38.5%です(1.9ポイント差)。高校生は、紙が45.0%に対し電子が34.9%です(10.1ポイント差)。まあ、恐らくこういう「体感」は、読んだ本のジャンルにも依るだろうとは思います。

 実際のところ、「スマホで読む」体験と「タブレットで読む」体験でさえ、かなり異なります。パソコンの大きなディスプレイだと、さらに異なります。また、「アプリで読む」体験と「ブラウザビューアで読む」体験も、意外と異なります。また、バックライト式の液晶ディスプレイだと「目が疲れる」という声が多くなりますが、電子ペーパー端末を触らせると印象が激変します。

 私は大学の講義で毎年、電子書店の使い勝手をレビューさせるレポート課題を出していますが、裏に隠れているさまざまな機能に気づかず「使いづらい」「読みづらい」と書いてくる人は結構います。たとえば行間や余白やタップ範囲を調整できる、背景色や文字色を変えられる、ページめくりアニメーションを変更できる、目次タップでジャンプできる、本文がキーワード検索できる、マーカーが引ける、メモが書けるなど。

 まあ、私でも、普段よく使っているサービスの「知らない機能」にあとから気づくことがありますから、見えない部分に気づくことの難しさを痛感します。書いてあっても気づかない。ガイダンスが出てもスキップしちゃう。よくあることです。そういう意味で「見たままの姿」である物理メディアは強い。というか、分かりやすい。

経済

韓国の「NAVER Webtoon」と日本の「LINEマンガ」の致命的な違い(飯田 一史)〈マネー現代 | 講談社(2022年10月27日)〉

 日本のウェブトゥーン市場活性化のためになにが必要か?」という観点ですが、恐らくこれはウェブトゥーンに限った話ではないはず。「LINEマンガ」は横読みマンガも含め、飯田さんの言うように「極力アプリ内に読者の活動が閉じるような設計」であり、読者に「ウェブで」拡散されること望んでいないように思えます。

 ただ、日本ではメッセージアプリの「LINE」が異様に強く、プラットフォーム化している点が大きい。アプリ内でユーザーが何をしているか、どんな動きをしているかは、外部からは把握できません。だから「LINEマンガ」がアプリじゃないと読めないとか、ヤフーと連携していない(その座は同グループの「ebookjapan」が占めている)といったハンディキャップがあるにも関わらず、それでもなお強い、とも言えるでしょう。

AI画像をフリー素材サイト「ぱくたそ」が配布 許諾を得た写真をもとに作成〈KAI-YOU.net(2022年10月27日)〉

 フリー素材サイトの生き残り戦略。AIイラストのクオリティが劇的に上がったとはいえ、現状まだ「自分で指示」して「良さげなイラスト」をAIに描かせるには、そこそこハードルがあります。いまぼくらが目にしているのはごく一部の成功例で、その裏側では膨大なトライ&エラーが行われているようです。つまりけっこう面倒くさそう。だから、出来合いのものを利用するニーズもしばらくは残りそう?

成長を続ける電子コミック業界。各媒体の強み、集客戦略を分析〈マナミナ(2022年10月27日)〉

 ブラウザで利用できる電子コミックサービスに絞った、ヴァリューズ「Dockpit(ドックピット)」のウェブ行動ログデータの分析です。国内250万人規模の消費者パネル(許諾を得たモニタ会員)とのことですが、ユーザー属性のデータをオープンにして欲しいなあ……(いちおう資料請求済みですが、まだ入手できていない)。

 あくまでブラウザベースですが、セッション数1位が「コミックシーモア」で、以下「楽天ブックス」「DMM.com」「ピッコマ」「ebookjapan」の順です。このうち「楽天ブックス(Kobo)」にはブラウザビューアが無いからか、今回の分析対象からは外れています。9月27日に公開されている「マンガアプリ」の調査とはかなり顔ぶれが違うのが興味深い。

 不思議なのは、アプリのときも今回のブラウザも「Kindleストア」の名前がないこと。分析対象から外れたとはいえ「楽天ブックス」の名前はあるのに。なぜだろう? インプレス「電子書籍ビジネス調査報告書2022」の利用率は3位ですから、決して凋落したわけではありません。固定レイアウト形式専用ですが「Kindle Cloud Reader」というブラウザビューアもあるのに。モニタの偏りかしら?

米巨大IT、4社が減益 景気減速で逆風鮮明に〈共同通信(2022年10月28日)〉

 Microsoft、Google、Meta、Amazon、Appleのうち、Appleだけ増収増益で「一人勝ち」状態です。インフレと景気減速で、とくにインターネット広告が大きな影響を受けている模様。ビジネスモデルの違いは大きい。いますぐどうこうということはまだないと思いますが、アメリカ巨大IT企業の動向はいろんな意味で影響が大きいので、注視しておきたいところです。

Web小説で生きていく 韓国発の“稼げる“サービス「ノベルピア」作家の声 ※記事広告〈KAI-YOU.net(2022年10月28日)〉

 タイアップ広告ですが、ちょっと興味深いのでピックアップ。そもそもこの「ノベルピア」というサービスを、この記事で初めて知りました。韓国でのローンチが2021年2月、日本版のオープンが2022年8月という、非常に若いサービスです。PV連動で投稿者に対価を還元するサービスは珍しくありませんが、独占配信なら1PV2円、複数配信でも1PV1円というのは破格の設定。それでやっていけるのか? と心配になるほどです。

 どういうバックボーンの会社なんだろう? と思い調べてみたら、大人向けウェブコミックス分野で韓国1位のプラットフォーム「トップトゥーン」と、ウェブトゥーンプラットフォームの「トプコ」と、「ノベルピア」を運営するメタクラフトの3社が合併に向けた事前手続きに着手、という今年4月の記事を発見しました。「筆頭株主が同一人」で、ユ・ジョンソク氏とのこと。

 アダルトコンテンツが強く「ネイバーやカカオが簡単にアクセスできないのが最大のメリット」という記述もあります。日本でいうDMM(FANZA)みたいな立ち位置でしょうか。日本では「ノベルピア」の少し前に縦スクロールマンガサービスの「TOPTOON」日本版が始まっており、会社は違えど住所は同じ(恵比寿プライムスクエア13階B区画)なので、ほぼ表裏一体の動きとみていいでしょう。注目しておきたい。

技術

NFT、取引17分の1に 楽天はスポーツカード9割売れ残り〈日本経済新聞(2022年10月24日)〉

 イーサリアムの相場下落とともに、OpenSeaでの取引額も下落しているとのこと。まあ、投機マネーが去っていったこれからが本番でしょう。ちなみに、Jリーグ公認NFTは「Rakuten NFT」ですからプライベートチェーンなのですよね。イーサリアム相場とは無関係。だから「JリーグのNFTが9割売れ残り」といっても、出品時にはガス代かかってないでしょうし、物理メディアと違って在庫を抱えるわけでもないですし、イメージは悪いですけど実損はゼロと言っていいのでは。

【DXは魅力的なコンテンツづくりにどう貢献するか?】日本のコンテンツ業界はDXでどう変わるのか?〈INTERNET Watch(2022年10月28日)〉

 KADOKAWA connectedの塚本圭一郎氏による寄稿記事。KADOKAWAグループのIP戦略に、データがどのように活かされているか? という解説です。スピンオフなども含めたシリーズ全体の売上をまとめて把握できる「分析ダッシュボード」は便利そう。現状をきちんと数字で把握したうえで、最終的に判断するのは「人」であることがとても重要なのではないかと感じました。

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雑記

 父親が来月から入院するという連絡を受け、この週末は滞在15時間のとんぼ返り帰省をしてきました。心配していたけどぜんぜん元気で、ふつうに酒を飲み交わして帰ってきました。お盆はコロナ感染がピークで帰省を断念したので、元気な顔が見られて良かった(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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