「改正著作権法成立、図書館の権利制限がICT対応に」「電子図書館事業等に尽力した長尾真氏が逝去」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #474(2021年5月23日~29日)

武蔵野坐令和神社

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 2021年5月23日~29日は「改正著作権法成立、図書館の権利制限がICT対応に」「電子図書館事業等に尽力した長尾真氏が逝去」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

図書館蔵書、メールで送信可能に 改正著作権法が成立〈共同通信(2021年5月26日)〉

図書館の蔵書を電子データ化し、利用者にメールで送信できるようにする改正著作権法が26日、参院本会議で...

 衆参ともに全会一致で成立。詳細は「ソフトロー」へ委ねられることに。読売新聞から翌朝、複写サービスのメール・FAX対応について「課題抱え解禁」という記事が出ていました。朝のうちは誰でも見られる状態だったのですが、残念ながらその日のうちに会員限定になってしまいました(↓)。反対派からの若干ピントのズレたコメントや、補償金額などについての強い意見も出ていて、今後の関係者協議が思いやられます。

 まあ、以前も書いたんですが(↓)、「スマホで閲覧できてしまう」云々という批判は、どう考えてもミスリードですよ。スマホで1回でもPDFを開いてみれば、それがどういう体験かわかるはず。「見る」ことはできても「読む」にはキツイ。非効率だけど、他に代替手段がないなら仕方なく頑張ってなんとか見られる程度の代物。正直、補償金の額を釣り上げるためのオーバートークにしか聞こえません。

 コロナ禍による図書館休館問題を受け、文化庁はいま著作権法第31条 図書館等での権利制限規定を見直す検討を進めています。「図書館の本、スマホで閲覧可能に」という報道に喜ぶ声や、出版関係者が「民業圧迫だ」と反発している報道もあります。実際のところ、いまどのような制度になっていて、どのように改正されようとしているのでしょうか? まだ報告書が確定していない段階ではありますが、現時点での状況について解説し...

 なお、図書館での複写サービスではどの本を公衆送信(メール・FAXなど)対応したかを把握するのは比較的容易だと思うので、分配率を資料別に決めることは充分可能でしょう。先行事例の授業目的公衆送信補償金制度では、授業内での著作物利用実態を把握するのが困難なので、サンプル調査で分配率を決めるんです(↓)。それに比べたら、記録しておけばいい複写サービスは比較的容易かと。

 他の問題としてパッと思いつくのは、著者と出版社の分配率と、いつまで補償金を徴収するか。前者は、電子出版の印税と同じように、あらかじめ「入金額の何%」と合意しておく必要があるでしょう。後者は、市場で入手困難になるまで? うーん、難しい。

 あともう1つの改正ポイントの、入手困難資料の家庭配信について。山田太郎議員のYouTubeチャンネルで、本件についての解説や見通しが語られていました(↓)。番組を視聴して最も興味深かったのは、現状だと出版社への配慮から漫画を除外する運用になっているのですが、自由民主党デジタル社会推進知財活用小委員会からそれを撤廃しようという提言がなされているとのこと。

 漫画家の赤松健氏もこの番組に登壇していて、この動きに対しあくまで個人的な意見と留保しつつ賛意を表明。「こういうのがあると、出版社が慌てて(自社で)電子化するんですよ」とか、公開後でも、よく読まれている作品は復刻すればいい、という鋭い指摘もありました。さすが。

アマゾンが掲げる「顧客第一」は“本物”なのか? 新たな反トラスト訴訟から見えた問題点〈WIRED.jp(2021年5月27日)〉

アマゾンに対する反トラスト​法(独占禁止法)に基く訴訟が新たに提起された。ワシントンD.C.の司法長官による今回の訴訟は、アマゾンの出品者との契約における「最恵国待遇条項」に関するもので、ほかのサイトでアマゾンより低価格で商品を販売しないよう求めているものだ。アマゾンは「顧客第一」が目的であると主張するが、競争相手を排除して価格の上昇を引き起こしている点が問題視されている。

 ワシントンの司法当局が、アマゾンを反トラスト法違反で提訴。サードパーティセラー(出品業者)に圧力をかけ、価格をコントロールした疑いが持たれています。2019年初頭に撤廃されたはずの「最恵国待遇条項」が、形を変えて復活している、ということのようです。他店での価格をアマゾンより安くすると、「カートに入れる」や「今すぐ買う」ボタンが消え、「すべての出品を見る」に変わる、と。えげつない。

 日本のアマゾンでも、いわゆる「カート落ち」現象が起きるのは直接取引への誘導を図るためではないか? という疑いの声を散見しますが、こういう類似事例を聞くに、まあ、そういうこともあり得るんだろうな、と。くわばらくわばら。

社会

学校1人1台コンピューター「一見よさそう」の落とし穴〈朝日新聞デジタル(2021年5月25日)〉

■記者コラム「多事奏論」 科学医療部次長 岡崎明子 小学生の娘が、学校から配られたiPadを使うようになってから2カ月がたつ。コンピューターを活用した教育を広げるため、文部科学省が進める「GIGAスク…

 GIGAスクール構想への批判コラム――なのですが、1つ古いPISA2015のデータを「最も信頼できる」と参照しているのはなぜなのか。文科省はPISA2018の結果公表を受け、「学校における一人一台のコンピュータの実現等のICT環境の整備と効果的な活用」という方針を決めたはずなのですが(↓)。

 東大名誉教授の佐藤学氏が「ICT(情報通信技術)教育が学力向上につながるというエビデンスはほとんどない」と言っているのを盾にして、ICT教育反対派と思しき方々が「それ見たことか!」という論陣を張り始めたのが散見され、頭が痛いです。

 その「学力」とやらが、デジタル化によって環境が激変した世の中でも必要とされる能力なのかどうか、という検証がまず必要なのでは。知らないことをすぐ調べられるような状況で、記憶力テストにどれだけ意味があるのか。

 哲学者ソクラテスは、口頭伝承こそが重要で、文字の使用は記憶を破壊すると論じたそうです。しかし、弟子や研究者がソクラテスの言葉を文字として記録に残したことにより、それが後世にまで伝えられているという皮肉。ICT教育に反対するなら、いっそ文字も使わず、口頭伝承まで戻ってはどうか? とも思うのですが。

小学館「日本短編漫画傑作集」から「少女漫画」除外 異論相次ぐ…広報「女性差別や多様性否定の意図全くない」〈J-CAST ニュース(2021年5月25日)〉

小学館が2021年6月30日に発売予定の「日本短編漫画傑作集」について、少女漫画が除外されているのにこの名前はおかしいと、ツイッター上で疑問の声も出ている。選者6人が全員男性であることにも、異論が多いようだ。どのような意図で企画したのか、小学館に取材した。選者6人が全員男性であることにも、異論が多く傑作集は、全6巻あり、年代ごとに選び抜いた漫画短編が編集されている。例えば、第1巻は1960年代を中

 本件、こうやってニュースになる前にたまたま、ツイッターのタイムラインで話題になっている段階で捕捉していました。「選者が男性ばかり」というのは問題ではないか? と指摘され、釈明としてなぜか「今回の対象作品は少年・青年漫画で、女性作家の作品も選ばれている」という新情報が出てきたという。少年・青年漫画は女性も読むのに、なぜそれが「選者が男性ばかり」の理由になると思ったのか。不思議。

 また、それならタイトルに「日本」を冠するのはおかしくないか? という別の問題も指摘されることに。個人的にはむしろ、こちらのほうが問題に思えました。結局、今後は「少女漫画傑作選」の刊行も検討していること。また、少年・青年漫画の傑作選であることを、何らかの形で明示するという形に着地したそうです。まあ、なんというか、出版前に軌道修正できて良かったですね。

長尾真・元国立国会図書館長が死去〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年5月28日)〉

 国立国会図書館や京都大学をはじめ、さまざまな方面から弔辞が出ています。一覧でまとまっているカレントアウェアネス・ポータルの記事をピックアップ。タイミング的にここには間に合わなかったっぽい、JEPAの弔辞はこちら(↓)。

長尾真先生の訃報に接し、日本電子出版協会として哀悼の意を表します。当協会のCTOである村田 真氏が、長尾先生への追悼として、長尾先生のEPUBへの貢献についての一文を寄せて下さいました。ここでは、電子図書館にまつわる事柄を述べます。当時国会図書館館長であった長尾先生が2008年に発表された「長尾構想...

 私が初めて長尾真氏にお会いしたのは、2013年9月に行われた富田倫生氏の追悼イベント「青空文庫の夢:著作権と文化の未来」を取材したときでした。「電子図書館の時代」という基調スピーチで、「『知識は万人のものである』という私の信念は、富田氏の信念でもあったと思う」という締めくくりの言葉が印象的でした(↓)。

 「青空文庫」の呼びかけ人・富田倫生氏の追悼イベントとして、9月25日に東京會舘にて「青空文庫の夢:著作権と文化の未来」と題した記念シンポジウムが行われた。主催は、富田倫生追悼イベント実行委員会(共同代表:富田晶子氏、青空文庫の八巻美恵氏)。共催は、青空文庫、株式会社ボイジャー、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(特定非営利活動法人コモンスフィア)、...

 その後も、JEPAセミナー、アーカイブサミット、デジタルアーカイブ学会、図書館総合展、教育ICTソリューションEXPO、AIデータ活用コンソーシアムなど、取材に行く先々で何度もお会いすることになりました。このお年で、なんて精力的な方なのだと驚かされたのですが、残念ながら直接会話をする機会には恵まれませんでした。

 そもそも私がこの界隈へ飛び込んだのは2012年初頭のこと。いわゆる「長尾構想」も「大規模デジタル化事業」も、知ったのは後から。偉大な方との縁は、ほんの少しだけ遠かった。接点があっただけでも僥倖か。ご冥福をお祈りいたします。

経済

原稿料も契約書も制作過程も公開、ライターのトラブルなくしたい『作家の手帖』の挑戦〈弁護士ドットコムニュース(2021年5月23日)〉

クリエイティブ産業の現場では、さまざまな事件が起きる。報酬の未払い、無償の労働、ハラスメント、無断の著作物二次利用――。こうしたあり方に一石を投じる同人誌が、この8月に誕生する。『作家の手帖』だ。会...

 同人誌の制作プロセスをGitHubですべて公開するという試み。原稿料の透明化や、契約書の事前明示など、書くこと以外の部分も公開し、使えそうなものがあれば「ぜひパクって」くださいという太っ腹企画。ウチのNPOでも以前、書き手側が提示できるような契約書ヒナ型を用意する活動はどうだろう? という議論があった(そしてやれてない)のを思い出しました。実行してる人が一番偉い。素晴らしい。

世の中に溢れる「うざい広告」をプロが徹底解説!マーケターは必見です〈株式会社LIG(2021年5月25日)〉

ネットで見かける「うざい広告」。今回はこの手の広告がなぜ存在するのか、そして今後こういった広告はどうなっていくのかを解説します。この記事では、「うざい」と思う広告を身を持って体験することで、ユーザーに訴求する最適な広告とは何か? を考えます。

 実際に読者が体験するような「うざい広告」を再現して解説した記事。いやあ、ほんとうざい。お見事。なんでこんなのがいまだにまかり通っているのか。とくに Google AdSense のページ遷移時の全面広告は邪悪。“Don’t be evil(邪悪になるな)”というスローガンが消えてから、どんどん邪悪化しているように思います。

Yahoo!ニュースの「中立性」に媒体社が抱く不信 | Yahoo!ニュースの「憂鬱」〈週刊東洋経済プラス(2021年5月26日)〉

「プラットフォーム事業者としてめちゃくちゃではないか」日本最大級のニュース配信プラットフォーム「Y…

 ちょうど「Yahoo!ニュースなど外部配信先ではなく、元記事をシェアしよう」という話題がバズっていたと思ったら、東洋経済でこんな特集が。東洋経済自身もまだYahoo!ニュースに配信してますよね。やるなあ。

 気になって、東洋経済の広告案内を調べてみました(↓)。2021年4月時点で自社PVが2億1162万、総PVが3億3811万。つまり外部配信は1億2649万PVで、まだ3分の1くらいを占めています。この批判によって、その大半を失うかもしれないのに。やるなあ。

東洋経済が運営する広告掲載サイト。大学・自治体向け、資産運用など広告企画、週刊東洋経済や会社四季報など雑誌広告や東洋経済オンラインなどデジタル広告情報を掲載。

ネット広告浄化の議論にモヤっと感、ターゲティング広告を全拒否して幸せか〈日経クロステック(xTECH)(2021年5月27日)〉

 ネット広告の浄化をめぐる一連の動きを見るにつけ、記者は何とも言えないモヤモヤした感覚を抱いている。各種施策の実効性だ。関係者のもくろみ通りネット広告を浄化できるのか。

 ターゲティング広告が全拒否されると、野放図な広告が表示される可能性が高まるそうです。「仮に利用者の趣味や嗜好に関係なく、1インプレッション(表示)当たり最も高い単価を付ける広告が必ず落札されるようになれば、理屈の上では扇情的な内容でクリックを誘う広告ばかり出てくるようになりかねない」という事態には、思い至らなかった。面白い観点です。iOSのアップデートに伴う個人情報提供意思確認では、拒否を選ぶ率が非常に高いそうですが、結果、iOSでは下品な広告ばかり表示されるようになる……? さて、どうなるか。

活動を続けたいすべての漫画家に。集英社×はてな「マンガノ」が作る新しい世界とは〈Impress Watch(2021年5月27日)〉

集英社の少年ジャンプ+編集部とはてなの協業という形でスタートしたマンガ投稿サービス「マンガノ」。集英社のマンガのノウハウを活用する一方で、“ジャンプ"の名を打ち出さない、ニュートラルさが特徴のサービスで、それまでとは異なる意識から生み出されたサービスになっている。

 あえてジャンプの名前を冠しないマンガ投稿サービスの、仕掛け人インタビュー。サービス開始2週間で約1000作品と、予想を超える反響があったそうです。個人的には、今後追加される予定のポートフォリオ機能に期待。優先度を上げて開発中とのこと。

技術

二次創作作品を提供すると公式公認でNFT化、販売・収益還元まで行う個人クリエイター支援プログラムが開始〈TechCrunch Japan(2021年5月28日)〉

オタクコイン協会、SSS、NOKID、CryptoGamesは5月27日、個人クリエイターの二次創作活動を支援するため、二次創作作品を提供するだけでNFT化・販売・収益還元まで行う公式公認の個人クリエイター支援プログラムを開始すると発表した。参加料は無料。

 オタクコイン協会、SSS、NOKID、CryptoGamesによる、公式公認二次創作作品のNFT化から販売・収益還元までを行う個人クリエイター支援プログラム。第1弾として「東北ずん子」「東北イタコ」「東北きりたん」の3姉妹をモチーフにした二次創作作品の公募受付が開始されています。単なるNFTマーケットプレイスとは異なり、二次創作作品の二次流通以降の収益還元まで想定した仕組みになっている点が面白いと思いました。

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CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 603 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)/ プロフィール画像は©鈴木みそ氏
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