「openBD API(vol.1)提供終了が発表」「2023年上半期出版市場は8024億円で前年同期比3.7%減」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #581(2023年7月23日~29日)

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 2023年7月23日~29日は「openBD API(vol.1)提供終了が発表」「2023年上半期出版市場は8024億円で前年同期比3.7%減」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

関係性開示:本欄で言及しているアマゾンおよびメディアドゥは、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

【目次】

政治

著作権法での生成AIの扱い、文化審小委が検討開始〈日経クロステック(2023年7月27日)〉

 文化審議会著作権分科会法制度小委員会での議論が始まりました。私は、文化庁からのお知らせを見落としていて、傍聴できませんでした。残念。配布資料はこちら。しばらくすると、ここで議事録も公開されると思われます。

 ちょっと興味深いのが、事務局から検討事項について「まとまったものから随時公表することも検討」したいという意向が示されたこと。いつもなら、ひととおり議論が行われてから「報告書(案)」が作成されパブコメ、という流れです。

 残念ながら傍聴できなかったため、記事の最後にある「合意形成できた一部の論点のみで法案提出に向けたプロセスを進めたい考えとみられる」というのが、事務局から示唆されたことなのか、記者の想像に過ぎないのかは不明です。

 ただ、5月には、衆議院の委員会で文化庁審議官が「現時点では改正の予定はない」と回答している、という報道もありました。私の予想では、挙げられている3つの論点は意見が割れると思うのですよね。とくに依拠性。だから「この論点はこういう意見がありました」という列記に留まるのではないか、と。どうだろう?

社会

夏休みの宿題の定番「読書感想文」課さない学校が増加 子どもの読書離れに懸念の声も〈AERA〉〈AERA dot.(2023年7月22日)〉

 読書感想文の是非はさておき、「不読者の割合は増加」の見出しが本文と矛盾していることを指摘しておきます。本文には「なかなか減らない」と書いてあるんですよ。「減らない」と「増加」は意味が違いますよね。

 直近2022年の調査では、2021年より不読者の割合が増加しているのは確かです。とくに中学生の不読者の割合は急増しています(私も#545で指摘しています)。でも、このAERAの記事は直近の数値変動を言っているわけではないんです。

 このAERAの記事は「子どもの読書離れは今にはじまったことではない」と言いながら、全国学校図書館協議会の学校読書調査を挙げ、2001年以降の平均読書冊数が増えたことに触れた上で、不読者が「なかなか減らない」と言っています。

 でも実際には、20世紀の小中高生より21世紀の小中高生のほうが不読者の割合は低いんです。「子どもの読書活動の推進に関する法律」が公布された2001年と比べ、平均読書冊数が倍以上増えたのと同時に、小中学生の不読率も半分くらいに下がっています。

 高校生の不読者に限って「なかなか減らない」という指摘なら正しいんですが、そういう書き方でもないんですよね。それにしたって、2001年が67.0%に対し2022年は51.1%ですから、高校生の不読者は約4分の3に減っているわけです。その推移には触れずに「半数以上の生徒が」不読だと言うのは、ちょっとおかしくないか? と。

openBDプロジェクト、「openBD API(バージョン1)」の提供終了を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年7月28日)〉

 以前(#576)、JPROから版元ドットコムへの書誌・書影データが停止され、openBDにも影響が出ていることをお伝えしましたが、提供終了が決まってしまいました。ただし、少なくとも60カ月以上のあいだは、国立国会図書館の書誌情報をベースとした代替API(仮称)を提供するそうです。

 終了の理由は、JPROから「書誌も含めて再配信は現行規約違反との方針が示され」た、とのこと。要するに、openBDの存在が、JPROの「インフラ維持のための使用料徴収を阻害している」と認識されてしまったということなのでしょう。

 openBDのお知らせページ(いままでトップページしかなかったのに!)には「JPROが配信しているデータについては有償での提供が可能です。詳しくはJPROにお問い合わせください」という記述がありました。うーん……なるほど。うーん……辛いなあ。

 ちなみに、出版社がJPROに書誌情報を登録するには、紙は1点1000円、電子は1点200円必要です(どちらも税別)。この出版社から徴収する料金だけではインフラが維持できない、つまり、外部へのデータ提供を有償で行うことを見込んだ上での料金設定だった、ということなのでしょう。あるいは、出版社の登録が想定より少なかったか。

 もともとopenBDが立ち上げられた経緯は、説明会で沢辺均氏がおっしゃっていたように「例えば書店員が情報を発信する際には、特定のインターネット書店のデータを使うといった方法しか思い当たらない」ような状況を変えたい、というものでした。Internet Watchの記事では明示されていませんが、要するにアマゾン依存からの脱却を図ることが目的でした。

 アマゾンの Product Advertising API は「アマゾン・サイトにエンドユーザを誘導し販売を促進する目的」でのみ利用可能なので、アマゾンへ誘導しない利用は規約違反です。つまり、アマゾン以外の書店や図書館関係者などには(とくに無断利用を避けたいような真面目な方ほど)ちょっと使いづらい情報なのです。

 だから、版元ドットコムでは「書影や書誌は自由にお使いください」としていたり、openBDが「書誌情報・書影を、だれでも自由に使える」ことをコンセプトにしていたのです。JPROの言い分も理解はできるのですが、結果としてまたアマゾン依存へ回帰してしまう可能性が高くなったように思います。

 とくに問題になるのは、書影なんですよね。たとえば、HON.jpで契約している「Maruzen eBook Library」のラインアップ一覧ページには、版元ドットコムに掲載されていた書影を使いました。もしこのためだけに「今後はJPROへ料金を払ってください」という話になるなら、私は書影なしでテキストのリストにすることを選びます。

 正直、いまでも書影のない本がそこそこあり、タイトルだけの代替画像が目立つ状態になっています。これが今後は、JPRO経由の書影がゼロになるわけです。大手出版社は全滅でしょう。大半が代替画像になったらみっともないので、やはり、書影なしでテキストのリストにするしかない感じです。

 こういう零細利用の積み重ねが、本の認知向上や流通促進にも繋がっていたと思うんですけどねぇ……大規模・商業利用が有償なのは仕方ないとしても、零細利用や非営利利用を切り捨ててしまっていいものなのか。JPROが受け皿を用意してくれるなら良いんですが。

電子図書館(電子書籍サービス)実施図書館(2023年07月01日)〈電子出版制作・流通協議会(2023年7月28日)〉

 3カ月に1回の調査報告。導入自治体数は508、電子図書館数は403になりました。4月との比較では+7件と、拡大ペースがぐっと落ちています。コロナ禍による特需が、電子図書館についても終焉を迎えた、ということになるのでしょう。次のステップは、利用者数の増加と蔵書の充実かな? 以前にも書いたような気がする(自分で書いたはずなのに見つけられなかった)のですが、そろそろ利用者実態調査が必要かも

経済

2023年上半期出版市場(紙+電子)は8024億円で前年同期比3.7%減、電子は2542億円で7.1%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2023年7月25日)〉

 紙が8.0%減に対し、電子は7.1%増と、2022年通期の傾向とほぼ同じです。ちなみに毎回注意書きしていますが、「紙の出版物販売額は取次ルートのみ」であり、「近年増加している出版社による直接販売や、出版社と書店の直接取引は含まれない」ことに留意する必要があります。

 また、これも本当は記事に書いたほうがいいのかもしれないと思い始めたのですが、出版科学研究所による推定販売額の算出方法は「取次からの出荷額マイナス小売店からの返品額」なのですよね。つまり、書店の閉店で店頭在庫がすべて返品されると、その額がまるごとマイナスされるという影響があります。実態を掴むのってムズカシイ。

 個人的には、電子書籍(文字ものなど)が0.4%減と引き続き停滞気味なのが非常に気になっています。なにが要因なんだろう? と思っていたら、数日後に届いた「季刊 出版指標 2023年夏号」に“(電子書籍の)ストア占有はAmazon「Kindleストア」が圧倒的だが、今期は伸びが鈍化した、という声が多い。ストア主導で大幅な割り引きを行うセールが減少しており、伸び悩みの一因になっている。”という記述がありました。

 あー、なるほどと思ったのですが、アマゾンは2022年12月期に2014年以来の赤字転落しているんですよね。守りの経営で経費削減が図られた結果、ストア主導のセールも減少した、ということなのでしょう。2023年第1四半期には復調の兆しを見せているようですが、今後どうなるか。

 しかし、電子書籍(文字もの)市場は昨年の上半期にも、その前年に行われたDMMのキャンペーンの反動、という記述がありました(#532)。そのときも感じたのですが、いちストアの動向がそこまで大きな影響を及ぼしてしまうような状況って、正直、どうなんだろう? と思ってしまいます。まあ、まだ市場が小さいからかもしれませんが。もっと大きくなあれ。

「週刊文春電子版」が有料会員1万人を突破!〈株式会社文藝春秋のプレスリリース(2023年7月27日)〉

 まずは祝福を。おめでとうございます。そして、「週刊文春」クラスでもサブスクリプションが1万人突破するまで2年以上かかるのか、と思ってしまいました。まあ、紙版の定期購読(Fujisan.co.jpの定期購読プランで1年50冊2万6500円)とほとんど変わらない月額2000円(+税)というかなり強気な価格設定なので、それで1万人突破というのは素直にすごいとも思いますが。紙版+電子版のセットプラン(年間2万9500円)の割合はどれくらいなんだろう?

Twitter が「X」にブランド変更。それはテキストベースのアプリの終わりを示唆し、マーケターの新たな頭痛の種にもなる〈DIGIDAY[日本版](2023年7月27日)〉

 とうとうTwitterのサービス名や鳥アイコンも消えることに。「さようならツイッター」と慣れ親しんだ名前やアイコンとの別れを惜しむ声や、さすがにこれで愛想を尽かしたという声などが散見されました。

 個人的には、以前にも書いたように(#577)すでに高みの見物状態。名前が変わることに関しても、まったく心は動きませんでした。公式サイトなどで「Twitter」と表記している箇所を「𝕏(旧Twitter)」に書き替えるのがちょっと面倒だった程度。

 これでスーパーアプリ実現に向けて本格的に動くことになるのでしょうけど、いまのこの会社・このサービスに決済手段を委ねたいとは思わないなあ。信頼できない。

技術

発売わずか2週間で「10万円」の中古本出品も…NFT電子書籍は「第三の出版物」となるか?〈ORICON NEWS(2023年7月25日)〉

 メディアドゥ「FanTop」とハヤカワ新書の取り組みについての記事ですが、タイトルがミスリード。NFTに懐疑的な方々が引き寄せられて、批判的な反響が多く観測されました。ちょっと気の毒。

 というのは、価格が高騰しがちなオークション形式を「FanTop」では採っていないはず(規約にはありますが)。だから、10万円の出品というのは、保有者が売れる見込みもないのに高値を付けているだけの可能性が高いんですよね。

 実際に「FanTop」を確認してみたところ、『古生物出現! 空想トラベルガイド NFT電子書籍版』が10万500円で出品されているのを発見しました。「今まで売れた最高価格」は本稿執筆時点で700円ですから、とても10万円で売れるとは思えません。面白半分のおふざけ価格でしょう。

生成AIグラビアをグラビアカメラマンが作るとどうなる?第三回:実際の撮影とポーズ/構図の関係。openpose_handで指問題解決? (西川和久)〈テクノエッジ TechnoEdge(2023年7月25日)〉

 カメラのプロが生成AIを使うとどうなるか? という実験的連載。プロが使うと絵作りから違うなあ……と毎回感心させられます。ただ、今回は後半で ControlNet「OpenPose」が紹介されていて、集英社のAIグラビア写真集が販売終了になったときにも触れた(#574)、商用利用には年間2万5000ドルのライセンス料がかかる件が改めて心配になりました。

 このカーネギーメロン大学のライセンスについて、心配している声はいまのところ個人レベルでしか拾えていません。藪蛇になってしまいそうなので、へたな取材もできないという。まあ、どこからが「商用」なのか? という線引きも難しい問題ですが。写真集の販売だとさすがに非商用と言い張ることはできないでしょうけど、報道目的なら公共性が高いと判断されそう?

AIで音声合成するオーディオブック、HOYAグループとGADGETから〈Forbes JAPAN(2023年7月26日)〉

 オーディオブックの制作でもいよいよ、本格的に音声合成技術が用いられることに。「人気声優の池澤春菜、外崎友亮のスタジオ収録音声をベース」にしているそうですが、この2人にはどれだけ対価が還元されるのか? が気になりました。声優やナレーターの仕事を奪っていくかどうかは、どの程度「高品質で自然な韻律を実現」できているのか次第ではあると思うのですが。

 ちなみに以前、オーディブルでは規約で「人間がナレーションを務めなければならない」と定められているにも関わらず、合成音声のオーディオブックが配信されていることが判明して問題になったことがあります(正確にはオーディブルのACX:Audiobook Creation Exchange / 日本では未提供)。

 改めてACXの提出要件を確認してみたところ、いまでも“Your submitted audiobook must be narrated by a human.”と記述されています。AudibleとACXの関係は、KindleストアとKDPの関係に近いものがあるため、有象無象から低品質なオーディオブックが大量に出品されるのを防ぐ目的があったのでしょう。

 今回のこのHOYAグループとGADGETの取り組みは「VICKE Audiobook&News」という独自サービスで展開されるようなので、いまのところACXの規約は影響ありません。ただ、もし今後、他ストアにも展開をしようと思ったら、もしかしたら問題になるかもしれません。

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雑記

 気象庁によると、関東甲信地方は7月22日ごろに梅雨が明けたそうです。以降、最高気温が35度以上になる猛暑日が続いており、毎日のように「命に関わる危険な暑さ」という警告を目にします。日中に外を歩くと、太陽光線に殺意を感じます。みなさまも熱中症には十分お気を付けください(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 822 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。