《この記事は約 13 分で読めます(1分で600字計算)》
2023年6月18日~24日は「若者のラノベ離れ?」「JPROから版元ドットコムへの書誌・書影データ停止でopenBDにも影響」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
米FTC、アマゾンを提訴–ユーザーを「欺いて」プライム会員に登録させていると主張〈CNET Japan(2023年6月22日)〉
いわゆる「ダークパターン」規制。プライム会員の新規登録への誘導方法と、解約プロセスの分かりづらさが問題視されています。実は私も数年前に、購入プロセスで「次へ」ボタンのつもりで押したら、意図せずプライム会員に申込んでしまった経験があります。ボタンの配置が急に変わるんですよね。正直、わりとえげつないと感じました。ただ、解約は比較的容易だったような……いまは違うのかしら。
社会
CA2040 – 学術雑誌のアクセシビリティ:現状と課題 / 植村八潮〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年6月20日)〉
植村八潮氏による現状と課題のまとめ。学術雑誌のアクセシビリティについての話が中心ですが、実はほぼすべての電子書店・電子図書館にも共通する課題です。「コンテンツ」「ウェブサイト」「ビューア」はそれぞれ生産・流通・利用の過程に該当します。利用者にとってはどれか一つだけの対応ではダメで、すべてがアクセシブルである必要があるのです。
ちなみにこれは、5月13日開催の日本出版学会 春季研究発表会ワークショップ「アクセシブルなEPUB出版物の制作における課題――日本出版学会学会誌を事例にして」でも詳しく発表・討議しています。脚注9に「2023年5月に討議する予定」とあるので、原稿の締切にギリギリ間に合わなかったのかな? 映像アーカイブや資料はYouTubeにて公開済みです。
CA2044 – 動向レビュー:「わざわざ系本屋」の系譜―多様化する本屋と、そこに注がれる眼差し / どむか〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年6月20日)〉
本屋さんウォッチャー・どむか氏による「わざわざ行きたい本屋さん」の動向レビュー。脚注なんと99カ所という物量に圧倒されます。文中で複数回名前が挙げられている内沼晋太郎氏による「大きな出版業界」と「小さな出版界隈」という枠組みで言えば、「界隈」側の話です。
ちなみに本欄のコーナー名には、以前は「業界」という言葉を(あまり深く考えずに)入れていました。しかし、このような枠組みを提示されてみると、私が追いかけたいのは「業界」だけではないことに気づきました。ニュースの配信って、情報が手に入りやすい「業界」側についつい偏りがちなんですよね。
そこで、コロナ禍突入直後の体制変更でニュースの配信を止めるのとほぼ同時に、本欄のコーナー名からも「業界」という言葉を外しました。まあ、もともと「インディーズ作家よ、集え!」なんて呼びかけから活動を始めたわけですから、我々自身はおもいっきり「界隈」側なのですよね。「業界」側も決して無視はできないし、敵対したいわけでもないのですけど。
夏休みの宿題、生成AIに作らせるのは「不正」 文科省の指針案判明〈朝日新聞デジタル(2023年6月22日)〉
先週ピックアップしたのは東京都教育委員会からの通知でしたが(#575)、文科省からも同じようなガイドラインが出るようです。「一律に禁止・義務づけを行う性質のものではない」とのことですが、やはり反発の声を多く目にします。ただ、「生成AIに作らせたものを本人の成果物として提出することは不正行為」というのは、わりと妥当性があると思うのですよね。
でも、最近の小中高生には「調べ学習」があるから、「次のChatGPTの回答の間違いを指摘せよ」みたいな課題も出せると思うんですよ。ChatGPTで調べるのではなく、ChatGPTの出力が正しいかどうかを調べる、という。生成AIに限らないですけど、鵜呑みにしない訓練は早めにやっておいたほうがよさそう。
ちなみに私は、大学の演習授業で今年は「生成AIに書かせてもいいけど必ずその旨を明記すること」と指導しています(レポートではなく原稿)。ところが前半の「生成AIに書かせてもいい」しか耳に届いてないのか、まず間違いなくChatGPTに出力させたままであろう原稿がしれっと提出されたりします。誤字脱字ゼロできれいな日本語なのに、事実関係がめちゃくちゃという実にわかりやすいハルシネーション。とほほ。
文化庁、「AIと著作権」の講演映像をYouTubeで公開 全64ページの講演資料も無料配布中〈ITmedia NEWS(2023年6月22日)〉
私は別件と予定がかぶってしまい聴講を諦めたセミナーですが、ありがたいことに映像アーカイブと資料も公開されました。当初はライブ配信のみの予定でしたが、要望が多かったそうです。こういうの、その場限りはもったいないですよね。善哉。ひとまず資料だけ目を通しましたが、とくに「第2部 AIと著作権」では著作権法改正に至るまでの経緯や、文化審議会でどのような検討が行われたかなどがきっちり明記してある点が印象的でした。
版元ドットコム会員社以外の一部書誌・書影情報の更新遅延について〈版元ドットコム(2023年6月20日)〉
JPO出版情報登録センター(JPRO)から版元ドットコムへの書誌・書影データの配信が、6月5日から「停止され」再開に向け「協議を継続」しているそうです。個別記事ではなく、トップページにお知らせが出ています。
問題は、この影響範囲が版元ドットコムだけに留まらない点。これまで、JPROから版元ドットコムへ配信されていた書誌・書影データは、だれでも自由に使える高速なAPIとして提供されている「openBD」でも提供されていました。つまり「openBD」も、6月5日以降はJPROからのデータが停止された状態になっています。こちらもお知らせはトップページに出ています(というかこのサイトにはトップページしかない)。
現時点で「openBD」のAPIを使っているサービスの正確な件数は把握できませんが、2022年7月に開催されたユーザーフォーラムでは多くの活用事例が紹介されていました。お知らせに挙げられているだけでも、全国の公共・専門・大学図書館のOPACや予約検索システム、角川武蔵野ミュージアム、ブクログ、ブックバン。
他にも、とうこう・あいの書店向け書籍受発注システム「BookCellar」、文化通信社のデジタルチラシサービス「「BookLink」、「ALL REVIEWS」「近刊検索デルタ」などの事例が紹介されていました。版元ドットコムとカーリルはもちろん、これらすべてに影響が及んでいることになります。
現時点ではどういう理由で停止されたのか? が明らかになっていないため、事実を列記するに留めます。ただ、本の流通を促進するための情報の流通が滞っているのは確かです。結果、本の流通・販売にも影響が出るのは避けられないでしょう。早期解決を望みます。
なお、版元ドットコム理事会では「書影の配信条件の変更について再検討」を行っているとあります。現在は「書影や書誌は自由にお使いください」というスタンスですが、今後これが変わる可能性があります。
経済
少子化でも、作品の劣化でもない…「ラノベ市場」が10年で半分以下に衰退した“意外すぎる理由”〈文春オンライン(2023年6月19日)〉
飯田一史氏の新著『「若者の読書離れ」というウソ』からの抜粋。大人向けのいわゆる「ライト文芸」へ注力したことが、中高生をターゲットとしていた文庫ラノベ市場の衰退を加速させたのではないか? という推論です。ライト文芸って文庫ラノベに比べたら単価が高いから、中高生には手が出しづらいというのはあるでしょう。
ただ、「文庫ラノベ市場は2012年の284億円をピークに、2021年には123億円と半減以下になった(出版科学研究所調べ)」というのは、文庫すなわち紙だけの話なのですよね。「若者の読書離れ」はウソであるという論が中心なので、クレジットカードを持てない中高生が買いづらい電子書籍市場は無視してもいいかもしれませんが。
でも、中高生に限らず「ラノベ市場」全体を考えるならば、電子書籍(文字もの)446億円(2022年)のうちライトノベルはどれくらいの規模なんだろう? という疑問は浮かびます。仮に4分の1でも、紙の文庫ラノベ市場とほぼ同等です。残念ながらそういう市場統計って、ないんですよね。コード体系がしっかりしている紙の市場のほうが、ジャンル別の細かな分析がしやすいという。
もっと言えば、コミック市場も紙だけで言えば、同じ期間に5230億円から2645億円とほぼ半減しています。電子コミック市場が急成長したから、紙との合計で過去最高を更新という状態になっているわけで。さすがにラノベ市場が同じ状況になっているとまでは思いませんが、もうそこそこの市場規模になってると思うんですよね。
Amazonで「超マイナー」な洋書注文→翌日に届き購入者驚き 「画期的体験」実現の裏側〈J-CAST ニュース(2023年6月20日)〉
プリント・オン・デマンド(POD)の存在自体がまだまだ知られていないんだな……と実感させられたニュース。書店は、出版社からPOD用のデータを預かっていて、注文を受けてから印刷・製本・発送する仕組みです。最終的な出力は紙ですが「電子書籍」とほとんど同じようなビジネスモデルなんですよね。ちなみに今回は「アマゾンで洋書」という点が話題の中心ですが、他の書店(三省堂、honto、楽天など)でもやっていますし、洋書だけでもありません。
紀伊国屋書店・CCC・日販が新会社設立へ、AIなど活用し出版流通改革〈日経クロステック(2023年6月23日)〉
講談社・集英社・小学館と丸紅による新会社PubteXは出版社側からの流通改革ですが、こちらは書店側からの流通改革。どちらも「AI活用」をうたっているのがバズワード的というかなんというか。「売れてる本をもっと売る」ための仕組みが、さらに発達していくことになるのでしょう。それによって「業界」側の商売は潤うので、決して悪いこととは思いません。そのいっぽうで、出版の多様性は「界隈」側が担うことになる気がします。
集英社はなぜ『MORE』を季刊化したのか?〈セブツー(2023年6月23日)〉
季刊化=休刊の前段階、ではなく、デジタル化が進んでいる媒体だからこその「戦略的季刊化」ではないか? という論考です。つまり撤退戦をどう戦うか。いきなり紙をやめると、ウェブだけの発信では認知されずに苦しくなるから、刊行頻度を下げてでもあえて紙を残す選択、ということになるでしょう。
ちょうど10年前に書いた「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」を思い出しました。当時すでに「ウェブ媒体だけのライバル社」が「なかなかユーザーへ認知されない」課題を抱えていたため、私の古巣は「誌面発行をやめるデメリットのほうが大きいと判断」していたのですよね。
10年経って、刊行頻度は下がりましたが、いまだに紙の発行はやめていません。古巣は撤退戦をうまく戦っていった印象があります。デジタル化の波をいち早くかぶった情報誌が当時辿った道を、コミックや一般誌が追い、いずれは一般書籍も歩んでいくことになるのでしょう。
技術
画像生成AI「Midjourney」で時間が溶けまくる! 最近の俺は“生成物の校正”に夢中!!!〈ケータイ Watch(2023年6月21日)〉
スタパ齋藤氏の連載。「Midjourney」に限りませんが、生成AIの出力画像って「文字」が変なんですよね。私は「本と猫」をテーマにここ数カ月間出力し続けていますが、本の表紙にまともな文字が出力されたためしはありません。地域を指定せず出力するとエセアルファベットになりますし、プロンプトに「Japanese」を含めるとエセ日本語になります。文字を文字としてではなく、ただの模様としてパターン認識しているからでしょう。
文字以外でも、サムネイルの時点ではいい感じに見えるけど、細部をよくよく見るとやっぱりなんか変という場合が多いです。猫だと目とか鼻とか、毛の生え方とか、手足の先とか、尻尾の付け根とか。観察眼が試されます。まあ、一瞬だけ観賞される運命にあるアイキャッチ画像には、そこまで厳密なものを求める必要などないかもしれませんが。
お知らせ
HON.jp「Readers」について
HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届く HONꓸjp メールマガジンのほか、HONꓸjp News Blog の記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。
日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。
雑記
総会、無事に終了しました。議事録とか、東京都への書類提出とか、Annual Reportの公開など、細かな作業はまだちょくちょく残っていますが、大きな山は越えたので少しホッとしています。ふう(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。