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2024年2月18日~24日は「ヤフコメの偽情報対策」「カクヨムでサブスク開始へ」「Amazon、配送無料を3500円以上に値上げ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
[2月27日追記:初出時、タイトルが「Amazon、配送無料を3000円以上に値上げ」になっていましたが、正しくは「Amazon、配送無料を3500円以上に値上げ」です。お詫びして訂正します。]
【目次】
政治
偽情報対策 事業者「悩みながらやっている」 総務省でヒアリング〈朝日新聞デジタル(2024年2月22日)〉
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会(第9回)」でLINEヤフーとドワンゴへ取組状況についてのヒアリングが行われており、それを受けての報道です。私がチェックした範囲のマスコミ報道はいずれもドワンゴはほぼスルーで、LINEヤフーが「偽・誤情報1800件以上を削除」したことを取り上げています。
ところが公開されている資料を確認してみると、「偽・誤情報」を理由とする投稿削除は実はごく少数なのですね。2022年度の実績で、Yahoo!ニュースのコメント欄(ヤフコメ)で削除対象とされた投稿のうち「偽・誤情報」を理由とするのは0.06%に過ぎないそうです。「偽・誤情報」での削除は、大半が「コロナワクチン」関係のデマで、能登半島地震関連では大半が「人工地震」関係だったそうです。
じゃあ、残りの99.94%は何? と思い、LINEヤフーの「透明性レポート」を参照してみました。こういう資料が誰でもアクセス可能な形で公開されていることは高く評価したい。まず、2022年度におけるヤフコメ投稿数は1億1950万件で、そのうち削除数は285万件、削除割合は2.39%と、そもそもわりと抑制的な対応であることがわかります。
また、削除コメントのうちAI自動判定が74.2%で、残りの25.8%は「人の目」によるチェックで削除されているそうです。さらに、自動判定のうち「不適切(過度な批判や誹謗中傷、差別、わいせつや暴力的など)」と判定されたのが約3分の2で、残りはニュースの内容とコメントに関連性が薄いと判定されたものとのこと。なるほど。
こうなると、レポートが公開されていない2019年以前はどうだったのか? がとても気になります。これは、対策が強化されるようになってからのデータですよね。個人的に、以前のヤフコメは「地獄絵図」という印象が強かったのですよ。なるべく見ないように避けてましたから。
でも最近は、公式コメンテーター制度が導入されたり、デフォルトの[おすすめ順]では多様な意見や考え・感想が優先表示されたりと、昔に比べたら浄化が進んでいる印象があります。削除割合が数%程度でも、けっこう変わるものなんですね。
まあ、緩い対策のままだと、こんどは「政府による規制」って話になりかねません。そういう意味では、LINEヤフーはうまいことバランスをとって立ち回っている感があります。影響力も大きいでしょうからね。
ちなみに総務省資料の「今後のヒアリングスケジュール等」には、はてな、サイバーエージェント、Microsoft、Google、X、Meta、TikTokの名前がありました。これはあくまで私の印象ですが、いま「地獄絵図」なのはX(旧Twitter)かな……正直、近寄りがたい。
社会
生成AIに向き合う創作者、問われる「芸術とは何か」〈日本経済新聞(2024年2月18日)〉
多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京芸術大学などの、生成AIとの向き合い方について。「生成AIの登場で精神的に追い詰められている人」が「創作活動に生かす方法を教えてあげると、前向きになっていく」という大学生のコメントが、非常に印象的でした。もういまから「生成AIが登場する前」には戻れませんから、どう活かすか? を考えたほうが建設的だと思います。そういう意味で、良い記事だと感じました。
SFから自由な空想や表現、風刺精神を排除したらもはやSFとはいえない。「世界的権威の賞」の衝撃の内幕を暴いたレポート〈SlowNews | スローニュース(2024年2月22日)〉
2023年に中国成都で開催された「ワールドコン」大会で、ヒューゴー賞の審査委員に対し「中国、台湾、チベット、あるいは中国で問題になる可能性のあるその他のテーマに焦点を当てた作品」を候補から除くよう指示されていたことが暴露され問題になっています。レポート原文にざっと目を通してみましたが、ただ単に忖度したというより「コンテンツと検閲に関連する中国の法律」に抵触する可能性が危惧された結果の措置であるようです。
これ、第三者が批判するのは簡単ですが、自分が運営側の立場になったらと考えてみると、非常に難しい問題です。中国成都での開催が決まってしまった以上、現地の法律には従わざるを得ません。決して検閲が良いとは思いませんが、「悪法もまた法なり」「郷に入っては郷に従う」なのですよね。運営スタッフや作家が逮捕されちゃうとか、開催そのものが潰されちゃうような事態に比べたらマシ――という判断を、私には簡単に責められないです。
逆に、現地では問題ないのにアメリカでは許されない表現もあったりするわけですよ。たとえば、マンガなど日本人作家の表現は、GoogleやAppleなどのプラットフォームで頻繁に規制されます。クレジットカード会社が決済を止めるぞと脅してくるケースもあると聞きます。日本向けのストアなのに、日本の法律や価値基準ではなく、アメリカの法律や価値基準で表現の是非を判断しやがるわけです。私には、こっちのほうが許せないなあ。
経済
X(旧Twitter)からのトラフィックは「大半がボットによる偽の数字」であるとの調査データ、Instagramの1%未満に対してXは30%超から期間によっては70%超まで跳ね上がる〈GIGAZINE(2024年2月17日)〉
これはひどい。Mashableの元記事も読んでみましたが、偽物のトラフィックという判定は「(訪問者が)リンクをクリックしたあと、クライアントのページとどのように交流するかを追跡(interact with a client’s page after they click one of their links)」しているそうです。そのうえで、他と比べてX(旧Twitter)からの訪問者だけおかしな状態になっているとのこと。まあ、X(旧Twitter)への広告出稿は、今後はなるべく避けたほうが賢明でしょう。
KADOKAWA、ラノベのサブスク展開へ 「カクヨムネクスト」を3月から提供 「本屋に並ぶ前に読める」〈ITmedia NEWS(2024年2月20日)〉
「カクヨム」では以前から広告収益の分配が行われていますが、それに加えて「販売」モデル(サブスク)での収益分配も行っていく形になります。KADOKAWAの方からFacebookグループ(公開の場)で教えていただきましたが、これは「いわゆる“ライトノベル雑誌”の復権」をテーマにしているそうです。
つまり、作家へ定期的に原稿料を支払っていたかつての「連載媒体」を、ウェブで復活させる試みということになるでしょう。いまでもまだ生き残っている紙のライトノベル雑誌は、隔月刊になった「ドラゴンマガジン」くらいでしょうか。残念ながら「ザ・スニーカー」「電撃文庫MAGAZINE」「GA文庫マガジン」「キャラの!(旧Novel JAPAN)」「Cobalt」など、多くのライトノベル雑誌がすでに休刊しています。
書き下ろしでいきなり書籍発売に比べたら、連載媒体から原稿料が出るぶん作家にも優しいし、締切による執筆の動機づけもできます。うまくいけば作品認知の媒体としても機能させられそうだし、新人発掘の促進もできそう。これは期待。成否の鍵を握るのはもちろん、定期的に購読料を払ってくれる読者の数です。
【決算・人事】講談社85期 国内版権売上40%増に グローバル戦略の費用増で減益〈The Bunka News デジタル(2024年2月20日)〉
国内版権売上の伸びが凄まじいですが、額では139億円です。元がそれほど大きくなかったぶん、伸びしろがあったということになるでしょうか。他方、793億円と紙より額が大きくなったデジタル関連(電子書籍・コミックやアプリなど)は、伸びが鈍化しているのが若干気がかりです。
Amazonが配送無料の基準を値上げへ、2000円→3500円以上の注文で〈ケータイ Watch(2024年2月23日)〉
紙の本を購入することを考えると、合計3500円以上の注文は結構ハードルが高い。多くの場合、2冊以上が必須となるでしょう。アマゾンでの購買行動が大きく変わりそう。というか、プライム会員は送料無料のままなので、プライム会員への誘導策と捉えるべきでしょうか。[2月27日追記:「本」については通常配送無料であるとのご指摘をいただきました。そのためこの一文は全面削除いたします。申し訳ありません。]
ちなみに、もうすぐ紙の通販を辞める「honto」は税込3000円以上で送料無料でした。紙の本はなるべく「honto」で買っていた私は、3000円未満の本を1冊だけ買うのをなるべく避け、いったん「ほしい本に追加(お気に入り)」しておき、他の本を買おうと思ったタイミングでまとめて買うような購買行動になっていました。
ただ、単行本+文庫or新書1冊程度だとギリギリ3000円に届かない場合が多いんですよ。単行本+文庫or新書を2冊、もしくは、単行本2冊、みたいな買い方になってました。そのため「ほしい本に追加」したまま、気づいたら「在庫なし」になってしまったことも多いです。
つまり私の場合、「いますぐは読まないけどキープはしておくか」くらいの動機だと、送料負担があることは購入への強いブレーキだったのです。もちろん強い動機がある場合は、送料や本体価格もあまり気にせず買っていますが。そういえば、外出時にフラッと書店へ立ち寄るみたいな行動も、最近はめっきり少なくなってしまったなあ……。
技術
AIの可能性と限界 妄信は人類の自律性脅かす〈日本経済新聞(2024年2月20日)〉
東京大学名誉教授で工学博士・情報学者の西垣通氏による、生成AIの可能性と限界についての論考です。技術の全面否定ではありませんが、いろいろ考えさせられます。「いったん原理に立ち返り、生成AIの本質を見つめ直すこと」が必要で、その本質とは「生成AIは他律的存在である」というところがポイントでしょう。
生成AIは生物のような自律的存在ではないので、自らの行動を自ら決定できません。「意味」抜きにデータ処理が行われるだけなので、むしろ「権力をもつ一握りのエリートがプログラムの中身を操作し、自分たちに都合の良い発言を生成AIにさせるよう仕向けることは可能だ」といった警句です。
オンラインショップ「HON.jp Books」にコンテンツ流通基盤ソリューション「DC3」を採用して電子書籍の直接販売を開始〈NPO法人HON.jpのプレスリリース(2024年2月21日)〉
手前味噌ですが。2023年の予想記事で「直販に力を入れます」と宣言してから1年強、デジタルコンテンツの直販システムもようやく整いました。あとは売る商品です。このタイミングで、年鑑「出版ニュースまとめ&コラム」の2023年版まで出版できていればよかったのですが……まだ2019年版までしか辿り着けていないのですよね。とほほ。今年中になんとかしたいです。
2月末まで既刊のセールをやっていますので、これを期にぜひいちど「HON.jp Books」を覗いてみてください。
クリスタに画像生成AIを搭載する予定ない──提供元セルシスが発表 「データセットがクリーンなものしか使わない」〈ITmedia NEWS(2024年2月22日)〉
これまでAIやWeb3の領域で技術協力を行ってきたアクセルとセルシスが資本業務提携を締結したことを受け、イラスト作成ソフト「CLIP STUDIO PAINT」にまた生成AIを搭載するのでは……? との懸念が寄せられていたそうです。プレスリリースにも生成AIについては触れられておらず、もとよりその予定はなかったとは思いますが、あらためて否定する声明が出ています。
生成AIを搭載して即撤回したのは2022年11月のこと。つまり、1年3カ月経ってもまだユーザーの反発感情は収まっていないことになるでしょう。そのためか、声明には「今後のAI機能開発において、学習するデータセットには、クリーンなものしか使用いたしません」と、さらに踏み込んだ意思表明が成されています。
それはそれで立派なことですが、X(旧Twitter)で発表された声明への反響を見るに、どうも賛否両論ある印象です。少なくとも、すでにそういう路線で自社開発の生成AIを発表してアプリにもがっつり組み込んでいるAdobeに比べると、だいぶ遅れをとってしまった感があります。
お知らせ
HON.jp Booksで記念セール実施中!
直営ショップ「HON.jp Books」にコンテンツ流通基盤ソリューション「DC3」を採用しました。記念セールで2月29日まで「出版ニュースまとめ&コラム」電子版を希望小売価格の約半額(税込777円)でご提供いたします。いまがチャンス!
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記
20度超えの陽気から一気に、また日中でも一桁台の気温に。これはなかなか体に堪える寒暖差です。みなさまも風邪など引かぬようくれぐれもお気を付けください(鷹野)
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