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2021年4月18日~24日は「緊急事態宣言三度発令」「中国著作権法改正解説」「講談社文庫フィルム包装に賛否」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
海賊版根絶への道 ―― 中国著作権法第3次改正のポイント(前編)〈HON.jp News Blog(2021年4月21日)〉
IPで世界に打って出る中国 ―― 中国著作権法第3次改正のポイント(後編)〈HON.jp News Blog(2021年4月22日)〉
おなじみ、北京大学・馬場公彦さんのレポート。中国の改正著作権法で、懲罰的損害賠償制度などが導入されています。今後は、日本より厳しく取り締まられるかもしれませんね。
「古書店」は対象で「書店」は対象外?…休業要請「線引きわかりにくい」〈読売新聞オンライン(2021年4月24日)〉
ついに3度目の緊急事態宣言。1000平米超の大規模商業施設への休業要請などが行われていますが、東京都が発表した資料では対象施設の内訳に「本屋」が入っているいっぽう(↓)、
質問と回答のページには「(前略)本屋は、社会生活を維持する上で必要な施設にあたることから、休業要請、休業の協力依頼の対象とならない」とあり(↓)、どっち? と若干の混乱が見られます。大きめの新刊書店でも、休業するしないの判断はわかれているようです。
新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令第11条を確認すると、使用制限の要請対象となる施設は、建築物の床面積の合計が「1000平方メートルを超えるものに限る」という前提があります(↓)。つまり基本は、大規模商業施設が対象なのです。
その上で、その中に「七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗」があり、でも「食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く」と、ちょっと複雑な(しかしこういう法律にはありがちな)構造になっています。「厚生労働大臣が定めるもの」について調べてみたんですが、私の調査能力では「1000平方メートル超」以外はわかりませんでした。
またさらに、1000平方メートルを超えない施設でも「厚生労働大臣が定めて公示」すれば要請対象にできるとあるのですが、これも調べてみても、公示されてるのかされてないのかすらわかりませんでした。そのいっぽうで、休業要請の対象になっていない図書館(入場整理の実施の協力を依頼、のみ)でも、一部で休館の発表がある(↓例:練馬区立図書館)など、なんとも足並みが揃わない感じに。
とくに民間事業者に関しては、要請対象か否かは、補償の有無にも関わるので、死活問題なのですよね。線を引く側の立場で考えるといろいろ難しいところはあるとは思いつつ、もう3度目なんだからしっかりしてよ、とも言いたい。
社会
ちばてつや氏が海賊版撲滅に協力呼びかけ「マンガが滅びてしまう」 – 芸能〈日刊スポーツ(2021年4月17日)〉
マンガの売り上げが2020年、過去最高になったことはもっと取り上げるべきニュースだ(篠田博之)〈Yahoo!ニュース個人(2021年4月17日)〉
あえてセットでピックアップ。ちばてつやさんの訴えは「今、若い漫画家達が、とても素晴らしい才能があるのに『海賊版』のせいで仕事にならないと、描くのをあきらめて転業する作家が増えています」がポイントでしょう。まだ認知度が低く競争の激しい新人の作品が、海賊版で消費されちゃうと打撃が大きい、ということだと思います。というツイートをしたら、4桁RTのバズになってしまいました。
これ、「海賊版を見るな」というメッセージを出すことは、必要とは思うのですが、出し方には細心の注意を払う必要があると思うのです。というのは「創」篠田氏が言うように、マンガの売上が過去最高を記録しているわけで。出版社の利益が数百億円といったニュースもあります。そのいっぽうで「海賊版でマンガが滅びる! 」という訴えがあることに、強い違和感を覚えている方が少なからず観測されるのです。
私のツイートは記事本文から要点を抜粋しただけなんですが、それがバズったのは本文を読まない人が多いのと同時に、「え? 儲かってるんだよね?」という疑問が一部でも解消できたからだと思うのです。これだけバズっても、変な反応はごく少数だった、ということも申し添えておきましょう。
子どもにとっても電子書籍が身近に――進研ゼミ「電子図書館まなびライブラリー」の登録者数が100万人突破〈EdTechZine(2021年4月21日)〉
ベネッセ「電子図書館まなびライブラリー」の登録者数が約106万人に。月次利用者数(MAU?)は約64万人、年間貸出数は延べ3500万冊と、見事な実績。素晴らしい。
電子出版制作・流通協議会(電流協)、「電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2021年04月01日)」を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年4月22日)〉
205自治体201館、前回2021年1月1日との比較ではそれぞれ+62と、大幅増です。年度で見ると111自治体が新規導入なので、1年間で倍以上に増えてる計算になります。正月に「さらに1年後の2021年10月1日時点で、200自治体を超えるくらいの成長を見せて欲しいものです」と書いたんですが(↓)、予想より半年早い200超え達成となりました。すげぇ。
電流協は増加要因として、コロナ禍で非来館・非接触型の図書館サービスとして注目されたことと、2020年度に行われた政府の緊急補正措置「新型コロナウイルス感染症対応 地方創生臨時交付金」が活用されたことを挙げています。予算補助に背中を押された感じでしょうか。もっと、もっと広がれ!
E2374 – 米国で電子書籍の法定納本が開始される〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年4月22日)〉
電子書籍の納本制度、アメリカでさえようやく、なのですね。必要とされるメタデータとしてISBNが挙げられていますが、ISBNが付いていない可能性が高いアマゾンKDPだけで出版されてるケースはどうなるんだろ? 割合は非常に高いと思うのですが。
「北九州市子ども電子図書館」4月23日開設 子ども向け電子書籍が約2000冊〈北九州ノコト(2021年4月22日)〉
公共図書館の電子図書館サービスは急増中ですが、子供向けに絞った形というのは珍しい。幅広いジャンルでラインアップを豊富に揃えるのが予算的に厳しいような場合に、子供向けに絞るというのは、確かに手だなと思いました。
私は非常勤ですが千代田区在勤なので、千代田Web図書館が利用できることについ先日気づき、さっそく利用登録してみました。ラインアップを確認してみたんですが、「朝日新聞デジタルselect」「週刊エコノミストebooks」「青空文庫」がやたらと目立ちます。悪いとまでは言いませんが、ここまで比率が高いと、もうちょっとなんとかならんのか? という印象を受けます。そういう意味で「ジャンルを絞る」というのは、アリだなと。子供向けという絞り方なら、それほど批判されることもないでしょうし。
経済
LINEマンガ運営のLINE Digital Frontier、第3期決算を官報に掲載 当期純損失29億円〈オタク産業通信(2021年4月16日)〉
and factory、2月中間期は営業損失2億円と赤字幅拡大 IoT事業は復調も損失拡大、マンガアプリも海賊版サイトの影響〈Social Game Info(2021年4月18日)〉
おや? という業績ニュースが2連発。LINE Digital Frontierは官報掲載なので詳細は不明。and factoryは「マンガUP!」「マンガPark」「マンガMee」などで、既存ユーザーの離脱と課金収入の減少が起きているそうです。それが本当に「海賊版サイトの影響」であるなら、他社でも大変な状況になっていると思うのですが。電子書店系の業績ニュースをしばらく注視しておきたいところです。
あなたの作品をミタイ!小学館のマンガ持ち込みサイト開設、全編集者に届く〈コミックナタリー(2021年4月19日)〉
第三者には公開されない投稿サイト。講談社、集英社との大きなスタンスの違いを感じます。「作品を読んだ編集者が担当希望を申し出た際に、それを受けるか否かは投稿者に委ねられる」とのことで、その辺りだけは講談社「DAYS NEO」に寄せた感が。もっとも、編集者がどういう人かわからないままだと、「編集者ガチャ」と呼ばれる非対称的な関係は解消できないわけですが。
広告は必要か?ニュースが教えてくれた答え〈AdverTimes(2021年4月19日)〉
プラットフォーム側が「良質な広告プロダクト」を追い求める姿勢は非常に重要。でも、比較的マシな大手プラットフォームでさえ、限りなく違法に近いグレーゾーン表記の酷い広告が出てしまう場合もあるのが現実です。
不特定多数がコンテンツを投稿できるサイトとは異なり、広告主は必ず金を払う「特定多数」なのですから、プラットフォーム側で事前審査してダメな広告主やクリエイティブはきっちりシャットアウトして欲しい。でも最近進んでる議論は「広告主を守る」方向ばかりなのですよね。まずユーザーを守れよ、と強く思います。
講談社、文庫本をフィルム包装 もう立ち読みできない?〈朝日新聞デジタル(2021年4月19日)〉
講談社文庫本、フィルム包装に賛否 「立ち読み通じた出会いの機会減る」「きれいなまま購入できうれしい」〈朝日新聞デジタル(2021年4月20日)〉
講談社の文庫が、出荷時点からシュリンク包装され、その上からバーコードのシールが貼られる形に。中身の確認は、flier×日販がやってる要約サービスなどである程度は代替できると思いますが、その場でパッと確認できないのは辛いところ。総額表示の義務化対応で、本体やカバーに印刷しないような方向にシフトした、というのは理解できるのですけど。
この出荷時点からのシュリンク包装、コミックスには少し前から導入済みで、その結果も見た上での判断とは思います。最近の講談社のコミックスは、ブックデザイナーが忌み嫌っていたバーコードが、表4側のカバーから消えたデザインになっているのですよね。リブライズなど、バーコードを管理に使っているサービスは困るかもしれませんが。
集英社とはてなが手がける、マンガ家のための作品投稿・販売プラットフォーム誕生(コメントあり)〈コミックナタリー(2021年4月21日)〉
集英社が新たな投稿サイトを開始。「ジャンプルーキー!とは違う商業色のないスタンダードな投稿ツールを利用したい」というニーズや、ポートフォリオ(作品集)の作成ニーズまでカバーするようです。全部持っていく気か。運営が全件チェックして、ポジティブなコメントのみが届く「やわらかコメント」という機能も面白い。
Apple Podcastが進化。5月からサブスクリプションサービス開始〈AV Watch(2021年4月21日)〉
iPad ProやiMacなどの新型ハードウェアが発表されるのと同時に、Podcastの有料配信が可能になるという発表も。音声コンテンツ有料配信系プラットフォームに、めちゃくちゃ強力な企業が参入です。月額は配信者が設定できるとのこと。いろいろ勢力図が変わりそう。
早めに設定の確認を…Google AdSense導入済みサイトで全画面広告が頻出する事例相次ぐ【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2021年4月22日)〉
ページを開いたときではなく、ページから遷移するとき強制挿入される全画面広告。ページ分割を多用するメディアとの相性が最悪(という印象)で、恐らく2ページ目以降の離脱率が急激に高まっているのではないかと思われます。Googleから事前告知が届いた時点で嫌な予感しかしなかったのですが、そのまま放置しているメディアも多く。最近になってやっと劣悪な状況に気付き、慌てて設定解除している方も散見されます。これはGoogleが邪悪過ぎる。
「海外での電子出版流通のA to Z」を公表〈AEBS 電子出版制作・流通協議会(2021年4月22日)〉
海外デジタルコミック流通研究会による手引書です。なので、あくまでマンガを中心とした話ではあります。どういう類型があって、それぞれどういうメリットやデメリットがあるかを解説しています。
「本の要約サービス」利用者が急増、時短読書は出版不況を救うか | News&Analysis〈ダイヤモンド・オンライン(2021年4月22日)〉
コメントしました。要約サービスを批判する人もいるようですが、立ち読みだけで済ます人はリアル書店の店頭にも大勢いるよね、という当たり前の話をしています。電子図書館サービスの可能性にも触れておいたのですが、そっちも採用されて良かった。インタビューは3月上旬だったんですが、掲載されるまで意外と時間がかかった感。タイミング見計らってたのかな?
「鬼滅」「呪術」のヒットも追い風に 書店の倒産が急減、2020年度は過去最少を更新〈TDBのプレスリリース(2021年4月24日)〉
帝国データバンクの調査。2020年度の倒産書店は12件と、過去最少だったそうです。ただ、ロケーションによって状況は異なるようで、「恩恵を受けたのは駐車場を備えた郊外型のロードサイド店舗や地域密着型書店など中小書店に限られる」「オフィス街や鉄道ターミナル駅、緊急事態宣言の度重なる発出で休業や時短要請対象となった百貨店や大型ショッピングセンターなど、複合商業施設を商圏の中心とした書店では集客が伸び悩む」という記述も。今回の緊急事態宣言でも、大型商業施設が対象になっちゃってますもんね。
技術
最新デジタル技術で“現物の展示がない”展覧会を大日本印刷とフランス国立図書館が開催〈New’s vision(2021年4月19日)〉
大日本印刷とフランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France)のプロジェクトですが、書籍ではなく、美術品や天井画などの3Dデジタル化です。DNP五反田ビル1階にて展覧会が開催中。なお、本稿執筆時点では、緊急事態宣言発出を受けてどうする、というお知らせはとくに出ていません。
大日本印刷は以前から、フランス国立図書館所蔵の地球儀や天球儀を3Dデジタル化するプロジェクトにも関わっていたようです。こちらのページにDNPのロゴマークが(↓)。
HON.jp News Casting
4月19日のゲストは和泉佳奈子さん(株式会社百間代表・角川武蔵野ミュージアム館長補佐)でした。番組前半の部のアーカイブはこちら。
次回のゲストは美柑和俊さん(グラフィックデザイナー)で、前半は「立川PLAY!や世田谷文学館のような、本をテーマにしたミュージアムや図書館・書店」について、後半は「スマホ時代にデザイナーが本へ込める想いや意図は?」をテーマにお届けします。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
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