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中国で6月から施行される改正著作権法は、懲罰的損害賠償制度のほか、権利が制限される範囲の拡大も図られています。馬場公彦さんのレポート後編です。前編はこちら。
【目次】
マルチメディア時代に合わせ著作権の範囲を拡大
では主な改正のポイントに即して、具体的に今回の改正された条文を検討してみよう。
既述した第3条の「作品」として列挙されたもののうち、第6項が旧法の「映画作品と類似の映画を撮影制作する方法で創作された作品」から「ビデオ・オーディオ作品(「視聴作品」)」に変わっており、法律全体に渉って関連の字句は一律に改められている。
「抖音」「快手」「西瓜视频」などのプラットフォームには、数秒のビデオやダンスやライブ動画が飛び交い、スポーツ中継、ゲーム、漫画アニメ、音楽BGMなど、旧条文では覆いつくせないような、新たな技術と新たな表現手段で創作された作品がネットを埋め尽くしている。それらの知的成果を、すべて「作品」とみなし、著作権を認め保護する対象としたのである[4]。
また、第15条でオリジナル作品を集めたり、切り取ったり、別の素材と切り張りしたりして改編して別の作品を制作したさいの著作権は改編した人が保有するとしているうえで、さらに第16条を加えた。即ち「すでにある作品を改編・翻訳・注釈・整理・編集して生まれた作品を使って出版・演出・録音録画制作したさいは、その作品の著作権人とオリジナル作品の著作権人の許可を得て、報酬を支払わなければならない」としており、オリジナル作品の著作権保護を確認したうえで、著作権のある二次的著作物の実態をより明確にした。
さらに新たに設けた第45条で、「録音した製品をオンライン・オフラインで公開に流し、声を伝送する技術設備を通して公衆に向けて伝送した場合は、録音制作者に報酬を支払わなければならない」と、オーディオ製品や放送における著作権を規定した。
著作権侵害の厳罰化
著作権がらみのニュースでよく見かけるのは、著作権者への無許可出版、映画作品での他作品の無断利用、文学作品やアニメの盗作などである。今回の改正において著作権侵害の罰則規定の強化がなされたことは、中国メディアで大きな話題になっている。
具体的には第53条において、著作権侵害によって違法に得た所得について、「違法経営額が5万元(1元≒15.6円)以上の場合は、違法経営額の2倍以上5倍以下の罰金、違法経営額がないか、算出しがたいあるいは5万元以下の場合は、25万元以下の罰金」と、旧法になかった罰金が明記された。
続く第54条において、著作権侵害の賠償額について、旧法では「実際の損失が計算しにくい場合は、権利侵害人の違法所得に照らして賠償」「違法所得額が算定できない場合は……人民法院が情状に照らして判決は50万元以下の賠償とする」としていたのに対して、「違法所得額が算定しにくい場合は、その権利を利用した場合の額を参照して賠償する。故意に著作権を侵犯した情状が重い場合は、上述の方法で確定した額の2倍以上5倍以下を賠償する。」「違法所得額が算定できない場合は……人民法院が情状に照らして判決は500元以上500万元以下の賠償とする」とした。さらに人民法院が賠償額を確定するにあたっては、権利侵害人に関連資料の提出など挙証責任を課すとともに、複製品の破棄や関連設備の廃棄を命じるとしている。
これにより、権利人の知財権保護は強い法的後ろ盾を得たこととなり、権利保護意識はいっそう高まるであろうし、司法機関への圧力は減ることだろう。また国家版権局・公安部・工信部など国家関連機関による著作権侵犯や海賊版に対する取り締まりの効力は高まるだろう[5]。
著作権の利用の幅を広げ独占化を防ぐ
今回の改正では著作権の保有を認定する作品の幅を広げる一方で、作者作品名を明記すれば著作権者には無許可無報酬で著作物を合理的に利用できる範囲を広げている。第24条では、合理的利用の具体的ケースとして、学習・研究・鑑賞などの目的や、紹介・評論のための引用や、障碍者への作品提供など13(旧法は12)の例を挙げたうえで、旧法では「著作権人の本法に照らして保有するその他の権利を侵犯してはならない」としていたのを、「作品の正常な利用に影響を及ぼしてはいけないし、不合理に著作権人の合法的利益を損害してはならない」と、利用条件を緩和している。
さらに新たに設けた第50条にて、作品の閲覧・鑑賞・演出・録画録音や、ネットを通しての公衆送信を認めるケースとして、教育や科学研究、非営利目的での障碍者への提供、国家機関の行政・監察・司法手続きなどの公務、コンピュータやネットの安全性のテスト、暗号やコンピュータソフトの技術開発などを挙げている。
著作権者が著作物を独占し、合理的利用(いわゆるフェアユース)に高額の報酬や厳しい条件を課すことを防いでいるのである。これにより、著作権者の独創による知的成果は引用しやすくなり、広く利活用できる道が開かれる。著作権の保護と公正な利用という双方のバランスを取ろうとしているのである。
版権主管部門の権限を強化
第3次改正では第55条に次の条文が新たに設けられた。「著作権を主管する部門は著作権および著作権にかかわる権利の侵犯行為への嫌疑を捜査するさいに以下のことができる。当事者への尋問、違法行為の容疑にかかわる状況の調査、当事者の違法行為容疑の場所や物品への現場検証、違法行為容疑の関連契約書・伝票・帳簿及びその他の関連資料の査読・複製、違法行為容疑の場所や物品の立入禁止・差押え。著作権を主管する部門は法に則り上に規定した職権を行使する際は、当事者は進んで協力し拒絶や邪魔をしてはいけない。」
ここでいう「主管著作権的部門」とは、第8条に規定されている「法によって設立された著作権集中管理組織」で非営利法人である。著作権者と著作権関連の権利者は著作権をそこに授権し、集中管理組織は著作権にかかわる訴訟・仲裁・調停などを行う。さらに著作物利用者から利用料を徴収する。
具体的に実在する集中管理組織とは、①中国文字著作権協会、②中国音楽著作権協会、③中国音像著作権集中管理協会などである。2020年は①の著作権利用料収入が2244万元で、そのうち雑誌の転載料・教科書の法定許可料が542万元、改編権・演劇演出権・ネット伝播権の集中許可利用料が1692万元、著作権代理・管理その他が10万元で、前年比で313万元増で16%成長だった。②の著作権収入総額が4.08億元で、音楽著作権者の各種の著作権利用料の収入総額が26憶元、③のカラオケ著作権収入総額が2.12憶元で、その他の項目の収入が1659万元で、財務収入は2億4519万元だった[6]。
IP産業の発展を促す
国家版権局の監督指導の下で著作権主管部門を立ち上げ、著作権とその権益の保護を集中的に管理する法的措置の背景には、国家を挙げて、IP産業の育成と発展を目指すという国策が色濃く反映している。中国新聞出版研究院の『2019年中国版権産業経済貢献』に示された調査報告によると、2019年の中国IP産業の産業規模は前年比7.32憶元増で10.34%の伸びを示し、GDPの7.39%を占めるに至ったという[7]。
1980年代は、中国では海賊版がいわば合法状態で野放しであった。1990年代に著作権法が施行されベルヌ条約に加盟したものの海賊版は後を絶たず、法の網をくぐり、また違法と知りつつも罰則が緩いために横行していた。著作権法施行から30年の歳月を重ねて而立の歳を迎えたいま、ようやく著作権の観念と法的裏付けが世界標準装備となり、海賊版根絶への道が開かれたのだ。
著作権侵害厳罰化の選択は、自国の著者・出版業者のみならず海外の著者・出版社にとっても著作物輸出のために有利な施策となる。と同時に、自国の著作物を保護育成し、安心して海外に輸出するための方策でもある。著作権第3次改正は、これまでの著作物の輸入から輸出へと舵を切り、ナノテクノロジー、AI技術、ゲノム編集、宇宙開発など、最先端の科学技術の特許をはじめとする国産のオリジナル作品を増産し世界に打って出るIP戦略への質的転換の里程標となるだろう。
脚注
[4]「著作権法修法執点聚焦:三十而立再出発」『光明日報』2020年5月9日
[5]張洪波「2021:我国版権保護事業将継続乗風破浪」『中国新聞出版電報』2021年1月7日1-2頁
[6]張3頁
[7]張3頁