「文科省、図書館に異例の御協力要請」「インボイス制度本名バレ問題に進展」「Kindle返金ポリシー変更」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #539(2022年9月18日~24日)

集英社

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 2022年9月18日~24日は「文科省、図書館に異例の御協力要請」「インボイス制度本名バレ問題に進展」「Kindle返金ポリシー変更」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)〈文化庁(2022年9月20日)〉

 傍聴しました。審議事項は「研究目的に係る権利制限規定の検討について」「立法・行政のデジタル化に対応した内部資料の公衆送信等について」「損害賠償額の算定方法の見直しについて」「簡素で一元的な権利処理と対価還元の制度化について」で、今回は権利者団体からのヒアリングでした。資料は事前にしっかり提出されており、主張は読めばわかる感じになっています。

 論点は多岐にわたっていますが、印象としては「簡素で一元的な~」への懸念が多かったように思います。まだ制度の詳細は決まっていないのですが、窓口組織を各権利者団体に置くようなイメージになっています。ところが、著作権の使用料相当額は少額であることが多いため、運営にかかる持続的なコストを民間が負担するのは厳しい、といった意見。ごもっとも。

 とはいえ、現状、権利者団体の組織率が非常に低い(たとえばシナリオ作協で15.3%という数字が挙がっていた)ため、仮に権利者データベースの仕組みを用意しても中身があまりない状態になりかねない、という根本的な問題があります。そのため委員のほうからは「組織率を高めるにはどうしたらいいと思うか?」といった問いかけがなされていました。

 今回のヒアリングにはJASRACなど音楽系の団体が来てなかったので、まずは組織率の低い団体の声を聞いた段階なのでしょう。JASRACなどへのヒアリングは次回かな?

文科省、図書館に異例の要請 拉致関連本の充実依頼〈共同通信(2022年9月20日)〉

 図書館の自由に関する宣言「権力の介入または社会的圧力に左右されることなく」に関わる問題です。信濃毎日新聞社説によると、文科省は「事務連絡に法的な拘束力はなく、選書は各図書館がそれぞれの基準で判断すること」「図書館の自由に関する宣言を逸脱する趣旨ではない」としているそうです。命令ではなく、あくまで「御協力」の「お願い」だ、と。

 調べてみたら、この連絡は8月30日付で発出されていて、9月8日には全日本教職員組合から撤回を求める要請書が出ていたことがわかりました。カレントアウェアネス・ポータルで記事が出ていたのに、見落としていた……不覚。つまり、1カ月弱が経過してようやく共同通信が報じる(そして地方紙が報じる)に至った、ということなのでしょう。

 最近、コロナ禍での営業自粛要請など、さまざまなところで「御協力」の「お願い」が乱発されています。こういう「お願い」を無視すると往々にして、別の方角から変な圧力がかかったりするわけですよね。政府が「キミ、わかってるよね?」と忖度を求めてくるという。いやだいやだ。わたしこういうの大嫌い。

 ちょっと不思議なのは、当事者である図書館からの反対声明がいまのところ見つからないこと。なぜだろう?

ネット時代の受信料検討へ NHK事業拡大の是非を議論〈共同通信(2022年9月21日)〉

 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の「公共放送ワーキンググループ」での検討が始まりました。検討項目は「インターネット時代における公共放送が担うべき役割」から、インターネット活用業務の在り方や、民間放送との協力の在り方、財源と受信料制度にまで及んでいます。

 個人的には、映像配信の動向にあまり興味はないのですが、テキストで配信される「NHKニュース」にどう影響するかが気になるところ。要は、過去記事をすぐ消してしまうのをやめて欲しいのです。デッドリンクになってしまうので。ただ、配付資料を見る限り、検討の中心は放送&映像配信関連のようです。テキストは「等」扱い。

 恥ずかしながらよく知らなかったのですが、NHKは放送法の規定によりいまは「放送」だけが必須業務という位置づけなのですね。インターネット配信は任意業務で、実施には総務大臣の認可が必要。そして、認可要件には「過大な費用を要するものでないこと」などの縛りがある、と。そのため年間予算は200億円程度と、年7000億円近い受信料収入からするとわずかな額になっています。

 なぜいまだにそんな状態なのか? NHKとしてはもちろんインターネット事業を強化したいのだけど、視聴者を奪い合うライバルである民間放送の団体・日本民間放送連盟(民放連)が強く反対し続けているようです。民放連の報道発表には、NHKに関する意見書がたくさん並んでいます。要するに「民業圧迫だ!」というわけです。

 放送局には新聞社が資本参加している「クロスオーナーシップ」の構図があり、民放に不利な動きに対しては新聞も反対しますし、新聞に不利な動きに対しては民放も反対します。そうやって世論を醸成しようとするのです。今後、民放はもちろん、新聞もNHKの勢力拡大を阻止せんと反対論陣が張られることになるのでしょう。やれやれ。

サイトに本名ずらり、国税庁が見直しへ インボイス、身バレ懸念受け〈朝日新聞デジタル(2022年9月22日)〉

 さまざまな団体などから懸念の声があがっていたのにまったく動く気配のなかった国税庁が、急に「見直す方針を決めた」という報道。有料部分含めこの記事内では触れられていませんが、山田太郎議員と赤松健議員の申し入れにより事態が動きました。

 #537で「いまから止められるとしたら政治の力だけ」と書きましたが、まさにそういう事例と言えるでしょう。ただ、これも以前書いたように、この「本名バレ」はインボイス制度問題の本質ではありません。仕入税額控除に制限がかかること、そのためこれまで免税だった消費税のババ抜きが起きること、また、そのための事務処理コストも大きくなること、結果、中小事業者の収益圧迫に繫がることこそが問題なのです。

 だから、本質ではない部分にあまり政治的リソースを使って欲しくなかった、というのが私の見解です。ただ、「本名バレ」の問題提起は「無理筋だし時間の無駄」とも言いましたが、課税事業者として登録をしていない免税事業者が悪用する可能性があることは、私も見落としていました。検索して同姓同名の課税事業者がいたら、勝手にその番号を使って請求書を出してしまう可能性は、ゼロではなさそう。

 ただ、登録番号の偽装は「1年以内の懲役又は50万円以下の罰金」という規定もしっかり設けられています。そんなリスクを犯してまで、あっというまにバレる同姓同名の登録番号を使うか? というと……うーん、罰則規定を知らずにやってしまうアホはいるかも? 気をつけましょうね。

社会

※デジタル出版論の連載はお休みしました。

米国の学校で「禁書」急増 年1600冊、LGBTQなど規制〈日本経済新聞(2022年9月20日)〉

 アメリカでは毎年9月の最終週を「禁書週間(Banned Books Week)」とし、読書の自由を祝うイベントが開催されています。1982年から行われているそうです。それに合わせて、禁書に関するさまざまな情報発信が行われ、こうしていくつもの記事になっています。

米国で2022年の禁書週間が始まる(9/18-24):テーマは“Books Unite Us. Censorship Divides Us”〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年9月21日)〉

米・EveryLibrary Institute、禁書に対する有権者の認識に関する報告書を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年9月22日)〉

米国図書館協会(ALA)、2022年の禁書に関する暫定データを公開:2022年の禁書の申し立て件数は2021年を上回る見通し〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年9月22日)〉

 日本でも、図書館での閲覧制限を求められたり、書店で「売るな」と圧力がかかったりする事例を見聞きします。どうも最近は、アメリカで禁書が増えている動向を見て、そのやり口を日本に輸入しようとする動きがあるようです。対抗する動きも必要でしょう。事件が起きたときだけ関心を持つのではなく、アメリカと同じように毎年恒例行事で「みんなで考えよう」と呼びかけてもいいのでは。10月末から11月頭の「読書週間」は読書を推進する行事ですが、それとは別に。

経済

「もう後戻りはしない」──『家庭の医学』の出版事業を畳んで“第二創業のDX”を敢行した保健同人社の覚悟:創業75年の挑戦〈ITmedia ビジネスオンライン(2022年9月21日)〉

 祖業の出版事業を止め、そのアセットとリソースをデジタルに再分配する事例です。私は2013年にマガジン航へ寄稿した「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」で、私の古巣も恐らく近い将来「紙媒体の発行をやめる」(つまりデジタルに全振りする)判断をせざるを得ない時がくるだろう、と書きました。保健同人社は私の古巣ではありませんが、同じような事例であることは間違いありません。

新聞・通信社の総合ニュースサービス 「無料」から「有料」が主流に デジタルメディア現況調査〈文化通信デジタル(2022年9月21日)〉※有料会員限定

 最近、新聞系ウェブメディアでペイウォールを採用するところが増えているなーと感じていたのですが、日本新聞協会のメディア開発委員会によると、新聞社・通信社の総合ニュースサービスで「ベイウォール型」の数が「無料ニュースサイト」の数を初めて上回ったそうです。文化通信デジタルのこの記事も有料会員限定ですね。なお、主なデータは日本新聞協会のウェブサイトで公開されています。

新聞・通信各社のデジタルサービス提供状況|調査データ〈日本新聞協会〉

 しかしもちろん、ただ単にペイウォールを設置しただけで有料会員が増えるほど甘い話ではないでしょう。一定の文字数で機械的にバッサリ切ってるメディアも多く、もったいないなあと感じています。無料で読める範囲を調整してみたり、お試しで読める本数に制限をかけたり、バラ売りしてみたり、などなど、そのメディアに合ったやり方を模索していく必要があるでしょう。たぶん、そういうマーケティング専門の担当者が要ると思うのですよね。

原材料高騰と円安加速 印刷会社から懸念の声〈NHK 首都圏のニュース(2022年9月22日)〉

 印刷用紙、配送に使う段ボール、インク、アルミ版など、あらゆる原材料の価格が高騰しているとのこと。インタビューを受けている印刷会社は、同人誌印刷の「ねこのしっぽ」の社長です。

 #538では業界メディア「印刷ジャーナル」の記事をピックアップしましたが、NHKでも取り上げられたことにより、この問題が一般に広く知られるようになったことでしょう。

 当然、書籍価格への転嫁も避けられません。いや、書籍や雑誌に限った話ではありません。あらゆる物品の高騰が避けがたい状況でしょう。いろいろヤバイ……。

急激な円安が影響 絵本や児童書の専門店でも値上げ相次ぐ〈NHK 首都圏のニュース(2022年9月22日)〉

UK and US Authors’ Trade Groups Hail Amazon’s Change on Ebook Returns〈Publishing Perspectives(2022年9月22日)〉

 日本のユーザーにはあまり知られていなかったようですが、アマゾンは物品だけでなく「Kindle」にもけっこうゆるい返品ポリシーを適用しています。購入から7日以内なら、なんと全文読んだあとでもほぼ自動的に全額返金が適用されてきました。返品された場合は、著者への収益分配もゼロです。KDP界隈では、締めと返品のタイミングにより、支払い額がマイナスになっているケースもあったと聞きます。

 そして最近、そういうライフハックが「TikTok」のユーザーなどにより広められ、被害が広がっていたようです。そこでイギリスの The Society of Authors とアメリカの The Authors Guild がアマゾンに対しポリシー変更の申し入れを行い、10%以上読んだユーザーのセルフサービス返品オプションを無効とする変更を年末までに行うとの回答があったとのことです。

 この変更そのものは歓迎すべきこととして、ちょっと不思議に思ったのが、声を上げているのが著者(および著者の団体)ばかりである点。本件を取り上げている記事をいくつか確認しましたが、パブリッシャーの動きに触れているものが見当たりません。従来の返品ポリシーならパブリッシャーにも同様の被害はあったはずですし、むしろパブリッシャーが声を上げるべきことではないのか? という気がするのですが。

技術

漫画のシーンに合わせて“刺激”発生 炎の攻撃で熱、大きな「ゴゴゴ」には振動 NHK技研が開発:Innovative Tech〈ITmedia NEWS(2022年9月21日)〉

 デジタル出版論の連載で、いまデジタル出力できる情報は「まだ視覚と聴覚が中心」と書きましたが、触覚の事例が1つ増えました。ゲームや映画にはすでに触覚の先行事例があるわけですが、リアルタイムで強制進行する中での演出だから受け入れやすいという側面はありそうです。そういう意味で、ページめくりマンガより、縦スクロールマンガのほうがこういう演出は向いているかも?

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雑記

 先週末も台風でしたが、今週末も台風でした。連休が連続で悪天候というタイミングの悪さ。被災された地域の方々に心からお見舞い申し上げます。日曜日は台風一過でひさびさの好天に散歩が捗りましたが、原稿が捗らない……(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0

※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

 

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著者について

About 鷹野凌 788 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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