「簡素で一元的な権利処理方策、来年度にも法改正へ」「図書館資料の公衆送信対応閣議決定」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #552(2022年12月18日~24日)

東京堂書店
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 2022年12月18日~24日は「簡素で一元的な権利処理方策、来年度にも法改正へ」「図書館資料の公衆送信対応閣議決定」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

メタバース時代の著作利用簡便に 個人の意思表示支援を〈日本経済新聞(2022年12月23日)〉

 タイトルの「メタバース時代」がいささかミスリードを誘っている感もありますが、文化審議会で議論が続けられてきた「簡素で一元的な権利処理方策」についての記事です。孤児著作物の裁定制度を、意思表示のない著作物にまで拡大するようなイメージの新制度。来年度に法改正が行われ、再来年から運用が始まることになりそうです。

 この記事の後半でも指摘されているとおり、団体が集中管理している作品や、クレジットや奥付などに無断利用を禁じる旨の記載があれば、「意思表示」とみなされます。つまり影響が大きいのはどちらかというと、そういう習慣のなかったUGC、個人の作品ということになりそうです。

 たとえば、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのように「使ってもいいよ」という事前意思表示もあり得るわけです。これは、CGMを運営するプラットフォーム側が、簡単に意思表示できるような仕組みを提供してくべきだと思います。それこそ「Flickr」とか「ニコ動」みたいに。

最新号除き図書館メール送信0K 蔵書の電子データ〈共同通信(2022年12月23日)〉

 昨年改正された著作権法のうち、まだ施行されていない図書館資料複写サービスの公衆送信対応(第31条第2項)について。送信対象のうち「雑誌」など定期刊行物については、「最新号は除く」と政令に明記されることが閣議決定されたというニュースです。施行は来年6月1日に確定。

 私はどちらかというと「個人送信」のほうを重要視していたため、正直、こちらについてはあまり熱心に追っていませんでした。11月に図書館等公衆送信補償金に関する指定管理団体として「一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)」が指定されたことには気づいてましたが。ちなみにSARLIBは、まだ公式サイトが存在しないようです。

 改めて調べてみたところ、日本図書館協会の公式サイトで「図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会」の資料が公開されているのを見つけました。すでに説明会も何回か行われていたのですね。気づいてなかった。補償金の額はまだ決まっていないようです。今後、授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)と同じように、SARLIBが文化庁長官に補償金額の認可を求める流れになるのでしょう。

 説明会資料にも目を通してみたのですが、特定図書館等の要件(第31条第2項第2号)として求められているハードルがかなり高いように感じました。来年早々には「特定図書館等の届出」というスケジュールになっていますが、これでは対応できる図書館は少なそう。「図書館送信」の対応館がなかなか広がらなかったのを思い出しますが、こちらの場合、特定図書館等が増えて利用が促進されない限り、分配される補償金の額が増えない問題に直結します。大丈夫かなあ。

 とくに、送信する電子ファイルに対して講じる措置として「全ページヘッダー部分に利用者ID(貸出カードの番号等)を挿入」「全ページフッター部分にデータ作成館名、データ作成日を挿入」というのがキツイ。実務の難易度を飛躍的に上げているように感じました。

 現実的には、必要な情報を記載した透明なフィルムをスキャナーに載せたうえで資料をスキャンする、みたいなアナログ対応になるでしょうか。利用者IDだけ消せるインクで書けば、使い回しはできそうです。ただ、判型に合わせた微妙な位置合わせが必要になるので、めちゃくちゃ手間がかかりそう。利用者IDさえ入力すれば自動でデータを挿入してくれるようなシステムが欲しくなりそう。

社会

※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。

JPO、来年からNDLに電子書籍などの情報提供へ〈新文化(2022年12月19日)〉

 JPROに入力した「電子書籍」の書誌情報が、来年から国立国会図書館にも提供されるようになります。これは事前に説明されていたとおりの流れで、「NDLサーチ」で検索したときに販売サイトのURLを示すこともできるはずなので、多少は販売促進にも繫がりそうという期待があります。この情報提供によってそのまま「個人送信」の対象除外要件となるかどうかは協議中とのこと。せっかく入力した情報ですから、活用しない手はないですね。そこは期待。

 問題はもう一つの、電子納本制度への対応です。機関リポジトリに登録されていれば納本義務対象から除外される法の抜け道を利用するため、5月に「電書連・機関リポジトリ」が稼働という発表がありました(#523)。ところが、新文化の記事では「電子文庫パブリ」への登録が除外要件になっています。え? それ「機関リポジトリ」ってタテマエがどこかにすっ飛んでませんか? 大丈夫?

 ちなみに、公開されたばかりの納本制度審議会の議事録を読む限り、11月25日時点ではこの機関リポジトリを納本義務対象から除外できる対象とするかどうかはまだ「調整中」。ただ、「今年中の覚書の締結を目指し」調整中であり、「1月1日からリポジトリとして運用されるという想定」とのこと。まあ、ほぼ決まったということなのでしょう。

文字の世界はいつだって、どこかフォーマル ―― 言葉を届ける前にしておきたい12のケア〈第1回〉〈HON.jp News Blog(2022年12月20日)〉

 校正者・大西寿男さんの連載が始まりました。月2回くらいのペースで全12回の予定です。今回はふだん「本」をあまり読まない方にも届いて欲しいという思いから、なるべく「校正」という言葉を使わない試みをされています。伴走、頑張ります。なお、大西さんは1月13日放送のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」に出演されます。すごい! 連載開始が情報解禁に間に合って良かったです。

国立国会図書館、「国立国会図書館デジタルコレクション」をリニューアル〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年12月21日)〉

 かねてから予告されていた通り、リニューアルされました。主な内容としては、全文検索可能なデジタル化資料の大幅増加、閲覧画面の改善、保護期間満了資料を対象とした画像検索機能の追加、シングルサインオン対応となっています。学生に課題で「個人送信」サービスのレビューをしてもらったら「ログインしづらい」という不満が多かったので、そこが修正されたのは喜ばしい。

 個人的に影響が大きい変化だと思うのは、検索画面のモバイル対応です。個人送信が始まる前に「図書館の本、スマホで閲覧可能に」と騒がれていた際にも指摘したんですが、閲覧画面は当時からモバイル対応済みでしたが、検索画面は非対応だったんですよね。スマホの小さな画面で、デスクトップ向けの検索画面を利用するのは辛い。ここが改善されたことは、利用者増に大きく貢献すると思われます。

個人向けデジタル化資料送信サービスに印刷機能が加わります(令和5年1月18日開始予定)〈国立国会図書館―National Diet Library(2022年12月21日)〉

 もう一つ、これも予告されていた通りですが、1月18日から個人送信に印刷機能が追加されます。現在は、ストリーム配信の閲覧のみ。学生のレビューでも「スキャン画像が読みづらい」とか「マーカーや書き込みができない」といった声が少なからずありました。印刷できるようになると、このあたりも改善することでしょう。実に良い。

 しかし、国立国会図書館の案内で使われている画像を見て、思わず吹き出してしまいました。巻頭あたりでしょうか。見開きで真っ白。まあ、著作権侵害にならないように配慮したら、こういうページを選ばざるを得ない、ということなのでしょうけど。印刷する意味ないじゃん! って思ってしまいました。

日本電子出版協会(JEPA)、2022年「JEPA電子出版アワード」の結果を発表:大賞は「アクセシブルライブラリー」〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年12月22日)〉

 今年も選考委員を仰せつかりました。と言っても候補を選ぶだけで、賞は一般投票&会員社の投票で決まります。今年のデジタル・インフラ賞は「LibrariE」(日本電子図書館サービス)、スーパー・コンテンツ賞は「MottoSokka!」(ポプラ社)、エクセレント・サービス賞および大賞は「アクセシブルライブラリー」(メディアドゥ)、チャレンジ・マインド賞は「ジブリ作品の場面写真無償公開」(スタジオジブリ)、エキサイティング・ツール賞は「World Maker」(集英社)です。おめでとうございます。

 また、EPUB 3普及10周年を記念し先駆けとなった「楽天Kobo」と、Internet Watchやインターネット白書などインターネット普及への貢献とデジタル出版の可能性を追求し続けた井芹昌信さん(インプレス)に選考委員特別賞が贈られています。おめでとうございます。

イーロン・マスク買収後のツイッターはどう変化したのか/田中辰雄〈SYNODOS(2022年12月22日)〉

 計量経済学者の田中辰雄さんによる調査。1. のリツイート数調査は一足先に他の方がやっているのを見た(note)ので新鮮さはなかったのですが、2. 以降の「利用者の認識」がどう変化したのか? のアンケート調査結果が興味深い。特に後半の、正義/表現の自由という対立軸はちょっと意外な観点でした。言われてみれば確かにそうなのかもしれません。正義というより、規律とか規範?

 ちなみに、私のTwitterに関する認識は、「特に変化を感じていない」です。というのは、アルゴリズムにかき乱される「ホーム」表示が以前から嫌いで、ほとんど「最新ツイート」表示に固定しているから。自分が編集したタイムラインですから、以前と変わらず平和です。「ホーム」表示だと、イライラするようなノイズが頻繁に混入するんですよね。だから嫌。

 まあ、あくまで個々人の認識、印象、体感の話ですし、話題になるタイミングの問題もあるとは思いますが。なにかニュースになるような出来事があると、その話題でタイムラインが埋め尽くされたりしますけど、なにも起きてないと話題になりづらいですもんね。そういう意味で、「変化」を正確に体感するのは難しいのかもしれません。

経済

ヤフー、約6700万件の広告素材を非承認 上半期は「医療機関」の割合が上昇〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2022年12月20日)〉

 ヤフー「広告サービス品質に関する透明性レポート」は今回で6回目の公開となります。この膨大な件数を見るたびに思うのですが、よくもまあ、これだけの件数処理してますよね。そして言葉を選ばずに言えば、よくもまあ、これだけの件数の「ユーザーをうまいこと騙そうとする」行為が起きるものだと。昨対比、約20%増ですよ。

 まあ、最上級表示(No.1)あたりは、ダメだと知らずにやってる可能性もありますけどね。広告のクリエイティブって少しでも目を惹こうとするあまり、黒と判定されないギリギリのラインが狙われがちなんです。根拠レスで「最大」と表示するのはダメだけど、「最大級」なら許される、みたいな。そういう抜け道を探し出す小手先のテクニックが、却下されるごとにだんだん磨かれ、バッド・ノウハウも蓄積されていくのが広告業の世界だから嫌になる。

 ところで、AdverTimesのバナー広告ってソースを見る限り、Googleアドマネージャーを使ってますよね。前から不思議だったんですが、なぜ右上の×やAds by Googleのマークが出ないんだろう? 不思議。うちで入れてる自社広告でも、×は必ず表示されるのに。GPTタグでそんなことできたっけ?

出版業界事情 :本に触れる機会の地域差拡大に次善の策を 永江朗〈週刊エコノミスト Online(2022年12月23日)〉

 永江朗さんが著書『「本が売れない」というけれど』などで以前からおっしゃっているように、「書店が減っている最大の理由は紙の雑誌が売れなくなったこと」です。小売店ビジネスとして考えたとき、雑誌は定期的に一定の収入が見込める優良な商材だったわけですから。

 だから私は「dマガジン for Biz」が登場したとき、書店は「外商顧客を奪われる」と嘆いている場合ではなく、代理店契約を結んで自ら売るべきだと主張していたのです。月額利用料の20~30パーセントが貰える形なら、ゼロになるよりマシではないか、と。

 その後、リアル書店による「dマガジン」の販売促進をKADOKAWAが実証実験という報道もあったのですが、さらにその後どうなったかまでは情報が掴めていません。「dマガジン for biz」に請求代理店の制度があるのは確かなんですが。いまどうなっているんだろう?

 で、話を戻すと、書店が減ったことがイコール「本に触れる機会の地域差拡大」か? というと、そこには正直疑問があります。確かに「紙の新刊に直接触れる機会」という観点だけで言えば、地域差は拡大しているかもしれません。

 しかし、電子書店やアプリなら「発売日の地域格差」はありません。国立国会図書館へ通うことが難しい地域に在住していても、昔の資料であれば「個人送信」でいつでもアクセスできるようになりました。視点を変えると「本に触れる機会の地域差」はむしろ昔より狭まっているように思えるのです。

Googleは敵か味方か 米メディアに「現実主義」の兆し〈日本経済新聞(2022年12月23日)〉

 アメリカのメディアに、Googleを敵対視して対立するのではなく、頼れるパートナーとして協業していこうという動きが見られるそうです。オーストラリアの先例を見て、アメリカでも同様の法案が検討されていました。ところが、アメリカの地方メディアはすでに「生き残った3つの『メガチェーン』が800紙以上を保有」するような状態になっていて、法案の成立はそのメガチェーンの保護とリストラの加速を招くだけかも、という懸念が出ているようです。

 冷静に考えると、検索エンジンやSNSは記事をまるごと転載しているわけではありません。つまり、むしろメディアへの流入経路として貢献している存在です。それに対し、まるごと転載することが要求されるプラットフォーム(日本で言えばYahoo!ニュースやSmartnewsなど)は、転載元メディアへの流入にはほとんど繫がらない代わりに、対価が支払われます(少ないですが)。前者と後者は役割や機能がまったく異なるはずなのに、儲かっているからと、前者が敵視され対価まで要求されるような状況になっているんですよね。正直、違和感を覚えます。

 実際のところ、メディアから距離を取り始めたMeta(Facebook)とは異なり、Googleは「Google News Initiative」のようなメディア支援活動も行っています。現実的に考えたら、敵対するより協業したほうが良いはずなんですよね。

グーグル、「ChatGPT」を検索事業への脅威として警戒か〈CNET Japan(2022年12月23日)〉

 しれっと嘘をつくという評判(#549)のAIチャットボット「ChatGPT」ですが、Googleは脅威とみなして取り組みの方向転換を図るよう号令が下ったそうです。個人的には、ソースが提示されないと真偽が検証できないので、パッと答えだけ返されても困っちゃうんですけどね。世間一般的には、それくらい手軽に使えるほうが便利と思う人のほうが多いのかもしれませんが。

お知らせ

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2022年の出版関連ニュースをテクノロジーの観点で振り返る! フリージャーナリストの西田宗千佳さんをゲストに迎えた年末恒例「HON.jp News Casting」後半のアーカイブ視聴チケットは1月末まで販売します。

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雑記

 毎週月曜日に配信してきた週刊出版ニュースまとめ&コラムですが、年内はこれが最後です。2022年は正月、5月の大型連休、お盆を休刊にして、49回配信しました。次の月曜日は1月2日なので休刊となります。みなさまにとって、2022年はどんな年でしたでしょうか? 2023年がよい年になりますように(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

 

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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