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2022年5月22日~28日は「電子納本制度が有償またはDRM有を含めた本格稼働へ」「cakes、SlowNewsがサービス終了へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
スペイン国立図書館(BNE)、法定納本法の改正を報告〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年5月23日)〉
なかなか興味深い法改正。物理メディア以外に「印刷前のデジタルコピー」を納めることも求めています。これ日本だと、印刷用データは「中間生成物」であり、請負の目的物ではないことから、印刷会社に権利があるとみなされています(柴田是真事件の判例)。だからもし日本でスペインと同じ制度にしようと思ったら、ちょっとややこしいことになりそうです。納本義務を果たすためには、印刷会社から権利を買い戻す必要がある、なんて状況に陥るわけで。
韓国図書館協会など、著作権法改正に関する声明を発表:公共貸与権制度導入に反対〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年5月25日)〉
韓国で、公共貸与権制度導入に向けた動きが。それに対し、韓国図書館協会などが連名で「反対」の声明を出しています。Google翻訳で読んでみましたが「図書館の貸出が著作者と出版社に財産的な損失を与えているという主張は、なんの根拠もない漠然とした推測に過ぎない」「アンケート調査によると、図書館の貸出が多くなるほど図書の購入はむしろ増加することが明らかに」などと主張されており、日本と同じような対立構造が生じてしまっていることがわかります。
以前、日本で公共貸与権導入が議論された際、日本図書館協会は「図書館の貸出しに対する補償金」という考え方には賛同できない、という声明を出しています(カレントアウェアネスCA1579参照)。今回の韓国での事例もそうですが、「財産的な損失に対する補償」という考え方に基づいた制度設計をしてしまうと、反発を招くのは必至ということなのでしょう。難しいなあ。
国会図書館、民間の電子書籍の収集開始 有償・DRM付きも〈Impress Watch(2022年5月26日)〉
制度上「オンライン資料」と呼ばれている、いわゆる「電子書籍・電子雑誌」の納本について、有償またはDRM有のものも制度収集の対象となることがついに確定しました。施行日は2023年1月1日。ようやく電子納本制度が本格稼働します。対象を無償かつDRMなしに限った電子納本の開始が2013年7月。約9年越しの制度改正です。
国立国会図書館のプレスリリースにあるこの図下部に注目。「各種検索サービスで存在を可視化」し「各種販売サイト等の本文情報へナビゲート」する、とあります。つまり電子納本すると、国立国会図書館サーチなどから販売ストアへリンクを貼ってくれるというわけです。販促に繫がるというインセンティブにより、納本促進を図るのが狙いでしょう。ところが……続きは後述します。
なお、この制度収集の対象は、営利企業による商業出版物だけではありません。紙の同人誌が納本対象であるのと同様、セルフパブリッシングのデジタル本も納本対象です。国立国会図書館の方から、オンラインで納本できるようになる予定と伺っています。その場合、ファイルに埋め込まれていない書誌情報(メタデータ)の真偽はどうやって確認するんだろう? という疑問もありますが、どうなるか。
また、納本制度審議会の議事録を読むと、委員の「たびたび話をしている「小説家になろう」等のような投稿サイトで扱われる図書・逐次刊行物に該当するようなネットコンテンツの収集が抜け落ちたままなのではないか」といった発言など、次はウェブの情報が消えてしまう問題について議論されていることがわかります。
デジタル出版者連盟、電子書籍データ保存事業「電書連・機関リポジトリ」を稼働開始〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年5月27日)〉
前掲「電子納本開始」ニュース解説の続き。電子納本制度は2013年7月に「無償かつDRMなし」限定で始まります。そして、民間の電子書籍・電子雑誌ビジネスへの影響を調査するための実証実験が、2015年12月から始まります。受託したのは日本電子書籍出版社協会(電書協)。国立国会図書館内だけで閲覧できるというこの実証実験は、なんと50カ月間ものあいだ行われていました。
そしてその実証実験がもうすぐ終わるというタイミングで、電書協から「有償の電子書籍等について、電書協が収集・保管・利用提供を行うリポジトリを立ち上げる」という提案がなされます。「国立国会図書館法によるオンライン資料の記録に関する規程」には、公的機関や学術機関が運営するリポジトリを想定した納本免除の例外規程があります。これを抜け道とし、営利組織が構成する組織が運営するリポジトリにも当てはめようというのです。
確かに、規程第3条第3号には「オンライン資料が長期間にわたり継続して公衆に利用可能とすることを目的としているものであって、かつ、特段の事情なく消去されないと認められるものである場合」とだけ記されており、営利組織が構成する組織が運営するリポジトリは対象外などといった制限はありません。よくこんな抜け道を見つけたな、と。いや、そこまでして電子納本を免れたいのかと、正直、呆れました。
以来、この問題をずっと追い続けてきた(#412・#430・#464・#466)わけですが、ついに決着がついてしまったというのがこのニュース。リポジトリへの参加条件は電書連(電書協とデジコミ協の合併組織)の正会員加盟社であることですが、リポジトリのみを使用できる会員制度も今後新たに設ける予定とのこと。ただし時期は未定です。
なんというか……国立国会図書館が制度収集を行うのにあたって、わざわざ民間で同様の保存事業を別途行い納本免除を図るというこの抵抗に、どんな意味があったというのか。なんとも不合理。国立国会図書館を信用していないのか。それとも、国家事業に従いたくないという矜持なのか。だったら実証実験などやらず、最初からさっさと自前でやればよかったのに。
社会
電子出版物は有体物ではないため著作物再販適用除外制度の対象外 ―― デジタル出版論 第3章 第2節〈HON.jp News Blog(2022年5月25日)〉
連載15回目。紙と電子で、制度的に大きな違いがあるのがこの再販制度です。書協が20年前の主張を掲げ続けていて、実態と合わなくなっていることを指摘させてもらいました。感情的な反発が来ることも覚悟していたのですが、いまのところそういう反応はありません。とくにコミック市場では、電子書店が頻繁なセールで売上高を伸ばしているいっぽう、紙の単行本もここ数年は回復基調にあるわけで。従来の主張では矛盾が生じてしまうことを、放置したままでは先に進めないのではないでしょうか。
Knowledge Rights 21(KR21)、電子書籍と電子貸出に関する声明を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年5月26日)〉
欧州の図書館向け電子書籍貸出サービスにおいて「販売拒否、エンバーゴ、高価格、制限的なライセンス条件といった商業出版社による独占的な行動」があり、図書館本来の使命を果たすことが難しくなっている、という声明です。
これは、以前私が「電子図書館(電子書籍貸出サービス)がコロナ禍以降も普及拡大を続けるための課題は?」で指摘した、「出版社が図書館向けに卸してくれない」とか「図書館で導入する予算の確保が難しい」といった日本での課題が、そのまま欧州でも当てはまるということなのでしょう。
経済
Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第2回) 終わりは突然やってきた〈ITmedia NEWS(2022年5月23日)〉
西田宗千佳さんと小寺信良さんの共同運営メルマガからの短縮転載版。「なぜ終わったのか」の核心部分である第2回をピックアップします。黒字運営だったのに、親会社(米ヤフー)の意向で突然のお取り潰し。スタッフへの連絡も、発表当日の午前中だったという内幕が明かされています。この規模のメディアを売却せず畳むのは「常識的にはちょっと考えられない」という言葉が、やりきれない思いを象徴しているように感じました。
SlowNewsが定額課金サービス終了へ 事業方針を変更〈Media Innovation(2022年5月26日)〉
Vol.39 定額課金サービスの終了と事業方針変更のお知らせ – SlowNews Letter〈SlowNews (スローニュース)(2022年5月25日)〉
お知らせを見て思わず「ぎゃあああああ」と叫んでしまいました。当初目指した「調査報道を支えるエコシステム」を実現するには、現状のままでは道のりが遠いという判断。想定より会員が集まらなかった、ということなのでしょう。サービス開始から1年ちょっとで終了です。私は、最初から最後まで定期購読し続けたことになります。
ちなみに会社の設立は2019年2月で、サービス開始は2021年2月。事業モデルを模索している2年間に、実は私もヒアリングに協力しています。残念、無念。お疲れさまでした。1年前、成相裕幸さんにインタビュー&執筆いただいた記事はこちらです。
「cakes」閉鎖後に記事はどうなる? noteに聞いた〈ITmedia NEWS(2022年5月26日)〉
こちらは2012年6月に先行配信が始まりましたので、ちょうど10年目の節目を前に終了の判断を下したことになります。長いあいだお疲れさまでした。私は、サービス開始前からこれは面白そうだとブログで紹介し、ベータ版サイトを見せてもらって意見を伝え、そしてこちらも最初から最後まで定期購読し続けました。10年と長期だったこともあり、いろいろ感慨深いものがあります。
私はこの「cakes」を開始当時、編集者不在の「有料メルマガ」へのアンチテーゼと捉えていたのですが、近年は編集者が機能していない記事が続けざまに炎上、メディアの寿命を縮めてしまったことを残念に思います。2020年4月に社名変更してから事業の軸足が完全に「note」へ移っていましたから、赤字が出るような状態になったら止めるだろうな、とは思っていましたが。
前述の「Engadget日本版」「TechCrunch Japan」「SlowNews」の終了と合わせ、ウェブメディアを事業として継続していくことの難しさを思い知らされます。そしてここでもまた「消えるウェブ記事」問題が。ドメインやサーバーを維持するにもコストがかかりますから、更新終了後もアーカイブが閲覧できるのは運営者がそれなりに強い意思を持って「残し続ける」選択をした結果なのです。
cakesサービス終了のお知らせ|cakesからのお知らせ|cakes編集部〈cakes(ケイクス)(2022年5月25日)〉
ところで、この「サービス終了のお知らせ」への反応を見ていたら、「cakes」のことをCGM(Consumer Generated Media)だと勘違いしている人が少なからず観測されました。同社の運営する別サービス「note」は誰でも投稿できる一般ユーザー参加型のメディアですが、「cakes」は編集者がいるウェブマガジンの一種だったのですよね。
つまり「cakes」は、いわゆる「サブスク」が流行する前から定額読み放題サービスをやってた先駆者だったのです。しかも広告を掲載しないやり方で10年間貫き通していました。そういう意味で「cakes」の終了は、広告に依存しないサブスク型メディアの難しさを示す事例になってしまったとも言えます。つらい。
だから、CGMではない「cakes」に対しエクスポート機能の有無をどうのこうのと言うのは少し筋が違う話でしょう。そこは執筆者たちと編集部のあいだの問題であり、希望者にはデータを渡すという追記もあるので、外野がとやかく言う話でもないと思います。ただ、移行先として選択肢の筆頭に挙がるはずの「note」にエクスポート機能が無いのは事実です。移行先として不安が残るのも確か。
技術
「Kindle 2」「Kindle DX」などかつての名機、8月にもKindleストアへのアクセスが不可能に【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2022年5月25日)〉
ついに古い端末での販売が終了に。対象は2012年以前に発売された端末ばかりなので、10年以上現役で利用可能な対応をし続けていたことになります。これは他メーカーのデジタル情報端末と比べたらけっこう長い方では。それほど高いスペックを必要としない読書専用端末とはいえ、称賛に値するでしょう。お疲れさまでした。
Good e-Readerは終了の理由を「TLSのサポートが1.1までと古く、最近のウェブサイトへの対応が難しいためではないか」(Internet Watchによる翻訳)と推測していますが、私は「Send to Kindle」のEPUB対応開始(#520)のときコメントしたように、古いフォーマットであるMOBIへの対応を終了するための一手だと考えます。最後に残された「PCにUSBで接続して転送」という手段も、恐らく近いうちにできなくなることでしょう。
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雑記
まだ5月ですが、群馬県高崎市で今年全国初の猛暑日を記録したそうです。過ごしやすい季節があっという間に終わってしまいました。そして、ロシアがウクライナへ侵略してから3カ月が過ぎてしまいました……戦争反対!(鷹野)
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