電子出版物は有体物ではないため著作物再販適用除外制度の対象外 ―― デジタル出版論 第3章 第2節

デジタル出版論

デジタル出版論 第3章

《この記事は約 11 分で読めます》

紙と電子の販売/配信モデルの違い

 同じ内容の出版物でも、紙と電子とでは販売/配信モデルや適用される法制度などに、若干の違いがあります。少し深掘りしてみましょう。

著作物再販適用除外制度(再販制度)

 取次ルートの販売モデルでは、紙の本は小売店において「定価」で販売される場合がほとんどです。これは本来、一般的なメーカーと小売店の関係においては独占禁止法で「再販売価格維持行為」として禁止されている行為です[6]

 ただし、書籍、雑誌、新聞、音楽用CD、音楽テープ、レコード盤の6品目は例外的に、この独占禁止法の適用が除外されています[7]。これを、著作物再販適用除外制度、通称「再販制度」と言います[8]

 この適用除外に基づき、パブリッシャーと取次・小売店とのあいだで「再販売価格維持契約(再販契約)」が結ばれ、値引き販売が禁止されます[9]。なお、再販契約で定価販売が義務付けられるのは小売店と取次であり、パブリッシャー自身が値引き販売を行うことは禁止されていません[10]

 また、パブリッシャーが発行するすべての著作物について、再販契約を結ばなければならないわけでもありません。国が制定し遵守が義務付けられているという意味での「制度」ではないのです[11]

紙は再販、電子は非再販

『アーカイブ立国宣言』の表4には非再販と明記されている
「アーカイブ立国宣言」編集委員会『アーカイブ立国宣言』(ポット出版・2014年)の表4には非再販と明記されている
 再販契約は、「定価」と表記されている本のみが対象となります。実際のところ、取次ルートを流通するほとんどの本には「定価」が印刷されています。しかし、すべての本が「定価」ではなく、ごくまれに「希望小売価格」と表記されている本も存在します。この場合は「非再販」として扱われ、小売店が自由に販売価格を決められます。とはいえ、書籍や雑誌は定価でも小売店の利幅が薄いため、値引きする余地があまりないのが現状です[12]

 公正取引委員会は長年、この再販制度を「競争政策の観点からは廃止すべき」と考え続けています。しかし出版業界はこれに抵抗し続けています。以前、見直しが議論された際は、協議の結果、2001年に「廃止には国民的合意が形成されるに至っていない状況にあり、当面制度を存置することが相当」と結論づけ、それが現在も続いています[13]

ホールセールモデルとエージェンシーモデル

 なお、電子出版物は「有体物」ではなく情報として流通することから、適用除外の対象外(つまり定価販売を強制できない)とされています[14]。物理書店での値引き販売はあまり見かけませんが、電子書店では頻繁にセールが行われているのは、そういう違いがあるからです。

 ただし、電子出版物の販売価格すべてが、完全に電子書店の自由になっているわけではありません。出版社が電子版を電子書店に卸売りする「ホールセール(卸売)モデル」では、小売価格の決定権は電子書店にあります。しかし、電子書店が出版社から販売業務を請け負う「エージェンシー(委託販売)モデル」では、小売価格の決定権は出版社にあります[15]

 アマゾン「Kindleストア」ではこの違いが判別しやすく、ホールセールモデルの場合は「販売者:Amazon Services International, Inc.」と表記されていますが、エージェンシーモデルの場合は「販売者:株式会社 講談社」「販売者:株式会社集英社」「販売者:小学館」など出版社名が表記されています[16]。電子取次を経由する場合は、ホールセールモデルになっているようです。

再販制度の弾力運用

ある書店の店頭で筆者が見かけた、雑誌バックナンバーの値引き販売
ある新刊書店の店頭で筆者が見かけた、雑誌バックナンバーの値引き販売
 なお、公正取引委員会は再販制度を継続するうえで、弾力的な運用を出版業界に求めています。そこで、一定期間が過ぎたら定価拘束が外れ自由に小売価格を設定できる「時限再販」や、再販売価格維持契約を結んでいても特定の書目のみ新刊発売時から小売価格を拘束しない「部分再販」が活用されています。このため、「バーゲンブック」や「謝恩価格本フェア[17]」といった呼称で、ときどき紙の新刊の値引き販売が行われています。

 公正取引委員会が再販制度を「当面存置」と判断してから20年以上が経過し、インターネットの普及など社会環境も大きく変化しました。パブリッシャーと書店の直接取引も増えました。電子出版市場は拡大し、とくにマンガでは大きなシェアを占めるようになりました。

 また、ネット通販大手のアマゾンジャパンが、最大50%値引きとなるポイント還元企画を案内しているとの報道もあります[18]。文化通信社の星野渉さんが「(再販制度の)役割や運用方法を変える必要性があるのではないだろうか」と提案しているのも、こういった変化を背景としたものでしょう[19]

再販制度の読者にとってのメリットを見直す必要がある

 というのも、日本書籍出版協会の「再販制度」のページは、公正取引委員会が再販制度を「当面存置」と判断した直後の2001年4月から更新されていません[20]。Q&Aで述べられている再販制度の読者にとってのメリットも、現状にそぐわない部分があります。

 たとえば「出版物の価格は高いのでしょうか?」という問いに対し、「出版物は消費者物価指数で見ると他の商品と比べて値上がりが少なく、1975年を100として総合で1998年では185ですが、本は128です」という記述があります。これは、2001年の時点では正しかったでしょう。

 しかしこれは、21世紀に入ってからのデフレ傾向と、書籍や雑誌の値上がり傾向を加味していません[21]。2000年以降の消費者物価指数では、2020年を100として総合で2000年は97.3ですが、書籍は83.5、雑誌は70.6です。つまり、総合では2.7ポイントの価格上昇なのに、書籍は16.5ポイント、雑誌は29.4ポイントと、他の商品と比べ値上げ幅が大きいのです。

 また、「個々の出版物が他にとってかわることのできない内容」であるなら、「出版物の定価は、出版社間の激しい価格競争のため低めに決められています」というのは、論理矛盾しています。代替できない商品なのに、差別化困難なコモディティ商品の特性を持っていることになるからです。こういった主張も、見直していく必要があるでしょう。

返品条件付売買契約(委託販売)

 紙の書籍や雑誌の販売モデルでもうひとつ特徴的なのが、「委託販売」です。正確には「返品条件付売買契約」で、一定期間は運賃負担のみで返品(返本)が可能となる制度です。通常、書籍が105日間、月刊誌や隔週刊誌が60日間、週刊誌が45日間となっています。「買切」は返品不可。長期委託や常備委託といった例外もあります。

 紙の書籍や雑誌の販売でこのような制度が運用されているのは、多品種少量生産であるうえ、売り場の面積には限りがあるからです。要するに「在庫を返品しない限り新商品が出ても売り場に並べられない」事態が起きてしまうわけです。そのため、売れない書籍や雑誌はどんどん返品されます。返品率は4割前後にも及びます。

電子書店には事実上無限の棚がある

 ところが電子書店の場合、売り場に相当する「商品ページ」はいくらでも作成できます。つまり、返品する必要がありません。ここが、物理書店と電子書店のビジネスモデルの大きな違いです。サーバーの容量には限界がありますが、増設するのは比較的容易です。

 もちろんコストとのバランス次第ではありますが、物理書店の物理限界と比べたら、事実上「無限の棚がある」と言っていい状態です。パブリッシャー側から「販売を止めて欲しい」と申し出ない限り、新刊も既刊も区別なく、いつまでも売り続けられるのです。

次へ

前へ

脚注

[6] 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条⑨不公正な取引方法四
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/lawdk.html
[7] 公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」の「Q12 メーカーが,販売店の販売価格を指定し,守らない場合に取引を停止することは,独占禁止法に違反しますか。また,新聞や書籍などは定価販売されていますが,これは独占禁止法上問題にならないのですか。」より。
https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa.html#cmsQ12
[8] 独占禁止法第23条
[9] 一般社団法人日本書籍出版協会の契約書ヒナ型を参照。なお、パブリッシャーが認めた場合は、定期刊行物や継続出版物などの長期購読前金払いや大量一括購入、謝恩価格本などの割引が行える契約になっている。
https://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html
[10] たとえば、出版社のスタッフが期間限定イベントで手売りするようなケースは、値引き販売されている場合が多い。ただ、書店とのあいだで利益相反になってしまう恐れもあるため、あまり大規模な形では行わないのが通例だ。
[11] 出版流通改善協議会「再販契約の手引き【第7版】」より。
https://www.jbpa.or.jp/pdf/resale/tebiki7.pdf
[12] トーハンの「書店経営をお考えのお客様へ」という資料によると、掛率は出版社・定価ごとに異なるが、平均で雑誌は77%、書籍78%とされている。つまり書店マージンは定価販売時で22~23%程度となる。
https://www.tohan.jp/business/pdf/BOOKSTORE_OPEN.pdf
[13] 清田義昭「日本における再販制度問題の経過と結論」(2001年)
https://doi.org/10.24756/jshuppan.32.0_161
[14] 公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」の「Q13 電子書籍は,著作物再販適用除外制度の対象となりますか。」より。
https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa.html#cmsQ13
[15] 詳しくは公正取引委員会の共同研究報告書 平成25年度 CR 01-13「電子書籍市場の動向について」(2013年6月26日)を参照。
https://www.jftc.go.jp/cprc/reports/jointresearch/index_2.html
[16] 筆者の調べによると、講談社、小学館、集英社のほか、白泉社、光文社、文藝春秋、スクウェア・エニックス、岩波書店がエージェンシーモデル。
[17] 出版社共同企画「期間限定 謝恩価格本フェア」
https://www.bargainbook.jp/
楽天ブックス「謝恩価格本フェア」
https://books.rakuten.co.jp/event/book/bargain/shaon/
[18] 文化通信デジタル「アマゾン 紙書籍で最大50%値引き販促を計画 出版社がポイント還元率設定」(2022年3月11日)
https://www.bunkanews.jp/article/260640/
[19] 出版流通改善協議会『2021年 出版再販・流通白書 No.24』より。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784890031573
[20] 日本書籍出版協会公式サイト「再販制度」2022年5月24日閲覧時点。
https://www.jbpa.or.jp/resale/
[21] 統計局「消費者物価指数(CPI)」の2020年基準の長期時系列データ「品目別価格指数(1970年~最新年)」より。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/

広告

著者について

About 鷹野凌 705 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
タグ: / / / / / / / / /

0 コメント
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る