「書店は言論機関?」「編集者不要論」「雑誌JANコード運用見直し」「単行本2000円は高すぎ?」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #589(2023年9月24日~30日)

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 2023年9月24日~30日は「書店は言論機関?」「編集者不要論」「雑誌JANコード運用見直し」「単行本2000円は高すぎ?」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

政治

AI学習元の作家を特定し報酬支払う法案が仏で提出。特定不能なAI生成物には課税〈PC Watch(2023年9月26日)〉

 さすがフランス、自国の文化を守るための動きは非常に素早いです。まだ“法案”なのでこのまま確定するとは限りませんが、「AI生成物の権利者はAI生成を可能にした著作物の権利者であること」というのはなかなか強烈です。

 以前、日本写真家協会が生成AI画像は「二次的著作物」であると主張していますが、現行法ではかなり無理がある解釈です。それをフランスでは、法改正によって実現しようとしている、ということになるでしょう。強い。

アマゾンの「手口」、指弾 外部サイト監視、コードネームは「ネッシー」 米当局、訴状172ページ公開〈朝日新聞デジタル(2023年9月28日)〉

 アメリカ連邦取引委員会(FTC)が反トラスト法(独占禁止法)でアマゾンを提訴しました。その訴状が公開され、クローリングで他社サイトを監視する仕組みが、コードネーム「ネッシー」と呼ばれていた、なんてことが暴露されています。

 なんだか『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』で明かされていた「ガゼルプロジェクト」のことを思い出しました。ジェフ・ベゾスが「Kindle」立ち上げの際に「まずは規模の小さな体力のない出版社から交渉を始めよ」と指示していた、というやつです。

 ネッシーは、いわゆる「プライスマッチング」のことだよね? と思い改めて調べてみたら、いまはアマゾンのヘルプにわざわざ「プライスマッチングは行っておりません」なんて書いてあるんですね。いつからだろう?

(取材考記)経営難で自民に接近 書店は言論機関の自覚を 宮田裕介〈朝日新聞デジタル(2023年9月28日)〉

 えー? 「書店は言論機関」なんでしょうか? さすがにそれは無理があるような。ジュンク堂書店難波店店長だった福嶋聡氏が、書店がヘイト本を扱うことの是非を問う議論の中で苦し紛れ(本人談)に「書店=言論のアリーナ」論をぶち上げたとき、それは超大型書店の論理だと批判をされつつも、アリーナ(試合場)という表現だから許容されていたように思うのです。

 それを言ったら、言論機関そのものである新聞社自身が、新聞に軽減税率を適用してもらうために自民党や公明党にがっつり接近していた経緯のほうが問題でしょう。当時、藤代裕之氏が「現場の記者が後ろ指を指されても仕方ない」と指摘しています。

 この取材考記のタイトルは、そのまま「経営難で自民に接近 新聞は言論機関の自覚を」とも言えますよね。本文にある「書店業界が政治との距離に無自覚なように見える」も、そのまま「新聞業界が政治との距離に無自覚なように見え」ます。あまりに自分たち自身のことを顧みず余所のことをとやかく言い過ぎじゃありませんかね? だから「言うな」とまでは言いませんけど、厚顔無恥にもほどがある。

新聞協会、NHKのネット必須化に「反対」 検討課題が「山積み」〈朝日新聞デジタル(2023年9月28日)〉

 これもそういう「新聞の政治接近」が起きている事例です。日本新聞協会が自民党の情報通信戦略調査会のヒアリングに呼ばれて「NHKのネットテキスト業務は撤退を」と主張しているわけです。政府ではなく「自民党の」ですよ。

 前述の朝日新聞・宮田裕介氏の言葉「自民一党への要望は多様な考えを排除する懸念」が、そのまま新聞社自身にも言えてしまう。厚顔無恥にもほどがある。

社会

1カ月で8割が読書好きに、AI選書サービス創業者が語る「読書離れ」解決の道 ヨンデミー代表・笹沼颯太「読める=学ぶ力」〈東洋経済education×ICT(2023年9月24日)〉

 これは興味深い。「小学生になって教科書が読めない、テストの文章題を理解できないといった悩みを持つ子どもが入会するケースが多」いそうで、そういう子供たちというバイアスがかかったうえで「1カ月後に8割以上の子が読書を好きになり、3カ月後には約4割の子が毎日読書するようになっている」のですから、たいしたものです。

 大きな特徴は「子どもの好みだけでなく読書レベルに合わせて選書を行う点」にあるそうで、そこにAIチャットの「ヨンデミー先生」とか「伝説の読書家」を目指すゲーミフィケーションといった仕掛けも用意してあるとのこと。しかも起業したのが大学3年生のときとのこと。すげえ。心から感心します。応援したい。

「ダメ出しと思われない」フィードバックの心がけ―『黒執事』編集者・熊剛さんの返信術〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年9月25日)〉

 マンガの編集者自身が「編集者不要論」を前提として行動すると明言している、ある意味タイムリーな記事です。HON-CF2023初日のパネルディスカッションでは、小沢高広氏から「実は結構編集者不要論が成立しちゃっているマーケットがある」という指摘がありました。クリエイターが自分で発信できるいま、編集者による「ダメ出し」の意義が強く問われている、ということなのでしょう。

 そのいっぽうで、鳥山明氏に壮絶な回数のボツを出し続けていたことで有名な鳥嶋和彦氏は、「昨今の編集者は、作家性を尊重するという“編集権の放棄”をやっている人間が多い」と苦言を呈しています。書籍『Dr.マシリト 最強漫画術』にもそういう記述があるようです(未読)。そのやり方がいま通用するかどうかはさておき、実績を残した方の発言には重みがあるのも確か。

 しかしいずれにせよ、マンガというジャンルに特徴的な話だな、とも思うのです。文字表現の領域ではまだそこまで「編集者不要論」が強くない印象があるんですよね。マンガは、ネームの段階ならまだしも、ペン入れしちゃった後から直すのは大変な工数を要するというメディア特性も、この傾向に大きく影響している気がします。

雑誌の購読実態調査 「読まない」が53.57% 最も雑誌をよく読むのは20代男性 読み放題サービス人気1位は「楽天マガジン」〈Appliv TOPICS(2023年9月25日)〉

 興味深い調査結果。調査委託先はジャストシステムなので「Fastask」のリサーチパネルでしょう。「雑誌は読まない」割合の低い年齢層が、20代・30代というのが面白い。雑誌が最も売れていた時期(1990年代)に若者だったいまの50代・60代より、いまの20代・30代のほうが雑誌を読んでいるんですね。ちょっと意外です。

 なお、「雑誌をどのように読んでいるか」の設問から判断するに、これは紙に限定した話ではありません。「雑誌は読まない」割合の一番低い20代は、「紙の雑誌を書店で都度購入」が他の年齢層より低く、「紙の雑誌をオンラインで都度購入」「電子書籍の読み放題サービス」「電子書籍を都度購入」の割合が高いというのも面白い。

 考えてみれば、「dマガジン」がレ点商法を止めたことにより電子雑誌市場が減少し始めたのが2018年上半期からですから、もう5年経っているんですよね。いまの20代は、レ点商法で加入し惰性で続けているわけではなく、電子雑誌を自ら積極的に活用している層だと言えるでしょう。そういう意味で、価格の安い「楽天マガジン」が1位というのも納得。

作家がセルフプロデュースし、生成AIが助けてくれる時代に、編集者にはどんな役割が求められるのか?【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年9月27日)〉

 「編集者不要論」について議論いただいた、HON-CF2023の編集セッションのレポートです。レポートにもある藤沢チヒロ氏の提案「小説に限った話にしてはどうか」は、非常に的確だったと思います。正直、少し議論が噛み合っていないように感じられたんですよね。ジャンルによって状況がかなり違うので、事前にテーマをもっと絞ってもらったほうがよかったのかも。ぼくのボールの投げ方がよくなかったと反省。流通セッションは企画の段階で、文字モノ全般だと広すぎるから文芸・ラノベに絞ろうという提案をいただき、軌道修正できたんですよね。

経済

生成AIによる粗製乱造に対応か。KDPが1日あたりに出版できる本を上限3冊とするルールを追加【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2023年9月25日)〉

 先日、KDPで新規出版もしくは再出版の際に、その本の内容がAI生成コンテンツかどうかを尋ねるメッセージが表示されるようになったお知らせをピックアップしましたが(#586)、こんどは1日あたりの出版数が制限されることになりました。少しずつですが、規制が強化されていますね。

 ただ、実際のところ、この「1日3冊まで」という制限がどれほど意味があるのかは、正直、わかりません。HON-CF2023の個人出版セッションでヤマダマコト氏も指摘しているように、すでに「Kindle Unlimited」はAI写真集に席巻されてしまってますからね。

 ちなみにマンガには「Kindleインディーズマンガ」という別枠がすでにあります。また、生成AIでマンガを描くのはまだハードルが高いです。だから大量生産が可能な「写真集」にAI生成コンテンツが雪崩れ込んでいるのでしょう。つまり現状、大きな割を食っているのは文字モノということになるかと思います。

関係性開示:アマゾンジャパンは、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

全米脚本家組合のスト収束 「AI使っても素材とみなさず」暫定合意〈朝日新聞デジタル(2023年9月27日)〉

 146日間続けられてきたストライキ交渉がついに暫定合意へ。ブラックボックスだった動画配信作品の視聴データを開示させ視聴数に応じた報酬が請求できるようになること、AI生成コンテンツは文学的作品とはみなさないことなど、脚本家組合側の全面勝利と言っていいような合意内容となっています。ただ、同時にストをしていた俳優組合のほうはまだ合意に至っておらず、力関係の違いを感じさせられます。

JPO 「雑誌JANコード」運用見直しへ 予備コード活用〈文化通信デジタル(2023年9月27日)〉

 やっと。私がこの10年サイクル問題を知ったのは、JPOが「現行通りで進める」というリリースを出した2014年だったと記憶しています。JANコードが重複するバックナンバーの発生頻度が、全雑誌流通量の1%以下と極めて低いから、という理由でした。西暦1桁目をJANコード内に組込む運用が開始されたのは2004年からなので、重複が本格的に発生するのはこれからなのでは……? と思った記憶があります。

 結局、2004年の時点で「雑誌は販売期間が限られているから」と長期間使うことを考慮せずにコード体系を決めてしまったのが原因なのですよね。結果、雑誌JANコードの重複が原因で、アマゾンなどでよくエラーが起きているという話を聞いています。

 運用見直しの報を受け、あらためて20世紀の終わりに大問題になった「2000年問題」のことを思い出しました。2000年問題は西暦の下2桁なので100年に1回起きる問題でしたが、雑誌JANコードは西暦の下1桁だけなので10年に1回重複が発生する問題であることは初めから分かっていたはずなんですよね。

 予備コード1桁をこのために使うので、こんどは100年後からまたコード重複が発生することになるわけです。ただ、100年後に紙の雑誌はどうなっているか……?

「単行本一冊に2000円」は高すぎるのか 「値段聞いて諦めた(泣)」投稿で論争勃発…作家ら続々反応〈J-CAST ニュース(2023年9月28日)〉

 小説紹介クリエイター・けんご氏の投稿をきっかけとして、出版関係者からさまざまな意見が述べられていたのがまとめられています。小説家・鈴木輝一郎氏の「この数年で、読書は相対的に『高い』娯楽になった」という意見は、ロシアのウクライナ侵略後に起きている原油やパルプの価格高騰による急激な値上がりを受けたものでしょう。

 ただ、長期的に見ても、書籍・雑誌の価格上昇は他の物品より急激であることは指摘しておく必要があるでしょう。以前、総務省統計局が発表している、消費者物価指数の長期時系列データをグラフ化したことがあります。

 これは「デジタル出版論」の「電子出版物は有体物ではないため著作物再販適用除外制度の対象外」でも述べたことですが、2000年から2020年までの20年間で、総合では2.7ポイントの価格上昇なのに対し、書籍は16.5ポイント、雑誌は29.4ポイントと、他の商品より値上げ幅が大きいのです。

 まあ、もしかしたら以前の書籍・雑誌は安すぎたのかもしれませんが。

技術

日本語テキストの折り返しを自然に ~Googleが分かち書き器「BudouX」を紹介〈窓の杜(2023年9月25日)〉

 これはすごい。なにより「Google Chrome」や「Android」に標準搭載されるというのがすごい。ICU(International Components for Unicode)なので、ウェブ以外での活用も見込まれているというのがすごい。改行位置だけでなく「分かち書き」を自動処理で行う、みたいな応用も考えられそう。こうやって自動処理で解決するのがスマートですよね。

Bingチャットがリンク表示や学習データにサイトのコンテンツを使うのを拒否する方法〈海外SEO情報ブログ(2023年9月28日)〉

 生成AIのGPT-4が用いられている「Bing Chat」に、ウェブサイトのコンテンツを学習用データや回答のリンクとして無断で使わせないようにするための robots.txt やメタタグの記述方法が解説されています。自衛したい方はお早めに。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 なんかちょっと腰が重いなと思いつつ寝て起きたら、起き上がるのが辛いレベルの腰痛が再発してしまいました……いてて。心当たりは、予防のためのコルセットをちょっと怠った程度。とほほ(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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