「生成AI画像は二次的著作物?」「フェイク・ブック」「Threadsウェブ版」「紙のKDP」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #584(2023年8月20日~26日)

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 2023年8月20日~26日は「生成AI画像は二次的著作物?」「フェイク・ブック」「Threadsウェブ版」「紙のKDP」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

AIが描いた絵の著作権は主張できるのか?米裁判所が判断〈Mashup Reporter(2023年8月20日)〉

 アメリカの司法は、「制作に人間がまったく関与しない」作品に著作権は発生しないという著作権局の判断を踏襲しました。まあ、予想通り。日本でも文化庁が著作権セミナーでまったく同じ判断を示しており(スライド資料57ページ)、前提が同じなら、日本の司法の判断も同じになるものと思われます。人がただ単にボタンを押しただけとか、人が簡単な指示を与えただけではダメだと。

 問題は「制作に人間が多少は関与している」場合。文化庁は人の「創作意図」と「創作的寄与」が必要としています。「創作意図」の認められるハードルは低そうなので、問題は「創作的寄与」に絞られます。この考え方の整理が、まだ充分ではないんですよね。スライド資料で挙げられている報告書でも、意見が若干割れている感があります。

 私はここ半年ほど「日刊出版ニュースまとめ」のアイキャッチに、生成AIに出力させた画像を使っています。「猫と本」をテーマにしていて、プロンプトはキャプションで公開しています。ご覧いただくと分かると思いますが、わりと簡単なプロンプトで生成しているんですよね。

 もう少し詳しく言うと、「Adobe Firefly」はこちらの言葉をわりとしっかり解釈してくれるので、簡単なプロンプトで済みます。ところが、以前使っていた「Stable Diffusion」は言葉をちゃんと解釈してくれない場合が多く、プロンプトにはいろんな言葉を試しました。シード値をランダムにして、意図した構図やポーズが出るまで何度も何度も試行しました。

 個人的には、「Adobe Firefly」のプロンプトが「簡単な指示」に当たると言われても「ですよねー」という感じですし、「Stable Diffusion」で何度も試行したことが「簡単な指示」に当たると言われても納得はできます。たくさんの試行は「額に汗」理論で否定されるとも思っています。しかし、世の中的にはどうなのか。法的な判断はどうなのか。

NHKニュースサイトなど「提供方法見直しを」 自民調査会が提言案〈朝日新聞デジタル(2023年8月23日)〉

 危惧していたとおり、やはり、テキストニュースは縮小する方向性のようです。「NHK政治マガジン」のような、いまは無料で提供されている解説系のコンテンツが、今後は映像だけで配信されることになりそう。まあ、世の中のニーズ的には、映像コンテンツのほうが好まれるかもしれませんが。

 個人的には、解説や論考など付加価値が高い記事は、NHKはもちろん新聞等他のメディアについても、ペイウォールの向こう側でも許容します。そこがメディアの差別化ポイントでもありますからね。他方、無料で配信するストレートニュースは、アーカイブを残す方向で検討して欲しい。端的に言えば「消すな!」です。

社会

生成AI画像は「二次的著作物」と日本写真家協会 「出典の明記を」〈ITmedia NEWS(2023年8月24日)〉

 さすがに“生成AIで画像を作成することは、既存の著作物(原著作物)を元に新たな画像を作成する「翻案(二次的著作物の創作)」にあたります。”と断定しちゃうのは言い過ぎでしょう。「可能性があります」くらいの言い方であれば許容できるのですが。

 たとえば「Stable Diffusion」は、学習画像と生成画像を比較したら、35万サンプルのうち109枚が酷似(翻案?)あるいはほぼ同じ(複製?)だったという研究発表があるのは事実です。ただ、この研究では「最も重複するであろう35万サンプルを選択」しているので、実際に類似する可能性はかなり低いとも言えます。

 さらに、同じ被写体・似た構図でも複製権・翻案権の侵害が否定された「廃墟写真事件」という判例があります。裁判で類似性が認められるハードルって、けっこう高いんですよね。ただ単に「似てる」じゃダメなんです。

 コラージュでも、「表現上の本質的な特徴を直接感得」できない場合は、翻案権侵害が認められないという判例があります。日本写真家協会の主張する「生成AI画像はイラストやコラージュと類似するもの」だとしても、それが直ちに翻案権侵害になるとは限らないのです。

 また、日本写真家協会の主張の本論は「生成AIを利用して作成した二次的著作物に対して、原著作物の著作者名ないし出典(複数の可能性もあり)と、利用者(二次的著作者)名の明示義務を設けることも検討する必要がある」です。それをt2iで利用者に求めるのはさすがに酷でしょう(i2iなら話は別です)。生成AIの提供元に対する要求なら理解できるし、賛同もしやすいのですが。

 なお、先日、生成AIに関する共同声明を出した4団体の1つは日本写真著作権協会(JPCA)で、本件の日本写真家協会(JPS)とは別の団体です。他にも日本写真作家協会(JPA)、日本写真協会(PSA)などの関連団体があります。ややこしい。

マスコミが絶対に書けない、複雑怪奇な「インボイス制度」が導入されることになったワケ(週刊現代)〈マネー現代 | 講談社(2023年8月24日)〉

 えーっと、週刊現代はマスコミではないとおっしゃいますか。「マスコミ」というか「新聞」ですよね。まあ、クロスオーナーシップで「テレビ」や「ラジオ」も含まれるから、「雑誌以外のマスコミ」と言うべきかも。

 新聞の定期購読は軽減税率の対象です。それをねじ込んだのがインボイス制度が必要になった理由の一つでもあるから、新聞はインボイス制度に強く反対できないんですよね。それに対し、書籍・雑誌は軽減税率の対象から外れているので、本来なら遠慮なく反対できるはず。

 この記事の最後のほうにも「新聞と雑誌で何が異なるのか、合理的な説明は難しい」などと恨み節が書かれていますが、未練を残している感がありあり。菅官房長官(当時)が「書籍・雑誌は検討中だ。線引きは業界で決めてほしい」などと言い始めたんですよね。要するに「ポルノなど有害図書は自主規制で対象外に」しろ、と。

 それを受け、書協が「有害図書」を自主規制する第三者委員会を設置するなんてことを言い始めて、業界内外から猛反発(ウチも反対しています)。結局、それは租税法律主義に反する(自主規制で税率を決めることはできない)から無理だと山田議員に指摘されたとおり、立ち消えになった経緯があります。

 恨み節を言うだけでなく、こういう経緯までちゃんと書いて欲しい。

仕組みは「合理的」、でもなぜ反発? 識者が読み解くインボイス制度〈朝日新聞デジタル(2023年8月25日)〉

【そもそも解説】インボイス制度 「個人事業者の負担増」の理由とは〈朝日新聞デジタル(2023年8月25日)〉

 インボイス制度関連では、こんな新聞報道も出ていました。で、こういう記事内でも「新聞の定期購読が軽減税率の対象」であることには一切触れていません。新聞の定期購読は8%だけど、コンビニで1部買ったら10%なんですよね。「飲食料品など生活必需品を対象として」と、「など」で逃げてる。わかりやすい。内容ではなく、スタンスが。

ベストセラーでも内容は全部ウソ…? 大量に発生する「フェイク・ブック」の正体(小林 啓倫)〈マネー現代 | 講談社(2023年8月25日)〉

 HON.jp設立10周年記念イベントにもご登壇いただく、小林啓倫氏による生成AIの「フェイク・ブック」問題について。捏造“記事”レベルではなく、捏造“書籍”すなわち相当な量のまとまった文章がまるごと生成AIによる捏造で、アマゾンのジャンル別ベストセラーの1位になってしまっていたという事件です。

 小林氏にご登壇いただく「規制」セッションでは、こうした生成AIの脅威に対し、法規制を強化すべきか否か。あるいは、クリエイターやパブリッシャーとして利活用する際の倫理的リスクをどう捉えるかなどについて、福井健策氏、橋本大也氏とともに検討します。お楽しみに!

経済

Amazon「Kindleダイレクト・パブリッシング」で紙の本を出版してみた〈記事広告〉〈HON.jp News Blog(2023年8月22日)〉

 HON.jpの法人会員ゴールド特典で、記事広告を制作・配信しました。フリーライターの納富廉邦氏に「Kindleダイレクト・パブリッシング」で紙の本の出版にチャレンジいただいた、体験談のレポートです。

 おかげさまではてなブックマークが200件以上となり、ホットエントリーにも入りました。タイトルに〈記事広告〉と明示してあっても、これだけしっかりした役に立つ内容であればちゃんと読まれることが実証できたと思います。さすが納富氏。ありがとうございました。

MetaのSNS「Threads」Webブラウザ版がついに登場、パソコンからも利用できる〈ケータイ Watch(2023年8月25日)〉

https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1526181.html

 個人的に、とても助かるアップデート。HON.jp News Blogではサービス開始直後から「Threads」公式アカウントで手作業によるキュレーション運用を行ってきました。この手作業が、実は意外と手間だったんですよね。
https://www.threads.net/@honjpnewsblog

①シェアしたいテキストをPCでブラウザ版「Google Keep」に一旦保存
②iPhoneでアプリ版「Google Keep」を開く
③保存したテキストをコピー(この操作がけっこう煩雑)
④「Threads」アプリで投稿

 ウェブブラウザ版の登場により、この4工程が1工程に短縮されました。助かる。欲を言えば、ほんとうは「IFTTT」などのツールを用いて、1カ所に投稿したら他には自動連携させたいところ。それでも結局、X(旧Twitter)だけは手作業になってしまいますが。

 あとは、キュレーション運用が「Threads」に合うか? という根本的な問題もありますが。[おすすめ]のアルゴリズムは、Facebookと同様、外部リンクの投稿の優先度を下げている印象があります。[フォロー中]に切り替えても、気付いたら[おすすめ]に戻ってたり。

 実際、「Threads」は初日を除くと、ほとんどフォロワー増えてないんですよね。まったく同じ運用をしている「Mastodon」や「Bluesky」は、同じ期間でけっこうフォロワー増えてるのに。「Instagram」でフォロワー資産のあった人が、現時点では有利になっている感があります。まあ、もう少し様子見かな。

技術

アルゴリズム分析で「売れる本」量産、83億円調達のAI出版社日本上陸へ〈Forbes JAPAN(2023年8月20日)〉

 タイトルに「出版社」とありますが、無料投稿サイトと有料アプリを運営する企業です。紙の出版を自らやるつもりはなく、いまのところ伝統的な出版社と組んでいる様子もありません。自社で紙の出版も手掛けるアルファポリスやスターツ出版、伝統的な出版社と組むエブリスタや「なろう」ともちょっと違うモデルです。今年の10月~年内には日本へ上陸する予定とのこと。

 特徴的なのは「ストーリー展開のABテストをして読者の反応をみる、といったAI編集機能も実装している」点。投稿サイトには編集者がいないため、読者の反応を見ながらすべてを自分で判断して決めていく必要があるわけですが、そこをロボット編集者が手助けしてくれるようなイメージでしょうか。

 HON.jp設立10周年記念イベントでは「編集」セッションもあり、そこでは「NovelJam」の運営を通じて再び叫ばれるようになった「編集者不要論」について討議する予定になっています(私は登壇しません)。AI編集者が役に立つとなると、「編集者不要論」はさらに加速するかも?

 私自身はもちろん「編集者は必要」派です。この記事で最後に述べられている「勘」や「センス」という次元の話ではなく、蓄積されたノウハウによる「リスク回避」が重要な役割の一つだと考えます。『実例・差別表現』に書かれているようなことを自分でチェックできる人は、ごく少数だと思うんですよね。もちろんAI編集者がやれるとも思えない。

PIXTA「AI学習目的での使用禁止」を規約に明記 クリエイターの懸念に配慮〈ITmedia NEWS(2023年8月22日)〉

 これもHON.jp設立10周年記念イベントで話題にしようと思い、小説投稿サイトやイラスト投稿サイトの規約がどうなっているかをざっと調べています。現状、小説系は一部を除いてほとんど規制なし、イラスト系は規制が強化される傾向があり、とくに対価が発生するサービス(たとえば「Skeb」)ではかなり強めの規制になっている印象でした。

 「PIXTA」はデジタルコンテンツを自由に売買できるマーケットプレイスですから、強めの規制かな? と思ったら、FAQを見たら意外とそうでもなく。別途、機械学習用に画像・動画データを提供するサービスを提供しているくらいですから、むしろ積極的に活用しようという姿勢が感じられます。

 で、ちょっと面白いなと思ったのが、OpenAIのクローラーへの対応について。8月7日に同社の「GPTBot」によるサイト情報収集を回避する方法が紹介されていて、robots.txtに

User-agent: GPTBot
Disallow: /

と記述すればよいのですが、本稿執筆時点で「PIXTA」のrobots.txtにはまだその記述が存在しません。他社のBOTについては結構記述されてるのに、GPTBotはなぜかまだ未対応という。

OpenAIのクローラーをNew York Timesなどのペイウォールメディアがブロック開始〈ITmedia NEWS(2023年8月26日)〉

 メディア系でも、こういう対応をするところが増えてきているようです。アヨハタ氏のニュースレター「Publidia #123」によると、国内大手紙系では読売新聞と日経新聞はすでに対処済み、朝日新聞・毎日新聞・産経新聞は未対応とのこと。

 なんだか、2004年の未来予想「EPIC 2014」を思い出します。これは最後に「ニューヨーク・タイムズはオンラインから撤退し、紙媒体の発行だけに戻る」という予想でしたから、ちょっと違いますが。まあ、GoogleとAmazonが合併するような未来にもなってませんけどね。

X(旧Twitter)、ニュースリンクの見出しを削除へ〈CNET Japan(2023年8月23日)〉

 画像投稿と見分けるのが困難になるだけでは……X(旧Twitter)へURLを投稿する意味がさらに減少しそうです。これ、ITmedia Newsだと「メディアが自動投稿する記事のリンク」だと書いてあるんですが、私が先に見たCNETだととくにそういう記述はないんですよね。どっちだろ? まあ、どのみちまだ正式発表されたわけでもないので、どうなるかわかりませんが。

 X Pro(旧Twitter Blue)への誘導を図るなら、無料会員の投稿には「twitter:card」が表示されなくなる、みたいな嫌がらせのほうが効果的かも? サムネイルも見出しも概要もなにも出ず、投稿に書いたURLだけになる、みたいな原初のTwitter状態。そのうちそうなるかもなあ。

X(旧Twitter)のフィードアルゴリズム変更の謎 翻弄されるマーケターはどうすべき?:Social Media Today〈ITmedia マーケティング(2023年8月25日)〉

 4月初旬にTwitter(当時)のレコメンドに使用されているコードがオープンソース化されましたが、私はそのとき「公開後にアルゴリズムを変え、その変更内容は明かさないという可能性は、ふつうにあり得る」と予想していました。だからまあ、予想通りの展開です。

 いわゆるSEOとかSMOって、アルゴリズム変更の連続と戦い続けることになるんですよね。運営の裏をかいては対策され、また裏をかいては対策され。イタチごっこです。オープンソース化なんて言っても、結局一時的なノウハウになるだろうなと思ってました。思った通り。

 でも、ガチでビジネス利用しようとするマーケッターは、その一時的なノウハウを追いかけ続けるしかないんですよね。翻弄されるのが仕事、みたいな。嫌だなあ。

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CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など

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