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2022年2月20日~26日は「コミック市場が出版市場の4割超に」「インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費合計を上回る」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
第21期文化審議会著作権分科会国際小委員会(第5回)〈文化庁(2022年2月21日)〉
国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方などについて話し合われていた国際小委員会で、中間まとめ案の骨子が公開されています。日本の著作権者は比較的権利行使しない傾向にあるが、それは対策費用が多額に上るためという指摘があり、相談窓口の新設や費用面での支援を行うこと。海賊版問題は国境がなくなっているので、政府レベルでの国際連携が必要であること。一般ユーザーの意識変容と海賊版から正規版への誘導策、などが挙げられています。
侮辱罪を厳罰化、法案提出へ ネット中傷対策、自民部会が了承〈共同通信(2022年2月22日)〉
フジテレビ「テラスハウス」問題などを受けた、厳罰化への動き。侮辱罪の法定刑は現在、30日未満の拘留か1万円未満の科料ですが、改正案では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を加え、公訴時効が1年から3年に延長されることになります。
これ、ちょっと気になるのが、表現の萎縮に繫がる可能性。名誉毀損罪には「公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)」があり、真実であると証明されれば、首相など公務員や候補者に対する場合や、一般人相手でも公益を図る目的の場合は成立しません。ところが、侮辱罪にはそういった除外規定が明文化されていないのです。
昨年、法務省の部会で審議された際の資料や議事録を参照してみたんですが、刑法35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」(正当行為)により侮辱行為の違法性は阻却される、インターネット上の誹謗中傷は深刻な問題になっており早急に改正する必要がある、原案通り進めさせて欲しい――といった意見により、要綱(骨子)どおり確定しています。
濫用され、スラップ訴訟だらけになったりしなけりゃいいんですけど。ちょっと心配です。
「Kindleアンリミテッド」のスクショ→PDF化は違法? 読み放題めぐりネットで物議〈弁護士ドットコム(2022年2月26日)〉
Kindleアプリのスクショは「技術的保護手段の回避」ではないため私的複製で合法ですが、Amazonの利用規約違反として契約解除されるリスクがありますよ、という話。問答無用でアカウントが消される可能性、確かにありそうです。ただ、その利用規約で私的複製を防げるかどうかは、実は法的にはグレーゾーンだったりします。
一般的には、契約自由の原則があるため、その法律が任意規定であれば利用規約が優先(法律をオーバーライド)します。強行規定なら、法律が優先され契約は無効となります。ところが、著作権法の権利制限は、任意規定なのか強行規定なのか、明確になっていないんです。これ、詳細は、STORIA法律事務所による柔軟な権利制限規定の解説などを参照いただくのが良いと思います。
社会
本の複製は長年、手で書き写すことだった〈HON.jp News Blog(2022年2月23日)〉
デジタル出版論、連載4回目です。今回は「出版」の定義とその歴史について。脚注が異様に多いんですが、歴史を曖昧な記憶で書き散らすわけにはいかんと思い、文献をひっくり返しつつヒーヒー言いながら書いております。新人時代に上司や先輩から教えてもらったことが実は思いっきり俗説でいまでは否定されているとか、長年そうだとされていたことが近年の新発見でひっくり返っていたりとか。そういうの、ちょくちょくあって怖いです。
経済
「メフィスト」小泉直子編集長が語る、定額会員制の読書クラブへの挑戦 「クローズドなサークルを作りたいわけではない」〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2022年2月20日)〉
紙の小説誌だった「メフィスト」が、2016年に電子版のみの刊行へ完全移行、2020年には電子版の刊行も終了していたのが、2021年10月から定額会員制の読書クラブとして生まれ変わっていたとのこと。気づいてなかった……その移行理由などについて、編集長へインタビューした記事です。
小説だけ載った紙版を季刊・会員限定で発行。雑誌を構成する要素のうち、即時性の高い「雑」の部分は会員限定のウェブやLINEで随時配信したり、オンライントークイベントを開催したり。「雑誌」というより「オンラインサロン」に近いかも。サービス提供によって、コミュニティを形成するスタイルです。
こういう雑誌は万人向けではないので「我々はクローズドなサークルを作りたいわけではないんです」とは言いつつ、濃い目のファン層が中心ターゲットとなるんだろうなあ、という気がします。お値段を確認してみたところ、月額550円、年払いなら5500円(どちらも税込)。2016年までは紙版1500円(+税)×年3回でしたから、紙が4回出るうえ会員限定サービスがもろもろあってこの額ならお値打ちかも。
講談社、前期の純利益43%増 電子・版権収入伸長〈日本経済新聞(2022年2月21日)〉
ここ数年、大手出版社の好決算が続いてます。電子の販売収入が30%増の690億円で、紙の出版物収入の662億円をついに上回った点がトピックス。次のポイントは、儲かったぶんをどこへ投資していくか? でしょう。
「電子書籍サービス(WEB・APP)のカオスマップ 2022」が公開〈Digital Shift Times(デジタル シフト タイムズ)(2022年2月24日)〉
カオスマップ=サービス・製品を並べカテゴリーや関係性を示す業界地図のことですが、作成するのはなかなか難しいんですよね……MECE(モレなく、ダブりなく)にしておかないと、抜けちゃったプレイヤーからは「ウチのこと無視するの?」と批判されますし、重複があると依怙贔屓に見えてしまう。「なんでKindleが3つもあるの?」みたいな。
どういう分類でどう配置するかも難しい。このカオスマップは、大分類を「WEB・APP」で左右2つにカッチリ分けていますが、実際のところ、大半のサービスがウェブとアプリの両方で展開しているわけで。いまやウェブだけ、アプリだけ、というサービスのほうが珍しいように思います。
あとは、なんでも扱っている総合型なのに「小説」や「同人」などと雑に分類されても困る、という声も挙がりそう。Kindleは3つあるのに、なぜか「動画併用」には入ってないとか(プライム会員の特典で「Prime Video」と「Prime Reading」などが利用できます)、いろいろツッコミどころが。だから、難しいんです。
2021年 日本の広告費 – News(ニュース)〈電通ウェブサイト(2022年2月24日)〉
毎年恒例、電通「日本の広告費」が発表されました。総広告費が6兆7998億円で、前年比110.4%。インターネット広告費が2兆7052億円(同121.4%)となり、マスコミ四媒体広告費合計の2兆4538億円(同108.9%)をついに上回ったことがトピックスです。
出版関連では、雑誌広告費が1224億円(同100.1%)、雑誌デジタルが580億円 (同130.0%)。新聞広告費が3815億円(同103.4%)、新聞デジタルが213億円(同123.1%)。マスコミ四媒体由来のデジタル広告費合計が1061億円なので、雑誌デジタルの占有率は54.7%です。とはいえ、同調査で雑誌広告のピークは1997年の4395億円なので、まだ1桁足らない感が。
2020年はコロナ禍でオリ・パラが延期となり、広告事業にも大きな痛手となりました(2019年比で88.8%)。そのぶん、開催された2021年に上乗せされている気がします。今年はどうなるでしょうね?
2021年コミック市場は紙+電子で6759億円、前年比10.3%増で過去最大を更新しシェア4割超に ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2022年2月25日)〉
毎年恒例、2月25日発表のコミック市場。コミックが出版市場の4割超――ということは、残りの6割弱がコミックを除く書籍と雑誌です。2021年回顧でも触れましたが、2020年実績は書籍42.43%、雑誌19.69%、コミック37.89%でした。2021年はどうなったか? 実は、まだわかりません。
なぜかと言うと、2月25日に届いた出版科学研究所のプレスリリースには、書籍扱いコミックスと雑誌扱いコミックスの数字が載っていないから。つまり、出版月報が物理的に手元へ届かないと詳細がわからないのです。ところが、どうやら第三種郵便も土日配送なしになってしまった模様。「毎月25日発行」で、従来は26日に届いていたのですが……郵政民営化、バンザイ。そろそろ電子版をサイマル配信していただけませんでしょうか。
Amazon Kindleで講談社コミックス約1000冊がとつじょ0円に 「ファブル」「寄生獣」「東リベ」「紛争でしたら八田まで」など〈ITmedia NEWS(2022年2月25日)〉
こういう個別の「キャンペーン」や「セール」は、本稿ではあまり取り上げないようにしているんですが、少し気になる記述があったのでピックアップ。末尾に「Amazon.co.jpによる突発的なキャンペーンの可能性もある」と書いてあるのですが、講談社はエージェンシーモデルなので、Amazonは勝手に価格を変更できません。つまりこれは、講談社主導でやってるはずです。
Kindleストアの商品詳細ページで「販売: Amazon Services International, Inc.」と表記されていたらホールセールモデル、「販売: 株式会社 講談社」など出版社名が書かれていたらエージェンシーモデルです。これは、価格戦略(マーケティング4PのPrice)の主導権が小売側にあるのか、メーカー側にあるのか、という違いになります。
数年前の調査でエージェンシーモデルであることが判明した出版社は、講談社、小学館、集英社、白泉社、光文社、文藝春秋、スクウェア・エニックス、岩波書店の8社だけでした。いまはどうなっているか。検索機能が当時とは変わってしまった(出版社一覧が表示できない)ので、再調査には結構手間がかかりそう。正直、やる気がしません……。
技術
メディアドゥ、視覚障害者向け電子図書館システム 「アクセシブルライブラリー」を開発/実用化目指し実証実験を完了〈株式会社メディアドゥ(2022年2月24日)〉
メディアドゥが「独自の電子書籍ファイル自動読み上げ技術を活用」して開発とのことなので、「技術」カテゴリでピックアップ。経済産業省の補助金(J-LOD)に採択された事業です。メディアドゥが展開している「OverDrive Japan」の電子図書館システムには、音声読み上げ機能「Read-Along」が付いていますが、それとは別系統のサービスを新たに立ち上げたことになります。UIの改善など、自社開発なら素早く対応できますからね。
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雑記
戦争反対!(鷹野)
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