「Google、サードパーティCookie廃止方針を撤回」「小学館、日本国語大辞典を30年ぶりの大改訂へ」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #629(2024年7月21日~26日)

メディアドゥ
noteで書く

《この記事は約 14 分で読めます(1分で600字計算)》

 2024年7月21日~26日は「Google、サードパーティCookie廃止方針を撤回」「小学館、日本国語大辞典を30年ぶりの大改訂へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

【デジタルトレンド】UNCTAD報告からみた韓国コンテンツ産業成長の秘密 文化政策と産業政策が効果的に融合して成果〈The Bunka News デジタル(2024年7月23日)〉

 韓国政府のコンテンツ振興政策についてのレポート。隣国の政府がどのようなコンテンツ振興を行っているか、大変興味深い内容です。ちょっと気になったのが、後半に書かれている「コンテンツ価値評価システム」について。

コンテンツの商品化の可能性、生産インフラ、コンテンツの競争力を評価し、完成した作品の経済的価値を推定するという。

 なんだか「政府のお墨付きコンテンツ」を認定する、みたいな話で、個人的にはわりと抵抗感を覚えました。準行政機関であるコンテンツ振興院が評価するそうなので、イコール政府というわけではないのですが。評価機関に気に入ってもらえた作品はブーストがかけられることになりますよね? そうなると必然的に、作品そのものとは直接関係しない領域での競争(つまり贈収賄)が起きそうな気がします。

社会

日テレ、セクシー田中さん問題受け「ドラマ制作における指針」公表〈朝日新聞デジタル(2024年7月22日)〉

日本テレビドラマ制作における指針|プレスリリース|企業・IR情報〈日本テレビ(2024年7月22日)〉

 日テレからようやく制作指針が出ました。反響を見ていたら「で、小学館は?」という声を見かけて驚いたのですが、小学館は6月3日の時点で報告書と同時に映像化指針を出しています。日テレと小学館は、報告書の内容にも「今後どうするか?」の対応にも差があったと私は思うのですが、そう認識していない人もいるわけです。フィルターバブルかエコーチェンバーか。怖いなあ。いずれにせよ、日テレのドラマ制作がこれを機に適正化していくことを望みます。

小学館「日本国語大辞典」30年ぶり大改訂へ 8年かけデジタル版刊行、3~5万語追加〈産経ニュース(2024年7月25日)〉

日本国語大辞典 第三版〈小学館(2024年7月25日)〉

 これはすごい。この規模のプロジェクトが動かせるのは、さすが小学館だと唸りました。これぞまさに大手出版社の矜持でしょう。紙だけだと投資回収は難しいと思いますが、ジャパンナレッジがあるから売上は見込みやすいかもしれません。

愛知県蒲郡市、本紙記事PDFを無断共有 職員間で〈日本経済新聞(2024年7月26日)〉

 ありがちな著作権侵害。企業団体内での共有は、私的使用のための複製にならないんですよね。内部通報により明らかになったとのこと。まあ、共有範囲がある程度の規模になったら、いずれバレます。うしろめたい真似はしないのが吉でしょう。ちなみに次のステップとして、記事内で「こういう使い方をしたい場合は日本複製権センター(JRRC)で電磁的複製利用許諾の契約を結んでおきましょう」という案内くらいしてもいいと思いました。念のためJRRCで確認してみましたが、日本経済新聞はちゃんと「電磁的複製利用が可能」になっています。

青空文庫にしかない小説を「紙」で読みたい Amazonで印刷できた【いつモノコト】〈Impress Watch(2024年7月27日)〉

弊社インプレスのサービスなのですが、恥ずかしながら今回始めて知りました。

 ツッコミ待ちだと思うので、全力でツッコミを入れておきましょう。うおおい! まあ、正直者とも言える。ある程度の規模のいろいろやってる企業なら、他部署がなにやってるか知らないってのは普通にあります。そもそも、もともとインプレス本体ではなく、インプレスR&Dがやっていたサービスですもんね(インプレスR&Dは2023年2月1日にインプレスが吸収合併→NextPublishing推進室に)。

 ちなみに、Amazon PODだけを取り上げているのが気になって、改めて現状を調べてみました。hontoは、紙の通販がなくなった余波でPODもなくなっていました。三省堂オンデマンド(楽天市場店)は、まだあります(神保町本店建て替えで印刷機も仮店舗に移設している)が、青空文庫PODの扱いはなくなっていました。インプレスグループでは山と溪谷社だけが残っているようです。

経済

【マンガ業界Newsまとめ】俺レベ第2弾8/1から韓国で連載開始、2025年問題で雑誌配送無しのコンビニ1万店、北米コミック市場前年比7%減 など|7/21-161〈菊池健(2024年7月21日)〉

 MANGA総研代表の菊池健氏が、毎週恒例の「マンガ業界Newsまとめ」の中で、以下のような発言をしていることに目が留まりました。これは楽しみ!

筆者は自身が代表を務めるMANGA総研の取組の中で、こうした海外の市場規模のデータなどを把握していけるように、内外の出版社、プラットフォーム、リサーチ企業と連携し、市場データ把握が出来るように準備を進めています。

 数字がないと、往々にして存在しないものとしてみなされちゃいますもんね。たとえば、アメリカの出版市場はAAP(Association of American Publishers)加盟約160社だけの数字であり、非加盟の中小出版社やセルフパブリッシングが含まれていないことは、忘れられがちだったりします。日本の取次流通以外の出版市場も同様です。

ブックセラーズ&カンパニー、日販帳合以外の書店にも参加促す〈新文化オンライン(2024年7月24日)〉

稼げる書店へ、本の流通改革 売れ行き予測して仕入れ、返品減らす 出版業界がタッグ、500店舗参加へ〈朝日新聞デジタル(2024年7月25日)〉

紀伊国屋書店主導の出版流通改革、文教堂など参画 500店に〈日本経済新聞(2024年7月25日)〉

 この3本を見比べると、それぞれ取り上げている情報・取り上げていない情報がちょっとずつ違っていて興味深い。朝日新聞によると、500店舗ほどになるのは「今秋以降」とのこと。日経新聞によると、新たに文教堂と旭屋書店が参画するそうです。ブックセラーズ&カンパニーに出資している企業以外の書店は初とのことですが、文教堂は日販GHDが筆頭株主、旭屋書店は2019年にCCCが子会社化していますから、まあ順当と言っていいでしょう。あとはトーハン帳合書店が参画し、大手出版社が乗ってくれば……といったところでしょうか。

Google Play、マンガ・アニメを集約した“日本だけ”の新機能〈Impress Watch(2024年7月24日)〉

アプリストアのその先へ。 Google Play の進化〈Google Japan Blog(2024年7月24日)〉

 記事を読んだ当初、Google Playブックス(Googleが運営する電子書店)の新施策だと思っていたのですが、よくよく読むとちょっと違いました。Google Japanの公式ブログには「日本の主要なコミックアプリの協力のもと、新しいマンガやアニメのキュレーション スペースを Google Play 内に開設」とあります。つまり、Google PlayからGoogle Playブックスへ誘導するのではなく、提携コミックアプリへ誘導する形になるようです。マジ?

 まだ私の端末(Pixel 7a)にはローンチしていませんが、公式ブログによると「本日より数週間かけて順次お使いいただけるようになります」とのことです。現在は、Google Playを開くと最初に[アプリ]が開き、下部メニューで[ゲーム][書籍]に切り替えられるようになっています。いままでの[書籍]では、Google Playブックスでの試し読みや購入ができる形でした。

 公式ブログの画像を見る限り、下部のメニューは今後もそのままで、[アプリ]の上部に[コミック]タブが新設されるようです。そしてその中身が「新しいマンガやアニメのキュレーションスペース」である、と。画像に出てくるアプリは「サンデーうぇぶり」「マンガワン」「ピッコマ」など。少なくとも小学館とピッコマは提携しているということでしょう。

 となると、Google Playブックスは今後どうなるんだ? という疑問も浮かんできます。いちおう[書籍]メニューが残る以上、いきなり見捨てるわけではなさそうですが。

2024年上半期出版市場(紙+電子)は7902億円で前年同期比1.5%減、電子は2697億円で6.1%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2024年7月25日)〉

2023年度の電子書籍市場規模は6449億円、2028年度には8000億円市場に成長〈インプレス総合研究所(2024年7月23日)〉

 先にインプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2024」のリリースが出て、とうとうこちらも「文字もの等」電子書籍市場が減少傾向の推計になってしまい、頭を抱えていました。ところが出版科学研究所の2024年上半期推計では、これまで数年間減少傾向だった電子書籍(文字ものなど)と電子雑誌がともに増加傾向へ転じています。増加額はわずかではありますが、トレンドが変わったのは喜ばしい。

 なお、文字もの市場を牽引しているのはライトノベルとのことです。やはり、定期的な続巻行があるためキャンペーン施策が効果的なのでしょう。次はこれを、他の文字ものに波及させるにはどうすればいいのか、ですね。

離婚の悩みはAIに相談 日本加除出版、新興の技術活用〈日本経済新聞(2024年7月25日)〉

弁護士以外が報酬を得る目的で法律のアドバイスをする「非弁行為」は弁護士法で禁止されているが、離コンパスは日本加除出版の法律書をもとにしたAIによる要約との位置づけだ。

 なるほど! と感心してしまいました。これは面白い。新しい本の形ですね。

夕刊フジが来年1月で休刊か 「引き金はトラック運送費の値上げ?」ライバル紙が「むしろ大ピンチ」と戦々恐々するワケ〈デイリー新潮(2024年7月26日)〉

 「むしろ大ピンチ」の原因は、やはりトラック運送費です。これまで夕刊紙を発行している3社で折半していたとのこと。つまり1社抜けると、運送費が単純計算で1.5倍に膨れあがることになります。それは確かに、ライバル他紙もヤバそうです。

技術

Google、サードパーティCookie廃止方針を変更 新たなユーザー選択肢を導入へ〈ITmedia NEWS(2024年7月23日)〉

グーグル「脱クッキー」白紙 規制当局・広告業界と溝 プライバシーに懸念の声〈日本経済新聞(2024年7月24日)〉

GoogleがCookie廃止を撤回。DIGIDAY JAPAN編集部が聞いた「Cookieレスなき時代」に広告業界関係者はどう向き合うのか?〈DIGIDAY[日本版](2024年7月24日)〉

 再三の延期からついに撤回へ。今後は「ユーザーが自らの選択でプライバシー設定を管理できる新たなエクスペリエンス」を導入するそうです。まあ「完全廃止」ではないにせよ、サードパーティCookieがいま以上に効かなくなる未来は見えていますから、メディアや広告代理店の対応が不要になったわけではないでしょう。

 ユーザーに対する初期設定がどうなるか、あるいは[設定]メニューを開かずともユーザーが任意で選択できるようなステップが用意されるか、などによっても影響の大きさは変わります。たとえば、EUのGDPR対応で各サイトがCookie同意ポップアップを実装していますが、ああいうのをブラウザレベルで強制的に入れるようなことも可能なわけです。

TOPPAN、解読困難な古文書をAIで解読 熊本大学と〈日本経済新聞(2024年7月26日)〉

熊本大学とTOPPAN、くずし字AI-OCRを活用した古文書の大規模調査のための独自手法を開発〈TOPPANホールディングス株式会社(2024年7月26日)〉

 これはすごい。「専門家でも解読が困難な」古文書のくずし字を、AI-OCRで短期間で解読・テキストデータ化することに成功したそうです。専門家なら、時間をかければより正確に解読できるのだと思いますが、時間が大幅に短縮できる点が素晴らしい。「日本国内に数十億点以上」と大量に残存している江戸期以前の古文書から「知られざる自然災害、疫病流行や飢饉など、歴史学・地域防災研究において重要な資料」が比較的容易に掘り出せるようになるわけです。もちろん専門家は要らなくなったわけではなく、精度を高めることに貴重な時間を使えるようになります。じつに正しい技術の活用法でしょう。素晴らしい。

お知らせ

HON-CF(ホンカンファ)2024について

 今年もやります! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は9月6日(金)~8日(日)の開催です。詳細はこちらのURLから近日公開予定。Coming soon!

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 先週で春学期の授業が終わりました。私が担当しているデジタル出版の演習授業で、現時点で公開(=出版)まで辿り着いたのは履修生40人中25人でした。成績評価前の最終期限までに、おそらくあと4~5人は完成できるでしょう。今年はとにかく履修人数が多すぎで、あまりの物量に押しつぶされそうでしたが、なんとかここまで辿り着きました。ふう。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

noteで書く

広告

著者について

About HON.jp News Blog編集部 1974 Articles
HON.jp News Blogは、これからも本(HON)を作ろうとしている人々に、国内外の事例を紹介し、デジタルパブリッシングを含めた技術を提供し、意見を交換し、仮説を立て、新たな出版へ踏み出す力を与えるメディアです。運営は、NPO法人HON.jp メディア部会が行っています。
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る