週刊ダイヤモンド書店販売中止/トムソン・ロイターがAIスタートアップ企業に勝訴[ぽっとら]

【画像】ラジオの収録スタジオのイメージ
Photo by Adobe Firefly(ラジオの収録スタジオ 高性能なマイク 人はいない)
noteで書く

《この記事は約 12 分で読めます(1分で600字計算)》

 「ぽっとら」は、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌がお届けするポッドキャスト「HON.jp Podcasting」の文字起こし(Podcast Transcription)です。2025年2月18日に配信した第19回では、「週刊ダイヤモンド」2月17日発売号の書店販売中止と、トムソン・ロイターがAIスタートアップ企業に勝訴したニュースについて語っています。

#19 雑誌の発売中止/AIと著作権

 こんにちは、鷹野です。今回は「雑誌の発売中止」と「AIと著作権」、この2つのトピックスについてお話したいと思います。まず「雑誌の発売中止」から。雑誌の休刊、ではなく、発売中止という怖い話です。モリアキさん、どんな事件があったか簡単に説明してください。

モリアキ AIナレーターのモリアキです。経済誌「週刊ダイヤモンド」が、編集ミスにより2月17日発売号の書店販売を中止するというニュースがありました。編集部が発売直前に、アンケートの企業名と回答内容が一致していないことに気づいたとのことです。詳細は毎日新聞の2月15日付報道をご確認ください。

 はい、モリアキさんありがとうございます。いやー、怖いっ! 背筋が寒くなりました。

私も昔、週刊情報誌を制作していた

 私も、ずいぶん昔の話になりますが、週刊誌を制作していた経験があります。私が20代の後半くらいのことなので、いまから20年から25年くらい前の話です。週刊誌といっても毎回ゼロから制作するようなものではなくて、情報誌なので、新規在庫が入荷したら情報を入れ替えるみたいな。そういう感じなんで、前の号からの流用も多かったんですよね。だから、そんなめちゃくちゃハードな感じではなかったんですけど。

 私が入社したころは月2回刊だったんです。まだ。あいだが2週間とか3週間あくと、在庫の入れ替えってけっこう多くなるんですよ。だから、月2回刊のころのがキツかった記憶があります。で、途中から週刊化してたんですけど、週刊化してからのがラクになったんですよね。

 だから、毎回ゼロから制作している週刊誌のスケジュールの厳しさっていうのは、私自身、体感したことがありません。まあ、そうとうキツイだろうなという想像はできますけどね。思い返すと私自身、価格を間違えるとか、電話番号を間違えるとか、写真がテレコ、つまり、入れ違いをしちゃったとか……そういうミスはちょくちょくありました。

 まあ、人間のやることですからね。必ずミスはあります。そうやってミスが出たら、お客さんのところへ菓子折持ってすっ飛んでいって平謝りとか、ありました。なかなか許してもらえなくて、「こいつを担当から外せ」みたいなことを言われたりとか、「いま書店で売ってるやつぜんぶ回収してこい!」とかね、そういう無理難題言われたりとか……まあ、いまだから笑って話せますけど、いろいろありました。

 ただ、さすがにね、発売中止は経験ないです。台風が直撃してスケジュールがヤバイみたいなことはありましたけど。週刊でも、ある程度はバッファがあるんですよ。私がやってたころで、半日くらいは余裕がありました。

 (私が関わっていた)最後のころは、発売日が水曜日で、その前の週の金曜日の正午がデータ入稿の締切で、その日のウチに色校まで終わらせる、みたいなスケジュールでした。確か。でも台風が直撃したとき、色校を土曜日の午前中までズラしたことがあったんですよ。それでも火曜日には事務所に見本誌が届いてましたから、印刷会社さんすげーって感心してた記憶があります。

 私が制作してたころはまだFAXが全盛期で、原稿がFAXで届く。原稿チェックして現地取材したら、FAXを借りて原稿入稿して、事務所に戻ったらもうゲラが出ていて、ゲラをチェックしたらFAXで校正バックして、パソコンで写真をセットして、校正バックと写真セットが終わったページはもう翌日くらいに色校が出て、みたいな流れ作業になってました。

 最初のころ、私の最初のころ、月2回刊のころというのは、色校はみんなで集まって一斉に見るっていう感じだったんですけど、週刊化するときページ単位で随時チェックするってやり方に変わったんです。正確には色校というか、最終版面に近い状態がレーザープリンターで出力されるという、色校モドキに変わったんですけどね。

 完成誌面と刷り上がりイメージがちょっと違うんで、「こんなの色校じゃねえよ」って文句言ってた人がいたのを覚えてます。写真がとくに荒いんですよね。なんで、心配なところは色校を見つつ、パソコンの画面で自分がセットした写真を確認するみたいな、そんなこともやっていたことを思い出します。

 まあ、随時チェックって要するに工程が一部前倒しされるわけなんで、作業負荷が分散されるんですよね。ずいぶんラクになった記憶があります。月2回刊のころって、日付が変わる前に帰れるほうが珍しかったんですよ。それが週刊化以降は、日付が変わる前に帰れるようになった、というね。それくらいの変化ですけど。まあ、ブラック職場だったのは間違いないです。そんな思い出です。

発売中止でどれくらい損害が出たか?

 で、今回の「週刊ダイヤモンド」の話に戻ると、定期購読はもう発送しちゃったあとだったみたいなんですね。なので、発売中止になるのは書店売りだけという。そういうタイミングだったそうです。月曜日発売だと、いまはいつが校了日になるんでしょうね? 水曜日の夜くらい?

 定期購読って、宛名ラベル貼りとか袋詰めとか、そういう工程があるはずですから、機械で自動化されてたとしても、ダンボール詰めそのままより、そのまま発送するより時間がかかるはずですからね。定期購読だと書店発売日より1日早く着くみたいなのもありますから、校了はもうちょっと早いかもしれないですね。まあ、週刊制作の現場を離れてもう長いので、最近の状況は正直よくわかりません。

 で、気になるのは、発売中止でどれくらい損害が出るか? というところですね。SNSで「ダイヤモンドヤバいんじゃ?」みたいな声も見かけましたけど、実際のところはどうなのか。まあ、ちょっと簡単に試算してみましょう。

 実は「週刊ダイヤモンド」は昨年10月に、「サブスク雑誌」として大幅リニューアルしますというリリースを出しています。サブスク雑誌ってなんぞや? と思ったら、要は書店売りをやめる。それで、定期購読とデジタル版だけになる、という話だったんですね。それが2025年4月からと予告されてたので、実はもう直前に迫ってたっていう、そういうタイミングで起きた事故です。

 で、書店売りはどれくらいあったか? というと、年明け早々に下山進さんがAERAに連載している記事に数字が出てたんですが、有料デジタル購読者が約4万3000、紙の定期購読が約3万2000、紙の書店売りは約1万7000部とのことでした。

 発売中止なのは書店売りだけなので、1万7000ですね。それ掛ける定価が税込780円で、だいたい約1320万円くらい。その売上が、ダイヤモンド社と、取次と書店から失われるということです。週刊誌の正味ってどれくらいなんだろ? 委託なら普通は77%とか78%でしょうか? だとすると、ダイヤモンド社の売上としては約1000万円くらい。

 それとは別に、破棄コストもかかりますし、広告主に損害賠償って話になるかもしれません。とはいえ、ダイヤモンド社の年間売上って、ホームページに載ってましたけど、2024年3月期で148億円あります。148億円。なんで、1000万円失ったところで、さすがにこれ一発で会社が傾くってことはないと思います。雑誌だけじゃないですからね。書籍もあります。

 書籍売りがあるんで、書店から「週刊ダイヤモンド」が撤退しても、大きな問題にはならないみたいな、そんな声もありました。あと、デジタルの購読料もありますし。もちろん1000万円プラスアルファの売上は消えちゃう。痛いはずです。ちょっとしたチェック漏れでこういう事態になってしまう。怖いなあ、って思います。

 デジタルでのパブリッシングだと、すぐ直せちゃうんですよね。それに慣れちゃうと危ないなってのは、もう日々よく思います。印刷したら取り返しがつかない。だから、ぜったいミスできないっていうね。その緊張感と集中力が必要になります。

 そういう紙の工程を知らずに、ウェブ、デジタルだけ経験してると、仕事が雑になるんですよ。公開したあとで間違いを指摘されたら直せばいいやみたいなね。それもしれっとサイレント修正したりとかね、よくあります。見てるとね。

 出版社の看板背負ってるウェブメディアなのに誤字だらけ、みたいなね。残念ながらそういうのよく見かけます。ましてや、ウェブしかやってないところだと、言わずもがなです。まあ、簡単に直せるのもウェブメディア、デジタルメディアの良いところではあるんですけど。

 あんまり手を抜いてるとそのメディアの信頼性が下がっていくわけですから、まあ、あんまり雑な仕事はしないほうがいいと思いますね。もちろんこれは私も含めね。気をつけます。

トムソン・ロイターがAIスタートアップに勝訴

 はい、次のトピックスは「AIと著作権」について。アメリカで、ちょっと「おおおおお」という判決が出たんですよね。モリアキさん、簡単に説明してください。

モリアキ AIナレーターのモリアキです。情報サービス企業のトムソン・ロイターが、AIスタートアップ企業を著作権侵害で訴え、勝訴したというニュースがありました。訴えられた企業側は、AIによる学習はフェアユースだと主張していましたが、認められませんでした。詳細は、WIREDの2月13日付報道をご確認ください。

 はい、モリアキさんありがとうございます。これはアメリカ連邦地裁の判決ですね。アメリカの著作権法ってちょっと独特なものがあって、日本との違いでよく言われるのがこの「フェアユース」です。日本の著作権法は、ヨーロッパ大陸、フランスとかドイツの法制度を踏襲しているんですけど、アメリカはイギリス系ですね。大陸法に対し英米法なんて呼ばれてたりもします。

 違いをざっくり言うと、日本の場合は、たとえば私的使用目的とか、学校の授業の過程みたいに、個別具体的な著作権の制限規程というのが設けられてます。ところが、アメリカのフェアユースは包括的な規程になってまして、あとは裁判所で決めてくれという、そういう形なんですね。

 で、フェアユースかどうかの判断基準には4つの要素があります。まず営利目的かどうか。次に、著作物の性質はどうか。これはつまり、芸術性の高さなんかの話です。あとは、利用された量や重要性はどうか。その利用で市場に悪影響が及ぶかどうか。この4つです。

 今回の判決ではとくに4番目の、市場への影響が大きい、と。つまり、トムソン・ロイターが、このAIサービスによって損をする。これはトムソン・ロイターのライバルとなるサービスだ、というような判断だったようです。

 訴えられた企業はロス・インテリジェンスという名前なんですけど、私は知りませんでした。ホームページを見たところ、どうやら法律事務所なんかにサービス提供するリーガル・テックの会社みたいです。まあ、スタートアップ、ベンチャーです。なんか、OpenAIと提携してAPIを公開しました! ってお知らせが2020年6月に出ているのを見つけました。「ChatGPT」が公開されたのが2022年12月ですから、それよりちょっと前の話ですね。

 あとお知らせだと、2021年1月末で業務を停止します、というお知らせも出てました。訴えられたあとですね。不当訴訟だ! って主張が書かれてます。でも訴訟には費用がかかるし、資金が底をついちゃうので、サービスは止めますと。そんなお知らせです。

 これ、WIREDの記事でも指摘されてますけど、OpenAIとかGoogleなんかは、同じようにAIサービスが著作権侵害だ! って訴えられてますけど、まだ判決は出てないんですよね。法廷闘争って時間とお金がかかります。それを乗り切るだけの企業体力が必要なんですよね。

 今回の判決は連邦地裁ですが、アメリカも三審制ですから、ほんとうはあと2段階あります。でも体力のない企業だと、控訴や上告まで戦えないんですよね。だから、まだわからないですけど、たぶんこのまま確定しちゃうんじゃないかな、という感じがします。

 で、そういう判例ができたからといって、「アメリカではすべてのAI学習にフェアユースが認められなくなった!」というわけではないんですね。まだ判断するのは早いです。判例って積み重ねですし、上級審でひっくり返るかもしれません。裁判所の判断って、ちょっとした条件の違いで変わる可能性もありますからね。

 たとえば以前、Googleが本をスキャンして本文検索できるようにして提供するっていう「Google Books Library Project」というサービスを始めて、訴えられたことがあります。これが最終的にフェアユースだと認定されるまで10年かかってるんですね。

 一時期、世界中の著作権者を巻き込むクラスアクションという制度で、いきなり日本も当事者になるみたいな場面もあったんですけど、そういう紆余曲折含めて10年。まあ、そのサービスだけやってる企業じゃ、そんな長期戦無理ですよね。ほかにぶっとい収入源がなければ戦い続けられない。

日本では2018年に「柔軟な権利制限規定」ができた

 で、いまのはアメリカの話なんですけど、日本はどうなっているか? というと、日本の著作権法には第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)というのがありまして、著作権者の利益を不当に害することにならないなら、情報解析、つまり、AI学習のために無断で利用しても、権利侵害になりませんよ、というふうに定められているんですよね。

 さきほど、著作権を制限する個別具体的な規程があるって言いましたけど、情報解析目的なら問題ないですよという規程がね、最初は2009年にできてます。その当時、アメリカのフェアユース規程というのがビッグテック、巨大IT企業を生み出す後押しとなったという反省があって、日本版フェアユースを用意しようじゃないか、というような議論が進んでいたんですね。

 でもそれが議論を進めていく中で骨抜きにされちゃいまして、法律の専門家から「日本版フェアユースのなれの果て」みたいな酷評をされてたりしました。それがさらに、2018年に改正されて「柔軟な権利制限」と呼ばれているんですけど、それがいまの形ですね。

 これ文化庁のサイトに当時の解説がちゃんと残ってるんですけど、2018年の時点ですでに、ちゃんと「例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなる」って書いてあるんですよ。ちゃんと書いてある。2018年の時点で。

 これからすごいAIがきっと出てくるよねっていうのを前提とした法律を、先に用意してたんですよ、日本って。これよく「時代の変化に著作権法の改正が追いついてない」みたいなこと言われるんですけど、とんでもないですよ。いまの状況がくることって、ちゃんと予想されてたんです。法律にもすでに反映済みでした。

 まあ、だから「ChatGPT」とか「Stable Diffusion」とかそういうのが出てきて「これヤバ!」みたいな大騒ぎになったときに、日本新聞協会が「法改正時には、生成AIのような高性能なAIの負の影響までは想定されておらず、法制度が現状の技術革新に追いついていないのは明らかだろう」なんて声明を出してたんですけど、とんでもねえですよ。めっちゃ想定されてたんですよ。

 というわけなんですが、まあ、だから日本……アメリカの裁判が今後どうなるかまだわからないという段階ではあるんですけど、もしOpenAIとかGoogleなんかのAIがアメリカでは違法であると、もし確定しちゃったとしたら。

 いや、まあ、中国との(AI開発)競争を考えたらね、そういう判決がもし出たら、アメリカがIT後進国になっちゃいますよね。なので、なかなかちょっと考えづらいなとも思うんですけど、もしアメリカでは違法だということになったら、明確に合法だと規定されている日本に、AI開発の拠点が移ってくるかもしれませんね。

noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 872 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る