ウェブメディアを広告まみれにしてユーザーを日々イラッとさせている戦犯はだれか?

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 「ぽっとら」は、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌がお届けするポッドキャスト「HON.jp Podcasting」の文字起こし(Podcast Transcription)です。2025年3月25日に配信した第24回では、イラッとするウェブ広告の話題について語っています。

#24 報酬を獲得できる広告

 こんにちは、鷹野です。今回は「報酬を獲得できる広告」をテーマにお話したいと思います。広告の話題が続きますが、まあ、それだけいろいろ問題が起きてるわけですね。ただ、今回はなんか事件があったというわけではありません。ちょっと気になる記事があったんですよね。モリアキさん、簡単に紹介してください。

モリアキ はい、モリアキです。日本経済新聞に「令和な言葉」という新語解説のコーナーがあります。そこで3月22日に「報酬」という言葉が紹介されました。「ネット広告『あと○秒』にイラッ」というタイトルです。ウェブメディアに全画面表示される広告で、「あと○秒で報酬を獲得できます」というカウントダウンが行われるタイプのものについて、なぜ腹が立つのか、どうして広がったのかが解説されています。

 はい、モリアキさんありがとうございます。こういう広告のことをリワード広告といいます。ソーシャルゲームなんかでは以前からよくありますよね。ゲームの中で動画の広告なんかを見ると、ゲームの中で使えるちょっとしたアイテムがもらえる、みたいなやつです。

 動画が終わったあとに×を押さないと元の画面へ戻れないんですけど、その×がなんか偽装されてたりするんですよね。×で閉じたつもりが広告ページが開いちゃった、みたいな。そんなこともあるんで、まあまあ、ちょっとイラッっとするのは確かですね。ゲームでも。

 で、こういうリワード広告が、一昨年くらいからウェブメディアでも急に増えてきたぞと。その理由は、無料閲覧できるウェブメディアの収益性が下がっているからだ、と。で、無理矢理動画広告なんかを視聴させるタイプのこういうリワード広告を設置する媒体が増えたのだ。そういう推測が、この日経の記事ではなされていました。

 この「リワード」というのが日本語で「報酬」って翻訳されますんで、「あと○秒で『報酬』を獲得できます」みたいな言い回しになってるんですよね。イラッとさせられて、それで離脱しちゃうユーザーも増えてる、みたいな。大まかに言うとそういう解説がなされていました。

 「わかるわかる、あれイラッとするよね!」みたいに共感する人も、まあ結構、私の視界の範囲では見かけたんですけど、私はね、なんかちょっと、少し違和感あったんですよね。いや、イラッとするのは確かなんですよ。それを「リワード広告を設置する媒体が増えたから」って説明されるのが、なんかちょっと違わない? という。そんな違和感です。

設置メディア増加の前に、広告プラットフォームが原因

 メルマガにも書いたんですけど、私はこれね、広告プラットフォームの問題だと思ってます。広告プラットフォームが、こういうタイプの広告を新しい武器として提供するようになったから。だから、メディアにも設置されるようになった、という順番ですよね。

 設置するメディアが増えた。うん、まあ、それは確かですけど、設置の前に武器商人が暗躍してるわけですよ。「新しい武器、いかがっすかー?」みたいな。そこを飛ばしちゃうと、短絡的に「設置したメディアが悪い」みたいな話になって、問題の本質が見えづらくなっちゃうんじゃないかなと思うんですよね。

 で、だいたいこういうのはね、Googleが悪いです。Googleが悪いって相場が決まってます。この記事を読んでから、他のウェブメディアでこういうカウントダウン方式の全画面型リワード広告に遭遇したら、だいたいその広告の四隅のどこかにある[!]とか[?]にマウスオーバーかクリックしてページを開いて、どこが提供しているのか、提供元のプラットフォームを確認してみました。いくつかね。

 はい、思った通りGoogleが多かったです。全部じゃないですけどね。だいたいGoogleです。これ、Googleがメディア向けに提供している広告プラットフォームに、Google AdSenseというのがあります。まあたぶん、商業媒体だとGoogle Ad Managerというのを使っていると思います。そのGoogle Ad Managerの中でGoogle AdSenseを有効にする、という形で使っている場合が多いと思います。

 以前は、HON.jp News Blogもそういう形で使ってました。Google Ad Managerを使うと、予約型広告がある場合はそっちを優先する。予約型広告が入ってないときは、Google AdSenseで運用型広告を表示する、みたいな。ちょっと複雑なことができるんです。単純にGoogle AdSenseのコードを貼るより、予約型広告も一緒にやれるっていう複雑なことができるんで、Google Ad Managerを導入しているメディアが多いと思います。

 で、そのGoogle AdSenseには「自動広告」という機能があるんですよ。この「自動広告」はβ版が2018年3月から始まりました。「自動広告」が有効になってると、Googleが自動的に、というか勝手に「ここに広告を表示しまーす」って、広告を差し込んでくるんですよ。自動的に。まあ、だから「自動広告」っていうわけですけど。

 Google AdSenseのコード、あるいは、Google Ad Managerのコードを自社のサイトに貼っておいて、Google AdSenseの「自動広告」をオンにしておけば、あとはGoogleが自動でうまいこと広告を表示して、収益化を図りますっていう、そんな仕組みです。

メディアのUXを悲惨な状態にした犯人はGoogleの「自動広告」

 私ね、このGoogleの「自動広告」が、最近の、ここ数年のウェブメディアを悲惨な状態にした戦犯だと思ってます。2018年の、最初のβ版のときは、メディア側が自分で「自動広告」をオンに変えない限り機能しなかったんです。

 それがね、2020年4月に「広告設定が自動的に最適化されます」って連絡がGoogleから来て、「自動広告」が自動でオンになっちゃったんですよ。デフォルトがオンに変わっちゃったんです。だからメディアの側が自分で「自動広告」をオフに切り替えない限り、勝手に「自動広告」が機能するように変わっちゃった。

 それが2020年4月。これごめんなさい、メルマガには2019年10月って書いちゃったんですけど、2019年10月は「自動広告」がバージョンアップして、Googleの(広告)コードどれを入れてても「自動広告」設定できるようなりましたみたいな、そんなアップデートのタイミングでした。失礼しました。正しくは2020年4月でした。コロナ禍(開始)直後ですね、日本だと。

 で、それ以降、なにが起きたか? っていう話ですよ。あちこちのメディアで、記事本文の途中に脈絡なくバナー広告が入るようになりました。これ「自動広告」です。画面の端っこに固定された状態のバナー広告。これも入れられるようになりました。これも「自動広告」です。

 あとは、ページを戻るのブラウザ操作とか、マウスカーソルをブラウザの外に移動したりとか、記事が分割されてるときにその次のページを見るための「次へ」みたいなのをクリックしたりすると、全画面広告が出るようになりましたよね。これも「自動広告」ですよ。

 私ね、この「自動広告」のお知らせがGoogleから届いたとき、なんか自動で入るってぐちゃぐちゃになりそうで嫌だなと思ったんですね。やだなあって、ほんとうに嫌な予感がしたんで、すぐオフにして様子見してたんですよ。個人ブログもHON.jp News Blogも。予感、当たっちゃいましたね。

 その後のウェブメディアの惨状を見るに、Google AdSenseはやってるけど「自動広告」はオフにしておいた、そういうウチみたいなメディアって、おそらく、少数派だったと思います。Googleからのお知らせメールそのものに気づいてないケースも多かったんじゃないかな。

 で、そのGoogle AdSenseの自動広告が自動でオンになった、それが2020年4月です。これメディア側からするとね、なんか知らんうちに勝手にボコボコ広告が入れられるようになったぞ!? って、まあ、あの、うかつなメディアはね、そんな感じだったと思います。主に、記事本文の途中に差し込まれる広告と、ページ移動するときの全画面広告ですね。目立つのは。

Better Ads Standardsはどこへいった?

 で、さっき紹介した日経の「ネット広告『あと○秒』にイラッ」っていう解説記事には、一昨年くらいからウェブメディアでも急に増えてきた、と書いてあったんですね。書いてあったんですけど、これね、「自動広告」がまたバージョンアップしたからだと思うんです。

 調べてみたらね、2023年10月にGoogleから「自動広告における全画面広告フォーマットの仕組みが変わり、全画面広告を表示する頻度をより細かく管理できるようになります」ってのが来てました。お知らせね。全画面広告を表示する頻度を、デフォルトだと10分、短くて1分、長くて1時間で、全画面表示がまた再表示されると。そういう形にね、メディア側で調整できるようになった。それが2023年10月からです。

 で、カウントダウン方式の全画面型リワード広告、これがめっちゃ増えたのって、恐らくそのタイミングですよね。頻度を短く設定するメディアが増えたんだと思います。その前のデフォルトが何分だったかわからないですけど、まあ10分もけっこう短いですからね。

 まあ、だから日経は「リワード広告を設置する媒体が増えた」と推測してましたけど、増えたんじゃなくて、表示頻度を増やしたんじゃないかな、と。たぶんね。でもその前に、武器商人たるGoogleが「自動広告」って機能を自動でオンに変えたっていうトリガーがあったわけですよ。2020年4月。そこから始まってると思うんですね。

 で、Googleがそんなのやり始めちゃったもんだから、それを見たほかのライバルの広告プラットフォームも「ああ、ここまでやっても許されちゃうんだ」って認識したと思うんですね。真似するようになって、新しい武器がじゃんじゃかメディアに供給されるようになった、みたいな。そんな流れじゃないかなというふうに推測しています。

 これね、Googleが罪深いのが、その「自動広告」を始める少し前ですよ。オンライン広告のユーザー体験を改善するための基準として「Better Ads Standards」っていうのが提唱されてたんですね。「Better Ads Standardsに準拠してない広告は、Google Chromeでは非表示にします! 表示しません!」って宣言してたんですよ。これが2018年2月のことです。

 そこで禁止されるはずだった、ポップアップ広告とか、音声付き自動再生動画広告とか、カウントダウン付きプレスティシャル広告とか、大型スティッキー広告――スクロールに追随する固定型の広告ですね、このへんがみーんな、Google AdSenseの「自動広告」で、自動で入るようになっちゃったんですよ。

 お前、非表示にするって言ってたこと、自分でやるのか? と。おかしくない? って。Better Ads Standardsっていちおうまだいまでもあるんですけど、なんかもう有名無実になっちゃってる感じしますよね。まあ、つまり、だいたいGoogleが悪い、という話でした。

(※このあとのお便りコーナーは省略します)

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著者について

About 鷹野凌 882 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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