不快な広告への事後対応が絶賛されているのを見て、事前対応しているメディアとしては正直うらやましかった

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 「ぽっとら」は、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌がお届けするポッドキャスト「HON.jp Podcasting」の文字起こし(Podcast Transcription)です。2025年3月18日に配信した第23回では、下品な広告とメディアの話題について語っています。

#23 下品な広告

 こんにちは、鷹野です。今回は「下品な広告」をテーマにお話したいと思います。最近は、インターネット広告がすっかり嫌われ者になってますが、新聞も雑誌もテレビもラジオも、マスをターゲットとしたメディアの広告には昔から、いろいろあったものですね。

 たとえば「週刊少年ジャンプ」みたいなマンガ誌でも、表3、表3対向、つまり裏表紙をめくったところですね。裏表紙の裏側とその向かい側にはけっこう昔から、なんか怪しげな通信販売の広告ってよく載ってましたよね。

 「身長が伸びる」とか「筋肉を付ける器具」とか、「視力回復」とか「記憶術」とか。あとは「パワーストーン」とか「恋人ネックレス」みたいな、アクセサリーですね。そういうのを身につけると幸運が訪れるみたいなやつ。札束風呂に入った男女の広告みたいなね。そういうインパクトのあるやつもありました。

ウソ・大げさ・まぎらわしい広告は昔からあった

 で、そういう広告表示に関する意見を受け付ける窓口というのもあります。「広告のウソ・大げさ・まぎらわしいに関する御意見は、JAROへ」ってやつです。公益社団法人日本広告審査機構、Japan Advertising Review Organisation。この略称でJAROですね。設立は1974年です。つい先日、50周年を迎えたばかりという団体です。

 JAROは、50周年を迎えるのにあたって「苦情の50年史」という記念コンテンツを公開しています。これまで受け付けてきた意見、というか苦情ですね。その件数がどんな感じで推移してきたのか、どんな媒体のどんな業種への苦情が多かったのか、みたいな情報がまとまっているコンテンツです。インターネット上で、どなたでも無料で閲覧することができます。

 これ読んでみたんですけど、とくに苦情の10年サマリーというのがね、非常に興味深かったですね。最初の10年、1974年から1983年までは、新聞広告への相談が圧倒的に多かったそうなんです。時期的には、高度経済成長期が終わって、オイルショックが2回あって、物価が高騰したりとか、あとは環境問題なんかが出てきて、消費者運動が活発化してきた、そういう時期です。

 その次の10年、1984年から1993年で、テレビが新聞を追い越します。で、新聞がちょっと減ってきたなと思ったら、なぜか折り込み、折り込みチラシの苦情が急増してるんですね。面白いことに。で、それに伴って、折り込み広告の消費者モニター制度なんてのも、始まったりしたそうです。

 その次の10年、1994年から2003年にかけては、苦情の件数が、テレビと折り込み広告でデッドヒートを繰り広げてます。バブル崩壊後の経済低迷。これを受けて、金融とか保険、とくに消費者金融の苦情が多かったそうです。あと、インターネットの普及期ですから、通信。プロバイダの料金プランなんかの苦情も多かったようです。この時期は恐らくYahoo!BBとか、けっこう苦情きてたんじゃないかと思いますね。

 インターネットの広告が独立集計されるようになったのが2001年、21世紀になってからだそうです。でもまだね、それからまだしばらくはテレビの苦情が圧倒的です。インターネットの苦情が急増したのはわりと最近のことで、2014年くらいからです。

 でもこれね、ウェブフォームからの意見を正式に受付件数として計上するようになったのが2014年からだそうなんで、それも影響しているかもしれません。で、その後、コロナ禍、2020年とか2021年くらいにはインターネットがテレビを逆転しました。いまはインターネットとテレビが双璧を成すような感じです。それ以外の件数がね、もう全然下に貼り付いちゃってるような感じですね。

 だからさっきも言ったんですけど、最近はすっかりインターネット広告が嫌われ者になってます。ですけど、他のメディアの広告もね、いろいろやんちゃなことやってきた歴史があるわけなんですよ。べつにインターネット広告を擁護するつもりはさらさらないですけど、「広告のウソ・大げさ・まぎらわしい」っていうJAROのキャッチフレーズって、インターネットが普及するよりずっと前からあったわけですよ。

 こういう苦情を受け付ける公益社団法人を設立して、広告を自主規制しなきゃいけないような事態に、50年以上前から陥っていたわけですよ。「ウソ・大げさ・まぎらわしい」。そういう広告で消費者を釣って、おかしな商品とかサービスを売りつける、というね。そういうのがもう昔からあったわけです。

中古車情報誌で働いていたころの昔話

 私はですね、20世紀の終わりごろに中古車情報誌の会社に入りました。車とかバイク関連の広告表示には、自動車公正取引協議会という自主規制の団体があります。いま調べたら設立は1971年、JAROより古いんですね。

 私が中古車情報誌で仕事を始めたころにはもう、インターネットで中古車情報が検索できる仕組みが提供されてました。紙の情報誌のインデックス、目次ですね。目次もそうですけど、インターネットで検索するときも、だいたいみんな車種・グレード・年式・色・走行距離みたいな車のスペックと、販売価格で調べるわけです。中古車情報誌の世界だと、この販売価格がかなり重要だったりするわけです。

 同じようなスペックなら、やっぱり表示価格の安いほうに問い合わせが来るわけですよ。だから、表示価格は安く表示しておいて、実際はその本体価格に諸費用ってのがどーんと載るみたいなね、そういうやり方が横行してました。整備費用とかね、移転登録の手続き費用、検査費用、車庫証明手続き代行費用、保険とか税金とか、あと意味わかんない納車費用とかね。なんかもうなにそれみたいな項目が見積に載ってるわけです。

 とはいえ、とはいえですよ。たとえば走行距離を巻き戻すとかね。メーター改ざんってやつです。とか、修復歴を偽る。事故車を事故車じゃないっていうふうにね、表示しちゃうみたいなのは、明確な犯罪です。犯罪だから、不快とかそういう次元のレベルの話じゃないわけですよ。もうそのへんはね、論外です。

 だけど、だけど、表示価格を安く表示して諸費用が高いってのは、べつに犯罪じゃないんですね。実際には表示価格だけだと購入できないわけですから、不誠実ではありますよ。「不快な広告」の話になってくるわけですけど、それはお店のやり方の問題なわけなんですね。犯罪じゃない。

 だから逆に、ウチは諸費用ぜんぶ込みで表示してますよ、だから安心ですよーって。そういうね、誠実さを売りにするやり方のお店ってのもありました。私はそっちのが好きでしたけどね。そういうところが差別化のポイントにもなってたわけです。

 でね、さっき調べてびっくりしたんですけど、自動車公正競争規約というのが改正されてですね、中古車の販売価格ってもう「支払総額」だけになってるんですね。2023年10月から。つい最近ですよ。私が中古車業界から離れてもう10年以上経ちますけど、やっとか! って感じ。やっとかよ! っていうね。

 中古車情報誌って広告のかたまりですから、販売価格以外にもいろいろあるわけです。当時よく言われたのが、キャッチフレーズの装飾語です。最上級を意味する「首位」とか「1位」とか「最高」みたいな。そういうのは、裏付けとなる客観的な指標とか根拠が必要なんです。

 だからまず使えないと思ったほうがいいでしょう。あとは「完全」とか「完璧」。中古車に「完全」も「完璧」もあり得んだろ! みたいな。あと車屋さんが好きでよく使うのが「極上」ってやつ。このワードもダメです。「超」とか「絶」とか「極」とかね。そういう装飾語を入れたがるんですけど、ダメなんですよ。

 だから車屋さんからその広告の原稿が届くと、だいたいこういうNGワードが入ってるんですね。原稿をチェックして、そういうNGワードを見つけたら、逐一担当者、原稿を書いた担当者、まあだいたい社長ですよ。

 社長に「『完璧』ってダメなんですよ。すみません。社長が、自動車公正取引協議会から怒られちゃうんですよ。怒られるの、ウチじゃないですからね。社長が怒られちゃいますんで、変えてください」って。そんな説明をして、なだめすかして、削ってもらったりとかね、別の言い回しに変えてもらったりしてたわけです。いやあ、懐かしいなあ。

商売人は手八丁口八丁

 まあ、そういうのを見てきてますんで、最近のインターネット広告が下品だなんだ言われてるのを見ると、「昔から変わんねえなあ」と思うわけです。商売人ってね、もうほんと手八丁口八丁ですから。法律違反にならないギリギリのところをね、狙ってくるんですよね。昔から。

 3月4日のポッドキャストで「詐欺広告」の話をしました。詐欺広告ね。あれはもうほんとうに詐欺ですから、犯罪ですよね。犯罪であることが明確。なのに、プラットフォーム事業者の審査がザルっていうところで、ユーザーに被害が出ちゃってる。

 それで社会問題化しているんで、プラットフォーム事業者に「ちゃんと広告審査しなさい!」って規制する法律が必要だね、って話になってきてる。そんな話でした。でも今回は、法律違反じゃない。だけど、不快な広告、下品な広告。そんな話です。

 もうちょっとだけ昔話をするとですね、その中古車情報誌の表まわり、表2・表2対向とか、表3・表3対向とか、表4の広告は、社長の厳命で、絶対入れちゃダメっていう広告主がありました。それはね、なんちゃらクリニックっていう、美容形成・美容整形の医院ですね。ストレートに言えば、包茎手術。男性器の皮を切り取るってやつです。

 中古車情報誌って若い男性が買うことが多いんで、そういうコンプレックスを刺激するような広告ってのが、効果が出やすいっていうふうに思われるんでしょうね。広告代理店から、そういうクリニックの広告を出稿したいって話がよくあったそうなんですよ。だけど、社長が絶対ダメだ! って。

 もう話が来るたびに絶対ダメだって断ってたそうなんですよ。雑誌の品位を落とすって。目先の売上欲しさにそういう下品な広告を入れたら、読者が離れていっちゃうだろうって。メディアのブランド価値をちゃんと考えてる。考えてたわけですよね。偉いですよ。

 下品な広告を平気で垂れ流しているメディアを見るたびにね、私が昔いたその古巣ってそういう点では立派だったんだなって、もう本当いまでも思いますよね。

広告で卑猥な文言が表示され、事後対応が絶賛される

 昔話はこれくらいにしてですね、最近の話をちょっとしましょうか。先週、ある下品なインターネット広告と、その広告が出ちゃってた媒体の対応が、けっこう大きな話題になっていました。これ、メルマガにも書いたんですが、ちょっとね、いろいろ考えさせられるものがあったんですよね。モリアキさん、簡単に紹介していただけますか?

モリアキ はい、モリアキです。料理のレシピを紹介するウェブメディア「オレンジページnet」に、卑猥な文言の広告が表示され、批判の声があがり、運営会社が謝罪。対策を強化しますと約束した対応が高く評価されるという事件がありました。ITmedia NEWS東洋経済オンラインNHKなどで報道されています。

 はい、モリアキさんありがとうございます。これは「オレンジページnet」が運用型広告を使っていたら、アドネットワーク経由で卑猥な広告が紛れ込んでしまった、という話ですね。不適切な広告が出ないようにあらかじめ設定してあったのを、かいくぐられちゃった。かいくぐって表示されちゃった、と。

 対策してもイタチごっこな現状だけど、読者が見たくないものは見せないようにしたいですね――という対応そのものはね、すごく誠実だし良いことだとは思うんですけど、すごい絶賛されてるんですよ。びっくりするくらいね、大絶賛されてるんです。このレベルの話をね、NHKまで報道するか! みたいな。絶賛されてるんですよ。

 だってこれ、事後対応ですよ。事後対応でここまで持ち上げられるって、正直、うらやましいですよ。いくら、あらかじめフィルターを設定しておいたからって、運用型広告やってたら、そういう不快な、下品な広告がそのフィルターをかいくぐってくる場合があるなんてこと、ウェブメディア運営してたらわかってるはずなんですよ。わかってたはずなのに「やっぱり出ちゃいました。ごめんなさい対応します」で、大絶賛されるようなことか? って思えちゃうんですよね。

 関連して思い出すのは、気象庁。気象庁がね、ホームページに広告掲載始めたときの話を思い出します。2020年のできごとだから、もうすぐ5年になりますね。広告掲載を始めますっていう予告の段階で、中央省庁が運営費を賄うために広告を載せるってどうなの? みたいな話もあったんですけど。実際に広告掲載始めてみたら、不適切な広告がやっぱ出ちゃって1日で停止したみたいな。そういう事件があったんですよね。

 で、気象庁はね、広告掲載そのものも速攻で止めたんですよ。それでもね、けっこう批判されてたんですよね。結局、運用型広告だと不適切な広告が出ちゃうのを防ぎきれないからっていうんで、事前にしっかり審査する予約型広告だけを載せる形に切り替えて、それで今日まで運営されてるわけなんですよね。

 当時もいまも反響を見ていると、運用型広告でも掲載するメディア側がある程度はフィルタリングできるってのを知らない人が多いんだなあって思いますね。どういう仕組みになっているかって、やってみないとわからないことも多いですから、それはもうしょうがないかなとも思うんですけどね。

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著者について

About 鷹野凌 907 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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