投資詐欺広告などへの対策で進む法整備/作家自身による出版と著作者名の詐称騒動[ぽっとら]

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 「ぽっとら」は、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌がお届けするポッドキャスト「HON.jp Podcasting」の文字起こし(Podcast Transcription)です。2025年2月25日に配信した第21回では、詐欺広告の話題と、作家自身による出版の話題について語っています。

#21 詐欺広告/作家自身による出版

 こんにちは、鷹野です。今回は「詐欺広告」と「作家自身による出版」をテーマにお話したいと思います。まず「詐欺広告」について。先月末に、ちょっと「おや?」と思う政府の動きが報道されたので、掘り下げておきたいと思います。モリアキさん、簡単に説明してもらえますか?

モリアキ AIナレーターのモリアキです。2月28日に日本経済新聞で「SNS型投資詐欺、なりすまし広告に刑事罰 法改正で新設」という報道がありました。これは、社会問題化しているSNS型投資詐欺に対し、政府が罰則を新設するというものです。詐欺被害が確認できない段階でも、なりすまし広告を刑事罰として立件できるようにすることが狙いです。この改正案が成立すると、今後は電子データも文書偽造罪に含まれるようになります(私電磁的記録文書等偽造・行使罪)。

 はい、モリアキさんありがとうございます。なんか法改正って話が急に出てきたなと思ったんですけど、よくよく調べてみたら単に私のスコープ外でした。今回のこの原稿(台本)を用意するのにあたってですね、改めて調べてみたんですけど、ちょっと「やられた!」って気分になりました。いや、まあ、たいした話じゃないんですけど。

 私ね、総務省の検討会はそれなりに追いかけてたつもりなんですね。総務省では、偽・誤情報対策。ニセ、誤りの情報ですね。その対策ということで、去年の9月まで「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」というのがありました。もうまとめも出ています。

 で、(2024年)10月からは名前が変わって「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」、そこでもいろいろな議論がいまなお行われています。そこには「デジタル広告ワーキンググループ」というのもあって、そこではずばり、SNSでのなりすまし型「偽広告」への対応に関する事業者ヒアリング、なんてのも行われていたんですよ。

 ただ、現時点だとまだ「法制化」みたいなところまでは進んでない段階だったんで、いずれそういう話も出てくるかな? とは思ってたんですね。まだ先だと思ってたのに、急に報道に出てきたんで、「おや?」ってなったんです。

 これね、どうやら警察の捜査とか公判なんかの「刑事手続きをIT化する」という流れがあって、刑事訴訟法とか刑法の改正というのが、法務省で議論されてきたみたいなんですね。法務省。総務省じゃなくて法務省。法務省はね、さすがにスコープ外でした。

スコープをどこまで広げるか? 問題(余談)

 ちょっと(話が)脱線しますけど、国の機関すべてに目を配るのはね、正直難しいです。だからこういうのって、どうやってアンテナ立てておけばいいのかな? って、ちょっと困っちゃってるんですけど。今回みたいに報道で具体的に「私電磁的記録文書等偽造・行使罪」みたいな、具体的なキーワードが出てくれば、そこから深掘りするのはぜんぜん可能なんですよ。

 それでも、今回は日曜日にメルマガの原稿を書いたときには、法務省との関係って調べ切れてなかったんですけどね。Googleで調べてもうまく引っかかってこなかったし、いまPerplexityで調べてみたら、やっぱり法務省は出てこなかったんです。どうすればいいんだろうね。

 私はたとえば、Googleアラートっていう便利なサービスを長年愛用しています。キーワードを登録しておくと、関連する新着情報をメールで送ってくれるんですね。メールが随時か、1日1回かは選べるんですけど、随時だとメールの数が多すぎてだるいんで、1日1回に設定してあります。

 で、いまそのGoogleアラートに登録しているキーワードは、さっき見たら111個あってですね。まあ、なかには新着情報がめったに出てこないマイナーなキーワードもあるんで、毎日チェックしてますけど、Googleアラートからのメールは1日60通とか70通くらいです。1キーワード1通なんで、1通に入ってる新着記事の数はいろいろです。1件だけのもあれば、20件くらいあるものもある、みたいな感じです。

 Googleアラート以外にも、企業から届くプレスリリースが1日200から300件くらい。あとは、RSSリーダーに登録しているウェブサイトの更新情報が、これまた1日300件くらい。それらをぜんぶひと通り、毎日チェックしてるわけです。これは取り上げておこうとか、そうじゃないみたいなのを判断して。

 HON.jp News BlogのSNSアカウントでキュレーションってのをやってるわけなんですね。それが1日にだいたい20件くらいです。だからね、ほとんどは捨ててるんですよ。チェックしてる情報の、数百件ある記事の見出しだけ見て捨てるみたいなのを、もうずっとやってるんです。

 そういう状態なんで、スコープを広げるのは正直きついんですよ。ちょっとでも広げると、またドバッと情報増えるんで。しかも法務省とか、おそらく出版とほとんど、ほとんど関係ない動きがほとんどだと思うんですね。スコープに入れると、チェックする時間の大半が無駄になるってのが目に見えてるわけです。正直、法務省までスコープには入れたくないんです。

 だから、政府の動き、とくに規制に関わる動きって影響が大きいんで、やっぱり事前にチェックしておかなきゃいけないなって思うんですけど、思うんですけど! あまりに多すぎる。多すぎるんですよ、情報。

 国家機関って、公務員試験を突破した日本の頭脳と言っていい頭の良い方々が数十万人いるわけですね。もっと言えば、審議会とか検討会って、外部の専門家を集めて議論してるわけですよ。専門家。その道の専門の人。

 その動きをプロセスまで含めて追いかけるのは、まあ至難の業ですよね。専門性が高すぎちゃって、私の理解が追いつかないって場合も、ほんと結構あります。まあ、そういうわけで、総務省だと思っていたら、法務省でした、という愚痴で脱線しました。

Metaの「法令上義務はない」発言が法制化へのトリガーを引いた?

 話を本題に戻します。今回のテーマ「詐欺広告」ですね。今回の報道は、法改正の案が閣議決定されたという話で、これから国会で審議されたのち成立して、公布されて施行ってというプロセスを辿るわけですけど、その法改正しなきゃダメだねってなる前の、原因となる話があるわけです。それをちょっと振り返っておきましょう。

 さきほどモリアキさんの説明の中で「社会問題化しているSNS型投資詐欺」っていう話がありました。これが大きな話題になったきっかけっていうのが、ファッション通販の「ZOZOTOWN」ってありますね。「ZOZOTOWN」創業者の前澤友作さんが、Facebook Japanとその親会社のMeta社に対し、公開で抗議した。それが大きな話題になってきっかけだったと思います。2024年3月ごろですね。

 その前澤さんをはじめ、堀江貴文さんとか、村上世彰さんとか、森永卓郎さんとか、そういう著名人の名前とか写真を無断で使った投資広告が、Facebookにバンバン出てたんですよ。で、その広告からLINEグループなんかに誘導されて、そこでお金をだまし取られる、みたいな。

 おもいっきり詐欺。詐欺広告ってやつです。名前とか写真は無断で使われてるだけなので、当然、前澤さんはまったく関係してないし、知りもしないわけです。むしろ被害者。だから「なりすまし広告」なんて言われ方もしています。

 そりゃもちろん「Facebookはなにしてんの?」って話になりますよね。端的に言って、広告審査が甘いんです。ザル。これはべつにFacebookに限った話じゃなくて、巨大IT企業のプラットフォームって、わりとどれもザルです。

 人間が1件1件丁寧に見たりしないわけですよ。機械的なチェックだけです。彼ら自慢のAIが、広告で使っちゃまずい言葉とか図柄なんかをアルゴリズムで自動判定するわけですよ。その自動判定でOKとなったら、もうほいっと出しちゃう。ほぼ自動です。

 で、出してからなにか問題が起きたら、そこから人間が出てきて対処する、という流れになるんですよ。インターネット広告って一般的に、ユーザーからそういう違反なんかを報告できるようになっている場合が多いんですね。

 なかには、報告する手段すら提供されてない、論外と言っていい広告プラットフォームもありますけど。少なくとも、FacebookとかGoogleの広告には、右上のメニューのところから「広告を報告する」っていう窓口がいちおう設けられてます。GoogleとかFacebookにはね。

 ただ、報告しても、あんまり対処された気がしないんですよね。それが私の正直な実感です。私もね、もうさんざん「こりゃダメだろ!」って広告を報告してきましたよ。それで、そういう広告が出なくなった! 効果が出た! と思ったことって、ほぼないんですよ。ない。皆無と言っていい。

 で、こういうプラットフォームには、もう世界中から膨大な件数の報告が飛んでるはずなんですよ。ただ、たぶんそういう報告の件数が多い、クレームの多い広告から順に、人間が処理するみたいなフローになってるんじゃないかな、と。まあ、これは想像ですけどね。巨大プラットフォームの中で審査できる人も限られてるでしょうから、クレームの多いものからってなってても不思議じゃないかなとか思うんですけどね。

 これは、こういうプラットフォームには思想の根幹に、だれでも自由に情報発信できるとか、だれでも自由に執筆できるとか、だれでも自由にアプリ配信できるとか、そういうのがあるわけです。根幹にね。広告も同じです。だれでも自由に広告が出稿できる、広告の民主化だ! みたいなね。そういう仕組みが、巨大IT企業のプラットフォームなわけです。

 じゃあ、それを政府、監督官庁がプラットフォーム事業者に「改善しろ!」って命令出したりすりゃいいじゃん、って思いますよね。現状だと、できないんですよ。命令する根拠となる法律がないんですよ。去年、この詐欺広告が大きな話題になったとき、政府は要請を出してます。要請ね。要するに単なるお願いです。

 これね、日本の企業だと、この要請レベルでわりと対処してくれたりするんですよ。お願いでね。お願いで動いてくれる。日本の企業は。でも外資はそんなお願いなんて聞きやしないんですよ。聞いちゃいない。で、被害者が損害賠償請求の訴訟を起こしても、Meta社はこんなこと言ってたんですよ。

日本の法令上、投資広告の内容について真実性の調査確認をする義務はない

 ってね。義務がないから責任もない。責任もないから損害賠償する必要もない。そういうロジックなわけです。私ね。このMeta社の「法令上義務はない」って発言が報道されたときに、「ああ、これはトリガー引いちゃったな」って思ったんですよ。法制化へのトリガーね。義務がないから言うこときかないって言ってるわけですよ。なら義務にするしかないですよね。もう強制的に言うこと聞かせるしかないわけですよ。

 ただ、今回のこの、電子データが文書偽造罪に含まれるようになる、という改正そのものは、どうもこれだけで直接プラットフォーム事業者を規制できるってわけではないみたいです。もちろん偽造した本人を捕まえることはできるわけですけど、それを仲介してるプラットフォーム事業者を規制、直接規制するってわけではない。

 で、昨年、プロバイダ責任制限法って改正されたんですよね。今年の5月までに施行される予定なんですけど、「プロバイダ責任制限法」通称「プロ責法」って呼ばれてる法律が、5月から「情報流通プラットフォーム対処法」通称「情プラ法」に名前が変わります。名前だけじゃなくて、内容も結構変わります。

 これまでのプロ責法は、違法な情報とか有害な情報を流通させたとしても、一定の要件を満たせば――通報があって削除するとかね、迅速に対応削除するみたいな、そういう要件を満たせば賠償責任を負わないっていう法律なんですね。

 言ってみれば、プラットフォームの責任逃れがしやすいっていう、そういう法律だったわけです。それがIT企業、プラットフォームの発展、大きく発展していく、そういうITのもろもろが便利なものになっていくっていう後押しになったのも確かだとは思うんですけど。まあ弊害もいろいろ言われるようになってきていて。

 それが情プラ法に改正されたあとは、総務相から大規模プラットフォームは指定されて、総務相から指定された大規模プラットフォームは、対応をさらに迅速化することを義務化するとか、その対応の運用状況を透明化することを義務化するみたいな、そういうことが課されるようになります。

 さっきから名前が出てるFacebookとか、Googleとかは、もちろん大規模プラットフォームに含まれます。その情プラ法、改正した後の情プラ法との合わせ技で、言うこと聞かないプラットフォーム事業者を、言うこと聞かせる、聞くようにするっていう、そういう流れなのかなというふうに思いました。

 で、これここまで話をしてきていまさらなんですけど、SNS型投資詐欺とかなりすまし広告って、本のつくり手とはあんま関係ないよなって思いませんでした? なんかそう、あんま関係ないって思われちゃってるんじゃないかなって、いまさら気づいたんですけど。あの、もちろん私は関係あると思ってるからこうしてしゃべってるわけですね。

 本のつくり手――本の中でも書籍より、雑誌あるいは新聞のほうが近い、関係する話ですね。書籍に広告は載らないもんですから、書籍とはあんまり関係ない。でも雑誌って、マスメディアの一種ですよね。広告もバンバン載ります。

 雑誌に掲載された記事はいまやインターネットでもバンバン配信されます。つまり雑誌の発行者とか新聞社も、インターネットの運用型広告プラットフォームを利用して収益を稼いでいるっていう、直接関係するプレイヤーなわけです。もろに関係者ですよ。もろに関係者です。

 というのも、この「SNS型投資詐欺」っていう言い方に、ちょっと欺瞞というか誤魔化しみたいなものを感じるんですよ。Facebookで詐欺広告がバンバン出てたのは確かです。対処が遅かったFacebookが悪いのも確かです。

 でも、そのFacebookの詐欺広告と同じ時期に、大手新聞社のウェブサイトでも詐欺広告が出てたんですよ。著名人ではなく、Microsoft Defenderの警告を装ったやつ。私自身も何回も出くわしましたし、実家の父親のパソコンでも見て「ちょっと気をつけてね」って父親に警告しなきゃいけなかった、みたいなこともあったんですけど。

 Facebookに詐欺広告が出て「対応が遅い」って、新聞社は批判する社説とか出してましたよ。で、新聞広告はしっかり審査してるのにみたいな、そんなアピールもしてました。でもね、自分のところのウェブサイトで詐欺広告出してるじゃんっていうね。

 ユーザーの皆さまに「詐欺広告にお気を付けください」って警告するお知らせ出てましたけど、原因はあんたのとこが使ってる広告ネットワークだっていうの。詐欺広告出ていてヤバイってわかってても、広告を一旦止めるって判断にはならないんですよね。

 (広告)出しっぱなしでユーザーに「気をつけてください」とか言ってんですよ。そんな状態で、よくFacebookの批判ができるなあって、私ちょっと呆れましたね。そういうところがアカンから「オールドメディア」とか言われちゃったりするわけですよ。しっかりしてください。

『あずまんが大王』の電子版が配信された

 続いてのテーマは「作家自身による出版」です。英語で言うとセルフパブリッシングですね。こちらも先週、関連する動きがありました。モリアキさん、簡単に説明してもらえますか?

モリアキ モリアキです。マンガ『あずまんが大王』の電子版が、アマゾン・「Kindleストア」で発売されたというニュースがありました。当初、海賊版かもしれないといった声もあったのですが、よつばスタジオからの刊行ということがのちに判明しています。

 はい、モリアキさんありがとうございます。関係性開示しておきます。アマゾンジャパンはHON.jpの法人会員です。法人会員として事業活動を賛助いただいています。だからといって、その賛助と引き換えにこのトピックスを取り上げてくださいとお願いされているわけではありません。

 どのトピックスを取り上げるかは完全に私の自由意志です。自由にコメントしています。アマゾンジャパンにとって悪いニュースでも取り上げますし、文句も言います。というか、アマゾンジャパンの中の人に、直接文句を言ったこともあります。ぜんぜん遠慮も忖度もしていないことはあらかじめ申し上げておきます。

 というわけで、まず『あずまんが大王』の話ですね。あずまきよひこさんの作品です。メディアワークスの「月刊コミック電撃大王」で、1998年12月から2002年3月まで連載されていた作品です。メディアワークスはその後、アスキーと合併してアスキー・メディアワークスに変わって、そのあとKADOKAWAに吸収合併されました。「月刊コミック電撃大王」は、まだ発行続いてます。KADOKAWAが発行してます。

 で、このニュースのポイントはですね、いままであずまさんの単行本って、電子版が出てなかったんですよ。いまは「電撃大王」で『よつばと!』を連載してますけど、こちらも紙だけ出てます。紙だけなんです。同じように電子版を出してない漫画家というのは、(収録時点では)『スラムダンク』の井上雄彦さんとか、『ドカベン』の水島新司さんとか、『AKIRA』の大友克洋さんなどがいます。

 とはいえ、もう電子版を出してないってほうが、少数派になってますね。『タッチ』などのあだち充さんは2020年から、『はじめの一歩』の森川ジョージさんが2021年から、『YAWARA!』の浦沢直樹さんが2022年から、電子版の配信を始めてます。長らく「電子版を出してない」って言われてた漫画家の方々も、コロナ禍から、コロナ禍のあとから、電子版も配信するようにだんだん変わってきた感じですね。

 昨年、2024年のコミック市場は、年間7000億円を超えました。そのうち電子だけで5000億円を超えてるんですね。もう紙より電子のほうが断然大きな市場になってるんですよ。コミックの紙と電子が逆転したのは、コロナ禍の前なんですね。2019年のことです。それだけ大きな市場になると、さすがにもう電子を出さないわけにもいかない感じになってきているんでしょうね。

 ところが今回のこの『あずまんが大王』電子版なんですけど、さきほどモリアキさんが「当初、海賊版かもしれないといった声もあった」と言ってましたよね。これ、「Kindleストア」で本の情報を見ると、出版社の名前がないんですよ。ふつうに考えると連載していた、いまも連載している「電撃大王」のレーベル「電撃コミックス」から。つまり、出版社はKADOKAWAに、普通はなるはずですよね。

 ところが出版社の名前がない。それで「もしかしたら海賊版かも?」みたいに疑う人もいたんですけど。あずまさんの、よつばスタジオから公式発表があって、正式版だとわかった、みたいな流れになってます。KADOKAWAが出版社じゃないならなんだろうこれ? って話ですけど。

 おそらくよつばスタジオがキンドル・ダイレクト・パブリッシング、通称KDPを利用して出版したのではないかと思われます。出版社名の情報がない。で、「Kindle Unlimited」の読み放題には対応してるんですね。なので、おそらく「KDPセレクト」を使った独占配信だと思います。「楽天Kobo」とか「BOOK☆WALKER」に、『あずまんが大王』電子版はないんですよ。たぶん独占配信です。

 で、『あずまんが大王』の紙版はまだKADOKAWA公式サイトに情報ありますんで、著作権法でいう1号出版権、これはKADOKAWAに設定したままだと思うんですね。で、電子は自分で出す。そういう形にしたんだと思います。まあ「作家自身による出版」がテーマって言いましたけど、厳密に言えば、有限会社よつばスタジオからの出版ですね。作家自身っていうか、作家の会社からの出版。

 で、電子は2号出版権と言って、紙の1号出版権とは別に設定することができるんですね、法律的に。1号、2号、条文の1号、2号と別になってるんで、別々のところで設定することが可能なんですけど、いまはほとんどの作品が1号2号セットで同じ出版社に設定されてると思います。

 つまりこの『あずまんが大王』電子版って、けっこう特殊な事例なんですね。これ、ちょうど10年くらい前に、KDPのセルフパブリッシングで年間1000万円以上を稼いだ、それで話題になった漫画家の鈴木みそさんにインタビューしたときのことを思い出しました。鈴木みそさんがこんなこと言ってたんですよ。

紙の単行本は出版社だけど、電子版は僕が直接出すという話が、僕はできました。だけど出版社からは、「みそ先生はもう仕方がないけど、新人がこれから漫画を発表するとき『紙は出版社で、電子は自分で』なんて言い出したら、全力を挙げてそれを止めます」と言われてます。

 実際その後、紙と電子を別の出版社から出すような事例って、もう本当に、私の知ってる限りでも数えるくらいしかない。今回の『あずまんが大王』の電子版も、10年前の鈴木みそさんと同じように「あずま先生も、もう仕方がない」って、例外的に許されたケースだと思うんですよね。

 まだ『よつばと!』が「電撃大王」で連載してますし、単行本の新刊も、紙だけですけど、KADOKAWAから出たばかりですし。喧嘩別れとかではないはずですね。電子だけ自分で出版、セルフパブリッシングというのが、特別に許されたケースでしょう。

 先週はですね、この『あずまんが大王』電子版以外にも、小説家の吉本ばなな氏が、自分で書いてない作品が自分の名前で出版されてる。「法的に訴えます。間違えて買わないでください」みたいな注意喚起を行ったというニュースもありました。

 あっというまに騒ぎになって、すぐ(ストアから)消えちゃいましたけど、出版社経由でそんなことするはずないんで、恐らくこれもKDPを悪用した事例ではないかと思われます。ひとつめの「詐欺広告」のトピックスで、巨大IT企業のプラットフォームは審査がザルって話をしましたけど、アマゾンKDPも、まあ、わりとザルなんですよね。

 (アマゾンの)本国アメリカだと1年くらい前に同じような話がありました。自分で書いてない、自分とは無関係な本が、自分の名義で出版されちゃってる。で、その被害にあった著者がアマゾンにクレームを入れた。でも最初は「作者名に関する商標登録がないと本の削除対応はできません」って、対応してくれなかったそうなんですね。

 対応してくれないってのをSNSで暴露して騒ぎになって、アメリカの作家協会オーサーズ・ギルドが支援を始めたところでようやく対処してくれた、みたいなそんなニュースが1年くらい前にありました。ひとつめのトピックスとも関連する話ですね。

 吉本ばなな氏の話で、ちょっと私、ひとつわからないことがあって、ご存じの方がいたらぜひ教えてください。著作者じゃない著作者名を表示した著作物の頒布って、著作権法で禁じられてるはずですよね。第121条。著作者名詐称罪というやつがあるはずなんです。

 はずなんですけど、この吉本ばななさんの事件を解説する法律の専門家の方がですね、その解説、2~3人のものを見ましたけど、この著作者名詐称罪って(話が)出てこないんですよ。パブリシティ権とか不正競争防止法みたいな話はあるんですけど、著作権侵害にはならないからみたいな、むしろ否定するような話とかもあってですね。え? なんでだろう? って不思議に思ってるんですけど、ご存じの方がいたら教えてください。

日本でもKDP出版で広告が出せるように

 先週はKDPでもうひとつ話題がありました。著者向けのスポンサー広告のサービスが日本でも提供開始というお知らせが出てました。KDPで出版してる著者が、「Kindleストア」に広告を出すことができる。そういうふうになったんですね。

 これ実は、2020年の年末に展開開始されてます。このサービスね。ところが、日本はずっと対象外だったんですね。4年越しです。ようやく日本でも利用できるようになった。やっとか! という話です。いままでは広告を出すとしても「Kindleストア」の外しかなかったわけですね。外から誘導するしかなかったのが、「Kindleストア」の中で、直接広告が出せるようになった、と。

 もちろんお金はかかりますけど、使える武器がひとつ増えたという格好です。武器が増えたのはいいんですけど、その結果がね。うん、まあ、今後は個人出版でも資本力の競争になっちゃうんだなあ……というのも思いました。まあ、どうしようもないですけどね。

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著者について

About 鷹野凌 877 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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