「電子図書館普及拡大への課題」「JPRO書誌情報が未反映でアマゾンに抗議」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #495(2021年10月24日~30日)

角川武蔵野ミュージアム

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 2021年10月24日~30日は「電子図書館普及拡大への課題」「JPRO書誌情報が未反映でアマゾンに抗議」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

デジタルマーケターが知っておくべき景品表示法とネット広告動向 | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2021 Summer〈Web担当者Forum(2021年10月26日)〉

 日本アフィリエイト協議会の笠井北斗さんによる、デジタルマーケターが知っておくべき景品表示法とネット広告業界の最新動向についての解説。「デジタルマーケターズサミット 2021 Summer」のレポートです。前半は景品表示法関連、後半はアフィリエイト広告に対する消費者庁検討会の話もあり、主に法律関連ということで[政治]ジャンルに入れました。根拠のない「No.1」とか「最強」といった有利誤認表示は、わりと頻繁に目にするんですよね……アカン。

文化審議会著作権分科会基本政策小委員会、「簡素で一元的な権利処理」の在り方に関する意見募集の結果を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年10月28日)〉

 詳細が決まっていない段階で広くアイデアを募るという異例のパブコメが実施され、その結果が公開されています。また、そのパブコメを踏まえた上で、いわゆる「拡大集中許諾制度」を基にした簡素で一元的な権利処理をどう検討していくか? という方向性を確認する資料も公開されています。

 利用者は「分野を横断する一元的な窓口」を通じ「分野横断データベース等を活用した権利者の探索」を行い、権利者不明の場合にのみ新しい権利処理の仕組みを活用する、という権利処理がイメージされているようです。文化庁長官の裁定制度を拡大するような感じでしょうか。検討の行方は今後も要注目です。

コンテンツNFT ~権利と収益還元の視点から~ 岡本健太郎|コラム〈骨董通り法律事務所 For the Arts(2021年10月29日)〉

 コンテンツNFTの購入者にはどんな権利が発生するのか? どんな課題があるか? 追求権を模したアーティストへの収益還元というのはどういうことなのか? などについて、法律的な観点から解説された良記事。「プラットフォームがサービスを停止した場合」の問題は認識していたんですが、「NFTが別のプラットフォーム上で転売された場合」にシステムが異なるため収益還元が行われない可能性がある、というのは盲点でした。

 結局、複雑な仕組みを用意すると、やっぱりプラットフォーム依存になってしまうということなんですね。コンテンツファイルが手元にあっても、再生できないとか開けないみたいな問題が、NFTとは無関係に起こり得るわけで。とくにゲーム系とかメタバース系なんて、すぐにそういう問題が起きそう。むむむ。

社会

書物の「本質」をとらえなおす「ROUND ABOUT THE BOOK」〈Advanced Publishing Laboratory(2021年10月28日)〉

 昨年秋から今春にかけて行われていた、APL関係者&大学生対象の連続セミナー講演映像と実施報告が公開されました。ゲストが山本貴光さん、円城塔さん、永田希さん、小林えみさん、齋木小太郎さん、森暁子さん​。コーディネーター&司会が仲俣暁生さんと、とても豪華で濃厚なセミナー。

 実は私も関係者枠で参加させていただいたのですが、予定が合わず参加できなかった回もあるので、非常にありがたい。仲俣さんによる実施報告は2万2000字超とボリュームがありますが、テーマの異なる6回がそれぞれ4000字以下ということもあり、読みやすいです。映像を見ている時間がない方も、実施報告はぜひ一読を。

電子図書館(電子書籍貸出サービス)がコロナ禍以降も普及拡大を続けるための課題は?〈HON.jp News Blog(2021年10月28日)〉

 ずっと苦戦していた「電子図書館」の現状と課題に関する原稿、ようやく公開できました。取材等協力いただいた方々に感謝。実は、とりかかったのが6月末ごろから。どこまで書けばいいだろう? どこまで噛み砕けばいいだろう? と思い悩み、途中別件で忙しかったのもあり、4カ月もかかってしまいました。1万2000字。

 図書館関係者によく読まれているようですが、私はむしろ出版社の方々に読んでもらいたい。図書館向けのラインアップを10分の1に狭めてしまっている現状では、さらなる普及は望めないでしょう。いままでは「どうせ売れない」と認識されていたのでしょうけど、導入館がここまで増えてくると、そろそろ「あれ? そこそこ売れるぞ?」に変わってくると思うのですよ。

 しかし、「あまりニーズはない」「そんな予算あるならもっと紙を」という反響を見て、少し反省しました。ここまで書くなら、もう少しだけ広げて「そもそも電子図書館にはどんなメリット・デメリットがあるのか?」まで抑えておくべきだったな、と。24時間365日来館せず使えるとか、音声読み上げや文字サイズ拡大によるアクセシビリティ向上とか、本文検索できるとか、図書館側が貸出・返却・延滞督促業務を行わずに済むとか、汚損がないとか、所蔵スペースを必要としないとか、地域資料をアーカイブできるとか――そんなこといまさら言うまでもないかな? なんて思ってしまったのが失敗でした。こういうのは、繰り返し言い続けなければならないのですねぇ……。

経済

アップル、「App Store」の規則を緩和–アプリ外での課金方法を案内可能に〈CNET Japan(2021年10月25日)〉

 開発者向けガイドラインが正式に変更されました。アプリ外ならApple IDによる決済以外も使えるという「選択肢を伝える」ことが可能に。そういえば数日前、「BOOK☆WALKER」のiOSアプリで読了時に表示される続刊やおすすめ作品情報をタップしたら「アプリで購入するとWebストアでキャンペーンが開催されていても増量コインは付与されません。よろしいですか?」という警告メッセージが出て「お?」と思ったんですが、これって前からでしたっけ? 公取協との和解内容では、このタイミングでWebストアへのリンクが貼れるようになるはずなのですよね。

韓国発コミックが世界標準へ 日本のマンガ文化は淘汰されるのか〈産経ニュース(2021年10月29日)〉

 ウェブトゥーンがすごい! 流行ってる! 世界標準になる! 日本のマンガがこのままじゃ負ける! ――と煽っている系の記事が何本も目に付いた週でした。中でも「淘汰」という強い言葉を見出しに持ってきた、産経の記事をピックアップ。いくらなんでも煽りすぎ。

 客観的事実として、Googleトレンドで検索キーワード「manga」と「webtoon」を、すべての国、過去12カ月間での人気度動向を調べてみたので参考まで。直近1週間では「manga」79に対し「webtoon」9という結果になっています(↓)。

JPOが書誌情報未表示でアマゾンに抗議〈文化通信デジタル(2021年10月29日)〉

 JPROに登録された書誌情報が、アマゾンにうまく自動取得されない問題が起きています。なかなか解消されない&解消見込みも回答されない状況であるため、JPOがアマゾンに抗議文を出した、というお知らせを出しています。アマゾンで新刊予約の受付ができない状況に陥ってしまうため、わりと死活問題。「e託」で直接入力できる出版社なら対処可能なんでしょうけど。

 まあ、アマゾンみたいな巨大IT企業でも社内の開発リソースには当然限りがあるし、世界中に展開しているので、なにを優先するかは経営判断です。こういうシステムトラブルがなかなか解消しないというのは、「日本で紙の本を売る」ことについての優先順位が下がっていることを意味するのかもしれません。

Facebook、社名を「メタ」に変更 仮想空間に注力〈日本経済新聞(2021年10月29日)〉

 悪名高い会社が、まったく異なる社名へ変更することによりイメージの一新を図ろうとするのは、まあ、よくあることと言っていいでしょう。今後はメタバースに力を入れるということで「メタ」。若者のFacebook離れが顕著になっており、ほぼ100%が広告収益である現状では未来がないことがはっきりしているため、早く次のコア事業を立ち上げる必要があるようです。自前の通貨(暗号資産)とNFTで、仮想空間に新しい「世界」の創造を、という目論見がうまくいくかどうか。そのいっぽうで、「出版」とか「メディア」からは縁が遠くなっていく感が。

KADOKAWA、テンセントグループと資本業務提携 約300億円を調達 IPの海外展開強化〈ITmedia NEWS(2021年10月29日)〉

 ここ最近の、中国の表現規制強化っぷりを見るに、いささか以上に不安を覚える資本業務提携。数カ月前に、KADOKAWA夏野剛社長が「日本には水着グラビアよりも過激な漫画があふれており、GoogleとかAppleの審査に通らない」「僕がいる出版業界は“自由派”ばかりだが、どこまでは公共でよくて、どこからダメなのか。このネット時代にふさわしい基準を作り直さないといけない」などと、表現規制の強化を示唆する発言をして炎上、謝罪、役員報酬を一部返上するに至った事件が起きたのを思い出します(↓)。まあ、政治制度云々より文化の違いから、ある程度のローカライズは必須なんでしょうけどね。

技術

ブラウザで編集できる「Photoshop」と「Illustrator」登場–コロナ禍でもコラボしやすく〈CNET Japan(2021年10月26日)〉

 オンラインイベント「Adobe MAX」で発表されたアップデートの1つ。外出先で画像加工が必要になったとき、Chromebookだと結構難儀することが多かったのですよね。Androidアプリだと、なかなか良いのがなく。まだベータ版ですが、これは嬉しい。

Photoshopに“作者証明”機能 メタデータを剥がされても復元可能、NFTマーケットとも連携〈ITmedia NEWS(2021年10月28日)〉

 同じく、「Adobe MAX」での発表。NFTって登記簿みたいなものなんで、実に本質的な活用法だと思います。データ改ざん防止のネットワーク「コンテンツ認証イニシアチブ」(CAI)って知らなかった。もう375組織が参加しているんですね。しかしこれ、著作権譲渡するような発注に関しては、メタデータの埋め込みやNFTの発行を禁止する条件が付くような流れになるだろうなあ……。

ゴーグルあてると目の前に1千冊 本と、素敵な人と、予期せぬ出会い〈朝日新聞デジタル(2021年10月28日)〉

 360度ぐるっと本に囲まれたVR空間、動画で確認できます。VRの本棚ってたぶんこういう感じが良いんだろうなーと想像していた形に近い。この「X360スマート書店」は球体ですが、私が思い描いていたのは円筒です。いずれにせよ、現実の本棚を再現する必要はまったくないと思っていて。少し前にVRゴーグルを試させてもらったんですが、VR空間内の「移動」って意外と難しいんですよね。でも視界は向いた方に合わせて即座に変わるので、なるべく「移動」の操作はさせないような方向性が良いのだろうな、と。

NFTなど「過度な期待」期に、ガートナーが2021年の日本版ハイプ・サイクルを発表〈日経クロステック(xTECH)(2021年10月28日)〉

 さまざまなテクノロジーがいまどういう段階にあるかを5段階に分類するハイプ・サイクル。NFTが「過度な期待」のピーク期に位置づけられていて、そろそろ次の幻滅期に入るぞと警告されています。投機的なマーケットがそろそろ潰れていく、あるいは、当局の規制によって潰されていく、というところでしょうか。NFTが面白い技術であることは間違いないのですが。

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雑記

 衆議院選挙、今回はなんだか静かでした。争点うんぬんではなく、デシベル的な意味で。以前の選挙期間は、街宣車が相当な頻度で候補者名を連呼しながら家の前を走って行って「うるせえ!」ってなっていたんですが、今回は認識できたのが2回だけ。家に居ることが多いので、タイミングの問題でもなさそう。選挙運動のやり方、変わってきたのかしら?(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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