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2024年3月24日~30日は「トランスジェンダー本の発売で産経新聞出版と書店に脅迫」「書店・図書館関係者の対話まとまる」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
総務省、巨大IT企業から聴取 偽情報対策でグーグルなど5社〈47NEWS(2024年3月27日)〉
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」の第14回(3月27日)と第15回(3月28日)で、Google、Meta(旧Facebook)、TikTok、Microsoft、X(旧Twitter)に対し誤・偽情報への対応状況をヒアリングしています。傍聴していないので資料に目を通した範囲内での判断ですが、今回はどのプラットフォームも比較的しっかり答えているように感じました。
ただ、詐欺広告対策についての記述がちょっと薄いかな? と感じるところも。とくにMeta(旧Facebook)は、前澤友作氏が詐欺広告に公開抗議を行った直後ということもあり、そのあたりの記述が資料にあまり見当たらない点が気になりました。
ちなみに、X(旧Twitter)の発表資料には、「広告ポリシーにおいて、特定カテゴリー広告に関し3/22より広告掲載前目視審査を強化致しています」と記述されていて、ちょっとだけ感心。2017年からしばらくアップデートされていなかったMAUが6658万という情報も出ています。
出版業界事情:経産省の書店振興PTは再販制見直しまで行くか 永江朗〈週刊エコノミスト Online(2024年3月29日)〉
紀伊國屋書店会長の高井昌史氏が文化通信のインタビューで「返品率を下げて書店の粗利を増やす、そのために買い切り取引を導入していく」と発言していたのを受け、ならば再販制度の見直しも必要ではないか、という論旨のコラムです。要は、買い切り=いままでのように返品できなくなるわけですから、必然的に「値下げセール」など在庫を処分する手段が必要となり、いつまでも定価拘束されると書店が困ってしまうというわけです。
ちなみに、音楽CDはすでに時限再販制度を完全導入済み(「音楽用CD等の再販制度の弾力運用の状況について」を参照)です。出版業界でも謝恩価格本セールや時限再販がないわけではありませんが、音楽業界に比べると極めて限定的なのが現状でしょう。
これ、再販制度(正確には著作物再販売価格維持“契約”)は出版社の義務ではないですし、対象とするか否か(もっと言えばカバーに「定価」と書くか否か)の判断含め、出版社側が応じるか否かの話なのですよね。経済産業省のプロジェクトチームは、助言や要請することは可能でしょうけど、強制はできないはず。
強権発動できるとすると、独占禁止法を管轄している公正取引委員会(内閣府の外局)でしょうけど、そうなる前に自主的な取り組みで……という形のほうが無難じゃないかなあ。
社会
電子書籍の現在利用している人は37.9% 全世代で利用率トップは「Kindle」(Appliv TOPICS調べ)〈Appliv TOPICS(2024年3月25日)〉
以前、同じAppliv TOPICSの調査について、「利用中の電子書籍サービス」に「ピッコマ」「LINEマンガ」「ジャンプ+」「マガポケ」などのマンガアプリ系が見当たらないことについて触れたことがあります。今回も同様だったため、Appliv TOPICS編集部へ問い合わせてみました。
本調査におきましては、Appliv TOPICS編集部による独自の選定基準を設けておりまして、鷹野様がおっしゃるような「マンガアプリ系」は、対象外とさせて頂いておりました。(一部、ブラウザ版を提供するサービスもございますが、メインがアプリのものは対象から外しております)
つまりマンガアプリ系が「利用中の電子書籍サービス」に入っていないのは、そもそも選択肢にないからということになります。MMD研究所など他にマンガアプリ系だけを対象とした調査があるから、その逆をやってる感じなんでしょうか? 「ebookjapan」「まんが王国」「コミックシーモア」あたりはどちらの調査にも顔を出していて、判断の基準がどうなっているのか、いささか興味深いです。
ただ、そうなると、対象外とされた「マンガアプリ系」だけを利用しているユーザーは、電子書籍サービスの利用経験についてどう回答しているのか? という疑問が浮かんできます。本来なら対象外だから「利用したことがない(41.5%)」を選択するのが正しいわけですが、「現在利用している(37.9%)」を選んだ上で「利用中の電子書籍サービス」では「その他」を選んでいる可能性もあるでしょう。
実際のところ、よく読むジャンルで最も多いのが「マンガ」であることを考えると、むしろ「マンガアプリ系」を対象外にしていること自体が不自然に思えます。ちなみに、以前のこの調査では「マンガアプリ系」も対象に入っていたんですよね。なぜ対象外に変えたのか。
あと、以前は「無作為に選出された」という一言があって、それを私は「好感が持てます」と評価していたんですよね。本来ならこういう調査で無作為抽出って当たり前の話なのですが、そうじゃないいいかげんな調査も多いため、差別化する意味では必要な記述だと感じていました。でも、いつのまにか「無作為に選出された」という記述が消えているではありませんか。
調査委託先はずっとジャストシステムですから、恐らく基本的な調査方法は変わっていないと思います。でも、なぜ記述しなくなってしまったのか。なんだかちょっと残念な気持ちになりました。
KADOKAWAのトランスジェンダー翻訳本 刊行中止をどう考える〈朝日新聞デジタル(2024年3月29日)〉
刊行中止になった経緯について、丁寧にまとめられています。しかし反響を見ていると、KADOKAWAがゲラを送っていたことを「ステマ規制違反」だと勘違いしている人がいまだに散見されます。そもそも「ゲラを送ってもらった」と開示しているのだからステルスしていません。つまり、ステマ規制には引っかかりません。なんだか、想像や憶測から始まったデマが、あたかも本当のことであるかのように流布して信じられてしまうプロセスを目の当たりにしている気がします。
トランスジェンダーに関する本の発売中止要求 産経新聞出版に脅迫〈朝日新聞デジタル(2024年3月30日)〉
関連で。産経新聞出版だけでなく書店にも「放火する」等の脅迫メールが送られているとのことです。意見の相違で議論するのは良いことですが、言論を暴力で潰そうとする動きは看過できません。警察に被害届を出しているそうなので、一日も早く犯人が捕まることを祈ります。
しかし、脅迫メールの送信に「ドイツのドメインが使われていたが、日本語で書かれていた」という記述が非常に気になります。トップレベルドメイン「.du」のアドレスから届いたということだと思いますが、誰でも取得可能なフリーメールやtorなど、身元を隠すための偽装工作が何重にも施されていることが予想できます。
現時点では犯人がどういう属性でどういう思想に基づいてこのような犯行に及んだのかはわかりません。少なくとも、特定の陣営の仕業だと断定はできませんし、特定の陣営の仕業だと見せかけるための工作という可能性もあります。「恒心教」のようなただの愉快犯が分断を煽っているのかもしれません。いまの時点でなにかを断定するのは避けたほうが良いでしょう。
版元ドットコムとopenBDプロジェクトは、出版社に、書誌・書影の読者(第三者)などへの利用承諾をお願いするサイトコーナーを公開しました〈版元ドットコム(2024年3月29日)〉
版元ドットコムとopenBDプロジェクトに新たな動き。個々の出版社から利用許諾を得るという、極めて正攻法なやり方です。HON.jpの書誌・書影情報はJPRO経由で版元ドットコム&openBDに流れているので、こちらの意志に反して【利用不可】表示に変わってしまったことに心を痛めていました。
だからこのお知らせを見てすぐ、フォームから許諾の連絡を送っておきました。そういう窓口ができた、ということです。「うちは書影自由に使ってもらって構わないよ」という版元は、ぜひ積極的に応じて欲しい。
版元ドットコムには以前「書影や書誌は自由にお使いください(リンク先はInternet Archive)」というページがありました。openBDプロジェクトは「自由に使える書誌情報・書影を、高速なAPIで提供する」というコンセプトです。
しかし、以前もお伝えしたように、JPROから「書誌も含めて再配信は現行規約違反との方針が示され」たため、openBD API(バージョン1)の提供は終了(規約違反にならない代替APIが用意された)され、版元ドットコムも多くの書影に【利用不可】という表示が出るようになってしまいました。
本件、JPROの事情も断片的には伺っていて、一方的にどちらかだけが悪いとは言い難いところがあります。双方の話をもう少し詳しく伺ってから、あらためて記事にしたいと思います(取材申込み済み)。しかし、業界紙系はなぜかまったく触れようとしないんですよねぇ……まあ、非営利で忖度もしないウチが適任ですかね?
出版不況の中、読書普及へ「協力に意義」…書店・出版社・図書館関係者らが対策まとめる〈読売新聞(2024年3月30日)〉
昨年10月から続けられてきた「書店・図書館等関係者における対話の場」の「まとめ」が出ました。最後の議事要旨はまだ公開されていないため(案)しか読んでいませんが、きわめて穏当なところへ着地したようでホッとしました。
まあ、初手で大場博幸氏から「公共図書館の所蔵・貸出と新刊書籍市場との関係(PDF)」がデータで示され、「全体として図書館による新刊書籍市場の売上へのマイナスの影響は大きくない」こと、および「少数のベストセラー等の売上部数の多いタイトルの売上への影響は小さくない」ことが共通認識とされたので、おかしな結論が出ることはないだろうとは思っていました。
あとは、「書店在庫情報プロジェクト」と図書館のOPACが連携する日が楽しみです。OverDrive社がかつてアピールしていた“Buy it Now(今すぐ買う)”が、特定のプラットフォームだけに依存せず、しかも「ユーザーの近くにあるリアル書店への誘導」という形で実現するわけですから。ほんと、楽しみ。
経済
広告を見に来てるわけじゃない〈アヨハタ(2024年3月27日)〉
ある芸能系ニュースサイトをスマホで開いたら、画面表示のほとんどが広告に埋め尽くされていて、そのまま[戻る]した――という体験談です。おっしゃるとおり「ユーザを大事にしないと、サービスは続かない」のですよね。何度でも言いますが、広告主や代理店のほうばかり見ていたらダメ!
なお、アヨハタ氏は、メディアコンサルタント・KODANSHAtech総合メディアディレクター・ニュースレター「Publidia」発行人です。つまりメディア関係の動向にめちゃくちゃ詳しい方。昨年の HON.jp News Casting 年末特番にもご登壇いただいてます。
Google、不適切広告を55億件削除 検知に生成AIも活用〈日本経済新聞(2024年3月27日)〉
年間で55億件! LINEヤフーの透明性レポートでは、2023年上半期で4400万件の広告素材が非承認ですから、年間だと1億件弱。まさに桁違いです。残念ながらそれでもすり抜けてくる不適切広告があるのも事実ですが。
個人的に、わりと訪問頻度の高いあるサイトで、Windows Defenderの警告を装ったサポート詐欺広告にときどき遭遇するのが気になっています。広告クリックで展開するわけではなく、単にそのサイトの記事を開いただけの段階でいきなりリダイレクトされます。
これが詐欺だと知らなければ、けっこうドキッとするでしょう。画面が操作できなくなったように見せかけるような小細工までやってくることもあります(Ctrl+Alt+Delでタスクを終了すれば回避できます)。
そのサイトは、Google広告、ヤフー広告、AdChoice、MicroAdを使っていて、どの広告ネットワーク経由でこの詐欺広告が紛れ込んだのかまでは確認できていません。かなりアクセスが多いサイトなので、被害者もそこそこいるんじゃないかなあ……心配。
技術
Adobeの画像生成AI「Firefly」、画像を使って構図やレイアウトを指示できる機能〈PC Watch(2024年3月27日)〉
Adobe Fireflyが1周年を迎え「構成参照(Structure Reference)」という新機能を新たにリリースしました。Text to Imageで、アップロードした写真の構成を参照したうえで指示した絵を出力してくれます。さっそく使ってみましたが、狙った絵が格段に出しやすくなっています。参照強度を下げると、少しだけ構図が違う絵が出力できるのも面白い。
はてな、アプリ「少年ジャンプ+」にてマンガビューワ「GigaViewer for Apps」の提供が開始〈MANGA Watch(2024年3月29日)〉
はてなの「GigaViewer」はこれまで「少年ジャンプ+」のウェブブラウザ版だけに提供されていましたが、アプリ版もはてな製に置き換わりました。従来は、ACCESSの「PUBLUS」でした。
恐らく、「PUBLUS」がACCESSからブックウォーカー(KADOKAWAの子会社)に事業継承されたことが、アプリ版もはてな「GigaViewer」へ変更するきっかけになったと推察します。集英社の立場で考えると、ライバル企業の子会社にサービス基盤を握られてしまったわけですし。
もちろん守秘義務契約があるとは思いますが、集英社としては嫌だったんでしょう。
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記
4月になりました。気象庁は3月29日に東京でソメイヨシノが開花したと発表しました。そして最高気温は3月23日の9.3度から3月31日の28度超まで急上昇。真冬から1週間で真夏に変わりました。3月の観測史上最高だそうです。暑い……勘弁してください(鷹野)
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