「ステマ規制まもなく開始」「AI時代の作家の在り方」「Adobe Fireflyが商用利用可能に」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #587(2023年9月10日~16日)

丸善 新宿京王店

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 2023年9月10日~16日は「ステマ規制まもなく開始」「AI時代の作家の在り方」「Adobe Fireflyが商用利用可能に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

米著作権当局、生成AI「Midjourney」で制作した優勝作品の著作権保護を拒否〈ITmedia NEWS(2023年9月12日)〉

 アメリカ著作権局審査委員会の判断は揺るがず。受賞時の報道によると「Midjourneyを使い数百枚の画像を生成。その中から3枚選び、Photoshopで画像を調整、AIを使い解像度を上げたものをプリントして提出した」とのことですが、その程度では人間による「創作的寄与」として認められない、ということになります。

 私は以前から、多数の出力結果からの「選択」だけなら創作的寄与とは言いづらいという意見なので、この判断にもそれほど違和感はありません。すでに否定されている「額に汗(sweat of the brow)」理論ではないか? と思うのですよね。でも、「多数の結果から選択する行為が創作的寄与にあたる」派の方にとっては、納得できない判断でしょう。

 しかしこうなると、今後は「AI生成物であることを隠す」インセンティブが強く働くことになるわけですよね。権利の有無には、天と地ほどの差があるわけですから。「これはAI生成物です」と正直に明かしたら著作物ではなくなるなら、隠していたほうがトクです。うーん、これは今後いろいろトラブルが起きそう。

 すでに、人間による表現なのか、AI生成物なのか、見た目だけでは判別が困難になっています。AI生成物であることを疑われたら、AI生成物ではないことを証明する必要が出てくるでしょう。あらいずみるい氏がレイヤー構成を動画で公開した事例のように。そして恐らくまた、それでも納得しない人が出てくるんでしょうね。

 これ、絵ならまだレイヤー構成の公開などで嫌疑を晴らすことが可能ですけど、文章系の証明はかなり難しいことが予想できます。入力している様子をあらかじめ動画で撮影しておく? いや、「そんな動画、いくらでも捏造できる」って言われちゃいそう。悪魔の証明になるなあ。どうすればいいんだ。

社会

電子書籍ユーザーの2割が本をすべて電子で読んでいる 利用者数トップは「Kindle」〈Appliv TOPICS(2023年9月6日)〉

 調査委託先がジャストシステムなので「Fastask」でしょうか。「利用中の電子書籍サービス」で興味深いのは「ピッコマ」「LINEマンガ」「ジャンプ+」「マガポケ」などのマンガアプリ系が見当たらないこと。マンガ専門のサービスは外したのかと思いきや、100%マンガだけの「まんが王国」が上位にランクインしています。不思議。ちなみに、書いてないんですが、恐らく「複数選択可」です。

 逆に、こちらの調査では1位2位の「Kindleストア」「楽天Kobo」が、MMD研究所のコミックアプリ・サービス調査では「マンガアプリではない」という理由で選択肢から外されているのと好対照です。こっちはこっちで「ebookjapanやコミックシーモアはマンガ以外も扱っているけど、コミックアプリ・サービスとして扱っている」ことになっています。

 そういう意味では、有料・無料とかアプリ・サービスとか問わずあれもこれもぜんぶ選択肢に入れている『電子書籍ビジネス調査報告書』のスタンスはぶれてなくて良いな、と思います。ヘタに区別しようとするほうが不自然になると思うんですよね。

ことしの「阿賀北ノベルジャム」はAI編集者とタッグ!? 新潟の阿賀北地域を舞台にチームで小説完結〈新潟日報デジタルプラス(2023年9月10日)〉

 HON-CF2023の編集セッションは「編集者不要論」がテーマでした。このセッションは、「編集」という大きなテーマ以外はNovelJam部会にお任せ(丸投げ)していたのですが、この次の展開を見据えていたわけですね。なるほど。やるなあ。

 人間の編集者が果たすべき役割はなにか? が、阿賀北ノベルジャムの今回の試みによって浮き彫りになるかもしれません。私見ですが、アシスタントディレクター(雑用)の役割が減って、そのぶん、プロデューサー・ディレクター・アートディレクターの役割が増える形になるのかな、と。

生成AIの急激な進化やSNSの変容とクリエイターやパブリッシャーはどのように向き合えばよいか?【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年9月13日)〉

 恐らく、前述のHON-CF2023編集セッションの議論にも大いに影響を与えたであろう、藤井太洋氏の基調講演とその後のディスカッションのレポートです。設定に不備がないか分析させる(たとえば登場人物の一覧表を作成させる)とか、書いた文章に対し感想をもらう、誤字脱字をチェックする、といった使い方なら有効性が確認できているようですね。

 逆に、ChatGPTの出力を原稿に使わないのは、自分の身を守るためには必須の心がけでしょう。というか、作家生命に関わる問題になりかねません。法律的には問題なくても燃やされてしまうラインの見極めが必要です。まあ、そういうリスクマネジメントも、いずれAIがやってくれるようになるかもしれませんが。

著名SF作家らがまたもOpenAIを提訴、ChatGPTの著作権侵害で〈Forbes JAPAN(2023年9月13日)〉

 学習用データに著作物が無断で使われているかもしれない問題。日本では著作権法第30条の4によってすでに権利制限されていますが、アメリカではそうじゃないのでフェアユースか否かを法廷で争うことになります。

 ただ、違法に流通している海賊版のデータを学習用に用いることは、日本でも「著作権者の利益を不当に害する場合」に該当するかもしれません。つまりこれは「学習用データの中身が明かされていない問題」でもあります。裁判の過程で明らかになるかも?

 この記事への反響がまた興味深い。「SF作家なのに新しい技術へ反発している」といった具合に、皮肉混じりに捉えられてしまっているのですよね。新しい技術が世の中に悪い影響を与えることへの警鐘を鳴らすSF作品だってたくさんあるのに。

スティーブン・キング「著作がAIに学習されても構わない」と語る〈Ledge.ai(2023年9月10日)〉

 そのいっぽうで、大作家からこういう意見も。HON-CF2023規制セッションでも、3人の登壇者はいずれも「自分の著作がAI学習に用いられるのは(基本的に)問題ない」というスタンスでした。私自身も、CC BY-NC-SAで公開している文章が多いですし、おおむね好きにしてどうぞ、ですね。

 ただ、セッションで印象的だったのが、橋本大也氏が「私は、どんどんやっていただいて構わない派」と言いながら「明らかに侵害されたと考えたならばそこで訴える」と条件が付いた点。それはどういう場合か? と尋ねたところ「経済的な利益が侵害されていると考えた場合」とのことでした。つまりたとえば「いま売っている最新の本がそのまま出ている」とか。そりゃそうだ。

 裏を返せば、権利者にも経済的な利益が出るようなやり方であればウェルカムになる可能性が高い、ということでもあるわけですよね。明確に出典が提示され、著作への誘導が図られ、販売促進に繋がっているような場合なら、咎められる可能性は低くなる。ロボット型検索エンジンが多少荒っぽいやり方でも存在が許されたのは、そこから膨大な流入が発生したからだったわけで。

開店意欲減退で書店数減に拍車 大手取次の取引書店推移で開店数減少顕著に〈BookLink(2023年9月15日)〉

 2大取次トーハン・日販のデータ。ゼロ年代までは店舗数が減っても床面積が増えていたことが確認できます。ただし文中にもあるとおり「出版社からの直接仕入れや小規模取次から書籍を仕入れる個人書店などは含まれていない」点には注意が必要です。最近増えていると言われる「独立系」が、勘定に入っていません。

 記事の内容とは別に少し気になったことが。こちらの「BookLink」は、文化通信社が運営する新たなメディアサイト(書店向け情報紙の増刊「B.B.B」を統合)という位置づけなのですが、まったく同じ記事が「文化通信デジタル」側では鍵付きの有料会員限定なのですよね。

 もしかしたら最初のうちだけかもしれませんが、どういう住み分けをしていくんだろう? というのが気になりました。「文化通信デジタル」への導線は存在しないので、純粋にデジタルチラシ配信サービスとしての「BookLink」利用者増を図るのがまずは最優先なのだろう、という印象です。

「ハンチバック」を風化させるな 読書バリアフリーの担い手の思い〈朝日新聞デジタル(2023年9月16日)〉

 長年、読書バリアフリーに取り組んできた、読書工房・成松一郎氏へのインタビュー。「電子書籍を出しただけでは『何とかした』ことにはならない」というご意見には強く首肯します。が、実際のところ、まだそのスタートラインにすら立っていない(紙しか出してない)ところも多いのが現実だったりもします。

 また、地の文なのでこれは記者の方の見解だと思いますが「(リフロー型は)学術論文などでページ数を引用をしたい人にとっては不便だ」とあるんですよね。これは、EPUB AccessibilityのJIS規格ではすでに解決策が提示されている(EPUB Accessibility 1.1 3.4.1 ページ ナビゲーションことを指摘させてもらいます。

 ウチの年鑑「出版ニュースまとめ&コラム」にはすでに改ページ位置と番号がちゃんと埋め込んであるのですが、ビューア側がまだ対応してないケースが大半なので、アピールできないのが現状だったりもします。悔しいけど自分では対処が難しい、今後の課題です。

経済

SNS投稿例で理解するステマ規制(1)景品表示法の場合〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年9月11日)〉

 10月1日から始まるステマ規制について、具体例を挙げた素晴らしい解説。以前、同じWOMマーケティング協議会の山本氏による解説記事をピックアップしたことがありますが(#580)、そこでは「献本」であることを明示しないとステマ規制に引っかかる可能性が高いという指摘もありました。

 「広告朝日」によると「私どもは隔週で300~400冊程度の本をいただいています」なので、新聞の書評欄は基本、出版社からの献本で成り立っているはず。10月1日以降どういう表記になるか注視しておきたいところ。しかも、過去の投稿も規制対象なんですよね。書評を集めている新潮社「BookBang」あたり、どう対処するんだろう?

 関連して、雑協主催の「ステマ規制」セミナーが事前申込760人超というニュースもありました。業界関係者の関心の高まりが感じられます。ギリギリになってやっと当事者意識が……と言うのは野暮でしょうか。

デジタル広告における AI の悪影響。「クリック農場」の拡大を後押し〈DIGIDAY[日本版](2023年9月13日)〉

 生成AIにより、アドフラウド問題の悪化を懸念する声。「以前は人が操作していたクリック農場やインプレッション農場が、(AIによって)賢くなったボットによって強化され、インプレッションを偽造し、広告費を引き寄せる可能性がある」とのこと。「私はロボットではありません」にチェックを入れて判定する「reCAPTCHA」をAIがやすやすと突破できちゃう日が来るんでしょうか?

「生成AI」活用か排除か 悩む米メディア、対応割れる〈日本経済新聞(2023年9月15日)〉

 アメリカのメディア対応まとめ。本編もさることながら、末尾の「Think!」に掲載された福井健策氏のコメントが素晴らしい。かつて、ビデオデッキを敵視した映画業界がソニーを訴えた逸話が紹介されています。ギリギリでソニーが勝訴し、その後の映画業界はビデオソフトの売上で潤った、と。いろいろ示唆的です。

技術

アドビの生成AI「Adobe Firefly」が正式提供開始、商用利用も可能でフォトショやイラレとの連携も〈ケータイ Watch(2023年9月13日)〉

 ついに! クリーンな生成AIであることが売りでもあり、利用頻度は飛躍的に高まるものと思われます。ウェブ版「Adobe Firefly」の出力画像も、従来はダウンロードすると左下へ強制的にロゴが表示されていましたが、正式提供開始以降は消えました。

 少し気になったのが、AI生成であるというメタデータは埋め込まれているはずなんですよね。どこかに。Photoshop最新版でファイル情報を見ても、それらしい記述が見つからない。どうやって調べたらいいんだろう……と思ったら「コンテンツ認証情報」が確認できるウェブサイトがすでにありました。

 ウェブ版「Adobe Firefly」で生成、ダウンロードした画像をコンテンツ認証情報クラウドへアップロードすると、以下のような情報が表示されます。「This image was generated with an AI tool.」とばっちり出てますね。なるほど。

コンテンツ認証情報クラウド

 ただし、日刊出版ニュースまとめのアイキャッチみたいに加工した画像は「コンテンツ認証情報なし」と出てしまいました。なんらかの形でコンテンツ認証情報を添付したものしか判別できないようです。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 9月も中旬になりましたが、まだ真夏日が続いています。エアコンなしでは生活できません。さすがに日が落ちると涼しくなるので夜寝るときは切っているんですが、朝起きるとけっこう汗をかいています。寝ているあいだに熱中症になりそうで怖い(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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