「小説投稿サイトの変貌」「図書館で書籍販売の実証実験」「X(旧Twitter)からの脱出」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #642(2024年11月10日~16日)

おさむ書房
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 2024年11月10日~16日は「小説投稿サイトの変貌」「図書館で書籍販売の実証実験」「X(旧Twitter)からの脱出」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

偽広告の削除状況、Xなど非公開 総務省「不十分」評価〈日本経済新聞(2024年11月11日)〉

 総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」の「デジタル広告ワーキンググループ(第3回)」で、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」への対応に関する事業者ヒアリングの総括(案)資料が公開されています。

 これまで、Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、X(旧Twitter)へのヒアリングが行われてきました。とくにMetaやX(旧Twitter)は、無回答の箇所が目に付きます。日本政府、なめられてますね。ちなみに今後のスケジュールは、年度末までに「広告関連団体ヒアリング」「広告主・消費者の意識調査」が行われたのち「広告主等ガイドライン等」が公表される予定です。それでもダメなら次は法制化、ということになるのかな。

OpenAIが独立系メディアとの裁判に1勝。しかし著作権をめぐる戦いは終わらない〈WIRED.jp(2024年11月12日)〉

Two news outlets lose copyright claim against OpenAI over scraping of content(2つの報道機関がコンテンツのスクレイピングをめぐりOpenAIに対する著作権侵害訴訟で敗訴)〈Press Gazette(2024年11月11日)〉

 OpenAIが勝訴した理由は、原告に当事者適格がないからとのこと。つまり、メディア側が「認識可能な損害」を主張できていないというのです。フェアユース4番目の要件(Effect upon work’s value)かな? と思ったのですが、この裁判ではフェアユースか否かの判断はしていないようです。

 Press Gazetteによると、判事は“However the judge said they did not meet the threshold of Article III standing – which in US law requires concrete injury even in the context of a statutory violation.(米国法では法令違反の場合でも具体的な損害が必要となる第3条の訴訟適格の基準を満たしていない)”と述べているそうです。なるほどなあ。

「作家、装丁家、編集者の思いがこもった」本の表紙を一覧できる店づくり コーチャンフォー〈経済産業省 METI Journal ONLINE(2024年11月15日)〉

 経済産業省「METI Journal ONLINE」の「今どきの本屋のはなし」が、毎週更新されています。やるなあ。経済産業省のメディアだから「政治」ジャンルに入れましたけど、今回はふつうにコーチャンフォーを紹介している記事だから扱いに迷います。

 ただ、後半の「図書館の問題」のところは、政治的要素が強くなっていますね。コーチャンフォーの方が、新刊の発売から一定期間は図書館で貸出できないようにして欲しいと要望しています。いわゆる「Delayed Sale Model」です。ヘタをするとこれが義務化されちゃうかも? いいのか? それで。

社会

AIに仕事を奪われそうなライターが、AI研究者にとことん聞いてみた〈ギズモード・ジャパン(2024年11月9日)〉

 ああ、やはり「(AIが)私のようなライターの仕事を奪う可能性」を心配する声、挙がりますよね。それを見越して「HON-CF2024」基調講演Ⅰでは佐藤友美氏に「人間の書いた文章なのか? と問われる時代に」を演題に提案したのでありました。書くことについて、AIと人間の違いを明確化いただいています。そこでは「取材」が挙げられていました。こういうインタビューができる方なら、いまのところAIに仕事を奪われる心配はないと思いますよ。

ネットの「炎上」、実際に書き込んでるのはたった0.5%「2万人のうち100人程度」だった…《実証研究》でわかった「炎上」に参加している人たちの「正体」(週刊現代)〈現代ビジネス | 講談社(2024年11月10日)〉

 なんだか「たった0.5%」という記述に既視感があったので改めて調べてみたんですが、田中辰雄氏・山口真一氏の共著『ネット炎上の研究』(勁草書房・2016年)や、山口真一氏の著書『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版・2018年)のキャッチコピーでした。

 記事にはいつの研究成果かが書かれていませんが、つまりこれは2015年くらいまでの研究成果ですよね。本の出版時点から考えてもすでに6~8年以上前の話です。それをいま「徹底取材」で「わかった」と記事にするのって、どうなんだ? と思ってしまいました。まあ、じつに週刊誌らしい煽り見出しではあります。

 そもそも、この「実際に書き込んでるのはたった0.5%」という状況って、いまでも同じなのでしょうか? Twitter(現X)のタイムラインにアルゴリズムが導入されたのは2016年2月からです。以降、アルゴリズムによって、拡散のされ方は大きく変わりました。燃え広がり方も大きく変わったように思います。

 また、SNSの利用者も以前より増えています。書き込む人が以前より増えていても不思議ではないでしょう。そろそろ研究のアップデートが必要ではないでしょうか。

全国学校図書館協議会、「第69回学校読書調査」(2024年)の結果を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年11月12日)〉

 毎年恒例の調査。今回は、とくに中学生の不読率が急増している点が目を引きます。2023年の13.1%から2024年には23.4%と、10.3ポイントも増えているので、さすがにこれは誤差の範疇を超えています。なにが要因だろう?

経済

図書館で本を販売する実証実験へ 児童生徒や高齢者が手軽に購入〈共同通信(2024年11月6日)〉

 うっかりしていて前回取り上げるのを忘れていました。図書館流通センターと日販のタッグで、図書館で本を販売する実証実験が来年度にもスタートするそうです。最後に書いてある「書籍は、地元に書店がある場合はそこから仕入れる方針。」が最大のポイントでしょう。

 なんかこれ既視感があると思ったら、先日、文化通信に掲載されていたTRC社長・谷一文子と日本書店商業組合連合会理事・高島瑞雄氏の対談記事で「地域書店からTRCと連携したいと声が上がったら対応できますか」という問いかけがあったばかりでした。

 動き素早いな! と思ったのですが、直後の図書館総合展でブース展示をやって、11月7日にはトークイベントもあったなら、対談の時点ですでに大枠は固まっていたと考えたほうがよさそうです。HON․jpのFacebookグループでご指摘いただきました(感謝!)

 しかし、図書館総合展、行きたかったなあ……この週は、NovelJamの残務処理と原稿の締切に追われ、7日は大学で授業があるから無理でした。とほほ。

「梨泰院クラス」6ヶ月間で6万部販売 現地コミックス販売量対比5倍水準 「驚異的なうわさ」など5種13万部突破 出版市場の割合が90%に達する米国をターゲットに ウェブコミック·ウェブ小説のIPをドラマ·本にまで拡大〈MK(2024年11月10日)〉

 北米でウェブトゥーンの単行本(紙)が飛ぶように売れているそうです。えーっと、結局、紙が売れているというのは、日本で10年前に「comico」が通った道ですよね。縦スクロール向けに制作したデジタルコンテンツを、ページ単位に落とし込むための制作コストが余計にかかってしまう問題が、必然的に発生するわけです。恐らくそんなことは、やってる当事者が一番よく分かっていることだとも思いますが。

小説投稿サイトは8年前とどう変わったか? 「小説家になろう」「カクヨム」「エブリスタ」に聞く【HON-CF2024レポート】〈(2024年11月12日)〉

 出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。根掘り葉掘りいろいろお聞きして、数字も明らかにしてもらってます。サービス間で比較するのも、過去の数値と比べるのも、興味深いです。バズった「小出版」のレポートと同じくらい大勢に読まれています。

技術

ワコム、イラストと作者を紐づける新技術を開発 なりすまし問題の解決となるか〈KAI-YOU(2024年11月14日)〉

 ワコムのタブレットと、「CLIP STUDIO PAINT」や「Adobe Photoshop CC」などのアプリを連携させて、出力した画像にマイクロマークを埋め込む技術とのこと。「著者と作品の関係をブロックチェーン技術を活用し記録」とのことですが、「Wacom Yuify」のサイトを見てもブロックチェーンの詳細については書かれていませんでした。オープン型なら明かすでしょうから、クローズド型かな?

幻冬舎コミックス、Xへの画像投稿は「AI学習阻害・ウォーターマーク付き」で 11月15日の規約変更を理由に〈ITmedia NEWS(2024年11月14日)〉

 うーん……今回の規約変更は「AI学習のため」と明記したに過ぎず、以前から学習用にも使える規約になっていたんですよね。というか規約の履歴を見ると、Version 2(2009年9月10日)の時点からすでに以下のような記述になっています。

Your Rights
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あなたの権利
お客様は、本サービスを通じて送信、投稿、または表示するコンテンツに対する権利を保持します。本サービスを通じてコン​​テンツを送信、投稿、または表示することにより、お客様は当社に対し、あらゆるメディアまたは配信方法(現在既知または今後開発されるもの)で当該コンテンツを使用、コピー、複製、処理、適応、変更、公開、送信、表示、および配信するための、世界的、非独占的、ロイヤリティフリーのライセンス(再許諾権を含む)を付与するものとします。

 そして、今年の春に公開されたxAIの生成AI「Grok」は、X(旧Twitter)の全投稿データをリアルタイムに学習しています。つまり、もちろん過去の投稿は、もうとっくに学習済みです。いまから投稿を削除しても、学習への対策としては手遅れです。ただ、削除以降の再利用は防げますし、「学習されたくない」という意思表示にはなるので、意味がないとは言いません。

 むしろ問題となるのは「今後の投稿」についてでしょう。とくに、著作者のコンテンツを預かって投稿する機会がある出版社の立場としては、対策を考えざるを得ません。そういう意味で言うと、オプトアウトの設定について言及されていないのがちょっと不思議です。[設定]→[プライバシーと安全]→[Grok]が初期設定のままだとオンになっているので、オフにすればいいはずなんですよね。

 ただ、この設定についての日本語の説明がなんだか変(誤訳?)なので、「もしかしたら設定をオンにしても投稿が学習対象になってしまうかもしれない」という噂が飛び交っています。その予防のために……ということなら、理解はできます。

 英語の説明は“Allow your posts as well as your interactions, inputs, and results with Grok to be used for training and fine-tuning.(Grokとのやり取り、入力、結果だけでなく、投稿もトレーニングや微調整に使用できるようにします)”なので、素直に投稿を学習対象から除外する設定だと思うのですよね。

 もし「いや、Xが信用できない」って話なら、無理して使わなければいいのにと思うのですが。ちなみに私の個人アカウントは、2023年4月中旬以降、新たな投稿はしていません(閲覧はしています)。

Xの規約変更にともなう懸念について弁護士・桶田大介氏が見解を発表〈電ファミニコゲーマー(2024年11月15日)〉

 弁護士・桶田大介氏は、私と同じ見解でした。懸念①「Xに投稿したイラストや画像は、投稿者の意思に関わりなくAIの学習に利用できることになる」については、「現行規約のままでも、X社はXに投稿されたコンテンツについて、本懸念①に該当する利用を行うことはできたと考えられます」と書かれています。

 また、懸念②「生成AIで自分の画風を模倣したイラストや画像が勝手に作られることに歯止めがかけられなくなってしまう」についても、私も同感です。文化庁が「狙い撃ちLoRA」は「享受目的」が併存すると評価される可能性がある(つまり著作権法第30条の4の適用対象外となる)と解説している通り、こっちは開発者にとってかなり「危ない橋」です。

Bluesky、「ユーザーデータをAIのトレーニングに使わない」宣言〈ITmedia NEWS(2024年11月16日)〉

 まあ、それでもこういう宣言が、生成AIを嫌う人へのアピールになってしまうのですよね。Bluesky自身が使わないのは本当だとしても、第三者が勝手に取得して学習用に使ってしまうのは防げませんよ。

米SNSに党派色 Xに反発、新興Blueskyに選挙後100万人〈日本経済新聞(2024年11月15日)〉

英有力紙 Xへの記事投稿取りやめへ“有害なプラットフォーム” | イギリス〈NHK(2024年11月14日)〉

 イーロン・マスク氏がトランプ次期大統領の支援にX(旧Twitter)を活用したことや、政府の支出削減の検討組織トップに起用すると発表されたことへの強い反発が起きています。日本でも、前掲の規約変更の関係もあり、けっこうな勢いでXodus(エクソダス:Xからの脱出)が起きているようです。実はHON.jp News BlogのBluesky公式アカウントも、ここ数日でけっこうフォロワーが増えました。

米メタの「スレッズ」、来年初に広告導入=報道〈ロイター(2024年11月14日)〉

 で、X(旧Twitter)から大量脱出・移籍が起きているこのタイミングでこれ。まあ、X(旧Twitter)と同程度の広告なら許容されるでしょうから、機を見るに敏なのでしょう。広告そのものを嫌っている人からすると、最高にタイミングが悪いわけですが。ThreadsのBluesky公式アカウントがすかさず“this is one feature we do not have plans to ship(これは、我々が出荷する予定のない機能の1つである)”とアピールしていたのには笑ってしまいました。

お知らせ

「NovelJam 2024」について

11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。

HON.jp「Readers」について

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 12月1日の文学フリマ東京に、HON․jpとして初出店します。ブース位置はI-49〜50、カテゴリは評論・研究[メディア]です。新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』の編集制作が、印刷発注の締切に間に合いました! NovelJam 2024から生まれたばかりの作品16点とともに販売します。当日、東京ビッグサイトでお待ちしています!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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