人間が書いたような文章を出力するAIが登場した時代に、生身の人間が書くことの意味【HON-CF2024レポート】

佐藤友美氏
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 HON.jpが9月6日に都内で開催したオープンカンファレンス「HON-CF2024」基調講演の様子を、出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。

ライターに一番近いのは“翻訳家”

 基調講演はライター・エッセイストの佐藤友美氏が行った。「人間の書いた文章なのか? と問われる時代に」を演題に、書くことがAIと人間ではどのように違うことなのか、生身の人間として生きるライターが書く意味はどこあるのか、これまでの自身の経験から語った。

 佐藤氏は、テレビ業界を経て15年ほどヘアスタイルの原稿を書くことからライターとしてのキャリアをスタート。ただ、「60、70歳になってもファッション誌で書けるイメージがなかった」ため、30代中頃からブックライターに転向。現在主宰するさとゆみビジネスライティングゼミは9期を迎え180人ほどが卒業した。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長も務め、『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『本を出したい』(同)などの著書がある。

人間とAIの違いはどこにある?

人間とAIの違いはどこにある? 佐藤氏は書くことについてAIと人間の違いを①取材の存在、②書きながら考える、③いつ誰が書いたか、④アナログをデジタルにできるかの4点を挙げた。

 まず、ライターの職業に一番近いのは作家や小説家ではなく「翻訳家」であるという。一般的に翻訳家は他言語から他言語に訳する職業だが、ライターは「日本語を日本語に翻訳する仕事」。そのために「翻訳の原文にあたる素材を取材相手、紹介したい場所・商品からとってくることが私たちの仕事の8割」。AIに「素材を食わせる」という言葉を聞くようになったが、ライターがその元となる素材を自ら入手することは「今のところAIにできない」と述べた。

 ②の「書きながら考える」は、ある程度以上長い文章を書いたことがある人が経験することの一つで、人間は「書く前に最終的に(どのような結論になるか)わかっていない」。佐藤氏自身、自著の原稿を元になる原稿を10万字書いた後に思ったのは「(読者には)すごく役に立つ気はするけど、私自身がつまらないと思った」。理由は「自分が知っていることばかり書いている」から。

 そこで原稿の全面的な書き直しを決意。自分が考えたことがないことを考えよう、これまで手が届かなかったところに届くまで書いてみようと新たな問いをもって、大幅に改稿していくと、文章を書くことが面白くなり理解をさらに深めることにつながった。1冊の本を書くことを通じて「書く前と書いた後は違う人間になる」という佐藤氏の言葉は、書く行為が新たな思考や観点を生み出す行為につながることを示唆している。

 ③で佐藤氏が述べた「AIは生老病死がない」の見方も生身のライターの意義を再発見させる。佐藤氏は一例として音楽家・坂本龍一氏が亡くなった後に、SNS上で受け手が自らの人生や、坂本氏自身の創作の歴史と重ねて振り返ったりするのをみて、AIと違って人間は個々人が「時系列や意味合いを変えて読んでいる」ことに気づいた。ゆえに、ライターとしては「誰がいつ、なぜそう書いたのか今まで以上に問われる。そこを意識して書いていかなければならない時代になった」。その時、書籍は「なぜこの本を書くことにしたのかを自己開示できるだけの文字数がある」がゆえに「迂回した物語が書けるのも書籍の面白さ」とも付け加えた。

「書くこと、聞くことは生きる態度を指している気がする」

佐藤友美氏 ライターとしての技術論として、筆者が印象に残ったのは書くことに臨む佐藤氏の姿勢だ。ライタースクール生らには、「インタビューするときもエッセイを書くときも、とにかく目をいっぱいに広げて耳をでっかく広げて鼻の穴を大きくして毛穴全部開いて、なるべくいろんなノンバーバル(非言語的)な情報をいっぱいとってくる」ことをアドバイスしているという。「その場の空気感」は、取材したライターが一番近くで体感していることだが、語られたことを聞くことばかりに集中すると見過ごされがちなことだ。「書くこと、聞くことは生きる態度を指している気がする」という佐藤氏の言葉は、ライターという職業の存在価値を明確に言い表しているように聞こえた。

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著者について

About 成相裕幸 20 Articles
1984年いわき市生。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、「週刊エコノミスト」編集部を経てフリーランス。会社四季報記者として出版社、書店を担当。
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