「Googleに野良アプリの削除を命じる裁判所」「Apple“気をそらす項目を非表示”機能とウェブ広告」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #636(2024年9月22日~28日)

ブックスオオトリ
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 2024年9月22日~28日は「Googleに野良アプリの削除を命じる裁判所」「Apple“気をそらす項目を非表示”機能とウェブ広告」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

Court Orders Google to Uninstall Pirate IPTV App Sideloaded on Android Devices((アルゼンチンの)裁判所がグーグルに対し、アンドロイドデバイスにサイドロードされた海賊版IPTVアプリを「アンインストール」するよう命令)〈TorrentFreak(2024年9月23日)〉

 Google Playで公式配信されているアプリではなく、いわゆる「野良アプリ」を削除しろという、ちょっと驚くような裁判所命令。OSのアップデートができるんだから、やろうと思えばできるだろ? というロジックのようです。

 恐らく技術的には可能でしょうけど、とんでもない労力がかかりそうな気がします。また、ひとたび「できる」となったら、GoogleだけでなくMicrosoft(Windows)やApple(Mac)に対しても各国から同様の命令が飛んでいって、すさまじく面倒なことになりそう。

 ちなみに、この記事をFacebookページでシェアしたら、アルゴリズムにより自動削除されました。しかもその理由が「他の人の著作権を侵害するコンテンツをシェア」したというもの。あの、どのへんが著作権侵害か説明してもらっていいですかね?

 「繰り返し違反すると、アカウントがさらに制限される可能性」などと警告されているので意義申し立てをしようとしたら、「コミュニティ規定違反」で削除された場合とフローが異なり、なぜかフォームにメールアドレスの入力を要求されたり、届いたメールに返信しろと言われたりと、格段に面倒なことに。

 そのうえ、フォームへ入力・送信した直後に、なぜか「あなたのアカウントに不審なアクティビティがありました」と私個人のアカウントがロックされる始末。アルゴリズムがポンコツすぎる。こちらは比較的すぐ復旧できましたが、意義申し立てへの返答はいまのところありません。

AI企業と大手出版社のライセンス契約はたぶんマズい(Licensing Deals Between AI Companies and Large Publishers are Probably Bad 日本語訳)〈YAMDAS Project(2024年9月25日)〉

 AI開発事業者がパブリッシャーのコンテンツをAI学習に使うためライセンス契約を結びつつありますが、そうなるとAI学習がフェアユースとして認められづらくなってしまうのではないか? という危惧です。そうなると、AI技術がライセンス料を支払える超大手だけのものになってしまうのではないか? と。これは、フェアユースという独自の規定がある、アメリカ特有の話と言っていいでしょう。日本の場合、著作権法第30条の4があるからAI学習は基本的に合法なんですよね。

 ちなみにこの著作権法第30条の4を含めた「柔軟な権利制限規定」ができたのは、TPP11により「保護期間の延長」と「一部非親告罪化」などの権利保護強化が動いていたタイミングでした。私は当時、保護期間の延長が決まってしまい悔しく思うのと同時に、その代わりにこういう権利制限を設けることになったのだなと自分を納得させていた記憶があります。だから当時の解説記事の最後にも、わざわざ「(権利保護強化と権利制限規定が)ほぼ同時に施行されるのは、まさにこの『バランス』という観点からなのでしょう。」と記したんです。

石破茂氏・リーダーの本棚 本質は何か、突き詰める〈日本経済新聞(2024年9月27日)〉

 政局にはあまり関心がないのですが、ちょっと面白い動きだなと思ったのでピックアップしておきます。この記事、石破茂氏が自由民主党の総裁になった直後に公開されているのですが、冒頭には以下のようなことが書いてあります。

2014年10月19日付の日本経済新聞朝刊に掲載した記事を再掲します。

 つまり、石破氏が総裁になってすぐこの記事を掘り出してきて、再掲しているわけです。素早い。日経、さすがだなあ……と思いつつ、長年干されていた石破氏だけに、こういう記事が2014年まで遡らないとなかったのか、という複雑な思いも。

 ちなみに挙げられている本についてざっと調べてみましたが、けっこう電子化されていて驚きました。つまり10年以上前の本だけど、電子書店なら「いまでもすぐ買える」わけです。こういう突発的事象が起きたとき、「在庫」の概念がない電子は強い。

永久に利用できないデジタルコンテンツには「購入」ボタンを付けてはならない法律がカリフォルニア州で制定される〈GIGAZINE(2024年9月27日)〉

 これは興味深い。日本もこうしなきゃ、みたいな反響の声が多数観測できます。いずれ日本にも波及するでしょうか? 2012年「Raboo」の終了以降、電子書店のサービス終了で利用できなくなる問題が発生しそうなときには、これまで購入した額をポイントで還元したり、他の企業へ継承して存続させたりと、各社なるべくソフトランディングさせる方向で動いてきた印象があります。

 つまり、騒ぎにはなるけど、実害はそれほど大きくない感じなんですよね。だから日本ではいまのところ「立法事実」がないとされる可能性が高そうな気がします。もちろん、仮にこれからどこか大手がサービス終了となったとき、利用者救済をまったく行わず大問題になるような事件が起きれば、話は別ですが。そういうトリガーを引いてしまうのは、日本企業ではなく、外資だろうなあ。たぶん。

社会

「推し、燃ゆ」宇佐見りん氏、デビュー作映画化での“改変”に「何度言ってもつきかえされ…」 – 芸能〈日刊スポーツ(2024年9月25日)〉

 『セクシー田中さん』事件がまだ記憶に新しいというのに、似たような原作改変問題がまた勃発しています。ただ、今回は原作者側からの一方的な暴露で、いまのところ映像化した側の反論も出ていないようなので、この段階でなにか断定するのは禁物でしょう。ちなみに、ニュースになった直後に、宇佐見りん氏はX(旧Wtitter)アカウントに鍵をかけてしまいました。恐らく周囲からいろいろ言われたでしょうし、心ない声が飛んでくる可能性もありますから、自分の身を守る意味でも賢明な対応かも。

人間が書いたような文章を出力するAIが登場した時代に、生身の人間が書くことの意味【HON-CF2024レポート】〈HON.jp News Blog(2024年9月26日)〉

伝統的出版市場が縮小する中、書き手はどのようにしたら生き残っていけるだろうか?【HON-CF2024レポート】〈HON.jp News Blog(2024年9月26日)〉

 出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。当日の空気感が伝わってくるような、素晴らしいレポートになっていると思います。昨年同様、他のセッションについてもレポートをお願いしています。お楽しみに!

経済

「漫画ビジネス」は誰向けの本?〈菊池健(2024年9月23日)〉

メインのターゲットは、このマンガ業界に入ったばかりの人、これから入る人、ビジネス的に新規ビジネス、投資や採用・就活、各種流通やDX分野、アニメやゲームなどIP展開周辺で関わる方など、新参か外縁的な観点で関わっている人に向けて、導入書となるべく書きました。

 というわけで私は恐らくターゲット外なのですが、初の単著を上梓されたことに敬意を込め、保管用と閲覧用の意味で紙と電子の両方を購入・拝読しました。ちばてつや氏の言葉「裾野広ければ頂き高し」と、菊池氏の言葉「非合理がゆえの合理」は、金言。きっと狙い通り「導入書」や「教本」として活用されることになる一冊でしょう。学生向けにも良いと思い、勤め先の大学図書館にも購入リクエストしておきました。それにつけても、文字もの市場とは大違い……。

市場規模は1.6兆元以上!活況を呈する中国のデジタル出版産業–人民網日本語版〈人民日報(2024年9月23日)〉

 毎年言っているような気がしますが、中国の「デジタル出版産業」統計にはアニメやゲームも含まれている点に注意が必要です。日本の電子出版市場とそのまま比較はできません。詳細は、馬場公彦氏に寄稿いただいた「中国電子出版事情――巨大な市場規模、だが電子書籍ビジネスはこれから」をご参照ください。

「FANZA動画」でもPayPay決済可能に クレカ規制受けた「同人」などにも対応〈ITmedia NEWS(2024年9月25日)〉

DMM、PayPayで支払える領域を拡大〈Impress Watch(2024年9月25日)〉

PayPay、「YouTube」で使えるように〈ケータイ Watch(2024年9月25日)〉

スクエア、楽天ペイやPayPayなどQRコード7種に対応〈日本経済新聞(2024年9月25日)〉

楽天ペイメント/実店舗向け決済サービスにPayPay・d払いなど追加、65種の決済に対応〈流通ニュース〉

 これらすべてがほぼ同時に発表されているのですから恐れいります。Square決済はうちでも導入してますから、試しに申し込んでみました。文学フリマに間に合うかな。 

「魔法のiらんど」が「カクヨム」と合併、25年3月末〈ケータイ Watch(2024年9月26日)〉

 ちょっと想定外だったので、リリースを見て思わず「ぐぇっ」という声が出ました。「恋空」がヒットし、いわゆる「ケータイ小説」ブームを生み出した老舗がついに。2020年に小説投稿に特化したサイトへリニューアルしたとき、「カクヨム」とはターゲットが違うから別々のまま行くのかな? と解釈していたのですが……そうか、統合しちゃうんですね。バックエンドはどちらも「はてな」ですから、エクスポート・インポートはそれほど難しくないのかな? maho.jp ドメインはどうするつもりだろう?

技術

アップルの「気をそらす項目を非表示」から感じるウェブ広告への危機感〈HON.jp News Blog(2024年9月23日)〉

 たまたまX(旧Twitter)を開いたら、フリージャーナリスト・西田宗千佳氏がSafariの新機能「気を逸らす項目を非表示」について「記事を書こうと思ったが各メディアからあんまり歓迎されなかった」と愚痴をこぼしていたので、速攻で「うちなら大歓迎ですよ!」とDMを送り、寄稿いただきました。振替休日の公開ですが、すさまじく読まれています。

 あとから知ったのですが、私と同じように原稿を打診したメディアは複数あったようです。たまたま私が一番早かったみたい。運が良かった。まあ、HON.jp News Blogは運用型広告を2020年時点で止めていますから、こういうネタを載せても堂々としていられるという意味でも良かったと思っています。こういうネタ、うちなら大歓迎です。

 仮に、本文中に邪魔な広告がザクザク挿入されたり、ページ遷移しようと思ったら全画面広告が出たりするようなメディアだったら、このコラムを載せるのは皮肉にしかならないでしょう。「お前が言うな」というツッコミが殺到していたはず。

 でも逆に、HON.jp News Blogの広告がそれほど多くない(というかいまは自社広告しか入ってない)点について言及している人は、数名だけでした。ページ分割もなく、読んでる途中で邪魔される広告もない――という「かつては当たり前だった体験」の価値は、意外と伝わりづらいものなのかもしれません。

お知らせ

「NovelJam 2024」参加者募集中!

 3年ぶりの出版創作イベント「NovelJam 2024」は、11月2日~4日に東京・新潟・沖縄の3拠点で同時開催! ただいま参加者募集中です!

「NovelJam 2024」クラファン実施中!

 11月2日~4日に開催するライブパブリッシングイベント「NovelJam 2024」は、東京・新潟・沖縄の3拠点で同時に行う新たなチャレンジ! クラウドファンディングでのご支援よろしくお願いします!

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 今年もやります! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は9月6日(金)~8日(日)の開催です。詳細・チケット購入はこちらのURLから!

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日刊出版ニュースまとめ

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https://hon.jp/news/daily-news-summary

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雑記

 先週の大学の授業は「出版ビジネスの現在と課題」の回でした。「紙雑誌の急減」「紙書籍の緩やかな減少」あたりの現状を説明したところ、コメントシートに「なぜ紙雑誌は紙書籍と比べここまで減少したのか?」という趣旨の質問が。その「なぜ」が、どこまで検証できていたんだろうか? と良い意味で考え込んでしまいました。実に良い質問。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 817 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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