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AppleのiOS 18 / iPadOS 18 / macOS Sequoiaの純正ブラウザ「Safari」に搭載された「気を逸らす項目を非表示(Hide Distracting Item)」とは、どんな新機能なのでしょうか? 「記事を書こうと思ったが各メディアからあんまり歓迎されなかった」と愚痴をこぼしているフリージャーナリスト・西田宗千佳氏に「うちは大歓迎です!」とお願いして寄稿いただきました。
【目次】
ウェブ広告の在り方をいまこそ真剣に考え直すべき時
アップルは9月に公開した新OS「iOS 18」「iPadOS 18」「macOS Sequoia」で、同社純正ウェブブラウザーである「Safari」に「気をそらす項目を非表示(Distraction Control)」という機能を搭載した。
簡単に言えば、ウェブサイトから広告など「ウェブを読む上で邪魔になる表示」を非表示にする機能である。
機能の詳細は異なるものの、方向性としては「広告ブロッカー」に近い特性を持つ。
この機能の意味を少し考えてみよう。
アップルがSafariに「広告を消せる」機能を搭載
「気をそらす項目を非表示」とはどんな機能か? 文章で説明するより、映像で見てもらった方がわかりやすいだろう。以下が、機能を使った場合の動画だ。
ウェブに含まれる一部分をタップして選択すると、そこが砂のようになって消える。そして、元のウェブからはその部分が見えなくなっている。
指定は複数可能だ。また、ウェブを表示する際にまず広告を見ることを促す、ある種の「ふた」のような形式のものや、動画広告なども消せる。
設定はSafari側が一定期間覚えているので、次に同じウェブへとアクセスした際には、自分で消した部分は表示されない。
機能を呼び出すにはアドレス欄の左にあるアイコンをクリック(タップ)する。自動ですべてが動くわけではなく、「自分が機能を使うことを選んで、自分が邪魔だと思ったところを消す設定をする」ものになっている。
なお、この機能は「Safari」アプリで使えるものであり、同じブラウザーコアを使っているエンベデッドブラウザー(例えばXなどのSNSアプリから呼び出されるウェブ機能)では使えない。
「気をそらす項目を非表示」は広告ブロッカーではない
では「気をそらす項目を非表示」は広告ブロッカーそのものなのか?
アップルの定義ではノーであるし、筆者も「ちょっと違う」と考える。
理由は複数ある。
1つ目は、前述のように「消す部分は自分で決める」という点。広告を自動判別しているわけではなく、広告でない部分でも消せる。
例えばCookieに関する告知・警告が邪魔だと思えばそれも消せるし、別の記事を紹介する左右のリンクなども消せる。それどころか本文だって消せる。
自分で機能を呼び出し、自分で消したいものを選ぶという建て付けである以上、自動的に働く広告ブロッカーとイコール、というわけではない。
2つ目は影響範囲の問題。
「気をそらす項目を非表示」は、文字通り、特定の項目を非表示にする機能だ。
仮に広告を非表示にしたとしても、あくまで非表示になるだけで、広告の読み込み自体は行われている。
要はインプレッション(imp)は発生するが、表示されていないのでCTR(クリックスルーレート)は下がる、という形になるわけだ。
また、設定したら永続的に広告が表示されない、というわけではない。ウェブの構成が変わったり、広告の表示方法が少し変わったりするだけで、新たにその部分に広告などが表示されることになる。
全員が使うわけでもなく、ずっと完全に広告が消えるわけでもなく、広告のログ上は表示された扱い。そういう形の機能なので、短期的にウェブ広告に大きな影響がある、と考えるのは難しいだろう。
3つ目は精度の問題。
広告を識別して狙い撃ちにするわけでもなく、広告のトラフィックを止めてしまうわけでもないので、消せない場合も多々ある。「広告を見えなくする機能としては機能しない」わけではないが、「100%広告が消える」機能でもない。
「プラットフォーマー」が広告ブロックを考える意味を重く受け止めよ
アップル自体もこの機能を強く売りとしているわけではなく、少し姿勢が引けているようにも思う。
「アップルがiOS 18で純正の広告ブロッカーをSafariに搭載する」という噂は、今年の春には聞こえてきていた。その頃は詳細が不明であったことからか、いわゆる広告ブロッカーと同じものが搭載される……という伝え方もあったように思う。
ただ、結局アップルは「広告ブロッカー」としての搭載はせず、自社OSのベータ版が開発者向けに公開される中で、そっと機能搭載を行った。
アップルもこの機能を強くは推していない。自社のページでiOS 18とSafariの新機能を紹介しているが、その中に「気をそらす項目を非表示」は含まれていない。一切紹介されていないかどうかまでは確認できていないが、少なくとも「イチオシの新機能」という扱いでないのは間違いない。
これは予測に過ぎないが、アップルとしてもウェブメディアと正面からぶつかりたいわけではないのだ。
ただそれでも、特にスマホ上のウェブは広告にまみれ、極めて読みづらい状態になっている。自ら広告ブロッカーを入れる人が増えているのも間違いない。詐欺的な広告から身を守る、という目的で広告ブロッカーを導入する人々もいる。
その中でアップルとしては、ユーザーがウェブを使いやすくする機能として、広告ブロッカー「的」な機能の搭載を考えなければいけなくなった……ということなのだろう。
そうした意識と広告に頼るウェブのあり方は、単純に優先度を決められる問題ではない。
そんな流れだと考えると、アップルが「広告への影響はより小さいものにとどめながら、知っている人は便利に使う」という落とし所を選んだ理由もわかる。
だが、ここで考えるべきは、「大手OSプラットフォーマーが、広告ブロッカー的機能の搭載を考えるまでに、ウェブと広告に対するヘイトが溜まっている」という点だ。
さらに状況がひどくなれば、「もっと精度が高くて自動的に働く機能」を導入してくる可能性がある。
広告への影響が出にくい機能であるとはいえ、結局広告を見せていないわけだから、利用者が激増すれば当然、広告効果への影響はあるだろう。
そもそも、「表示されていないがあまり広告運営に影響しない」のだとすれば、その広告に意味はあるのだろうか?
隙間産業として広告ブロッカーが存在するのではなく、OSプラットフォーマーが類似機能を導入するまでに至っているということを、ウェブメディアやアドネットワークはもっと重く捉えるべきではないか。収益性の課題はよくわかるが、広告価値や見せ方について、真剣に考え直すべき時だ。