オリジナル作品のIPビジネス展開に乗り出す中国動漫――中国動漫産業の実態と動向(後編)

馬場公彦の中文圏出版事情解説

快看漫画
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 中国のアニメや漫画は、いまどのような状況にあるのでしょうか? 北京大学・馬場公彦氏によるレポート、後編です。前編はこちら

中国アニメの豊かな伝統

 中国の国産アニメの歴史は古い。1922年に最初の作品が製作されたというから、1928年のミッキーマウスより早い。1941年には『西遊記』に題材を取った『鉄扇公主』が製作され、1943年当時に日本で公開された本作品を観た手塚治虫に、医学への道を止めてアニメ創作を決意させたという。併映されたのがディズニー映画の『白雪姫』だった[4]

 筆者ははじめて『牧笛』(1963年公開)という20分ほどの作品を観たとき、新鮮な感動を覚えた。水牛に乗って笛を吹く少年を主人公に農村ののどかな風景が描かれていて、動く水墨画というのを初めて眼にしたからである。ほかにも中国の伝統芸術である「剪紙(切り絵)」や人形を使ったアニメ作品もあった。1979年には『哪吒闹海ヌージャナオハイ(ナーザの大暴れ)』という長編アニメも製作された。

 その後も中国国産アニメは数多く制作されたが、はかばかしい実績にはつながらなかった。その原因について、6~12歳の児童向けに製作され、内容が幼稚であるために、日本アニメで眼の肥えたアニメファンを惹きつけなかったためだという[5]
 

飛躍する中国アニメ

 飛躍への転機は2013年に訪れた。きっかけは1978年の改革開放政策により1980年代初頭から日本アニメが放映されるようになり、制作者と視聴者がよい刺激を受け、青少年をターゲットにした作品制作に乗り出したこと。そして、携帯アプリにアニメコンテンツを搭載できるような政策が文化部から打ち出されたことだった。2012年のアニメ産業の総売上高は759.94億元(1兆2033億円)で前年比22.23%増、2013年は前年比34%増であった。

 いまや中国アニメは質・量とも急成長を遂げつつある。制作者側からすると、ハリウッド映画はじめ、日本・韓国アニメの影響を受けつつ、制作側の技能は向上している。人材は豊富だ。確かに作品にみる画力には、安彦良和の再来かと思わせるほどのレベルに達しているものもあり、これからが楽しみである。
 

海外戦略・IP経営に乗り出す

 2017年に中国共産党中央は「中華民族の優秀な伝統文化を継承し発展させる」方針のもと、中国の伝統的な古典や伝説を題材にしたアニメ作品の海外輸出を推進する政策を打ち出した。『大聖帰来』(2015年)、『大魚海棠』(2016年)、『風語咒』(2018年)、『白蛇:縁起』(2019年)などはこの政策に応えて、『西遊記』『山海経』などの古典から題材を得て製作されたものである[6]

 アニメ制作企業の側も、コンピュータで制作しネットで発表するアニメ作品を続々制作している。bilibiliの動画サイトを眺めていると、画力はなかなかのもので、中には3D作品のような高度なCG技能を要求されるものもある。ウルトラマンシリーズのような特撮ものも含まれていて、筆者のような番組放送のリアルタイムで熱狂した世代には親しみが沸く。

 なかにはネット小説でもベストセラーとなった『盗墓筆記(The Lost Tomb Season)』『一人之下(The OUTCAST)』『蘿小黒戦記(The Legend of LUOXIAHEI)』のように日本語字幕版・吹替版が製作され日本でも好評を博する作品が出てきた。とはいえ、それらの「国創(中国オリジナル作品)」と並んで「日劇」「韓劇」といった「番劇(外国ドラマ)」が混じっていて、あまりの作品数に目移りしてしまい、国産か輸入物かなかなか見分けがつかないほどである。

 確かに『盗墓筆記』『一人之下』のようなサスペンスを基調としつつも、中国の伝統的ファンタジー(「奇玄」「仙玄」)やカンフー(「武侠」)の要素を取り入れた作品には、中国オリジナル作品ならではの個性がある。それらを除けば、青春・学園(「校園」)・ラブロマンス(「恋愛」)・シティライフ(「都市」)などのジャンルは容易に国境を超えられるような舞台設定となっている。

 アニメコンテンツの製作会社は、さまざまなアプリやマルチメディアを使ってオリジナルコンテンツのIP経営のグローバル展開を目指そうとしている。とはいえ「パンダ」「ナーダ」「ムーラン」などが、「ミッキーマウス」「ドラえもん」「ポケモン」のようなグローバルブランドと肩を並べるまでには至っていない。

1コマ漫画が主流だった中国漫画の伝統

 中国漫画も歴史は古く、「漫画」の名称はアニメと同様、1920年代にその起源がある。名付け親は日本に長く留学していた豊子愷で、山水画を彷彿とさせる構図と意匠を備えた、詩情に富んだ味わい深い画風である。基本的に1幅の画文作品である。

 政治風刺画としては華君武が有名である。1979年に創刊された『風刺与幽黙(風刺とユーモア)』という新聞は、『人民日報』の増刊ではあったが、『人民日報』『光明日報』のようなお堅い党の機関紙と違って、1コマ風刺漫画が満載で、中国の政治腐敗や社会問題に対する公式見解だけからは分かりにくい実情を伝えていた。官製情報とはいえ、肩の凝らない本音が伝わる媒体として、筆者もよく読んだものだった。

 伝統的漫画と言えばこの1コマ漫画(カートゥーン)が主流で、なかには張楽平『三毛流浪記』『三毛解放記』のような「三毛」シリーズのストーリー漫画もあったが、日本のコマ割りのように構成された長編漫画は稀であった。なぜかといえば、ストーリー漫画と言えば、1頁1コマで欄外にト書きが書き込まれた子ども向けの、日本で言えば紙芝居に近い「連環画リエンホアンホア」の伝統があったこと、また日本の漫画雑誌のような掲載媒体がなかったためであろう。ただコマ割り漫画家として、孔子・老子・荘子などの深遠かつ難解な哲学的世界を漫画で平明に解説した台湾の蔡志忠の画業は特筆しておきたい。その画風は親しみやすく人物描写に躍動感があり、キャラ設定は分かりやすく、時代背景や舞台道具は正確に考証されている。

中国漫画の躍進に向けて

 中国漫画が大きく前進したのは、アニメと同様2010年代以降である。そのきっかけが、1990年代以降に大量に輸入された日本漫画の影響にある事も、アニメと同様である。というより、アニメのオリジナルコンテンツは、漫画あるいはネット小説が人気を博してアニメ化されるという、マルチメディア展開が通常の経路である。ユーザーにとってコンテンツがアニメか漫画かは、携帯のアプリを乗り換えるだけのことで、重要な要素ではない。

 漫画の配信アプリについては先述のように「哔哩哔哩漫画」「快看世界」「騰迅動漫」「漫画島」などがあり、「快看世界」ではHPによると2019年7月時点で総利用者数は2億、MAUは4000万を超え、配信作品数は8000点を超える。そのなかには「日漫(日本漫画)」も多く抱えている。オリジナル漫画作品を制作する主な会社としては「鮮漫」「燃也文化」「分子互動」「漫漫漫画」などがある。いずれもオリジナルコンテンツの版権販売やIP展開を経営の主軸に置いている。

 政府はアニメ同様「走出去(打って出る)」戦略により、オリジナルの国産漫画の制作・出版と、海外への版権輸出を奨励している。そのため、数年前までは海外とりわけ人気の高い日本漫画の版権輸入は規制されていたが、いまはその制限は取り払われたそうだ。とはいえ、中国大陸発の漫画作品が日本で翻訳された例は、寡聞にして多くを知らない。北京大学の学生から『長歌行』(夏達・作)という唐代に題材をとった漫画が翻訳出版されている(ヤングジャンプコミックスより)ことを教えられた。

 日本にはブルース・リーの影響を受けたという『北斗の拳』や、「三国志」を題材にしたご存知横山光輝『三国志』のほか、『蒼天航路』(李学仁・王欣太・作)、中国史の造詣が深い諸星大二郎の『孔子暗黒伝』『西遊妖猿伝』など、中国の伝統文化由来の漫画を受けいれてきた素地がある。今後、森薫の『乙嫁語り』のような画力・構想力・時代考証力において卓越した名作が中国で創作され、続々と日本で翻訳されるような日が来るようになるかもしれない。
 

日本漫画の蓄積と奥深さ

 中国オリジナル漫画の隆盛がごく最近の潮流であるだけに、それまでの中国漫画の伝統とは断絶があるように見受けられる。また、日本漫画の影響を強く受けているとはいえ、これまで翻訳されてきた日本漫画のラインナップをみると、1990年代以前の日本漫画の洗礼は受けていないようだ。

 とりわけ1960年代以降の前衛漫画や青年漫画全盛期のすぐれた作品は、白土三平・水木しげる・つげ義春をはじめとする私の偏愛する『ガロ』系(『COM』も含めて)漫画家や作品はほとんど翻訳されていないようだ。ただし、手塚の畢生の大作『火の鳥』は、全巻が北京聯合出版公司から翻訳出版されている。

 「90後」の青少年たちが愛読している漫画作品群をザッピングしながら気づいたことがある。これは日本の少年向け漫画・アニメについても言えることだが、あらゆる作品に共通する要素は、万能感覚である。希望を胸に抱き続ければ、目標実現のために頑張り続ければ、君のその願いはいつの日が叶う、という自己実現への約束された啓示のようなものである。だが、人生は頑張っても思い通りにはいかない失望や挫折がつきものだ。このトシになるとさすがにその現実に向き合わないわけにはいかない。日本の成人漫画のなかには、そこはかとない孤愁・諦念・ペーソスが漂う作品が少なくない。

 日本の漫画は青少年だけの占有物ではない。いまや筆者のような『鉄腕アトム』や『鉄人28号』で育った世代は老境にさしかかっており、全世代老若男女に愛好者が跨るメディアになっている。また今をときめく漫画家も、職業柄かつては売れずに下積み生活のなかで苦労と貧乏に喘いできた経歴をもつ者が少なくない。

 漫画というメディア自体が、戦後の歴史だけを見ても、少年漫画・少女漫画・劇画・青年漫画という具合に、複線的重層的な歴史を積み重ね、多種多様な漫画家とその画風を生み出してきた。発表の場も、メジャーな漫画週刊誌や大出版社だけでなく、赤本・貸本・エロ本やコミケのような媒体から育った漫画も多い。

 今後、中国漫画が成長し、オリジナルコンテンツを増やし、幅広い世代に愛好されるようになるにつれて、日本漫画が再評価され、別の角度から脚光を浴びるようになるだろう。その時、個々の漫画作品だけでなく、漫画史上の位置づけ、作品読解のためのキュレーターが必要になる。そのとき、呉智英・夏目房之介・大塚英志など数は多くないが優れた漫画研究者や漫画評論家の著作が続々と翻訳出版されるようになるかもしれない。そしてなによりも日本側に漫画学の構築と普及が求められている。

〈了〉

参考リンク

[4] https://baijiahao.baidu.com/s?id=1609783042933812067
[5] https://baike.baidu.com/item/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8A%A8%E7%94%BB%E7%89%87
[6] https://news.gmw.cn/2019-05/13/content_32825825.htm

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著者について

馬場公彦
About 馬場公彦 19 Articles
北京大学外国語学院外籍専家。出版社で35年働き、定年退職の後、第2の人生を中国で送る。出版社では雑誌と書籍の編集に携わり、最後の5年間は電子出版や翻訳出版を初めとするライツビジネスの部局を立ち上げ部長を務めた。勤務の傍ら、大学院に入り、国際関係学を修め、戦後の日中関係について研究した。北京大学では学部生・大学院生を対象に日本語や日本学の講義をしている。『人民中国』で「第2の人生は北京で」、『朝日新聞 GLOBE』で「世界の書店から」連載中。単著に『『ビルマの竪琴』をめぐる戦後史』法政大学出版局、『戦後日本人の中国像』新曜社、『現代日本人の中国像』新曜社、『世界史のなかの文化大革命』平凡社新書があり、中国では『戦後日本人的中国観』社会科学文献出版社、『播種人:平成時代編輯実録』上海交通大学出版社が出版されている。
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