「“本離れ”論のデタラメ」「送料無料表示と反アマゾン法」「『日本料理大全』電子版一般公開」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #635(2024年9月15日~21日)

おさむ書房
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 2024年9月15日~21日は「“本離れ”論のデタラメ」「送料無料表示と反アマゾン法」「『日本料理大全』電子版一般公開」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

査読等の出版慣行を巡って大手学術出版社に対する訴訟が起こされる(米国)〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年9月19日)〉

 大手学術出版社のエルゼビア、ウォルターズ・クルーワー、ワイリー、セージ・パブリケーションズ、テイラー・アンド・フランシス、シュプリンガー・ネイチャーの6社が、反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えられました。Publisher Weeklyによると訴えたのは学者と研究者の集団で、査読作業の料金をゼロに固定するカルテルを結んでいる、などと主張しているようです。さあ、どうなるか?

第88回 反アマゾン法への布石?|いまいちど、本屋へようこそ〈新文化オンライン(2024年9月19日)〉

 送料無料表示の見直しは、もともとトラック業界からの「送料は我々の運送の対価としていただいているもので、無料では決してない」という訴えへの対応だったはず。「表示」の問題なので、すでに消費者庁がいろいろ動いています。送料無料表示の見直しが、送料無料禁止への布石かというと、うーん、どうなんでしょう。近いけど違う話という気が。

 フランスの「反アマゾン法」と呼ばれている法律は、もともと「本の値引き販売を禁止」するラング法があり、通販での送料無料は実質的な値引き販売だとしてそれも禁止している制度です。ただし、フランスのアマゾンは送料0.01€で対抗しました。これらについては、昨年10月の時点ですでに経産省が調査資料を公開しています。

 そして、最低配送料を3€に設定した法律が施行されたのも昨年10月だったはずで、結果どうなったか? という続報は、いまのところ私は目にしていません。経産相の「研究する価値はある」というのは、恐らくそのフランスでの法施行がどんな影響を及ぼしたか? を観察するという意味なのかなとは思っています。

 以前にも書いたように、送料無料禁止は利用者に負担増や不便さを強いる規制であり、有権者を敵に回すことが確実です。日本の政治家が、フランスのように「文化を守る」という大義名分を貫き通せるでしょうか? 私は、難しいと思っています。

社会

作曲家・久石譲さん「生成AIに新しい曲は生み出せない」〈日本経済新聞(2024年9月15日)〉

 いまはまだ、そうなのかもしれません。でも、昨年の「HON-CF2023」著作権セッションで、橋本大也氏が「ハルシネーションこそ可能性」とおっしゃっていたことを思い出しました。あるいは、AlphaGoが人間には思いつかないような手を打って「AI定石」と呼ばれるようになったこととか。「いまは」難しいかもしれないけど、きっといずれできるようになりますよ。

読書感想文、図鑑はダメ? 子どもの〝嘆き〟に「私だけでも応援」〈withnews(2024年9月17日)〉

 これは、「読書感想文の代表的なコンクール」で「図鑑は除外対象には含まれていません」なのに、図鑑はダメだと言ってしまう学校と教員がダメなのでは。「ダメって書いてないのになんでダメなのさ!」って、子供が歪んじゃいますよ。私はそうやって歪んだ覚えがあります。わはは。

「不読率60%の衝撃」?結論ありきの「本離れ」論のデタラメ 令和5年度国語に関する世論調査を読む(飯田一史) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年9月18日)〉

社説:国語世論調査 読書習慣の喪失は危機的だ〈読売新聞(2024年9月18日)〉

本を読まない人が6割超 スマホに時間とられる? 国語世論調査〈朝日新聞デジタル(2024年9月17日)〉

「学校図書館の質を上げて」加速する読書離れに、書店の受け止めは〈毎日新聞(2024年9月17日)〉

<産経抄>読書は苦行ではなく楽しいもの〈産経ニュース(2024年9月21日)〉

「まったり」「がっつり」気になりますか?文化庁調査〈NHK(2024年9月17日)〉

 今回は5年ぶりに読書について尋ねています。前回と比較すると「げっ!」と思うかもしれませんが、文化庁の調査結果には「*調査方法の変更のため、令和元(2019)年度以前の調査結果は参考値となり、比較には注意が必要」と繰り返し書かれています。単純に比較してはダメです。

 それなのに、読売新聞の社説は完全に無視して「08年度の調査開始以来、4割台で推移してきたが、今回急増する形となった」としています。朝日新聞は、本文には「コロナ禍前の前回までは面接による調査だったため単純に比較はできないが」と書いているのに、比較グラフを作っちゃってます。毎日新聞は、調査方法が変わったことには触れずに「加速する読書離れ」と見出しを付けています。産経新聞も、調査方法が変わったことには触れずに「過去最高」と書いちゃってます。NHKも、本文には「調査方法が対面から郵送に変わったため単純な比較はできませんが」と留保してありますが、後半で「過去最高に」と見出しを付けてます。これは飯田一史氏の指摘が正しい。

 ただ、今回だけで考えても「6割超が月に1冊も読まない」という事実には、ちょっと動揺します。まあ、前回までと同様「マンガ・雑誌を除く」なので、そんなものかもしれないなとも思いますけど。文化庁の調査結果には「本以外の文字・活字による情報を読む機会」や「文字・活字による情報に触れる時間の変化」もあります。「ほぼ毎日ある」が4分の3で、「減った」26.0%より「増えている」35.3%のほうが多いです。

大人は読書離れ 子どもは増加傾向 小学生 中学生 高校生は? “情報がノイズ” その意味は?〈NHK(2024年9月19日)〉

 それに対し、こちらのNHKの記事は、なかなかバランスが良いと思いました。大人になると読書離れする傾向があるというのは、正しいんですよね。若者が読書離れしているわけではなく、若者ではなくなると読書離れする人が多いのです。私も身に覚えがあります。20代は雑誌くらいしか読んでませんでした。また本を読むようになったのは、30代になってからでした。

「いっそ出版社を作っちゃおう」水道橋博士が“紙の本”にこだわる理由 | ニュース3面鏡〈ダイヤモンド・オンライン(2024年9月20日)〉

 うーん、紙へのこだわりはそれなりに理解できるんですが、できれば読書バリアフリー対応という観点も持って欲しいところです。あれだけ話題になった芥川賞作家・市川沙央氏の声は、水道橋博士には届いていないのでしょうか? 良いチャレンジだと思うのですが、そこがちょっと残念。

京都府立大学、『日本料理大全』のデジタル版を一般公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年9月20日)〉

 カレントアウェアネス・ポータルがここまでバズっているのを久しぶりに見ました。税込8800円の料理教本「日本料理大全」5点の電子版が、誰でも自由に閲覧できる形で公開されています。公開ページはこちら。こういうのを見るとつい私は、どこの仕組みを使っているのだろう? と調べてしまいます。Cloud CIRCUS, Inc.による「ActiBook」というサービスの「Poste」というアプリが使われているようです。

経済

早川書房公式ホームページ「ハヤカワ・オンライン」全面リニューアル! あの『三体』が300円!? 電子書籍ストア新オープン記念の大セール実施中!〈株式会社 早川書房のプレスリリース(2024年9月19日)〉

 公式サイトの全面リニューアルに伴い、直営電子書店が始まってます。こういうのを見るとつい私は、どこの仕組みを使っているのだろう? と調べてしまいます。ビューアはボイジャー「BinB」です。ブッククラブ有料会員だといつでも20%オフになるという優待が良いですね。

技術

AI検索、報道機関と「共存」模索 米新興企業幹部「75社と協議」〈朝日新聞デジタル(2024年9月16日)〉

 話題になっている「パープレキシティ」の名前が、私は何回見ても覚えられません。その時点で、あまり普及しそうにないなと思えてしまいます。ネーミングって大事ですよね。そして、広告収益を報道機関に還元するということは、結局のところ「広告収益」のビジネスモデルになるわけです。それはすなわち「新しいGoogle」を作ろうとしているのと同じ、とも思えるのですが。

Webの広告がスゥ……と消える「iOS 18」の新機能に注目集まる その使い方とは〈ITmedia NEWS(2024年9月18日)〉

ただし、アドブロック機能ではないので、サイトをリロードしたら再び広告が表示されるため、広告が出現するたびに非表示設定にする必要がある。

 ベータ版のときにも指摘しましたが、結局ここがポイントでしょう。広告が自動で非表示になるわけではなく、いま見てる画面で邪魔なものを一時的に消す機能ということです。特に役に立つのは、スクロール追従型広告や全画面広告あたりでしょうか。

SEO対策会社への依頼時の注意点 Google「検索1位に秘訣なし」〈ツギノジダイ(2024年9月21日)〉

 Googleに届いたという営業メールの文面に笑ってしまいました。まあ、問い合わせフォーム営業は「拝見しました」などと言いながら単なるコピペ文面がよく来ますから。数打ちゃ当たるも道理ですが「まったく拝見してないだろ!」と言いたくなるような文面にはまったく興味が持てません。むしろ逆効果でしょう。だから「営業代行します!」みたいな売り込みにも、「いい加減な営業されちゃうかもなあ」って思えちゃうんですよね。

お知らせ

「NovelJam 2024」参加者募集中!

 3年ぶりの出版創作イベント「NovelJam 2024」は、11月2日~4日に東京・新潟・沖縄の3拠点で同時開催! ただいま参加者募集中です!

「NovelJam 2024」クラファン実施中!

 11月2日~4日に開催するライブパブリッシングイベント「NovelJam 2024」は、東京・新潟・沖縄の3拠点で同時に行う新たなチャレンジ! クラウドファンディングでのご支援よろしくお願いします!

「HON-CF2024」について

 今年もやります! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は9月6日(金)~8日(日)の開催です。詳細・チケット購入はこちらのURLから!

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 9月も後半だというのに猛暑日! 勘弁してください。さすがに今週は涼しくなるようですが。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 815 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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