「新聞協会、法制度小委員会で著作権法改正の訴え」「ラノベ利用実態調査で電子のほうが高い利用率に」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #591(2023年10月15日~21日)

bookshelf 新宿ニュウマン

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 2023年10月15日~21日は「新聞協会、法制度小委員会で著作権法改正の訴え」「ラノベ利用実態調査で電子のほうが高い利用率に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

生成AIの著作物無断学習は「利益侵害」、新聞協会が著作権法の改正訴え…文化審議会小委〈読売新聞(2023年10月16日)〉

 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)は、漫画家ユニット「うめ」の小沢高広氏と、日本新聞協会、情報通信研究機構が有識者ヒアリングに呼ばれました。ところがこの読売新聞の記事は日本新聞協会の「主張」がほとんどで、小沢氏のプレゼンは完全にカットされています。今回は私も傍聴できたのですが、マンガはネームが最も重要だけど、現在の生成AIにはまだネームを任せられない、など、けっこう興味深い話をお聞きできたんですが。

 情報通信研究機構 鳥澤健太郎氏の発表も末尾にちょろっと記載されているだけですが、「仮に学習データ中のテキストXがあたかも丸ごとコピーされて出力されたように見えるとしても、Xを用いた学習のプロセスとXが丸ごと出力されることとの間の因果関係は不明確」あたりの話は、「依拠性」をどう判断するか? という点に非常に重要な示唆を与えたように思えました。

 なお、日本新聞協会の「主張」に対する委員の方々の質問はかなり容赦のない鋭さで、傍目にはコテンパンにされている感がありました。そこにも記事ではまったく触れていないのがなんとも言えない感じ。たとえば「この事例が“30条の4但し書きに該当する”(p12)というご主張なら、30条の4の改正は必要ないのでは?」など。

 私がとくに気になった点は、「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」という事例。Google SGE(Search Generative Experience)の回答を例示しているんですが、どう見ても毎日新聞以外にも参照しているメディアが複数あるんですよね(下図右部ボカシ部分参照)。これでは、毎日新聞の有料会員限定部分から回答を生成したとは断定できないですよ。

日本新聞協会発表スライドより

 ちなみに、日本新聞協会の挙げているBing ChatやSGEの事例は公開記事からの「要約」だから、生成段階の問題(つまり軽微利用の権利制限47条の5に該当するか否か)であって、「学習段階(30条の4)の問題ではないのでは?」という指摘も受けていました。最後には「今回、新聞記事を“学習”したことによる類似出力という事例はお示しいただいていない、という認識でよろしいか?」というトドメのような念押しまで。あーあ。

 まあ、日本新聞協会の「2018年改正時に生成AIは想定されていなかった」という主張が、当時の議論に参加していた委員の方々の逆鱗に触れちゃったのかなあ……という印象がありました。好意的に捉えれば「宿題を持ち帰らせてくれた」のでしょうけど。いちおうまだこれから、パブコメのタイミング等で再反論することも可能ではあるわけで。

【ステマ規制】メディア、インフルエンサー、ブロガーが気を付けるべき「2つの基準」とは? | DOL特別レポート〈ダイヤモンド・オンライン(2023年10月18日)〉

 良い解説……と思ったのですが、5ページ目の事業者の表示であることを明瞭にするハッシュタグについての記述で考え込んでしまいました。「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」はOKだけど、「AD」や「PROMOTION」という英字表記は必ずしも分かりやすいと判断されない、とあるんですよね。いや、だったら「PR」はもっとダメでは?

 だって「PR」って、Public Relations(広報)の略語であって、広告とは異なる概念です。それなのに、なぜか「PR」イコール「広告」として扱われていることが多い。以前、広告業界の方に「このPRってなんの略ですか?」と尋ねたら「PRomotionです」と言われたことがあります。同じ略語をぶつけてる時点で、正直、意図的に誤認を誘おうとする悪意を感じます。まだ「AD(ADvertisement)」のがマシじゃないかなあ。

 ちなみに、Wikipedia英語版の「PR」曖昧さ回避(Disambiguation)ページに PRomotion はありません。つまり、英語圏では使われていない表現です。そろそろこの紛らわしい表記、止めませんか?

公費の研究成果、無料公開提案 内閣府懇談会、大学の経済負担も緩和〈朝日新聞デジタル(2023年10月20日)〉

 総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員懇談会による提言。公的資金を投入した研究成果は、エンバーゴなしで即時無料公開しましょう、というもの。至極当然のことのように思えますが、エルゼビアなどの学術出版社がどう出るか。内閣府のページでソースを確認しようと思ったんですが、まだ公開されていないようです。

社会

ラノベ利用実態調査 20代の支持が高い 人気ジャンルは恋愛・ミステリー 読むなら紙より電子が過半数〈Appliv TOPICS(2023年10月16日)〉

 これは興味深い。ライトノベルに絞った利用実態調査って、ありそうであまりないので助かります。調査委託先はジャストシステムなので、いつものように「Fastask」でしょう。気になるのは「ライトノベル」の定義ですが、Appliv TOPICSに確認したところ、アンケートでは「ライトノベル」とだけ記載しており、判断は回答者に委ねたとのことです。まあ、賢明でしょう。

 で、驚いたのは「紙or電子?」の回答。電子のほうが多いんですよね。ただ、「ライトノベルを読んだことがある」率は10代・20代が高いのですが、この年齢層は可処分所得の問題から「小説家になろう」などウェブやアプリで無料のラノベに慣れ親しんでいる可能性も高いように思います。利用者イコール購買層とは限らないあたりが悩ましい。

クリエイターやパブリッシャーは、生成AIを敵視し規制強化を求めるべきか、あるいは、新しい技術を受け入れ生産性を高めるべきか【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年10月19日)〉

 福井健策氏、橋本大也氏、小林啓倫氏に登壇いただき、司会をやったHON-CF2023の規制セッションを、自らまとめました。我ながらめちゃくちゃ面白かったセッションなんですが、意外と読まれていません。本文だけで9000字近くは、さすがに長すぎたか。これでもポイントだけ抑えたつもりなんですが。タイトルを二項対立にしたのも、失敗だったかな。とほほ。

経済

北米のコミックス/マンガ市場 2022年は過去最大の3200億円〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2023年10月17日)〉

 21億6000万ドル(約3200億円)のうちデジタルはどれくらいだろう? と思いソースのICv2を参照。インフォグラフィックスの3枚目に「$155M」という記述を発見しました。1億5500万ドル(約230億円)、占有率は約7.2%です。日本の占有率66.2%に比べると、まだだいぶ小さい。

 ただ、この数字にはサブスク料金(読み放題)が含まれていない点に注意が必要です。サブスクの「割合は増加している(which are an increasing share of the digital revenue derived from comics)」そうなんですが、なぜ含まれないのか? は書かれていません。恐らく、他ジャンルの数字から分離するのが難しいからだと思うのですが。

新聞協会 2022年度の総売上高推計は1兆3271億円 経営関係の各調査結果まとまる〈文化通信デジタル(2023年10月18日)〉

 販売収入が前年度比19.5%の大幅減少――に見えるんですが、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)には2022年度調査から「収益認識に関する会計基準」が適用されている点を考慮する必要があります(本文にもちゃんと「前年度数値と単純比較はできない」と書かれています)。あまり詳しくないんですが、恐らく、年間購読料を新規または更新月に一括計上していたのを、月割にする必要があるのではないかと。

 それはさておき、デジタル関連事業の売上比率が平均2.37%というのはあまりに低い。スポーツ紙平均の10.23%でもまだ低い。紙媒体に強く依存し過ぎでは。デジタル関連部署の社内ポジションも、さぞかし低いことでしょう。ちなみに「新聞協会加盟の83社を対象に調査を行い、69社から回答を得た」とありますが、日経は回答しているんだろうか?

モバイルブック・ジェーピー 「電子献本システム」提供開始 出版社のコスト圧縮策に〈文化通信デジタル(2023年10月18日)〉

 これはなかなか面白い。かつて藤井正尚氏が個人プロジェクトとして提供していて、株式会社hon.jpに移管されたのちに終了してしまった「KENPON」のことを思い出しました。

 料金は、月額3万5000円+税で100点まで(超過分は1点300円+税の従量制)。仮に送料込み2000円×20冊/月を代替できたら元が取れる感じでしょうか。URLの有効期限が30日間とやや短い感もありますが、「謹呈」の短冊が入ったまま古書市場へ流通している物理本も多い(という印象があります)ことを思うと、無駄玉&機会損失減少のダブル効果が得られるかも。あと、メディアドゥ「NetGalley」と少し競合するかもしれません。

技術

生成AIとクリエイターはどう共存するのか アドビが考える「透明性」と「法律」【西田宗千佳のイマトミライ】〈Impress Watch(2023年10月16日)〉

 Adobe MAXで発表された内容から、西田宗千佳氏が「生成AI時代のクリエイターと企業の関係」について考察したレポート。「クリエイティブ・コンテンツのニーズは、2026年には現在の5倍以上に跳ね上がるだろう」というAdobeの推測は、点数ベースならあり得るかも……という気がします。

 というのは、ウェブ広告のクリエイティブって、何種類か用意して反応が良いものの掲出頻度を自動で高めるような設定もできるから。「より広告効果を高めたい」というニーズは常に存在します。予算を増やさず効率的にクリエイティブの種類や質を高められるとしたら、そりゃもうどんどん作ってくださいって話になるのは容易に想像できます。

 広告以外でも、たとえばウチの「日刊出版ニュースまとめ」のアイキャッチは、生成AI画像が使えるようになってから日替わりになっています。以前は、キャパシティ的に毎日変更なんてこと考えられませんでしたから、年に1回くらいは変えるか……くらいのペースでした。つまりクリエイティブの点数だけで言えば、対前年比300倍以上になっているわけです。

 そういう意味で、生成AIの利用回数が激増しているのに「フォトストックも好調」というのは、意外なようでわかる気もします。やっぱりまだ人間の制作したもののほうが良質で、AI生成物への不満と反動からくるものなのかな、と。

画像生成AI「DALL·E 3」の性能が凄まじい。これを無料で使わせるマイクロソフトは本気で競合をつぶしに来ている〈ASCII.jp(2023年10月16日)〉

 ラーメンを普通に食べられるようになってる!(そこか)。「オブジェクト間の関係性」がちゃんと整理されている、ということのようです。Stable Diffusionは文章が読解できない(単語でしか捉えてくれない)感があり、プロンプトには相当な工夫が必要だったんですが、Bing ChatやAdobe Fireflyは複雑な係り受けの文章でもふつうに読解してくれる印象があります。あっという間に進化していくなあ。どこまで行くんだろう。

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雑記

 皮下脂肪が厚いせいかわりと寒さには強く、夕方の散歩時もいまだに半袖半ズボンです。でも、さすがに11月に入ったら無理かな……と思える程度には寒くなってきました(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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