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2024年12月15日~21日は「内閣府AI制度研究会で規制法案化の動き」「アクセシビリティ関連の話題が同時多発的に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議(第1回)配付資料〈文部科学省(2024年12月16日)〉
傍聴しました。委員総勢23名とかなりの大所帯で、全員が「1人3分」の持ち時間をおおむね守って発言するだけで軽く1時間を超えてしまう感じでした。委員のほとんどが公共図書館、大学図書館、学校図書館の関係者ですが、作家・汐見夏衛氏(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』など)と、出版文化産業振興財団(JPIC)の専務理事 松木修一氏の2人だけ、出版業界関係者が加わっています。松木氏は「この(有識者会議の)運営の充実には書店と出版社も必ず必要だということを、私はずっと言い続ける役割だと思っております」とおっしゃっていました。まあ、そういうお立場ですよね。
「有害図書」の名称変更、成人への流通に弊害が出る可能性を考慮…大阪府「13条指定図書類」に:地域ニュース〈読売新聞(2024年12月17日)〉
東京での名称変更が、大阪に波及しました。非常に良い流れ。他の道府県にも広がれ!
群馬に映画・ゲーム・アニメの教育機関 湯けむりフォーラムで知事表明〈日本経済新聞(2024年12月18日)〉
いいですね。ならばまず、群馬県青少年健全育成条例の第14条(有害図書類の制限)という表現を改めるところから始めましょう。ぜひ、東京、大阪に続いていただきたい。コンテンツ産業を育てていきたいのなら、クリエイターの声に耳を傾けるべきです。
書店議連・新会長に遠藤利明議員が就任、日書連・矢幡会長「再販契約書ひな型の変更」に意欲〈新文化オンライン(2024年12月18日)〉
再販売価格維持契約書(取次-小売)のヒナ型第六条「この契約の規定は、次に掲げる場合には適用しない。」の「(2) 官公庁等の入札に応じて納入する場合」についての話だと思われます。そもそもこの条項が設けられた理由が知りたいところ……と思っていたら、識者から教えていただきました。WTOの政府調達協定の規定を批准しているとのことです。
これは「基準額以上が適用対象」とのことで、物品なら3600万円などの設定があります。つまり、本来なら図書館の新館増設などでまとめて購入する際にのみ適用されるべき規定のようです。それが普段の少量納入にもなし崩し的に適用されている現状があるということなのでしょうか。だとしたら、まずは取次から当該書店に対し「定価厳守の契約違反」と通知するのが筋、という気がするのですが。
AI法案、悪質事案を国が調査 世界で規制進み「やらないわけには」〈朝日新聞デジタル(2024年12月19日)〉
おおっと。これまで国は基本的に推進の方向でしたが、ここにきて急に規制の法案化ですか。内閣府の動きは追えていませんでしたが、AI制度研究会での検討結果とのこと。AI制度研究会のページには本稿執筆時点でも、まだヒアリング段階の9月12日のものまでしか載っておらず、どういう結論に至ったのかは分かりません。座長は松尾豊氏です。これまでAI推進のアクセルを全力で踏んでいた方だという認識なのですが、どうしてそうなったんだろう? 少数与党の石破政権だから? うーん、今後も注視しておきたいところです。
米業界団体、グーグルのアップデートに対して調査をするよう司法省とFTCに訴え〈Media Innovation(2024年12月20日)〉
タイトルにちょっと言葉が足りていませんが、「Google“検索”の“コア”アップデート」に対する訴えです。アルゴリズムの変更に振り回される側の気持ちはわからないでもないですが、個人的にはこういうことを政治の力を借りて解決を図ろうとする動きには嫌悪感を覚えます。
たとえば2024年8月のコアアップデートでは、過去の意味不明順位ダウンからリカバリみたいな状況が観測されたりしています。表示順位って、けっこう頻繁に上がったり下がったりするんですよね。だから、いちいち一喜一憂しても仕方ないと私は思っています。
まあ、HON.jp News Blogは広告に依存するモデルではないから、というのもあるわけですが。とはいえ、私が書いた内容より薄くて軽い記事が、SEO対策だけで上位になっているのを見ると「おいおい」と思ってしまいます。というか、悔しい。
社会
NovelJam 2024 受賞作品・受賞者発表〈NovelJam(2024年12月15日)〉
贈賞式まで無事終了しました。関係者のみなさま、ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。これにて2024年の運営委員会は一旦解散、2025年の運営委員会設立に向け準備が進められています。運営に関わってみたいという方は、ぜひお声がけください。
第18回 電子出版アワード2024、ジャンル賞は「書店在庫情報プロジェクト」「子供の科学100周年」「コミックシーモア」「Mantra」「Thorium Reader 3.0」「ChatGPT」〈日本電子出版協会(2024年12月18日)〉
大賞は「書店在庫情報プロジェクト」に決まりました。おめでとうございます。沢辺均氏が受賞コメントで「厳密に言えばこのプロジェクトは電子出版ではないのでは」と所感を述べたのに対し、JEPA広報委員長で司会の生駒大壱氏(旺文社会長)が「JEPAは懐が深いんです」と返していたのが印象的でした。私は今年も選考委員としてお手伝いしました。また、今年からアフタートーク(放談会)の司会進行役も務めています。映像アーカイブはこちら。
渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役主筆が死去、98歳〈読売新聞(2024年12月19日)〉
ご冥福をお祈りいたします。この年齢まで現役で主筆を務めていたというのがすごい。亡くなる数日前まで社説の原稿を点検していたとのことです。これでいよいよ昭和の残滓も終わった感があります。もしかしたら今後、さまざまな物事が急に動き出すかもしれません。具体的には、新聞の軽減税率の適用見直しとか、著作物再販適用除外制度の廃止とか。
経済
MIXI、Twitterライクの新SNS「mixi2」公開–招待制、18歳未満利用禁止〈CNET Japan(2024年12月16日)〉
周囲の新しいもの好きの方がさっそく使っている様子が目に入りました。個人的には、いまさらまた招待制? とちょっと引っかかってしまったのと、もうSNSはお腹いっぱいでこれ以上増やしたくない感じなので、しばらく様子見します。とはいえいちおう「honjp」のIDだけは押さえておきました。
とあるSNSアプリをスクリーンリーダーで使って考えたこと〈Qiita(2024年12月19日)〉
で、問題はこのあたりです。私の知る限り、アメリカ企業系のサービスは最初からアクセシビリティ対応がなされているのですが、国産サービスはまったく配慮していないということがよくあります。この記事では名指しは避けていますが、私の知っている視覚障害の方が「mixi2」を使ってみたら「スクリーンリーダーで操作しにくい」と嘆いていたので、恐らくこの記事も「mixi2」のことを言っているのでしょう。
また、MIXIに対し狙いやビジネスモデルについて尋ねている記事を複数のメディアが出していましたが、私が見た範囲ではいずれもアクセシビリティ対応については触れていませんでした。本邦のそういうところがアカンと思うのですよ。
デジタル教科書推進ワーキンググループ(第4回)配付資料〈文部科学省(2024年12月20日)〉
関連してこちらも取り上げておきます。【資料3】近藤氏のプレゼン資料が、現状のデジタル教科書のアクセシビリティに関する問題点を細部にわたり厳しく指摘しています。教育方面ではとくに、そのあたりおざなりにしてはダメでしょう。
2024年度のアクセシビリティへの取り組みについて〈小学館(2024年12月13日)〉
このように、アクセシビリティに関する話題が多方面から同時多発的に出ています。小学館の取り組みそのものはもちろん素晴らしいのですが、こういう取り組みをしていますという情報を毎年恒例で出し続けていることも良いと思います。他社へのプレッシャーになりますからね。
画像の代替テキストから始めましょう〈ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)(2024年12月19日)〉
木達一仁氏による「高すぎる目標設定にご用心」という趣旨の記事。おっしゃる通り、まずは画像に代替(alt)テキストを入れるところから始めてみましょう。画像を見なくてもわかるように文章で描写するのって、案外難しいんですよね。
読書バリアフリー法への市場での対応に対する期待〈デジタル出版者連盟(2024年12月20日)〉
そして業界団体からも、このような声明が。出版社の団体なので、どこに対する何の「期待」なのか? という視点で読むと分かりやすいでしょう。
あわせて、市場においても、電子書店のサイト作りや閲覧ビューアのユーザビリティ向上等、各所の環境整備への取り組みが進むことで、アクセシブルな電子書籍の更なる普及に繋がります。
電書連は、今後もデバイス開発・製作会社や配信事業者の皆さまが、なお一層積極的に市場での合成音声読み上げ(TTS)への対応を進めていかれることに期待してまいります。
これ、私も以前から主張していることだったりします。出版社や制作会社が頑張って生産(制作)の課題を解決しても、流通(購入)や利用(読書)の課題が解決していなければ、意味を成さないのです。2023年の日本出版学会 春季研究発表会のワークショップ「アクセシブルなEPUB出版物の制作における課題――日本出版学会学会誌を事例にして」で整理した課題の一覧表を、改めて貼っておきます。
KADOKAWA、ソニーグループが筆頭株主に 500億円追加出資〈日本経済新聞(2024年12月19日)〉
ソニーグループがKADOKAWA株を10%保有して筆頭株主になる、というところにひとまず着地しました。持株比率的には3分の1を超えないとそれほど大した権限はないので、まずは文字通り「戦略的資本業務提携に合意した」ところからの出発ということになるでしょう。次は、KADOKAWAがこの500億円で「なにをするか?」が問われるフェーズに入っていきます。
カドカワ株がストップ安気配 ソニーGの追加取得なしで〈日本経済新聞(2024年12月20日)〉
TOB(株式公開買付)ではなかったので、失望売りが起きています。噂が先行したせいで、ソニーグループは第三者割当増資を高値設定する羽目になってしまいました。さて、TOBの噂を流したのはどこの誰なんでしょうね?
技術
生成AIの進化によって、電子出版の未来はどうなるのか?【HON-CF2024レポート】〈HON.jp News Blog(2024年12月17日)〉
HON-CF2024基調講演Ⅲ、一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)の副会長・下川和男氏による「電子出版・近未来」のレポートです。小桜店子さんに執筆いただきました。YouTubeで講演動画も同時に公開しています。私が最も印象的だったのは、知識は「本を読む」とか「本を聴く」ではなく、「本と対話する」ことで習得するような世界が来る、という予測です。
現状でもすでに「NotebookLM」を使うと、近いことができます。自分の書いた20万字くらいある本の原稿をまるごとアップロードして、自分自身の書いた内容について対話をするような形で確認してみました。自分の書いたことだからすぐに検証できるので、生成AIの性能テストのつもりで試してみたんですが、思った以上に的確な回答が返ってきて驚きました。知識ゼロだと質問さえできないわけですが、データを読み込ませると自動でいくつか想定質問が提示されるのも良い。未来を感じました。
お知らせ
新刊について
新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』12月1日より各ネット書店にて販売中です!
「NovelJam 2024」について
11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary
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雑記
年内の「週刊」は今回が最後で、次回は1月6日の配信となります。まだ毎年恒例の2024年回顧と2025年予想の原稿が残っているので、仕事は納まっていません。がんばるぞー(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。
再販売価格維持契約書(取次-小売)のヒナ型第六条ですが、図書館では資料購入を毎年、年間に購入を予定している金額(予算額)で納入業者を入札や見積合わせで決定しています
そのためWTOの基準額を超える自治体が大都市の図書館を始めかなりの数あります
本を定価で地元の書店から購入すると装備も別に委託が必要なので、ざっとですが、2割くらい実質の資料費が減少することになります
議連の方には書店振興だけではなく図書館振興にも是非尽力いただきたいです