「2020年度の電子書籍市場は4821億円、利用率でLINEマンガが1位に」「LINEノベル敗因分析」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #485(2021年8月8日~21日)

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 2021年8月8日~21日は「2020年度の電子書籍市場は4821億円、利用率でLINEマンガが1位に」「LINEノベル敗因分析」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

Internet Archive(IA)、大手出版社4社の全書籍の売り上げデータ10年分を要求:IAによる電子書籍貸出の書籍の売り上げへの影響を検証するため〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年8月11日)〉

Internet Archive(IA)による全書籍の売り上げデータ10年分の要求に対する大手出版社4社の返答が公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年8月20日)〉

 コロナ禍を受け Internet Archive(IA)が始めた “National Emergency Library” が出版社の怒りを買い、それ以前から行われていた “Controlled Digital Lending” による “Open Library” まで違法であると訴えられた事件の続報です。貸出対象となった書籍の売上データだけでなく、対象外だった書籍の売上データと比較をしないと損害があったかどうか分からないというIA側の主張に対し、原告側のデータを出す負担が大き過ぎるうえ書籍は代替可能な商品ではないので比較には意味がない、という反論が繰り広げられています。裁判所がどう判断するか気になるところですが、まだまだ時間がかかりそうです。

アマゾン、独禁法改正で事業売却余儀なくされる恐れ〈JDIR(2021年8月20日)〉

 アメリカ連邦議会で審議されている反トラスト法(独占禁止法)改正案の中で、利益相反となる事業の保有を禁止する「プラットフォーム独占終了法」が、アマゾンには最も痛手となりそうだという観測記事です。マーケットプレイスでよく売れている商品があると、アマゾンが後追いで直販を始めて出品者が潰される、というえげつない噂話を以前からよく見聞きしましたが、それを禁じる法案ということになるのでしょう。この記事は通販事業のことが中心ですが、たとえばAWSを競合他社へ提供することの是非などを考えると、どこまでを利益相反と判断するのか次第で各方面に大きな影響がありそうです。

社会

【雑誌に関する調査】直近1年間に電子書籍の雑誌を利用した人は2割弱。利用者の重視点は「月額料金」「無料お試しの充実度」「読みたいジャンルの充実度」「取扱い数の充実度」が上位〈MyVoiceのプレスリリース(2021年8月11日)〉

 紙と電子の雑誌利用に関する調査。紙の雑誌を読む人は約36%と、前回調査より10ポイント近く減少しています。電子雑誌は2割弱とのことですが、どこまでを「電子書籍の雑誌」と捉えるか次第で、数字が大きく変わりそう。たとえば「文春オンライン」は、「無料で読める電子書籍版の雑誌」なのか。ウェブやアプリで配信されているマンガはどうなのか。

2020年度の電子書籍市場は4821億円、28.6%の大幅増加。コミックが4002億円を占める〈INTERNET Watch(2021年8月13日)〉

 毎年恒例の、インプレス「電子書籍ビジネス調査報告書」。今年のトピックスは、利用している電子書籍サービスの1位が「LINEマンガ」となり、ついに「Kindleストア」を逆転したこと。さらに、急成長している「ピッコマ」も肉薄していることでしょう。ただ、これは複数回答可の有料無料問わずという「利用率」の調査であり、「売上」のシェアを示すものではない点には注意が必要です。

DIGIDAYガイド: Z世代 の「 メディア消費習慣 」知っておくべきすべてのこと〈DIGIDAY[日本版](2021年8月16日)〉

 当初は全文公開されていたのですが、本稿執筆のため読み返そうとしたらDIGIDAY+会員限定の有料記事に変わっていました。おおむね興味深い内容だったのですが、Z世代特有の特徴として挙げられていた「ウェブページをスクロールしているときには広告の存在を認識していない」については、それはどの世代も同様ではないか? と疑問に思ったことを記しておきます。

 だからこそ広告出稿側は、無理矢理にでも広告の存在を認識させようと努力し続けてしまっているわけで。強い刺激を与える不愉快広告、記事本文内に図版のようなフリをして差し込まれる広告、分割されたページを遷移するたび表示される全面広告など、読者体験を損ねる改悪続きで酷いありさまになっているメディアも多いのが現状だと思います。ただ、これはアメリカの話(翻訳記事)なので、もしかしたら日本と若干状況が異なるのかもしれませんが。

Z世代にとってSNS広告は有力な情報源?Z世代が求めるSNS広告のあり方を考える〈MarkeZine(マーケジン)(2021年8月18日)〉

 こちらは日本のユーザー調査。Z世代(15~24歳)のほうがY世代(25~40歳)より、SNS広告を見て行動する率が若干高いという結果が出ています。前述の「ウェブページをスクロールしているとき」に存在を無視されるバナー広告とは異なり、いわゆる「ネイティブアド」に分類されるSNS広告は、広告だと分かっていても比較的ユーザーに受け入れられている、ということになるのでしょう。

紙の本で読書する人が減少…認知機能等への影響は?〈リセマム(2021年8月19日)〉

 国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センターによる調査。読書のツールに関係なく、読書している人はしていない人よりも意識・非認知能力が高い傾向があるとのこと。ただ、紙で読書している人の意識・非認知能力は、最も高い傾向があるとも。詳細はこちら(↓)。

デジタル端末の利用歴が長いと創造力の自己認識が高い――中高生対象の調査より【アドビ×Inspire High調べ】〈EdTechZine(2021年8月20日)〉

 こちらは「創造力の自己認識」についての調査。調査に活用されたEdTechプログラム「Inspire High」は、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タンさん、詩人の谷川俊太郎さん、建築家の隈研吾さんなどがガイドに名前を連ねる、もすぬごく豪華な内容だったようです。うらやましい。詳細はこちら(↓)。
https://www.adobe.com/jp/news-room/news/202108/20210819_survey-on-creativity-development.html

経済

出版クラウドファンディング「EXODUS」、「All-in方式」と「コミュニティ方式」の取り扱いを正式に開始。21年度の公募受付も開始〈株式会社CAMPFIREのプレスリリース(2021年8月12日)〉

 おや? と思ったのが「2021年秋頃株式会社CAMPFIREに事業移管」という記述。株式会社エクソダスは、幻冬舎とCAMPFIREの共同出資だったのですよね。幻冬舎が手を引く、ということになるのでしょう。2017年末の設立プレスリリース(↓)では “クラウドファンディングの活用に加え、書籍出版の利益を支援者や制作に関わる方に還元する 「利益還元型出版」や、仮想通貨におけるトークンを発行する「トークン発行型出版」なども検討していきます” と、かなり野心的な展望を語っていたのですが。

「ポスト漫画村」、「紙の海賊版」はここまでタチが悪くなっていた〈週プレNEWS(2021年8月13日)〉

 ベトナム系の海賊版サイトだけでなく、紙のコミックスやグッズの海賊版も跋扈し始めている、というニュース。印刷・製本・輸送コストがかかる物理メディアは、海賊版業者としても儲けが少ないはずで、集英社の方も目的が分からないとのこと。うーん、なんだろうこれは。「違法だと思っていない」「むしろ使命感に燃えちゃってる」みたいな可能性もあるのでしょうか?

クリエーター経済を本物に アップルCEOの10年と今後〈日本経済新聞(2021年8月13日)〉

 App Storeの成長に伴う巨大プラットフォームの責任という話や、クリエイターエコノミー協会設立という関連する動きなどについて、端的にまとめた論説です。GoogleやAmazonなど他の巨大プラットフォームには触れられていないのが少し残念。まあ、触れたらめちゃくちゃ長くなっちゃうとは思いますが。

コンプレックス広告やめました 売り上げ減でも挑む理由〈朝日新聞デジタル(2021年8月16日)〉

 不愉快広告排除に動いた「popIn」について。売上は一時半減したものの、排除前の8割まで回復したそうです。他の広告プラットフォームも追随してくれればいいのですけど、なかなかそうもいかず。不愉快広告だらけのメディアが、前よりさらに酷いありさまになっている様子が観測されます。自主規制が追いつかなければ、いずれ法規制の対象になるだけだと思うのですが。

筒井康隆『残像に口紅を』30年越しのヒットに見るTikTokの可能性 若年層へのアプローチに出版社が熱視線〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2021年8月19日)〉

 最近、TikTokで本の紹介をする「BookTok」からのヒット、という話題が多くなっています。本稿の対象期間でも記事が何本か出ていたのですが、中でも、実際に紹介動画を上げているTikTokerのけんご氏にインタビューしているこの記事をピックアップしておきます。映像による表現は、やはりエモーショナルな方向に効くのですね。

【あれから一年】『LINEノベル』の失敗と敗因分析+これからの取り組み【ウェブトゥーン編集者募集】〈三木一馬|note(2021年8月16日)〉

オンライン時代の小説のゆくえ(1)〈まつもとあつし(2021年8月19日)〉

オンライン小説のゆくえ(2)〈まつもとあつし(2021年8月20日)〉

 ストレートエッジの三木一馬さんが、1年前にクローズした「LINEノベル」の敗因分析記事を公開。それを受け、まつもとあつしさんが日経COMEMOで論考を連続公開しています[追記:後に日経COMEMOからまつもとあつし氏の個人noteに変更されました]。まだ続くみたいですね。日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」のような、当事者による敗因分析はなかなか貴重です。個人的には、真っ先に挙げられている「ローンチ時の仕様」が、やはり最大だったのかなと思います。「勝敗は戦う前から決まっている」だな、と。

技術

AIが人間の創造能力を超越する日は来るか? 西安交通大学の「和歌」自動生成プログラム〈HON.jp News Blog(2021年8月10日)〉

 おなじみ馬場公彦さんによる、いつもとはちょっと路線の異なる取材レポート。俳句や短歌・五言絶句くらいの短い創作物だと、生産速度が桁違いですから、良いものだけをピックアップするという手法なら、そろそろ人間を超えてもおかしくない、という気がします。そういえば以前私も、「漫画家AIプロジェクト」について取材レポートを書いたのを思い出しました(↓)。

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雑記

 今年の立秋は8月7日、暦の上ではもう秋です。オリンピック開催期間中の最高気温は連日30度超えだったのに、終わった途端に涼しくなったように思います。気象庁のウェブサイトを確認してみたら、私の住んでいる地域では8月15日に最高気温20.3度という驚くほど涼しい日がありました。8月がこれだけ涼しいと、そのぶん9月は猛烈な残暑に苦しめられるような予感があります。8月24日からはパラリンピックが始まりますが、どんな気候になるでしょうか?

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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