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2025年6月22日~28日は「米地裁、AnthropicとMetaのAI学習に法的判断」「総務省、SNS事業者に“おすすめ”理由の説明義務を検討」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
- お知らせ
- 政治
- 社会
- 経済
- 技術
- お知らせ
- 雑記
お知らせ
HON.jp Podcasting「#37 公共放送とネット配信必須業務化(2025年6月24日版)」を配信しました
今回は「NHK NEWS WEB」の話です。実は、ポッドキャストの各回タイトルにはなるべく固有名詞を使わず、抽象度を上げる方針にしています。#30「情プラ法」くらいかな。特定のなにかだけに絞って掘り下げるというより、周辺の状況や一歩引いた観点で語りたいという思いがあり。まあ日本で「公共放送」と言えばNHKのことなんですが。
この番組ではみなさまからのお便りをお待ちしています。番組の感想や「こんなトピックスを取り上げて欲しい」「最近こんなことが気になっているが、どう思うか?」「こんな本が面白かった」など、本に関わることならなんでも構いません。こちらのページから気軽にお送りください。
【特番】2025年上半期の出版ニュースを振り返る ―― HON.jp News Casting / 大西隆幸×菊池健×libro×古幡瑞穂×西田宗千佳×鷹野凌(6月28日開催)
ライブ配信は終了しましたが、アーカイブは配信中です! 前半はどなたでも無料でご覧いただけます。後半まで視聴したい場合は有料チケットをお求めください。7月末まで販売しています。
政治
SNS上の表示、どう「おすすめ」されている? 説明義務づけ検討へ〈朝日新聞(2025年6月23日)〉
SNSの偽・誤情報、事業者に自主対策促す 総務省指針、行動規範求める〈日本経済新聞(2025年6月23日)〉
日経の記事を先に読んだ印象は「フーン」という感じだったのですが、朝日新聞の「説明義務づけ検討へ」というタイトルを見て驚きました。要するにこれ、レコメンドのアルゴリズムを明かせという話ですよね。同じ検討会の記事とは思えない。
しかし、まだ検討段階とはいえ、そんなの素直に従いますかねぇ……? Twitterがイーロン・マスク氏に買収されたあと、おすすめに表示されるアルゴリズムを公開していますが、「どうせこんなの公開したあとにすぐに変更するだろう」と思っていたら、案の定でしたから。
あと、もしGPTモデルや推論モデルのAIをおすすめ選出に使っていたら、もうどういうロジックなのか? を説明するのは難しいのでは。まあ、詳細な説明はできなくても、自分のアクティビティが自動的に分析されパーソナライズされた「おすすめ」が表示されている、という点が認知されるだけでも違うかもしれませんが。
本の返品減らし流通コスト低減、研究会が開催…ICタグの有効性など関係者が報告〈読売新聞(2025年6月24日)〉
第1回 出版産業における返品削減研究会〈経済産業省(2025年6月24日)〉
なんかいきなり始まってました。「あれ? 傍聴のお知らせ見落としたかな?」と思ったら、運営方針に「傍聴については、原則として認めない」と書いてありました。な、なんですと? 事務局資料も「後掲」で、本稿執筆時点でも未公開。なにが話し合われたかは不明です。
読売新聞にも「非公開で行われた」とありますが、なんか研究会の内容それなりに把握してるような書きぶりですよね。委員名簿を見たら中央公論新社の社長が入ってるから、そこから情報もらっているのでしょうか。うーん、なんか釈然としない。3回で何が研究できるというんだろう?
「書籍のAI学習利用はフェアユース」と判決–Claude開発元を訴えた裁判、クリエイターに打撃〈CNET Japan(2025年6月25日)〉
本件、米地裁が「フェアユースを認定した」ことに主眼を置いて報道しているメディアが大半です。しかし、「出版社から数百万冊にのぼる紙の書籍を購入し、製本を剥がして裁断、機械でスキャンして元の書籍を廃棄した」ことがフェアユースと認められるのは、正直言っておおかたの予想通りなのでは。これは Google Books がフェアユースを認められたやり方と似ていますから。ポイントはむしろ「海賊版の書籍データをAI学習に利用したことはフェアユースではない」と判断されたことでしょう。
これは、海賊版データが混ざっている学習用データセット「Books3」を使ったことを明かしている他の企業にも直撃する話だからです。Metaなんかまさにそれですよね。弁護士・福井健策氏が以前「海賊版のデータをAIに学習させることは、権利者の利益を不当に害しているのではないか? という視点は充分あり得る」とおっしゃっていましたが、米地裁はまさにそういう判断をしたわけです。
そのいっぽうで、「Books3」を学習に使ったとは言ってない他社(OpenAIとかGoogleとか)は、免れてしまう点に大きな問題があるでしょう。つまり「隠してたほうが良かった」という典型例になってしまうわけです。ならば、AI開発企業各社は、今後ますますソースを隠すようになるでしょう。そういう意味では、欧州のAI規制が「学習データの詳細な概要を公開せよ」なのは、正しい方向性であるように思えます。
米地裁、メタAI開発に著作権侵害認めず 「公正利用」には懐疑的〈日本経済新聞(2025年6月27日)〉
で、直後にMetaにもこのような判断が。Anthropicへの判決よりさらに原告有利な判断に見えます。ただ、Anthropicにフェアユースが一部認められた理由は、前述のように「正規購入した本をAI学習に利用した」からなのですよね。それが例外だとすれば、判断にそれほど大きな違いはないのかな、という印象です。
社会
CA2081 – 学校における電子書籍貸出サービス(電子図書館)の現状と公立図書館との連携 / 有山裕美子〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年6月20日)〉
学校への電子図書館導入の現状と課題についてまとまっています。公立図書館への電子図書館はだいぶ普及してきましたが、それを公立学校で導入している割合は1割ちょっとのこと。なんというか、もうちょいなんとかならんのかという感じがします。
教科書にAIを搭載するのか、AIに教科書を搭載するのか〈稲田友(2025年6月22日)〉
「AIに教科書を搭載」のほうは、恐らく現時点でも「NotebookLM」を使えばこの想定に近いことはできるでしょう。問題は、指摘されているとおり、著作権です。教科書データを自分で「NotebookLM」にアップロードするようなやり方なら「私的使用」の範疇に収まるはずですが、教科書データをあらかじめ搭載したAIを児童生徒に利用させるとなると、どう考えても権利者の許諾が必要になります。「権利者の利益を不当に害することとなる場合」にモロに該当するでしょう(35条や47条の5)。少なくとも利用人数分、販売したのとほぼ同額の補償が要る――まあ、現状でも教科書は国の予算で提供されてますから、その延長上で制度設計すればいいのかな?
AI検索のPerplexityにBBCが「法的措置」警告、コンテンツの「逐語的」複製で〈CNET Japan(2025年6月23日)〉
BBCがこのようにAI企業の法的責任を追及するのはこれが初めてとのこと。要するに「うちにも収益分配プログラムの分け前をよこせ」ということでしょう。少し気になったのは「BBCのコンテンツを用いて訓練された」という主張について。「訓練」ということは、学習段階のことを言っているわけですよね。
しかし、Perplexityに要求しているのは「BBCのコンテンツのスクレイピングを停止し、BBCの素材をすべて削除」した上での金銭的補償です。現状、スクレイピングされた新たなコンテンツは、RAG(検索拡張生成)での出力に使われているという認識なのですが。なんか学習段階と利用段階を混同してませんかね?
ちなみにこの「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」で分けて考える必要があるというのは、日本では文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」でかなり早い段階から指摘されています。学習段階は30条の4、RAGなどによる利用段階は47条の5と、法的にもきっちり整理されてます。
AIは使用していない──作家たちが“潔白証明”のためTikTokで執筆風景公開〈WIRED.jp(2025年6月27日)〉
創作活動にAIを使っている! という疑いからの批判や警告が飛び交っていて、そのカウンターで「私はAIを使っていません」ということを証明するためのアピールが行われているそうです。日本でも一時期、イラストレーターが「AI疑惑」をかけられ魔女狩りみたいな状況に遭っていたのを思い出します。最近はあまりそういう話題を見なくなったな、と思っていたのですが。
経済
楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten 最強 U-NEXT」発表、月額4389円〈ケータイ Watch(2025年6月23日)〉
これはびっくり。「U-NEXT」のサービスって、「楽天TV」や「楽天マガジン」「楽天Kobo」と直接競合するはずですよね。懐が深いというかなんというか。まあ、楽天で買い物をしたとき競合他社のサービスを勧められることは以前もあったので、不思議なことではないのかな? 私が以前見たのは、楽天ブックスの購入完了画面に表示された「Amazonプライムビデオ」の無料体験でした。これも「楽天TV」と競合するはずですよね。
【インタビュー】KPSホールディングス峰岸社長、吉羽専務に聞く 海外出版業界のサービス手本に 日本型「出版社の共有インフラ」作る〈The Bunka News デジタル(2025年6月24日)〉
講談社グループのデジタル・ショート・ラン(DSR)の取り組みについて。KADOKAWAのBECプロジェクトも積極的に広報を行ってますが、見学をさせてもらったときに質問したら「自社での利用しか想定していない。いまのところ他社へ提供する予定はない」とはっきり言われたんですよね。それに対し、KPSのほうは、業界共有インフラになる気満々です。路線には明確な違いがあります。
『群像』がオフセット印刷からデジタル印刷に! 印刷工場から見えてきた出版の未来(宮田 文久)〈群像 | 講談社(2025年6月28日)〉
関連で、定期刊行誌のデジタル印刷への移行について。そもそも、TOPPANから「オフセット輪転印刷機が役目を終える」という連絡があったことが切り替えの契機だったのですね。「適した小ロットの部数を遥かにしのぐ」という記述が気になって印刷証明付き発行部数を調べてみたら、2025年1月〜2025年3月の平均で6000部でした。
あと、CMYKの4色しか使えないという話が出てきますが、そこについては少し「あれ?」となりました。KADOKAWAの工場見学では、コミックやライトノベルでよく使われる蛍光ピンクと、角川つばさ文庫のイメージカラーである蛍光グリーンは、別途インクを用意しているという説明がありました。デジタル印刷でも特色が使えないわけではないけど、汎用性が高い色に限られるということなのでしょう。
2025年5月期 紙書籍雑誌推定販売金額は前年同月比8.4%減 ~ 出版指標マンスリーレポートより〈HON.jp News Blog(2025年6月25日)〉
ちょっと気になる記述が。3月から雑誌の対前年比が酷い有様なのですが、これはコンビニの帳合変更に伴う販売終了の影響が大きいとみられていました。ところが「この期間の算出データに一部不明瞭な箇所が残る」という記述が。8月以降に再検証が行われる予定とのこと。確かに、某出版営業の方から「コンビニだけでは説明がつかない数字」という意見も耳にしました。気になる……ヘタすると半年分くらい遡って修正が必要になるかもしれません。
技術
Google’s site reputation abuse policy: Wrong solution, real problem(グーグルのサイト評判悪用ポリシー:間違った解決策、真の問題)〈Press Gazette(2025年6月26日)〉
昨年、Googleから発表・執行されたいわゆる「寄生サイト」へのペナルティについて。「行き過ぎだ」などと文句を言っています。しかし、改めて調べてみたら、この手法は非推奨だとGoogleが警鐘を鳴らし始めたのは2019年のことなんですよね。
ガイドラインに定められたのは2024年ですが、それ以前から問題視はされていました。そういう経緯を知っていると「いまごろ何を言うか」と思わずにはいられません。なお、ペナルティを食らっているメディアには、Forbes、Fortune、CNN、AP News、Wall Street Journal などの名前が挙げられています。
お知らせ
ポッドキャストについて
5年ぶりに再開しました。番組の詳細やおたより投稿はこちらから。
新刊について
新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』各ネット書店にて好評販売中です。Kindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題、シーモア読み放題にも対応しました!
「NovelJam 2024」について
11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」で新たに誕生した16点の作品を合本にしました!
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雑記
NPO法人HON.jpの、10期目の通常総会が無事に終わりました。あらためて振り返ってみると、非営利団体という未知(だった)領域でのチャレンジを10年間よくぞ続けられたものだと思います。支えていただいた皆さまに最大限の感謝を。(鷹野)