「2022年出版市場」「同音異義語」「Twitterの代替は?」「noteに広告?」「i2iのAIトレパク」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #556(2023年1月22日~28日)

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 2023年1月22日~28日は「2022年出版市場」「同音異義語」「Twitterの代替は?」「noteに広告?」「i2iのAIトレパク」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

米司法省 vs Google、広告も標的 事業拡大に歯止め〈日本経済新聞(2023年1月25日)〉

 Google本家本丸の広告事業が、とうとう司法省から反トラスト法(独占禁止法)違反を問われることに。長い係争が始まることになるのでしょう。ちなみに、Microsoftと司法省の訴訟は和解まで12年を要しました。

 当然のことながらGoogleは、最近広告分野で急成長しているAmazon、Apple、TikTokなどの名前を挙げて反論しています。「ChatGPT」の登場によってウェブ検索事業そのものが危うくなるかも? と言われているこのタイミングで、政治的な横やりを入れられるのはキツイでしょうね。

ネット中傷、法規制慎重に 新聞協会が意見書〈共同通信(2023年1月27日)〉

 年末も年末、12月27日から意見募集されていた「誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応の在り方について」に、日本新聞協会が「表現の自由を脅かし、正当な言論活動を萎縮させかねない」と法規制導入への懸念を表明しています。まだこれから「どのような環境整備があり得るか検討」する段階ではありますが、ワーキンググループでの今後の議論の行方が気になります。

 関連して、エンターテイメント表現の自由の会(AFEE)からも意見書が公開されていました。末尾の自由記載に書かれた「違法・有害情報の定義」は、けっこう重要な指摘でしょう。確かに、意見募集の別紙1には違法・有害情報の定義が無いんですよね。「5. その他」に「受信者の属性や文脈によって評価が変化し、法律上の定義が一義的に定まらない有害情報」と書いてあるくらい。「範囲が際限なく広がる可能性」という懸念は、確かにそのとおり。

 ちなみに、一般社団法人セーファーインターネット協会の「セーフライン」には、有害情報は「児童を対象としたいじめの勧誘」「遺体や殺害行為の画像等」「違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報」「違法情報に該当する疑いが相当程度認められる情報」「自殺誘引等情報」と例示されています。運用ガイドラインもしっかり定められています。しかし「それでは足らない。法規制が必要だ」という話になってしまうのかどうか。

社会

※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。

2023年1月初めてスマートフォンを持つ子どもと親への意識調査〈MMD研究所(2023年1月23日)〉

 ちょっと認識のアップデートが必要だと感じた調査結果。2019年12月の調査(公表は2020年1月)では、スマホのデビュー時期は中学3年生が最多(16.3%)だったんですが、今回の調査結果では小学6年生が最多(14.9%)になっています。コロナ禍の2年間のあいだに、ぐっと低年齢化が進んでいることに。下の学年から足していくと、小学6年生で過半数を超えます(56.4%)。

 そして同時に、GIGAスクール端末も手にしているわけですよね。いやあ、末恐ろしい。幼少期から高度な情報機器に慣れ親しんでいる世代が、今後の社会を大きく変えていく予感があります。近いところでは、いまの高校1年生は「情報」科目が大学入学共通テストの受験科目になります。学び方が激変しているはず。上の世代とかなり大きなギャップが発生することでしょう。

同じ読みがいっぱい!――言葉を届ける前にしておきたい12のケア〈第3回〉〈HON.jp News Blog(2023年1月25日)〉

 おなじみ、大西寿男さんの連載第3回です。同音異義語の変換ミス、あるあるですよね。Twitterみたいに修正が効かないSNSでは頻繁に見かけます。「ああ、たぶんこの同音異義語に変換したかったんだろうな」と脳内補完して読まなきゃいけないという。かな漢字変換で候補から選ぶという入力スタイルは、ミスが起きやすいものだと思います。

経済

英国の9つの新聞がニュースレターファーストに転換【Media Innovation Weekly】1/23号〈Media Innovation(2023年1月23日)〉

 タイトルにも挙げられている今週のテーマ解説が興味深い。ウェブサイトのPVではなく、ニュースレターのエンゲージメントを最重要視していく方針とのことです。発信する情報をプラットフォームに届けてもらうのではなく、自ら読者のリストを作っていく動き。ローカルメディアが例に挙げられていますが、狭いジャンルを扱うメディアにも同じことが言えるでしょう。

株式会社ソラジマがオリジナル漫画アプリ「SORACOMI」を開発。日本に続きアメリカでもリリースを達成!〈株式会社ソラジマのプレスリリース(2023年1月23日)〉

米国向け電子コミックアプリ「Comicle」を提供開始〈株式会社アムタスのプレスリリース(2023年1月27日)〉

 今年の予想で挙げた「コンテンツの輸出拡大」関連です。ほぼ同時期に2つ、北米向けのマンガアプリがリリースされました。ソラジマ「SORACOMI」のリリースには縦スク(Webtoon)と明記されていますが、アムタス「Comicle」のリリースにはとくに記述がありません。

 ただ、もともと「めちゃコミック」はフィーチャーフォン時代から現在に至るまで「コマ読み」での配信を続けており、2017年からは縦の「スクロール読み」を追加しています。オリジナルのヒット作『青島くんはいじわる』は縦スクです。ノウハウはずっと前から持っていたわけなんですよね。

 ちなみにアムタスは、2019年7月にパピレスと合弁で海外への取次事業会社「アルド・エージェンシー・グローバル」を設立しています。自社で直接海外へ配信するのは今回が初めてでしょうか? 「満を持して」といった感があります。

2022年紙+電子出版市場は1兆6305億円で前年比2.6%減、コロナ前の2019年比では5.7%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2023年1月25日)〉

 毎年1月25日の恒例。数字を入れればすぐ反映できるようにして、プレスリリースが届くのを待ち構えていました。紙の実績は、2022年検証での予想より少し良い結果に。電子の実績は、予想より少し悪い結果に。しかしいずれにしても、過去2年間に比べると良くない数字です。まあ、「出版月報」12月号の時点で「コロナ特需は完全に終息」と書かれてましたからね。

 その良くない数字だけタイトルに入れるのも芸がないので、「コロナ特需の前と比べたらどうなのか?」という観点で2019年比を入れてみました。コロナ禍の前よりはプラスなんですよね。ここ数年の、電子コミックの伸びの凄まじさ。それに対し、文字もののダウントレンドは痛い。ううむ。

Twitter 離脱を検討中? 代替プラットフォーム6選はこちら〈DIGIDAY[日本版](2023年1月26日)〉

 Hive Social、Mastodon、Post.News、Discord、Reddit、Tumblrが挙げられています。Discordなんかぜんぜん性質が違う(ビジネスチャットのSlackやTeamsなどに近い)から、代替として挙げちゃダメでは。また、マーケティング関係者からの評価は、いずれも厳しい。つまり……、

見つからない「Twitterと同じ」プラットフォーム:進むソーシャルメディアの断片化と、戦略の複雑化〈DIGIDAY[日本版](2023年1月27日)〉

 マーケティングの観点からは、現時点ではこういう結論になってしまうのかな、と。まあ、利用者からすれば、繋がりたい人とストレスなく繋がれる環境があれば良い、という話なのですけど。私個人は、Twitterの利用頻度をぐっと下げ、Mastodonへ移住する方向で動いています。

noteがポイント制度、広告サービス導入視野 加藤CEOに直撃 ※有料会員限定〈日経クロストレンド(2023年1月27日)〉

 広告がないことは「note」の大きな特徴です。それだけに「広告サービス導入視野」という見出しは気になります。しかし、有料会員限定。ぐぬぬ。株式公開後の成長戦略、という話だと思うのですが、どういうニュアンスで、どれくらい具体的に語られているんだろう?

 例えば、無料会員の記事には広告が表示される、プレミアム会員の記事には広告が出ない、くらいの差別化だったらギリギリ許容範囲とは思います。ただ、プレミアム会員側の機能もグレードダウンが予告されているのが……有料共同運営マガジンの 「分配率設定」機能が6月末で終了という事前告知が出ていました。

 これ、重宝しているので「困る」という反響も少なからず見受けられるのですが、なぜ止めちゃうんだろう? 事前告知に理由は書かれていません。システム的な処理は自動でも、振込手続きなど事務処理は人の手が必要になるから? あるいは、悪用する人がいた? うーむ。

 そういえば以前、KDPで成功した漫画家・鈴木みそ氏にインタビューしたとき、小沢高広氏との共著をKDPにしなかった理由の一つとして「収益分配の事務処理が面倒なことになるから」とおっしゃっていたのを思い出しました。Amazonが「印税を一人の作家に対してしか払ってくれない」と。

 複数名でコラボしたとき、収益分配までやってくれるプラットフォームというのは、実は稀有です。他には「BCCKS」や「MOSH」くらいでしょうか。「note」がこの機能を撤廃することは、確実に「ソロ活動」促進への圧となります。私は「月刊群雛」や「NovelJam」でチーム・パブリッシングを推進してきた立場なので、非常に残念。

「韓国ウェブトゥーン作家」の平均年収は「1100万円以上」…!一方で、深刻化している「大問題」(飯田 一史)〈マネー現代 | 講談社(2023年1月28日)〉

 平均年収1100万円以上という見出しを見て「中央値は?」と思ったら、本文に「この1年間に連載した作家の48.7%が5000万ウォン以上稼いでいる」とありました。つまり、中央値はおおよそ5000万ウォン(約500万円)ということに。要するに、たくさん稼いでいる作家が平均を押し上げているわけです。まあ、こういうのってそういうもんですよね。

 あと、ウェブトゥーンの制作は分業・スタジオ形式と言われることが多いのですが、実態として1人で作業が5割弱、補助作家(恐らくアシスタント)1人を合わせると7割以上というのが興味深い。以前から指摘する声はありましたが、分業・スタジオというやりかたは「上澄み」だけであることが数字で示されたことになります。うーん。

技術

「AIトレパク」が問題に〈ASCII.jp(2023年1月25日)〉

AIでイラストを“トレパク”? 既存画像から再生成する「i2i」機能を巡る法解釈〈ITmedia NEWS(2023年1月25日)〉

 AIに、画像を読み込ませて画像を出力させる「image to image(i2i)」が、「トレパク」ではないか? と問題視され、別メディア・別著者からほぼ同時に記事化されました。テキスト(プロンプト)で指示して画像を出力させる「text to image(t2i)」に比べると依拠性が格段に高まるので、元画像の著作権を侵害する可能性も高くなるのは当然のことでしょう。

 こういう話が出てくるとすぐ「著作権法が想定していない」云々と言い始める人がいますが、これはAI生成かどうかは関係ない話だと思います。要するに、単純に、人間がトレスや模写した場合と同じでしょう。類似性と依拠性で、個別具体的に判断されるべきものです。

米バズフィード、ChatGPTの技術で記事作成へ…株価は大きく上昇〈Business Insider Japan(2023年1月27日)〉

 先週(#555)、米CNETがAI生成記事を人間が書いたように見せていたのがバレたニュースをピックアップしましたが、こちらはAIで記事を生成する動きを見せているという報道で株価が200%以上上がったというニュース。こっそりやってたのが批判されたCNETとは対照的です。

 有料会員限定部分は読めておらず詳細は不明ですが、Metaとのパートナーシップ締結と、昨年12月に従業員の12%を解雇したばかりという情報が出ています。なんというか、ChatGPTに対する期待が少々高まりすぎていないか? という気もします。書く手間は省けても、チェックの手間は省けないのですよね。嘘つくから。

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雑記

 新しいガス圧昇降タイプのバランスチェアが届きました。組み立てが必要なのですが、こんなの楽勝……と思っていたら、ネジを何カ所か締めたりするだけで握力がなくなり、しばらくのあいだキーボード入力に支障が。うう、弱くなったなあ(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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