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HON.jp News Blog 編集長の鷹野が、年初に公開した出版関連動向予想1 2022年出版関連の動向予想〈HON.jp News Blog(2022年1月10日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/32010を検証しつつ、2022年を振り返ります。
【目次】
2022年概況
出版科学研究所「出版月報12月号」2 出版月報 2022年12月号〈出版科学研究所(2022年12月25日)〉 https://shuppankagaku.shop-pro.jp/?pid=172110451によると、2022年1~11月期の紙の出版物推定販売額は1兆0319億9900円で、前年同期比6.6%減でした。コロナ禍前の2019年1月~11月期からは8.7%減となっています。うち、書籍は5974億7900万円で前年同期比4.6%減、雑誌は4345億2200万円で同9.2%減です。
紙の書籍と雑誌市場
12月はまだ終わっていませんが、2022年は「年間実績では、約6%減の1兆1,300億円台となる見込み」とのこと。書籍は「今年は落ち込みが大きい」、雑誌は「年間でも10%近いマイナス」と記されていました。「コロナ特需は完全に終息した」と言っていいようです。
2021年12月の実績に2022年1~11月期の前年同期比を当てはめて計算してみると、年間では書籍が6491億円、雑誌が4790億円となります。合計すると1兆1281億円で、「1兆1,300億円台」には少し届きません。12月の数字は1~11月実績より若干上向く見込みなのでしょうか?
紙のコミック市場
雑誌のうち「月刊誌」の内訳として出てくるコミックス(単行本)は、1~11月期は前年同期比約18%減と大幅減です。2020年、2021年とメガヒット作が相次いだ反動とのこと。ただ、コロナ禍前の2019年と比べると「3%程度のプラス」になっているそうです。
2019年の雑誌扱いコミックスは1472億円でしたから、2022年は1516億円前後といったところでしょうか。あとは、数字が出ていない書籍扱いコミックスとコミック誌がどうなるか。詳細は年明け2月25日ごろの発表予定です。
電子出版市場
ここまでの数字は、すべて紙の出版市場です。電子出版市場は例年通り、集計中のため本稿執筆時点では未発表となっています。出版月報には「コミックスが引き続き成長を続けているものの前年までの大きな伸びはない」と記されていました。
なお、7月に発表された上半期(1~6月)の出版市場は、紙+電子で8334億円、前年同期比3.5%減でした3 2022年上半期出版市場(紙+電子)は8334億円で前年同期比3.5%減、電子は2373億円で8.5%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2022年7月25日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/36546。紙は5961億円(同7.5%減)、電子は2373億円(同8.5%増)。これが下期どうなったか。電子が下半期も上半期と同じ成長率と仮定すると、電子コミック4533億円、電子書籍447億円、電子雑誌86億円、計5066億円となります。詳細は年明け1月25日ごろの発表予定です。
書籍:雑誌:コミックを紙+電子で考えると?
出版科学研究所から発表される年間の出版市場は、例年通りなら1月25日に紙が「書籍」「雑誌」の2種類、電子は「コミック」「書籍」「雑誌」の3種類、数字が出ます。紙の「書籍」には「書籍扱いコミックス」が、紙の「雑誌」には「雑誌扱いコミックス」と「コミック誌」が含まれています。その明細が発表されるのは、例年通りなら1カ月遅れの2月25日です。
つまり、紙も電子と同じ「コミック」「書籍」「雑誌」の3種類を揃えるには、2月25日まで待つ必要があるのです。この3つの市場を紙+電子で考えると、2021年の市場占有率は書籍が41.9%、雑誌が17.7%、コミックが40.4%でした4 2021年紙+電子の書籍:雑誌:コミック市場の比率は41.9:17.7:40.4 ~ 出版科学研究所調査より〈HON.jp News Blog(2022年2月28日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/32789。2022年の実績では、恐らくコミックが書籍を上回ることになるでしょう。
なお、出版科学研究所による出版物の推計販売額は、紙は取次ルートのみで、出版社による直販や書店との直接取引は含まれません。電子は「読者が支払った金額の合計」を推計しており、定額読み放題は含まれますが、広告収入や電子図書館は含まれません。
年初にはこんな予想をしていた
続いて、私が年初に予想していた2022年の動きについて。挙げたのは以下の5つです。
- メディアビジネスの転換を進めよう(提案)
- 埋もれていた名著の再発見と復刻が進む
- 縦読み含めメディアミックス展開が拡大する
- 電子図書館の普及でコンテンツ供給が急増する
- 映像を活用したマーケティング活動が広がる
メディアビジネスの転換を進めよう(提案)
主に、定期刊行物である「新聞」と「雑誌」という切り口の予想(提案)です。物理メディアの販売が急激に減少する中、物理メディア流通を前提とした従来の仕組みや体制が維持できなくなるため、否が応でもビジネスモデルの再構築(リストラクチャリング)が求められる、という予想でした。
具体的には、人の異動や移籍、個人メディアの増加、PV重視や広告依存からの脱却、サブスクの前に記事のバラ売り、といった動きが出てくるのではないか――というか、出てきて欲しいという願望を「提案」として予想に組み込んだ形です。結論から言えば、2022年は試行錯誤が続いた年でした。
PV重視の傾向は相変わらずだが
2021年回顧でも触れましたが、PVは「虚栄の指標(vanity metrics)」と呼ばれています5 2021年出版関連動向回顧と年初予想の検証〈HON.jp News Blog(2021年12月31日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/31983。自分でそう書いておきながら、日本ABC協会の「雑誌発行社会員Web指標一覧」6 Web指標一覧 (2022年7-9月期)を公開しました〈一般社団法人 日本ABC協会(2022年11月28日)〉 https://www.jabc.or.jp/news/abc_report/2022/11/28_2872.htmlの推移データをグラフ化することに矛盾も感じていたので、今回の検証から省くことにしました。
とはいえ、PVがわかりやすい数値として使われがちな状況に変わりはありません。広告収益=PVを稼ぐため、伝統的メディアさえ「煽り見出し」や「コタツ記事」に手を染める状況も相変わらずです。PVが稼げるからと、悪評の高い有名人を使い続けるような傾向7 ひろゆきさんをタイトルに入れるとPVが稼げる、出版社も著者もウィンウィン…東洋経済オンライン元編集長が指摘する、“すしざんまい社長の記事削除”を生じさせた根本原因 | 経済・IT〈ABEMA TIMES(2021年12月28日)〉 https://times.abema.tv/articles/-/10010065も、以前より顕著になっているように思います。
ただ、ユーザーのメディア消費時間という観点では、広告型メディアの割合が減少しているというレポートもあります8 広告業界が回復するなか、メディア消費における広告型メディアの割合は減少していると判明〈Media Innovation(2022年1月20日)〉 https://media-innovation.jp/2022/01/20/pqmedia-survey-time-spent-with-ad-supported-media-falls/。消費者が広告に対し不寛容になりつつあるようです。メディアの運営側としても、いきなり広告ゼロにするのは難しいとしても、広告収入への依存度を徐々に下げる方策が必要でしょう。
ビッグテックによる収益還元は……
2021年にはGoogle、Apple、Facebookといったビッグテックが、伝統的なメディアに対しニュースの使用料を支払う形での収益還元と融和策を始めていました。このうちFacebook(Meta)は、ニュース配信元との契約を解消9 Facebook、米国でニュース配信元との契約解消へ–動画やクリエイターを優先〈CNET Japan(2022年7月29日)〉 https://japan.cnet.com/article/35191154/したり、「Instant Articles」の廃止を発表10 メタ、「Instant Articles」を来年4月に廃止へ・・・記事の高速表示フォーマット〈Media Innovation(2022年10月15日)〉 https://media-innovation.jp/2022/10/15/instant-articles-ends-support/するなど、ニュース系からフェードアウトしていく方向へ舵を切りました。
Apple「News Partner Program」は、まだ日本が対象外のまま。Google「News Showcase」は日本で開始されて以降、ほとんど続報が出なくなりました。ただ、日経が「少数のIT事業者に圧倒的な優越的地位が」「欧州の例を参考に、法律や自主的な規制など、なんらかのルールの導入を議論すべき」という社説11 [社説]記事表示の対価は欧州参考に〈日本経済新聞(2022年5月20日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK199B70Z10C22A5000000/を出していたのは印象的でした。
それを受けてかどうかわかりませんが、公正取引委員会から記事配信契約で「共同交渉が可能」という見解を出したり12 記事配信巡り、共同交渉が可能 対巨大ITで公取委が見解〈共同通信(2022年6月22日)〉 https://nordot.app/912235586814115840、ニュース利用料が不当に安い恐れがあると調査に乗り出したり13 ニュース利用料不当に安い恐れ 公取委、巨大IT調査へ〈産経ニュース(2022年11月16日)〉 https://www.sankei.com/article/20221116-ZYERTIW6ERO63K7UR4IDTQJILI/といった動きもありました。欧米とは異なり、日本は「Yahoo!ニュース」が圧倒的に強い現状があり、今後の動向が注目されます。ちなみに、Zホールディングスには「LINEニュース」もあるんですよね。
ネット広告規制への動きも相次ぐ
そういった中、政府によるネット広告規制への動きも相次いでいます。消費者庁は景品表示法で、アフィリエイト広告規制14 「広告」だと明示を アフィリエイトに指針〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年6月29日)〉 https://www.advertimes.com/20220629/article388615/やステルスマーケティング規制15 ステマ広告検討会、報告書案を取りまとめ インフルエンサーやアフィリエイトも「PR」の表記必須に〈日本ネット経済新聞(2022年11月29日)〉 https://netkeizai.com/articles/detail/7594など。総務省は電気通信事業法で、ターゲティング広告規制16 「ターゲティング広告」規制導入へ ネット利用者を保護 総務省 | IT・ネット〈NHKニュース(2022年1月14日)〉 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220114/k10013431421000.htmlなど。経済産業省は特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律で、大手広告プラットフォームの規制を図る動き17 巨大なデジタル広告プラットフォームに対する規制の始動 ―規制の概要と広告主・パブリッシャーへの影響― | 著書/論文〈長島・大野・常松法律事務所(2022年10月4日)〉 https://www.noandt.com/publications/publication20221004-1/をしています。
こういった省庁の審議会や検討会などは広告以外でも数多く行われており、日々膨大な資料が公開されています。正直、一人では追い切れません。しかし、法規制は一歩間違うと致命傷となる可能性もあるので、追わずにはいられない……できれば手分けしたいところです。
新聞社・通信社はペイウォール型が主流に
ここ最近、ペイウォールが増えたなあ……という印象があったのですが、日本新聞協会の調査によって新聞社・通信社のウェブメディアは「無料」を「有料」が上回り、ペイウォール型が主流になっていることが数字としても示されました18 新聞・通信社の総合ニュースサービス 「無料」から「有料」が主流に デジタルメディア現況調査〈文化通信デジタル(2022年9月21日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/287858/。ただ、肝心の「有料利用者がどれだけ伸びたか?」については、日本ではなかなか情報が出てきません。
現状、日本の伝統的メディアで最も有料会員が多いと思われる日本経済新聞は、半年に1回情報を公開しています。直近の数字を前年同期と比較すると、電子版有料会員数は2021年7月時点で81万1682だったのが19 本紙・電子版購読数266万〈日本経済新聞(2021年7月16日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73927130V10C21A7CT0000/、2022年7月時点では83万201とまだ堅調な伸びを示しています20 日経からのお知らせ〈日本経済新聞(2022年7月15日)〉 https://www.nikkei.com/topic/20220715.html。決済手段が加入増へのボトルネックになっていたことから、「Stripe」を導入という発表もありました21 日経新聞がオンライン決済のStripe導入を発表・・・ボトルネックの決済手段を改善〈Media Innovation(2022年7月30日)〉 https://media-innovation.jp/2022/07/30/nikkei-choose-online-payment-system-stripe/。
あまり話題になっていませんが、「日経電子版」22 日経電子版、無料会員の記事閲覧本数を大幅制限へ〈RTB SQUARE(2022年11月3日)〉 https://rtbsquare.work/archives/44183も「朝日新聞デジタル」23 朝日新聞デジタル、「会員記事」を月5本まで読める「無料会員」制度を廃止。「会員記事」自体も終了【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2022年7月14日)〉 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1424760.htmlも、無料で読める本数を徐々に減らしていく施策を採っています。個人的にも、ペイウォールの向こうを「読みたい」と思う頻度との天秤で耐えられなくなり、「朝日新聞デジタル」は2021年9月から、「日経電子版」は2022年12月から購読料を支払うようになりました。読売新聞も、デジタルだけのコースがあれば契約したいのですが。
毎日新聞は、デジタル契約獲得のため面白い動きを始めています。デジタル会員を獲得した新聞販売店に、毎月一定の手数料を支給する制度を導入しました24 「毎日新聞デジタル」 会員獲得の販売店に手数料 「第3の収入」で経営支援〈文化通信デジタル(2022年8月26日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/283370/。正直、なぜいままでやってこなかったのか? と驚いたほどです。新聞販売店の「第3の収入」として位置づけるとのこと。「新聞以外のメディア」と比べたら、全国戸別に営業できる部隊を持っていることは強みですからね。
残念ながら大手メディアで直接「記事をバラ売り」するような事例は観測できませんでした。個人的には、定期購読者以外はタイトルしか読めない級のハードペイウォールを設けている読売新聞あたりが、こういう意外な手を打ってくると面白いかも? なんて想像をしていたのですが。残念。他方、noteのような既存のプラットフォームを使う事例はもう珍しくありません。
なお、アメリカではニューヨーク・タイムズが、サブスク契約数の目標1000万件を、3年前倒しで達成しています25 サブスク1,000万件,NYタイムズが3年で倍増のわけとは〈新聞紙学的(2022年2月3日)〉 https://kaztaira.wordpress.com/2022/02/03/nyt_reaches_10_million_subscriptions_3_years_earlier/。ところが実は、ゲームの「Wordle」やレシピの「Cooking」など、ニュース以外の割合も大きいのです。つい、新領域への展開と思ってしまいがちですが、パズルなどの娯楽コンテンツは従来も紙面で提供されているわけですから、既存モデルのデジタル転換(DX)の一種と言えるでしょう。
出版DX基盤「MDAM」
出版社系に視点を移すと、集英社、小学館、講談社による「雑誌コンテンツ使った新サービス創出」を目指す戦略的業務提携というニュースがありました26 講談社、集英社、小学館が戦略的業務提携 雑誌コンテンツ使った新サービス創出へ〈文化通信デジタル(2022年4月26日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/267509/。これは集英社の開発した出版DX基盤「MDAM」が、音羽/一ツ橋というグループの壁を越え、広く採用されるようになってきたことが背景にあります27 集英社「non-no」講談社「ViVi」…編集システム共通化〈日本経済新聞(2022年6月18日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD105DT0Q2A610C2000000/。なお、導入促進・運用支援パートナーには、大日本印刷が入っています。
日本出版学会 出版デジタル研究部会はHON.jpと共催で、この「MDAM」の開発背景や導入効果について関係者から話を伺う機会を設けました。公式サイトにレポートやプレゼン資料も載っており28 「出版DX基盤『MDAM(エムダム)』開発背景や導入効果について」松下延樹・早坂悟(2022年9月13日開催)〈日本出版学会(2022年11月13日)〉 https://www.shuppan.jp/bukai/bukai14/2022/11/13/2533/、YouTubeでは動画も配信しています。興味のある方はぜひご覧ください。
出版社直営ECサイトでサブスクも
雑誌系では、文藝春秋の動きも目立ちました。「週刊文春 電子版」への記事配信時間を雑誌発売前日12時に前倒しして電子版の価値を高める施策を打ったり29 「週刊文春 電子版」記事配信時間を雑誌発売日前日12時に前倒し〈文化通信デジタル(2022年1月13日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/253134/、サブスクの「文藝春秋 電子版」をスタート30 文藝春秋 定期購読モデルで「文藝春秋 電子版」本格スタート〈文化通信デジタル(2022年12月1日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/303904/したりしています。
出版科学研究所「出版月報」が、来春に季刊化するというお知らせもありました31 2023年4月以降の刊行変更のお知らせ〈出版科学研究所(2022年12月13日)〉 https://shuppankagaku.com/news/20221213/。今後も月次データはPDFの「出版指標マンスリーレポート」で定期購読者に配信するそうなので、従来の物理メディアの郵送(第三種郵便)より情報鮮度は高まることになります。従来の電子版(固定レイアウト)は発行日から1週間~10日遅れだったので、紙版のほうが早かったという。
書籍系でも、有斐閣「有斐閣Online」32 有斐閣Onlineオープンのご案内〈有斐閣Online(2022年11月14日)〉 https://yuhikaku.com/articles/-/12397や佼成出版社「ちえうみ」33 佼成出版社 電子書籍アプリ「ちえうみ」開始 サブスク「読み放題プラン」も〈文化通信デジタル(2022年10月3日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/290316/など、出版社直営ECサイトで有料会員制の読み放題サービスを展開する事例が出てきました。他にもGakkenやオーム社など、私の観測範囲ではアイドック「bookend」のソリューションを使った事例が急増している印象があります34 bookend(ブックエンド)導入事例 https://bookend.keyring.net/home/case/。
講談社「メフィスト」は定期刊行の電子版を止めて、定額会員制の読書クラブを展開、紙版が年4回届くという試みを始めました35 「メフィスト」小泉直子編集長が語る、定額会員制の読書クラブへの挑戦 「クローズドなサークルを作りたいわけではない」〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2022年2月20日)〉 https://realsound.jp/book/2022/02/post-963789.html。オンラインサロンに近い形態と言っていいでしょう。また、新潮社「yom yom」も定期刊行の電子版を止め、逆に、全作品無料のウェブマガジンへ移行しています36 人気作家の新作がすべて無料で読み放題!!新潮社の文芸誌「yom yom」がWEBマガジンとしてリニューアル!〈株式会社新潮社のプレスリリース(2022年1月19日)〉 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000440.000047877.html。定期購読(サブスク)からの離脱事例として取り上げておきます。
また、アメリカでの事例ですが、ビジネスメディア「Quartz」がペイウォールを廃止というニュースもありました37 「読者は支援するためにお金を払う」Quartzがペイウォールを廃止した理由〈Media Innovation(2022年4月20日)〉 https://media-innovation.jp/2022/04/20/quartz-drops-paywall/。全記事を無料公開するいっぽうで、有料会員にはニュースレターで魅力を訴求していく計画とのことです。
ニュースレターなど個人メディアの動向
そのニュースレターは、アメリカでは「Substack」、日本でも「theLetter」など、どちらかというと個人メディアの文脈で語られることのほうが多い気がしています38 “ニュースレター再注目”は何を意味しているのか?「出版業界ニュースまとめ」古幡瑞穂×藤村厚夫対談〈Media × Tech(2022年6月10日)〉 https://www.mediatechnology.jp/entry/newsletter-furuhata-x-fujimura。ポッドキャストとの合わせ技で、目と耳の両方へ届ける工夫もあるようです39 実践ノウハウ公開!ニュースレターとポッドキャストで「個人メディア」〈Media × Tech(2022年12月15日)〉 https://www.mediatechnology.jp/entry/ayohata。HON.jpでもポッドキャストの配信を試したことはありますが40 「Anchor」で HON.jp の Podcast を開始しました〈HON.jp News Blog(2020年1月13日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/27662、一人で喋るのはけっこうキツイ。HON.jp News Castingのように、複数名で会話するほうが良さそうです41 HON.jp News Casting〈YouTube〉 https://youtube.com/playlist?list=PLAWgGDlL7fu7Ek6RAwTN_zdJjdBKOpbWt。
他方、Twitterは「Revue」を2年前に買収しましたが、イーロン・マスク氏がオーナーになってすぐサービス終了のお知らせを出しています42 Twitter、ニュースレター配信の「Revue」を終了へ–買収から2年で〈CNET Japan(2022年12月15日)〉 https://japan.cnet.com/article/35197422/。個人的に試しかけていた(日本円の決済手段がなかったので止めた)ので、危ないところでした。Facebook(Meta)も「Bulletin」の閉鎖を発表しています43 メタ、ニュースレタープラットフォーム「Bulletin」を来年頭に閉鎖〈Media Innovation(2022年10月8日)〉 https://media-innovation.jp/2022/10/08/meta-close-newsletter-platform/。SNSとニュースレターって、相性良さそうに思えるんですけどね。
ウェブ発メディアの失速
一方、ウェブ発メディアの失速も相次ぎました。TechCrunch日本版とEngadget日本版は、比較的うまくいっていたメディアにもかかわらず、親会社の変更と方針の問題でクローズ44 エンガジェット、TechCrunch日本版の終了を惜しむ 海外メディアの運営って結構大変という話:ヤマーとマツの、ねえこれ知ってる?〈ITmedia NEWS(2022年2月16日)〉 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2202/16/news132.html。売却の検討やログを残すことさえしないという、唐突かつショッキングな終わり方でした。
また、「SlowNews」の定額制サービス終了45 SlowNewsが定額課金サービス終了へ 事業方針を変更〈Media Innovation(2022年5月26日)〉 https://media-innovation.jp/2022/05/26/slownews-ends-subscription-service/、「cakes」のサービス終了46 「cakes」閉鎖後に記事はどうなる? noteに聞いた〈ITmedia NEWS(2022年5月26日)〉 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2205/26/news157.htmlは、ペイウォール型メディア運営の難しさを思い知らされました。「NewsPicks」も有料会員数が伸び悩み、投資会社による公開買い付け(TOB)で上場廃止に向け動いているという報道がありました47 「NewsPicks」のユーザベースをカーライル・グループがTOB、上場廃止へ〈ケータイ Watch(2022年11月9日)〉 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1454509.html。
こうした状況を受け、「消えるウェブサイト問題」対策の必要性48 サイト閉鎖で情報消滅、その前に。Webコンテンツの永久保存を考える〈Forbes JAPAN(2022年7月7日)〉 https://forbesjapan.com/articles/detail/48493が改めて問われた一年でもあったように思います。問題は、残す努力=維持コストをどこが負担するか49 「本格的デジタルアーカイブ」は実現可能か?〈ITmedia NEWS(2022年7月28日)〉 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2207/28/news201.html。現実解としてはやはり、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の範囲を民間まで広げることでしょうか。
NFTは幻滅期に
2021年に大きく注目されたNFT(Non-Fungible Token)には、メディアビジネスの在り方をも大きく変える存在になるかもしれないという期待がありました。しかし、NFTマーケットプレイス大手のOpenSeaが「NFTの8割が偽物」と公表50 「NFTの8割が偽物」に対策加速 JCBIなどシステム本運用へ〈日経クロストレンド(2022年6月7日)〉 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01846/するなど、闇市化の方向へ進んでしまいました。
ガートナーの「先進技術ハイプサイクル」では、すでにNFTは「過剰な期待のピーク期」を過ぎて「幻滅期」に入ったとされています51 2022年の注目技術は、没入感やAIなど–ガートナーの2022年版「先進技術ハイプサイクル」〈CNET Japan(2022年8月12日)〉 https://japan.cnet.com/article/35191799/。大手メディアのCNNが、NFT事業から撤退するという報道もありました52 米大手メディアCNN、NFT事業から撤退へ〈CoinPost(2022年10月12日)〉 https://coinpost.jp/?p=396389。Googleトレンドを見ると、日本では2022年1月下旬がピークで、いまは4分の1くらいになっています53 Google トレンドで「nft – 日本、過去 5 年間」の 人気度の動向 を見る〈Googleトレンド(2022年12月31日)〉 https://trends.google.co.jp/trends/explore/TIMESERIES/1672460400?hl=ja&tz=-540&date=today+5-y&geo=JP&q=nft&sni=3。
そんな中でも、トーハン×メディアドゥが展開する「NFTデジタル特典」が「週刊SPA!」などに付与される試み54 NFTデジタル特典が「週刊SPA!」全部数に付与〈新文化(2022年6月9日)〉 https://www.shinbunka.co.jp/news2022/06/220609-04.htmは、もう少し長い目で評価したいと思っています。世界文化社「Begin」の電子書籍特典付き特装版は55 メディアドゥなど、電子書籍をNFTで 消費者間で売買も〈日本経済新聞(2022年10月15日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC132DV0T11C22A0000000/私も試しに買ってみましたが、この判型ならスマートフォンではなくタブレットかパソコンで閲覧したい、というのが正直な感想でした。
リテールメディアの成長
その一方で、Amazonの広告収入が急増、YouTube広告を超えたという報道もありました56 アマゾンの広告収入311億ドル 世界の雑誌超え、新聞も〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年2月7日)〉 https://www.advertimes.com/20220207/article376431/。小売店が広告媒体化する「リテールメディア」です。メディア企業にとっては、ファーストパーティデータによる効果的な広告出稿先であるのと同時に、広告予算を奪い合う新たなライバルという考え方もできるでしょう57 リテールメディアが急成長 アマゾンとウォルマートの金鉱脈に〈日経クロストレンド(2022年8月23日)〉 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00079/00167/。
個人的には、ユーザーにとっては「広告だらけでうざい」場所に、ベンダーにとっては「広告を出さないと売れない」場所になっていく可能性を憂慮しています。広告は小売に比べたら利益率が高いので、販売が振るわない状況が続くと、株主から「儲かる広告事業にもっと力を入れろ」というプレッシャーがかかることでしょう。
出版業界からウェブディレクターへ
以前から「雑誌からウェブへ人材が流れる」という予想は何度か出していたわけですが、実際のところ、超有名人でもなければニュースになったりしないので、正直、動きが掴みづらいところでした。そんな中、全研本社が運営する「ディレタマ」(ウェブディレクターのたまご)というメディアから、出版業界からウェブディレクターへ転身した方々へのアンケート結果が公表されました58 出版業界からWebディレクターへの転身、96%が「満足」…その理由とは?〈ディレタマ(2022年9月6日)〉 https://www.dire-tama.com/what-is/survey/220324.html 。
20代~30代限定でn=75ではありますが、やはり予想していた通り「儲かってるほうへ人が流れた」のだな、という印象を受けます。「斜陽産業である出版業界に限界を感じたから」「年収を上げたかったから」「自分の市場価値を高めたかったから」あたり、じつに生々しい。
コマースメディアや書店スペースレンタルなど
恐らく「業界」として考えたら、出版社がコンテンツ以外の物品販売も行うコマースメディア59 集英社のファッション雑誌『Marisol』、ECと雑誌を連動させ「コマースメディア」として再始動〈ECのミカタ(2022年1月14日)〉 https://ecnomikata.com/ecnews/33335/の動きや、取次が書店スペースレンタルを行う60 トーハン 書店の軒先スペースをレンタル 神奈川での登録書店拡大へ〈文化通信デジタル(2022年12月13日)〉 https://www.bunkanews.jp/article/306378/ような動きもフォローしておいたほうがよいのでしょう。「ビジネスモデルの転換」という意味では、予想の方向性とも合致します。
ただ、HON.jp News Blogの方針として、コンテンツとはあまり関係のない「業界」の動きを追わないようにしています。個人的にも、コンテンツ以外のニュースにはあまり食指が動きません。もっと言えば、私はコンテンツそのものより、生産・流通・利用といった「プロセス」に主眼を置いています。そのためこの2022年回顧でも、「そういう動きもあるよ」程度の触れ方に留めておくことにします。
埋もれていた名著の再発見と復刻が進む
主に「書籍」という切り口です。国立国会図書館による「個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)」が始まることで、過去の叡智へのアクセスが容易になり、埋もれていた名著が再発見される事例がいままでより多くなるのでは? という観点でした。
実際のところ、サービス開始前から繰り返し報道された61 絶版本など自宅からウェブ閲覧可能に 国会図書館が5月開始〈朝日新聞デジタル(2022年3月3日)〉 https://www.asahi.com/articles/ASQ323DZDQ31UCLV00Z.html 絶版書籍、スマホで閲覧サービス 国会図書館、来月から〈朝日新聞デジタル(2022年4月4日)〉 https://www.asahi.com/articles/DA3S15255458.html 国会図書館、ネットで絶版本閲覧 5月19日からサービス開始〈共同通信(2022年4月23日)〉 https://nordot.app/890516730294681600こともあり、「個人送信」のユーザー数は6月末時点で約3万3000人、6月の閲覧数は約35万回と、「図書館送信」だけだったころに比べると利用頻度は飛躍的に高まっているようです62 E2529 – 個人向けデジタル化資料送信サービスの開始〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年8月18日)〉 https://current.ndl.go.jp/e2529。
ただ、それが「名著の再発見と復刻」にすぐ繫がったか? というと……うーん。視界の範囲では『独学大全』の読書猿さんが2021年に「復刊」をライフワークとしていくことを宣言、ダイヤモンド・オンラインの連載でも「読書猿が推す『良書復刊』プロジェクト」として書物蔵さんと対談63 元司書が語る! 国立国会図書館の絶版本「読み放題解禁」がスゴい | 独学大全〈ダイヤモンド・オンライン(2022年5月19日)〉 https://diamond.jp/articles/-/303076したりという動きは目にしました。
また、ある方から個人的に、復刻に必要な権利処理についての相談を受けたこともあります。イースト「電子復刻」もあります64 出版社の休眠資産を掘り起こす「電子復刻」~ 権利処理や売上管理を代行するイーストの狙い〈HON.jp News Blog(2020年4月6日)〉 https://hon.jp/news/1.0/0/29023。動きがないわけではありません。「ニュースになる」ほどのことは起きていない、という状態でしょうか。まあ、絶版復刻が派手に売れたりすることもそうはないでしょうし、ニュースになりづらい予想だったかもしれません。
そういえば柏書房から9月に『絶版本』65 絶版本〈柏書房(2022年9月/21日)〉 http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b612026.htmlというこの話題ど真ん中の本が出ていて、気になっていたのに購入するのを忘れていました。本稿執筆にあたって改めて調べてみたら、福嶋聡さんのコラムを発見66 第21回 書店という生業の存在理由〈dZERO(2022年11月30日)〉 https://dze.ro/columns/20839。読書猿さんによる「復刊が必要な理由」が……確かに。これは買って読まねば、と思いました。
なお、この年末には「国立国会図書館デジタルコレクション」がリニューアル67 国立国会図書館、「国立国会図書館デジタルコレクション」をリニューアル〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年12月21日)〉 https://current.ndl.go.jp/car/168581され、全文検索可能なデジタル化資料の大幅増加、閲覧画面の改善、保護期間満了資料を対象とした画像検索機能の追加、シングルサインオン対応、検索画面のモバイル対応など、大幅な機能改善がなされています。年明け1月18日には印刷機能の追加も予告されています68 個人向けデジタル化資料送信サービスに印刷機能が加わります(令和5年1月18日開始予定)〈国立国会図書館―National Diet Library(2022年12月21日)〉 https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2022/221221_02.html。復刻活動が本格化するのはこれからなのかもしれません。
[追記:年末に大阪工業大学による絶版名作復刊の取り組みが報道されていました69大阪工業大学、読書普及へ絶版名作を復刊 書店経営も〈日本経済新聞(2022年12月25日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF02CEY0S2A201C2000000/]
縦読み含めメディアミックス展開が拡大する
主に「マンガ」という切り口です。デジタル市場拡大により、マネタイズしやすいマンガは、縦読み化・横読み化を含むコミカライズ、ノベライズ、アニメ、ドラマ、ゲーム、グッズ、国際展開など、メディアミックス展開がさらに拡大するであろう――という予想でした。
アニメの製作には時間がかかりますから、さすがに「日本発の縦読みコミック原作が映像化されヒットという事例も、近いうちに出てくるはず」という予想は、2022年時点では実現していません。韓国発だとすでにいろいろあるので、日本発もそのうち出てくることでしょう。
あえて具体名を挙げると、人気シリーズ『SAO』などの著者・川原礫さんの新作『デモンズ・クレスト』70 『ソードアート・オンライン』著者・川原 礫氏による完全新作『デモンズ・クレスト』の縦読みフルカラー漫画が、本日より「HykeComic」にて連載開始!〈株式会社HykeComicのプレスリリース(2022年11月6日)〉 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000101696.htmlは、「HykeComic」での縦読みマンガの連載、プロモーション映像の公開、電撃文庫での小説刊行と、新作発表時点からメディアミックスがほぼ同時に行われるという凄まじさに驚きました。HykeComicとストレートエッジの、社運をかけたプロジェクトと言っていいでしょう。
少し気になっているのは、韓国勢「ピッコマ」「LINEマンガ」の躍進を「覇権広げる」71 漫画アプリで覇権を広げる「韓国勢」のすごみ | 特集〈東洋経済オンライン(2022年10月6日)〉 https://toyokeizai.net/articles/-/623836などと褒め称えるいっぽう、逆に「日本のお家芸揺るがす」72 韓国漫画界、日本のお家芸揺るがす スマホ対応の縦読み〈日本経済新聞(2022年8月21日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD131SA0T10C22A8000000/などと危機感を煽る記事も目立ちます。利用率が高いのは確か73 電子コミック視聴者数、コミックでは「ピッコマ」が最多の821万人、ニールセン調査〈ケータイ Watch(2022年4月21日)〉 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1404471.htmlなのですが、無料利用が多いのではないか、売上額はどうなのか。data.ai(旧アップアニー)の調査で1位2位なのも確か74 電子漫画サービス「ピッコマ」営業利益が過去最大 日本アプリ市場で売上1位〈KAI-YOU.net(2022年11月8日)〉 https://kai-you.net/article/85238ですが、「Google Play」と「App Store」の合計だけで判断していいのか。
なにより、縦読みマンガ単独の市場規模がわからないので、従来型の横読み見開きマンガ市場と比べてどうなのかが判断できません。「伸びている」なら具体的な数字を出して欲しいところ。それも年間で。断片的な情報で、過剰評価もしなくないし、過小評価もしたくないのです。歯がゆい。
しかし、2021年回顧でも書きましたが、マンガ市場の巨大化とともに関連ニュースも桁違いに多くなっています。私のスコープが広すぎるというのもありますが、正直、マンガ関連の動きを網羅的に追いかけるのが難しくなっています。「マンガだけでいい」という方は、マンガ事業専門の傭兵をやっている菊池健さんの「マンガ業界Newsまとめ」75 マンガ業界Newsまとめ〈菊池健|note〉https://note.com/lovebeer73/m/mfa620c29e68aをフォローいただいたほうがいいでしょう。
電子図書館の普及でコンテンツ供給が急増する
主に「教育」という切り口です。コロナ禍の影響で電子図書館サービスの普及が先に進みましたから、もちろん、コンテンツ供給も急増するだろうという予想でした。残念ながら、電流協『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告』2022年版が年内に間に合わなかったため、電子図書館事業者別提供コンテンツ数推移グラフがアップデートできません。
そこで、HON.jpで契約している丸善雄松堂「Maruzen eBook Library」のタイトルリストを、「発売開始」年(底本発行年ではありません)で集計、グラフ化してみました。少なくとも学術系に限っては、「2022年に急増している」と言っても良さそうです。2019年にも山がありますね。
電流協の調査によると、自治体の公共図書館における「電子書籍サービス」は2022年10月1日時点で436自治体344館まで増えています76 電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館〈電流協(2022年11月1日)〉 https://aebs.or.jp/Electronic_library_introduction_record.html。また、丸善雄松堂と図書館流通センターが連携し、「Maruzen eBook Library」が公共図書館への販売を開始というリリースもありました77 丸善雄松堂と図書館流通センターが連携 電子図書館Maruzen eBook Libraryの全国公共図書館への販売を開始〈丸善雄松堂コーポレートサイト(2022年10月6日)〉 https://yushodo.maruzen.co.jp/release/20221006/。
関連して、メディアドゥの視覚障害者向け電子図書館システム 「アクセシブルライブラリー」がリリース、JEPA電子出版アワードのエクセレント・サービス賞と大賞を受賞しました78 日本電子出版協会(JEPA)、2022年「JEPA電子出版アワード」の結果を発表:大賞は「アクセシブルライブラリー」〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年12月22日)〉 https://current.ndl.go.jp/car/168664。JPOのABSC(アクセシブル・ブックス・サポートセンター)準備会からレポートが発行されたり79 JPO、「ABSC準備会レポート」創刊〈新文化(2022年7月5日)〉 https://www.shinbunka.co.jp/news2022/07/220705-04.htm、電子書籍のアクセシビリティを評価するJIS規格が制定されたり80 電子書籍のアクセシビリティを評価するJIS規格が制定〈ITmedia NEWS(2022年8月22日)〉 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2208/22/news125.html、といった動きもありました。
また、経済産業省の「読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する調査報告書」81 「令和3年度 読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する調査」に関する報告書を公表しました〈METI/経済産業省(2022年6月9日)〉 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/2022dokubarireport.htmlは、印刷用データからテキストデータを作成するのにあたってのハードルについての実証実験や、視覚障害者等の読者側の利用環境のハードルについてのヒアリング調査などが内容がまとまっています。「本のつくり手」に直接関わる内容なので、関係者は目を通しておいたほうがよいでしょう。
映像を活用したマーケティング活動が広がる
主に「映像」という切り口での予想です。コロナ禍が続き、情緒に訴えかけるコンテンツが選ばれやすい傾向から、「無料映像を広報や広告に活用し別のパッケージを販売する」ケースがもっと増えるのではないか、という予想でした。2021年にヒットした「TikTok売れ」がこれに近いわけですが、企業が広報的にやるケースがもっと増えるのではないか、と考えていました。
しかし、2022年は新型コロナ規制が大幅に緩和され、観光客の増加など「巣ごもり需要」の終焉と言っていい状況になったのが予想外でした。もちろん映像コンテンツが観られていないとか活用されていないわけではないのでしょうけど、「映像を活用したマーケティング活動」というのが私のアンテナにはほとんど引っかかってきませんでした。アンテナの感度が悪かったのかしら?
TikTokは、Twitterで「ステマ」が行われていた82 「ステマ」と宣伝の境界線とは? TikTok問題から考える〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年2月1日)〉 https://www.advertimes.com/20220201/article375620/という残念なニュースの印象が強かったです。バレたあと「本施策は法令に抵触しないとはいえ、結果として皆様に誤認をさせる可能性があり、不信感を持たせてしまうこととなりました」という謝罪文が出てきた83 TikTok、ステマ疑惑について正式謝罪 「宣伝のつもりではなかった」〈ITmedia NEWS(2022年1月26日)〉 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2201/26/news075.htmlことが、のちに消費者庁によるステマ規制へのトドメだったのではないかと思ったほどです。
このせいもあってか、春以降くらいから「TikTok売れ」というワードをニュースであまり見かけなくなりました。Googleトレンドでは、この1年で検索トレンドは大きく変化していない84 Google トレンドで「tiktok – 日本、過去 12 か月間」の 人気度の動向 を見る〈Googleトレンド(2022年12月31日)〉 https://trends.google.co.jp/trends/explore/TIMESERIES/1672483800?hl=ja&tz=-540&geo=JP&q=tiktok&sni=3ので、メディア側の取り上げ方が変わったのか? という気もします。
ちなみにアメリカでは引き続き、TikTokで本を楽しむ「#BookTok」が再生数を伸ばし、ペンギンランダムハウスとの提携も行われるといったニュースもありました85 TikTokで本を楽しむ「#BookTok」が770億再生、大手出版社ペンギンランダムハウスとも提携〈Media Innovation(2022年9月27日)〉 https://media-innovation.jp/2022/09/27/a-new-way-to-tap-into-the-booktok-community/。TikTokを含む中国系企業のサービスを規制する動きもある86 米国で広がるTikTok規制、情報漏洩に懸念 州政府など〈日本経済新聞(2022年12月8日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN07DSH0X01C22A2000000/ことが、むしろその影響力の大きさを伺わせます。
その他の大きな動き
もちろんこれ以外にも、2022年にはさまざまなことがありました。政治(Politics)、社会(Society)、経済(Economy)、技術(Technology)の4分野にわけて、ピックアップします。
政治(Politics)
インボイス制度
インボイス制度はなぜ必要? 専門家に“中立的な視点”から教えてもらった〈Workship MAGAZINE(2022年9月8日)〉
フリーランスの多くが廃業に追い込まれる…あらゆる団体が「インボイス制度は延期すべき」と訴えるワケ はっきりいって民間にはなにひとつメリットがない〈PRESIDENT Online(2022年11月14日)〉
インボイス制度に2つの負担軽減策 与党の「令和5年度税制改正大綱」〈ITmedia NEWS(2022年12月16日)〉
海賊版対策
集英社、講談社、小学館、KADOKAWAがクラウドフレア社を提訴〈コミックナタリー(2022年2月1日)〉
海賊版に著作権侵害されたらどう対抗?–削除要請の手順まとめたサイト、文化庁が公開〈CNET Japan(2022年6月2日)〉
海賊版対策の無料相談窓口を開設 文化庁、中小出版や個人に助言〈共同通信(2022年8月30日)〉
海賊版で侵害された著作権者らへの賠償額高額化へ…文化庁、著作権法改正方針〈読売新聞オンライン(2022年8月31日)〉
侮辱罪厳罰化
侮辱罪の法定刑引き上げは「表現の自由を脅かす」 日弁連が反対する意見書発表〈弁護士ドットコム(2022年3月23日)〉
「侮辱罪」厳罰化が7日施行 改正刑法、ネット中傷対策〈共同通信(2022年7月6日)〉
表現規制
武器の作り方のネット情報「何らかの規制を」…自民・世耕参院幹事長〈読売新聞オンライン(2022年7月11日)〉
銃や爆発物製造“有害情報” サイト管理者に削除要請へ 警察庁|安倍晋三元首相 銃撃〈NHKニュース(2022年9月3日)〉
「言いがかりともいえる内容」 三才ブックス、鳥取県の“有害図書”指定理由をPDF公開〈ITmedia NEWS(2022年11月30日)〉
文化庁関連
文化庁、新たに「著作権契約書作成支援システム」を構築し公開:時代の変化に合わせたひな形の見直しを実施〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月13日)〉
権利不明の著作物、二次利用促進 一元窓口新設へ法改正〈日本経済新聞(2022年12月5日)〉
政治その他
アップルとグーグル、アプリストア規制の法案に反発〈CNET Japan(2022年1月20日)〉
Webやアプリの利用者情報保護規制、ネット業界反発で後退の舞台裏〈日経クロステック(xTECH)(2022年1月20日)〉
「netgeek」集団訴訟、名誉毀損一部認める 運営会社と代表者に121万円賠償命令〈弁護士ドットコム(2022年2月15日)〉
英BBCがロシアで取材活動停止 情報統制懸念、CNNも〈日本経済新聞(2022年3月5日)〉
本屋大賞の逢坂冬馬さん「絶望することはやめる」ロシアへの思い語る〈朝日新聞デジタル(2022年4月6日)〉
国会図書館、民間の電子書籍の収集開始 有償・DRM付きも〈Impress Watch(2022年5月26日)〉
なぜファスト映画による著作権侵害の賠償金額が5億円になってしまうのか(栗原潔)〈個人 – Yahoo!ニュース(2022年11月18日)〉
社会(Society)
表現規制
スクエニ漫画アプリが黒塗りだらけ 海外版に苦言相次ぐ…運営が釈明「修正避けられなかった」〈J-CAST ニュース(2022年7月29日)〉
旧統一教会の”著作権違反主張”に「テレビ業界が戦々恐々中」〈FRIDAYデジタル(2022年8月3日)〉
「宗教2世」題材の漫画を刊行へ 文芸春秋、他社で連載中断〈共同通信(2022年8月17日)〉
米国の学校で「禁書」急増 年1600冊、LGBTQなど規制〈日本経済新聞(2022年9月20日)〉
デジタル出版論
2021年はデジタル出版50周年だった〈HON.jp News Blog(2022年2月2日)〉
枕詞のように「出版不況」と言われるが、実態は「雑誌不況」である〈HON.jp News Blog(2022年5月18日)〉
デジタル出版ビジネスの課題〈HON.jp News Blog(2022年8月25日)〉
経済(Economy)
市況全般
2022年上半期出版市場(紙+電子)は8334億円で前年同期比3.5%減、電子は2373億円で8.5%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2022年7月25日)〉
なぜ街の本屋は減っているのか? 全盛期から店舗数が半減した理由を「読書離れ」「通販や電子書籍の台頭」「業界の構造的問題」3つから読み解く〈ニコニコニュース オリジナル(2022年9月4日)〉
原材料高騰と円安加速 印刷会社から懸念の声〈NHKニュース(2022年9月22日)〉
書店8343億円、インターネット2808億円…出版物の売り場毎の販売額推移(最新)〈ガベージニュース(2022年12月7日)〉
大きく伸びる電子出版…出版物の売り場毎の販売額推移(番外編:電子出版独自追加版)(最新)〈ガベージニュース(2022年12月11日)〉
ウェブ小説
小説・マンガ投稿サイト「エブリスタ」、メディアドゥが追加出資で完全子会社化〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2022年3月25日)〉
「無断転載が横行」物議の小説アプリ「テラーノベル」 運営が対応策を発表「信頼回復に努める」〈J-CAST ニュース(2022年8月3日)〉
Web小説で生きていく 韓国発の“稼げる“サービス「ノベルピア」作家の声〈KAI-YOU.net(2022年10月28日)〉
ネイバー、米ウェブ小説プラットフォーム「ヨンダー」発売〈韓国経済新聞(2022年11月2日)〉
イーロン・マスク氏はなぜTwitterの収益化を急ぐのか(集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」第1回)〈TechnoEdge(2022年11月10日)〉
イーロン・マスク買収後のツイッターはどう変化したのか/田中辰雄〈SYNODOS(2022年12月22日)〉
Amazon
米巨大IT5社、業績に明暗 1~3月期、アマゾン赤字転落〈共同通信(2022年4月29日)〉
Android版「Kindle」、電子書籍の購入が不可に–グーグルのポリシー変更で〈CNET Japan(2022年6月1日)〉
アマゾン、中国の「キンドル」ストアを来年6月末閉鎖-市場の壁厚く〈Bloomberg(2022年6月2日)〉
アマゾンの顧客満足度が低下、競合ECサイトを下回る〈JDIR(2022年11月23日)〉
ビッグテック
2万件超すフェイク記事・サイトの6割で、Google広告が収益を支える 初の大規模国際調査〈新聞紙学的(2022年11月1日)〉
米アップルが広告事業で失態 まさかの“方向転換”の布石なのか〈日経クロストレンド(2022年11月21日)〉
アップル、「App Store」の価格設定を大幅改定–50円から160万円まで可能に〈CNET Japan(2022年12月7日)〉
ヤフー、約6700万件の広告素材を非承認 上半期は「医療機関」の割合が上昇〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2022年12月20日)〉
技術(Technology)
AI生成コンテンツ
洋風イラスト自動生成「Midjourney」 AIが1分で描いたと思えない濃密な世界観〈KAI-YOU.net(2022年8月2日)〉
Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権〈STORIA法律事務所(2022年8月31日)〉
ChatGPTによる回答をStack Overflowが一時的に禁止 大量のもっともらしいが不正確な回答に対処しきれず〈ITmedia NEWS(2022年12月6日)〉
コンテンツモデレーション
Yahoo!ニュース、11月中旬からコメント投稿において携帯電話番号の設定を必須に〈ケータイ Watch(2022年10月18日)〉
インテル、96%の精度でディープフェイクを検出する新技術「FakeCatcher」〈CNET Japan(2022年11月18日)〉
Facebook、第3四半期は14億件のスパムに対処–前四半期から倍増〈CNET Japan(2022年11月24日)〉
“ヤフコメ”削除率は3.22%、7割超がAIによる自動削除。ヤフー「2021年度メディア透明性レポート」公開〈INTERNET Watch(2022年12月7日)〉
Twitter、「コミュニティノート」機能の提供範囲を全世界に拡大〈CNET Japan(2022年12月13日)〉
ブロックチェーン
デジタルアートの「盗品」横行 急拡大NFT市場で奪われる「本物」〈朝日新聞デジタル(2022年2月5日)〉
米国最大の書籍流通企業Ingram が、Web3電子書籍会社Book.ioと資本・業務提携〈Media Innovation(2022年10月4日)〉
マンガ・アニメ制作アプリ最大手のセルシス、デジタルデータに「所有権」を付与する流通支援ソリューション「DC3」発表〈INTERNET Watch(2022年12月9日)〉
技術その他
出版3社と丸紅、流通新会社「PubteX」設立 RFIDラボ、今夏に開設へ〈文化通信デジタル(2022年3月24日)〉
書店で本のバーコード読み取り→電子書籍購入 1日から実証実験〈朝日新聞デジタル(2022年4月1日)〉
講談社など出版3社と丸紅、4億冊データで本の需要読む 返品削減へ〈日本経済新聞(2022年6月15日)〉
2023年はどんな年に?
さて、2022年ももうすぐ終わり。2023年はどんな年になるでしょうか? 毎年恒例、年始の動向予想をお楽しみに。それではよいお年をお迎えください。