2022年出版関連の動向予想

photo by Ryou Takano
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 少し遅くなってしまいましたが改めて、新年あけましておめでとうございます。
 2022年も HON.jp News Blog をどうぞよろしくお願いいたします。

 毎年恒例、編集長 鷹野凌による出版関連の動向予想です。

2021年の予想と検証

 2021年の予想は、以下の5つでした。自己採点の結果を右端に付けておきます。

  • 出版社系ウェブメディアの飛躍 → ○
  • 既刊の電子化が急がれる(というか急げ) → ○
  • 描き手争奪競争の更なる激化 → ○
  • 電子図書館サービスの普及がついに始まる → ◎
  • 映像コンテンツの需要がより高まる → ○

 コロナ禍が簡単には沈静化せず、「2020年3月以降に起きた劇的な社会的変化は2021年も継続し、感染予防のため身体的な接触機会を減らすべく、さまざまなことの“遠隔化”は今後も急速に進む」という社会環境も含め、おおむね予想通りでした。

 もっとも、想像以上に世の中が変化した部分もあります。たとえば「描き手争奪競争」は縦読みコミックの急伸を読みきれませんでしたし、「映像コンテンツの需要」は「TikTok売れ」などと呼ばれるほどの伸びまでは予想できていませんでした。もちろん「Clubhouse」の突発ブームとか、ブロックチェーン関連で「NFT」がここまで注目されるのも想定外です。それでも「△」を付けるほどではない、という自己採点です。

 検証の詳細は、年末の記事をご覧ください。過去の予想と検証は、以下の通りです。これまで9回。つまり今回は10回目のメモリアル予想となります。いやあ、我ながら続くもんですね。最初のころは気楽に書き散らしていたのですが、だんだん慎重に、重厚になっています。凝り性か。

(※2018年予想までは個人ブログで、同年検証からHON.jp News Blog)

マクロ環境分析

 こういった現状を踏まえた上で、2022年以降の出版を取り巻くマクロ環境をPEST分析します。近未来でほぼ確定している予定は、上から日付順に並べました。出版“業界”というより、デジタルを含めた広義の出版(publishing)行為に関わりそうなことだけをピックアップしてあります(※「~周年」みたいな記念行事的なものはすべて外しました)

政治的環境(Political / 立法・行政・司法)

  • 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定発効(2022年1月1日)
  • 改正個人情報保護法全面施行(2022年4月1日)
  • 国際海賊版対策機構(IAPO)設立(2022年4月)
  • 第26回参議院議員通常選挙(2022年7月)
  • 日本政府によるデジタル広告規制の強化(2022年半ば?)
  • 各国政府による巨大IT企業への規制強化傾向
  • 各国政府による表現規制の強化傾向
  • アメリカが抜けたTPP11(CPTPP)に中国・韓国・台湾などが加盟申請
  • アメリカと中国の対立傾向と日中韓の関係冷え込み

巨大IT企業への規制強化が進む(とくに広告)

 アメリカでは引き続き、Google、Amazon、Facebook、Apple(以下、GAFA)に対する反トラスト法(日本の独占禁止法)などによる規制強化が行われようとしています。同時に欧米各国でも、GAFA狙い撃ちの法改正や立ち入り検査などが行われています。このことが、昨年の「アップル税、5年越しの譲歩」や「Googleニュースショーケースが日本でも開始」といった事象と同様、日本にも間接的に影響が及ぶ可能性があります。

 日本政府による規制として挙げられるのは、まず内閣府のデジタル市場競争会議です。2021年4月に「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」が出ました。「透明性」「データの囲い込み懸念」「利益相反・自社優遇の懸念」「手続きの公正性」「パーソナルデータ」「検索」といった論点に対し、透明化法を適用するなど法制面の検討を進めることになっています。意見募集の後も、ワーキンググループでの討議は継続されていますが、これが今年どう動くか。

 2021年2月には「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が施行。「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定されたのは、オンラインモールではAmazon・ヤフー・楽天、アプリストアではApple・Googleです。「取引の透明性と公正性の向上を図るために、取引条件等の情報の開示、運営における公正性確保、運営状況の報告と評価・評価結果の公表等の必要な措置」が講じられます。取引相談窓口も設置されました。

 また、検証でも書いたように、消費者庁は2022年にアフィリエイト広告の誤認を防ぐ指針を策定する方針です。すでに「アフィリエイト広告等に関する検討会」で検討が進んでおり、広告主にも責任が及ぶことで「アフィリエイターが勝手にやったこと」という言い訳ができなくなったり、明確に広告であると認識できるような表示が求められるようになったり、といった指針になる方向で固まりつつあります。

 2022年4月に全面施行される改正個人情報保護法は、巨大IT企業だけではなく、メディアにも大きな影響があります。無料会員登録で、個人情報を取得・蓄積しているメディアも多いことでしょう。たとえば、特定個人が識別できるようなメールアドレスも「個人情報」です。詳しくは、個人情報保護委員会の「ガイドライン」を参照してください。

 改正法の内容は、自分の情報の削除や利用停止を請求できる範囲の拡大、個人からの情報開示請求へのデジタル対応の追加、個人情報漏洩時の本人と委員会への通知義務化、法定刑引き上げ、海外へのデータ越境移転時の同意厳格化など。とくに法人等への罰金は、従来は最高でも50万円だったのが、一気に1億円まで引き上げられています。

出版は国際関係にも影響を受ける

 恥ずかしながら、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の存在を、1月1日の「発効しました」というニュースで初めて知りました。批准手続きを終えているのが日本、中国、オーストラリアニュージーランド、タイ、シンガポールブルネイベトナム、カンボジア、ラオスの10カ国。次いで韓国が2月1日に発効です。手続きを終え次第、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピンも加わる予定とのこと。なお太字の国は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPPあるいはTPP11)の署名国です(※うちブルネイとマレーシアは2021年10月現在で未締結)

 RCEP協定によって、世界の国内総生産(GDP)と人口の3割を占める巨大経済圏が生まれることになります。外務省の概要資料によると、この経済連携協定の意義は「地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備」とあります。

 出版に直接関連しそうなのは、もちろん知的財産です。「著作権及び関連する権利、商標、地理的表示、意匠、特許等を対象に、知的財産権の取得や行使について規定。周知商標や部分意匠の保護、悪意の商標出願の拒絶・取消の権限、職権による輸入差止め手続の確保に関する義務等を規定」とあり、国境を越えた海賊版対策などにも影響がありそうです。批准国にはベトナムも入っていますので、最近よく話題に挙がる「ベトナム系」海賊版サイトに効果があると良いのですが。

 国境を越えた海賊版対策という意味では、4月に創設される予定の国際海賊版対策機構(IAPO)にも期待です。日本政府やコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が進めてきた構想で、日本以外ではアメリカ、韓国、中国、ASEAN各国などが参加予定です。

「どうも表現規制問題に関しては、来年色々ありそう」

 あと、非常に気になっているのが本邦も含めた公的機関等による表現規制問題です。昨年は中国当局が香港メディアへの規制や、ゲーム規制アニメ規制芸能規制などを続けざまに行っていましたが、決して対岸の火事とは思えません。自由の国アメリカでさえ、人種差別や性差別の教育を制限する法律が共和党が地盤を持つ複数の地域で成立。「批判的人種理論」を教える児童書が「不適切な教材」として、撤去を求める署名活動が展開され、学校側が応じるといった動きもあると報じられています。

 日本でも、Vtuber出演の松戸警察PR動画に対し全国フェミニスト議員連盟が公開質問状の体裁で「性犯罪を誘発」などと指摘し謝罪と動画削除を要求した事件や、大阪府が萌え絵を禁止するようなガイドラインを公開していたとか、日本共産党が総選挙の政策紹介ページで「非実在児童ポルノ」規制へ向けた動きを匂わせるようなことを書いていたとか。昨年も政治・行政関連で気になる動きがいろいろありました。民間は後ほど。

 年末には「表現の自由を守るため」と漫画家の赤松健さんが参議院選挙に出馬する意向を表明。従来は規制を強化する側だった自民党から公認を得ることについては、賛否両論あります。実は、赤松さんは出馬表明の少し前に、Twitterでこんなことをおっしゃっていました。

 私はこれを見て、2022年もいろいろありそうだと覚悟をしていました。その後の出馬表明でびっくりしましたが、同時に、そこまでしないと防げないような動きが控えているのかもしれないと、背筋が寒くなりました。嫌だなあ、怖いなあ。

経済的環境(Economic / 主に企業の動向)

  • インボイス(適格請求書)制度開始(2023年10月1日)
  • コロナ禍で巣ごもり需要拡大
  • 伝統的なメディア市場(とくに新聞と雑誌)の縮小傾向
  • サブスクリプション(定期購読)の拡大傾向
  • 電子出版市場(とくにマンガ)の拡大傾向
  • デジタル含む同人市場(というかクリエイターエコノミー)の拡大傾向
  • 巨大IT企業などによる表現(広告含む)の自主規制強化
  • インターネット広告市場は再成長?

電子出版市場(とくにマンガ)の拡大傾向は続く

 2021年回顧でも触れましたが、出版科学研究所から2021年7月に発表された上半期(1~6月)電子出版市場は2187億円で、前年同期比24.1%増でした。内訳は、電子コミック1903億円(同25.9%増)、電子書籍(文字ものなど)231億円(同20.9%増)、電子雑誌53億円(同11.7%減)です。

 それぞれ下半期も同じペースで増減したなら、通期の電子コミックは4307億円、電子書籍(文字もの)は485億円、電子雑誌は97億円となります。つまり、2021年の電子出版市場は4889億円で、5000億円には届かない計算です。前年比27.2%増なら5000億円を超えますが、どうなるでしょうか。

 電子出版市場の成長傾向は2022年も続くでしょう。2021年に電子版が新たに配信されるようになった作家で私が把握しているのは、年頭に佐伯泰英さん(「変節」という率直な言葉が印象的でした)、『はじめの一歩』森川ジョージさん、『ドラえもん』『オバケのQ太郎』『パーマン』など藤子・F・不二雄さん(大全集が順次電子化)、『日出処の天子』『レベレーション(啓示)』など山岸凉子さん、『YAWARA!』『20世紀少年』など浦沢直樹さん。2021年はマンガ系が多かった印象です。ただ、恐らく私が見逃している動きもたくさんあることでしょう。

 電子メディアが物理メディアと大きく異なるのは、「商品展示スペース」という制約がないため、基本的にユーザーが購入可能なラインアップは増える一方であること(※絶版がないわけではない)。そして、著作物再販適用除外制度の対象ではないため、値下げ販売ができること。とくに後者は、古書流通が存在しないことの代替となり得ます。そのうえ古書とは異なり、著作者・出版社にもちゃんと収益が還元されます(※値下げ分を誰が負担するかによって還元額は異なる)

インターネット広告は回復基調?

 急成長を続けてきたインターネット広告も、さすがに2020年は成長が鈍化しました。電通「日本の広告費」によると、初の1兆円を超えた2014年が対前年比112.1%で、以降、2015年110.2%、2016年113.0%、2017年115.2%、2018年116.5%、2019年119.7%とずっと2桁成長だったのが、2020年は105.6%と1桁成長になりました。世界の総広告費は、2021年にはコロナ禍前の水準を超える程度まで回復する見通しのようですが、果たしてどうなるか。
 
 政治的環境で挙げた「巨大IT企業への規制強化が進む(とくに広告)」ことや、その対策で巨大IT企業や広告代理店など民間側でも広告品質改善のための対応や自主規制が進んできていることや、後述する技術的環境の「サードパーティーCookieサポート終了」などは、どのような影響を及ぼすことになるのでしょうか。

社会的環境(Social / 文化・教育・ライフスタイルなど)

  • 高校「情報Ⅰ」必修科目化(2022年4月1日〜)
  • 成人が18歳に(2022年4月1日〜)
  • 国立国会図書館、入手困難資料の個人送信開始(2022年5月~)
  • 文化庁、京都移転(2022年度末〜2023年度初頭?)
  • 図書館資料メール送信対応と補償金制度開始(2023年5月~)
  • まだ終わらないコロナ禍と感染予防のための“遠隔化”
  • 少子高齢化と生産年齢人口、日本語人口の減少傾向

まだ終わらないコロナ禍

 昨年の予想で「コロナ禍というこの災厄は、少なくとも数年は終わらないと覚悟しておいたほうがいい」と書いたとおり、今年もまだ終わりません。ウイルス変異で感染力の強いオミクロン株が出現、諸外国での猛烈な急拡大を経て、年末年始には本邦でも感染再拡大が始まってしまいました。

 とくに年始以降は、びっくりするほど感染者数が急増しています。救いは過去の感染拡大期よりワクチン接種率が圧倒的に高い点と、「従来のウイルスよりも重症化しにくいという複数のエビデンスが揃ってきている」らしい点でしょうか。とはいえ感染者数が桁違いに多ければ、医療体制が崩壊しかねません。また、今回を乗り切っても、恐らくまた数カ月後に波が押し寄せることでしょう(※去年の予想でも書きましたが、そういう覚悟をしておいたほうが対処の方向性を定めやすいです)

教育のデジタル化が本格化

 その裏腹で、感染予防のための“遠隔化”は今後も続きます。デジタル庁が1月7日に発表した「教育データの利活用に向けたロードマップ」によると、教育デジタル化のミッションは「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」とされています。GIGAスクール構想で実現した1人1台端末という状況は、児童生徒が「どこからでも」教育を受けられる、「誰とでも」コミュニケーションできる環境です。

 情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられた新学習指導要領は、小学校が2020年度、中学校が2021年度から全面実施されています。高等学校は2022年度から学年進行で実施され、「情報Ⅰ」が必修科目化されます。2025年入試から大学入学共通テストの出題対象にも「情報」が加わります。受験科目になると、塾で教える内容にも変化が生まれるでしょう。

 これらのことが意味するのは、「平成の子供」と「令和の子供」とでは受けてきた教育に大きなギャップが発生する、ということです。それも否応なしに。

国立国会図書館のデジタル化資料、個人送信始まる

 今年の5月から、国立国会図書館デジタル化資料の個人送信が始まります。従来は「図書館送信」という呼称どおり、デジタル資料を閲覧するためには図書館まで行く必要がありました。これが、自宅からすぐアクセスできるようになります。利用者登録は無料で、郵送で申込みできます。

 その影響については、昨年の予想「既刊の電子化が急がれる(というか急げ)」の検証で思わずガッツリ書いてしまいましたので、詳しくはそちらをご参照ください。私はこれにより、インターネット上の言論がより健全なものに変わっていくことを期待しています。

 なお、検証記事には間に合わなかったのですが「Maruzen eBook Library(MeL)」の書誌情報を使って配信開始年×底本発行年の集計を実際に行ってみました。その結果、MeLで配信された電子書籍で「10年以上前の既刊」が占める割合は、2016年から2020年までの各年は12~15%程度だったのが、2021年には約25%と急増していました。つまり、少なくとも学術系に関しては「既刊の電子化が急がれた」ことがわかりました

技術的環境(Technological)

  • 「Internet Explorer 11」サポート終了(2022年6月15日)
  • 「Windows 8.1」延長サポート終了(2023年1月10日)
  • 「Office 2013」延長サポート終了(2023年4月11日)
  • 「Google Chrome」サードパーティーCookieのサポート完全廃止(2023年後半?)
  • EPUB 3.3 / EPUB Accessibility 1.1がW3C標準仕様に(2023年︖)
  • 第5世代移動通信システム(5G)のさらなる普及
  • コンテンツ関連のAI技術が普及期へ
  • 暗号資産やNFT(ブロックチェーン技術)への注目と猜疑
  • VR / AR技術の活用(メタバース)

 巨大IT企業に対する規制の動きが引き続き進行中なので、技術的環境の先行きは読みづらいところがあります。2021年にバズワードと化した「NFT」や「メタバース」が、出版関連にどこまで影響を及ぼすか。高速移動通信システムの普及で、リッチコンテンツ化はさらに進むのか。

2022年には何が起こる?

 これらを踏まえた上で、2022年にはどんなことが起こるか、予想してみました。以下の5点です。

  • メディアビジネスの転換を進めよう(提案)
  • 埋もれていた名著の再発見と復刻が進む
  • 縦読み含めメディアミックス展開が拡大する
  • 電子図書館の普及でコンテンツ供給が急増する
  • 映像を活用したマーケティング活動が広がる

メディアビジネスの転換を進めよう(提案)

 主に「新聞」と「雑誌」という切り口での予想、というか提案です。

 刊行サイクルや流通など、紙では大きな違いのあった両者ですが、デジタルでは同じ土俵で戦うことになります。そして言うまでもなく、紙を出していない、デジタルだけのメディアも同じ土俵にいます。物理メディアの販売が急激に減少する中、物理メディアを前提とした仕組みや体制はハンディキャップとなります。メディアがビジネスである以上、人員整理含め事業の再構築は不可欠です。

 本来なら、コンテンツを自前で作れる新聞社や出版社は、専門性・権威性・信頼性という意味で相対的に強いはず。それを活かし切れていないのが現状です。伝統的メディアのリストラクチャリングが進むと、そこで働いていた方々――とくに専門技能を活かせる記者や編集者がお金のあるところへ移籍するような動きが今まで以上に激しくなるでしょう。あるいは、有料ニュースレターなど、個人でメディアをやる方がもっと増えてくるかもしれません。

 収益がPVに比例する運用型広告や外部配信は「煽り見出し」「芸能ゴシップ」「娯楽」と相性が良く、取材や裏取りなどのコストを極力抑える「コタツ記事」の量産にも繫がっています。そのうえ、巨大IT企業のプラットフォームに依存する形になってしまい、政府の規制やシステムの変更にも振り回されます。嫌になりますよね。そろそろそういうのやめませんか? という提案です。

 去年の予想でも、新聞雑誌系ウェブメディアでサブスクリプションへ誘導するところが多くなっていると書きましたが、ほぼ全記事にペイウォールを設定したり、一定の文字数で自動的に設定している(ように見える)ところもあって、正直「もったいない」という指摘をしました。ところがいまだにそういう「Hard Paywall」を採用しているところが多いように思います。400字程度のニュース記事で200字だけペイウォールを設けておいて、逆に、じっくり読ませる長文の取材記事や論考にはペイウォールがない、というチグハグさも散見されます。

 読者にとっていきなりサブスクリプションはハードルが高いですから、記事のバラ売りから入ったほうがいいように思うのですけどね。記事タイトルを見て「気になる、読みたい」と思ったとき、紙の定期購読とセットで月額数千円のコースか、1部単位で紙を販売している書店・コンビニ・スーパーなどへ買いに行くしか選択肢がなかったりします。夕刊だと置いてない場合も多くて、売ってる場所を探すのに時間を要するという、数十年前の行動様式を強いられたりするわけです。

 少なくとも私は、気になる記事1本だけのために買いに行く手間と時間が省けるなら、デジタルで記事1本に100円くらいなら喜んで払います。頻度次第では、サブスクリプション契約してもいいとも思います。「月に×本までは無料」方式からサブスクリプション契約というパターンもあります。世の中的にも、以前に比べると、デジタルで対価を払うことへの抵抗感は薄れているのではないでしょうか。

埋もれていた名著の再発見と復刻が進む

 主に「書籍」という切り口での予想です。

 去年の検証でも書いたように、2021年5月に改正著作権法が成立、国立国会図書館デジタル化資料の個人送信は2022年5月に開始されることが決まっています。しかし、開始後でも既刊の商業配信を諦める必要はありません。「国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項(PDF)」(平成24年国図電1212041号)では、事後除外手続(オプトアウト)も定められているからです。

 個人送信が始まることで過去の叡智へのアクセスが容易になり、埋もれていた名著が再発見される事例がいままでより多くなると思うのです。全文検索対応で、掘り出しやすくなりますし。結果、実物を手に入れたいと古書市場が盛り上がったり、復刻出版されたりということが起きそうだと予想しています。

 結果、既刊の電子化はいままで以上に進むことでしょう。

縦読み含めメディアミックス展開が拡大する

 主に「マンガ」という切り口での予想です。

 デジタル市場拡大により、縦読み含むマンガはマネタイズしやすいため、描き手と原作の争奪競争はさらに激化するでしょう。そのうえで、縦読み化・横読み化を含めたコミカライズ、ノベライズ、アニメ、ドラマ、ゲーム、グッズ、国際展開など、メディアミックスで収益拡大を図る傾向がさらに加速するであろうという予想です。

 これは昨年無料配布されたKADOKAWAの社史『KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展(※3月31日までは「文庫・ラノベ読み放題」プランで閲覧可能です)を読んで改めて思ったことなのですが、デジタル化や国際化を踏まえると、エンタメビジネスはもう「出版社」という枠組みを超えたところで展開せざるを得ないのですね。

 これはもちろんKADOKAWAに限った話ではありません。講談社の2020年11月期決算は、「事業収入(デジタル・版権など)」が「紙」を上回っています集英社の2021年5月期決算も、「事業収入(デジタル・版権など)」が半分近くになっています。大手出版社のコア事業が、伝統的な出版ではなくなりつつあるのです。

 KADOKAWAは「(メガコンテンツ・プロバイダー(1994年〜2002年)」とか「総合メディア企業(2003年〜2012年)」などと標榜し、早めに変わり続けてきたあたりがすごい。テンセントグループと資本業務提携というのも、国際展開をより円滑に進めるための一手ですが、中国当局による規制とどう折り合いをつけていくかは大きな課題になるでしょう。まあ、アメリカ企業もプロテスタント的な価値観で表現を規制してきますから、いずれにせよローカライズは必須なのでしょうけど。

 メディアミックスに話を戻すと、韓国NAVER(LINE)やピッコマに負けじと、日本企業が縦読みコミックへ参入する動きが活発化しています。恐らく2022年には、日本発の縦読みコミックからヒット作がいくつか出てくるでしょう。日本発の縦読みコミック原作が映像化されヒットという事例も、近いうちに出てくるはずです。

電子図書館の普及でコンテンツ供給が急増する

 主に「教育」と「書籍」という切り口での予想です。

 コロナ禍の影響で、電子図書館の普及が先に進みましたから、そこへのコンテンツ供給も急増するであろうという予想です。普及前は「タマゴが先かニワトリが先か」などと言いながら提供を渋る向きもあったようですが、普及して「図書館向けは売れる!」となれば著作者や出版社の目の色が変わります。

 昨年10月に書いた「電子図書館(電子書籍貸出サービス)がコロナ禍以降も普及拡大を続けるための課題は?」の中で、電子図書館事業者が提供可能なコンテンツ数を表で示しました。その後、出典の『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告』2021年版が出ましたので、情報をアップデートしグラフ化してみました。

 丸善雄松堂「Maruzen eBook Library」が4万点増の12万点となり、昨年まで最多だった図書館流通センター「TRC-DL」を一気に追い抜いています。公共図書館向け電子図書館より、学術機関向け電子図書館のほうが普及が早かった&普及率も高かったわけですから、むしろこうなるのが当然という気もします。

 一般向け販売と図書館向けのラインアップの違い、また、図書館向けでも公共向けと大学向けのラインアップの違いがあったりするわけですが、買うかどうかは買う側が決めることですから、まずはラインアップしてみてはどうかと思うのですけどね。10年くらい言い続けている「売ってなければ買えない」です。

映像を活用したマーケティング活動が広がる

 主に「映像」という切り口での予想です。

 去年の予想も書いたように、コロナ禍が続いて巣ごもり需要が拡大する状況を踏まえると、今後もやはり視覚と聴覚の両方に訴えかける映像コンテンツの需要が強いと思われます。「いつになったら終わるんだろう?」という不安から、情緒に訴えかけやすいコンテンツが選ばれやすいのではないか、と。

 これも去年の繰り返しになりますが、映像コンテンツには以下のようなさまざまなビジネスモデルがあります。

  1. 映像そのものの販売(オンラインセミナー含む)
  2. 無料映像で視聴者を集め広告や投げ銭で稼ぐ
  3. 無料映像を広報や広告に活用し別のパッケージを販売する

 2021年にヒットした「TikTok売れ」はこの3番目に近いわけですが、基本的にユーザー投稿からの自然発生でした。今年はこれを、企業が広報的にやるケースがもっと増えるという予想です。もちろんTikTokに限らず、YouTubeの「有隣堂しか知らない世界」チャンネルのような事例を含め、です。

 もちろんやり方を間違えれば見向きもされません。表情とか声のトーンといった非言語手段で、喜怒哀楽の情緒に訴えかけることが重要となるでしょう。去年の予想の繰り返しになってしまいますが、なるべく余計な情報を排除する「編集」作業が必須であること。また、演出、構図、照明、音響といった映像専門の技術も必要であること。そして脚本です。TikTokでの小説紹介で話題になったけんごさんが、撮影や編集にはそれほど時間はかからないけど、脚本の文章を考えるのに時間がかかるとおっしゃっていることは胸に刻んでおきましょう。

 また、マーケティングはプロモーションに限った話ではありません。視聴者の声を集め、プロダクトに反映することもできるでしょう。「別のパッケージ」をどこで(プレイス)販売するか? にも工夫が必要です。どこの書店へ行っても平積みされているようなマスプロダクトなら書店へ誘導すればいいわけですが、少部数なら自社でオンラインショップというのも手です。いまなら「Shopify」「STORES」「BASE」など、安価な手段がいろいろあります。適材適所です。

HON.jp News Blogは?

 最後に、当メディアについて。コロナ禍により会いたくても会えない、動きたくても動けない、耐え忍ぶ「我慢」の時が続いています。2020年は「コラム強化」や「運用型広告の停止」など大きな施策や変更をいくつも行いましたが、2021年はその路線を継承しつつ「本(HON)のつくり手を取り巻く問題解決について、さまざまな立場からの情報提供や意見交換ができるような“場の提供”」という目的を掲げて活動をしてきました。2022年はこの“場の提供”路線を、もう少し具体化させたいと思っています。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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