「文字もの電子書籍市場も拡大」「ベトナム系海賊版サイトの猛威」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #484(2021年8月1日~7日)

角川武蔵野ミュージアム エディットタウン・ブックストリート

《この記事は約 7 分で読めます(1分で600字計算)》

 2021年8月1日~7日は「文字もの電子書籍市場も拡大」「ベトナム系海賊版サイトの猛威」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

海賊版サイトへのアクセス5倍に ベトナム系台頭、対策急務〈共同通信(2021年7月31日)〉

 2020年1月比で約5倍とのこと。最近よく話題になる「ベトナム系」の海賊版サイトですが、知的財産戦略本部 構想委員会 コンテンツ小委員会の資料によると、ベトナムとは刑事共助条約がまだ締結されていない(いままさに交渉中)点が課題になっているようです(↓参考資料1の「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表について」を参照)。完全に政治マター。外務省・法務省のみなさま、頑張ってください。

文化審議会著作権分科会基本政策小委員会(第1回)〈文化庁(2021年8月5日)〉

 今年の基本政策小委員会では「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」が検討されます。いわゆる拡大集中許諾制度導入へ向けた議論。私は会議日程を間違えていて、傍聴できませんでした(やっちまった)。資料を読む限り、今後「クリエイターや著作権者、ユーザー、事業者を含む幅広い関係者の意見を丁寧に聴取する」フェーズが3回ほど続くようです。

この3年で4回の著作権法改正、いったいどこがどう変わったのか 忘れられがちな改正内容を整理する(1/3 ページ) – ITmedia NEWS〈(2021年8月5日)〉

 小寺信良さんによる、平成30年以降の著作権法改正についてのざっくり解説。改めてこうやって眺めてみると、「権利保護」と「利用促進」のバランスはそれなりに配慮されてる感があります。国内議論を無視した形のTPP協定による保護期間延長は、いまだに納得できませんが……。

社会

【電子書籍特集】拡大する電子出版 文字もの伸長を中小出版社も実感〈文化通信デジタル(2021年8月2日)〉

 文化通信で電子出版特集、記事が6本ほど出ています。そのうち、文字ものも伸びてますよという声を集めたものをピックアップ。文藝春秋、青弓社、TRC、ベネッセの事例が紹介されています。他の記事では、メディアドゥ、ブックウォーカー、パピレス、モバイルブック・ジェーピーの事例も。

米紙編集者、日本のコンビニ食品めぐり不適切投稿 批判相次ぎ「お粗末な言葉の選択だった」と釈明〈J-CAST ニュース(2021年8月4日)〉

 今度はニューヨーク・タイムズ編集者による舌禍(筆禍?)。他の記者がコンビニで買ったたまごサンドの写真に「it looks slightly radioactive」と返信したことが批判され、削除・釈明に追われたという事件です。radioactive は「放射性の」とか「放射能による」という意味なので、まあ、軽口なんでしょうけど、よりによって日本の食べ物に対して使う言葉としては不適切だし、そりゃ燃えるよね感。

電子出版制作・流通協議会(電流協)、「電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2021年07月01日)」を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年8月6日)〉

 四半期に1回アップデートされている、電流協の調査。自治体の公共図書館における「電子書籍貸出サービス」は、229自治体222館まで伸びました。一覧はこちら(↓)。 1年前は100自治体97館でしたから、コロナ禍の影響で遠隔サービスの需要が急激に高まったことがよくわかります。

経済

2020年度の市場規模は4821億円、巣ごもり消費で前年から1071億円の大幅増加!『電子書籍ビジネス調査報告書2021』8月6日発売〈株式会社インプレスホールディングスのプレスリリース(2021年8月3日)〉

 毎年恒例の調査報告。注意すべき点として、今年から「電子書籍」と「電子雑誌」の区分けが変わっています。昨年までは「電子書籍」と「電子雑誌」を合わせたのが「電子出版市場」で、「電子書籍」のうち「コミック」と「文字もの」という形でした。それが今年から、雑誌が「電子書籍」に格納され、「電子出版市場」という言い方が消えました。雑誌だけ別にしておく必然性はなかったと思うので、シンプルで分かりやすく良い変更なのでは。

被害総額は「漫画村」超え…海賊版に課金・広告収入を奪われるマンガアプリ〈SankeiBiz(サンケイビズ)(2021年8月4日)〉

 前述のベトナム系海賊版サイトの台頭と、その影響でマンガアプリ広告市場の成長鈍化が指摘されているという話。電子出版市場の急成長が続いている中、海賊版サイトの「被害額」が強調されることに対し、違和感を覚える方は少なからず観測されますが、無料閲覧&広告モデル市場への悪影響を否定する人は見たことがないように思います。ダウンロード違法化により販売市場への悪影響は抑止できるようになってきたので、次の課題はストリーミング型の海賊版、ということになるのでしょう。

圧倒的成長を遂げる「電子書籍」市場…しかし、今に至る道のりは平たんではなかった(飯田 一史)〈現代ビジネス | 講談社(2021年8月4日)〉

「電子書籍の台頭による出版社没落論」はどこが間違っていたのか?(飯田 一史)〈現代ビジネス | 講談社(2021年8月4日)〉

 ボイジャー萩野正昭さんと、O2O Book Biz落合早苗さんへのインタビュー。歴史を踏まえた現状の分析と今後の展望には重みがあります。物理の世界は「書店に並べること」が最大のプロモーション(棚スペースの奪い合い)だったわけですが、電子の世界には事実上無限の棚がある以上、周辺情報(メタデータ)を充実させること、そして、情報を発信し続けることが重要だと思います。

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 国民の祝日である「山の日」は本来、毎年8月11日の固定です。ただ、2020年は東京五輪開催日程に合わせ、特措法によって閉会式翌日の8月10日へ移動されました。ところがコロナ禍の影響で開催が1年延期。そのため今年の「山の日」も8月8日に移動され、今日はその振替休日です。7日の時点ですでに「帰省ラッシュ」というニュースも目にしましたが、このままお盆休みに入る企業も多いのでしょうか? 毎週月曜日に配信しているこの週刊ニュースまとめ&コラムも、来週(8月16日)はお休みです。ちなみに私はまだワクチン未接種なので、今年のお盆も帰省は断念。明日が1回目の接種予定です。

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

広告

著者について

About 鷹野凌 789 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /