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2023年10月1日~7日は「インボイス制度開始」「ステマ規制も開始」「X(旧Twitter)で偽見出し」「アクセシブルな電子書籍市場」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
「インボイス制度」きょうから始まる 現場ではどう対応? | 税制改正〈NHK(2023年10月1日)〉
始まってしまいました。こちらの記事、NHKの受信料額は消費税10%(つまり軽減税率の対象では無い)だから遠慮する必要などないのに、新聞が軽減税率の対象であることには触れず「食品など一部の品目」という言い方をしていることが非常に気になりました。遠慮は要らん。存分にやりたまえよ。
記事の後半では、絵本の出版社である童心社が、「制度が始まってからもインボイス発行は求めず、取り引き条件は変更しない」と取り引き先に伝えていることが報じられています。英断ですが、納める消費税額は年間2000万円ほど増える見込みとのこと。ひえぇ。
ちなみに、HON.jpも同じスタンスです。さらに、従来は免税事業者でしたが、適格請求書発行事業者として登録しました。それにより、取引先と「事実上の増税分をどちらが負担するか?」を争うのを避けました。営利企業とは異なり、控除対象外となった消費税額の全額が損金算入できてもあまり意味はないのですが、社会に貢献する団体としてあえてこのような選択を行うことにしました。
インボイス制度 独禁法違反の恐れ、事業者注意36件 公取委〈毎日新聞(2023年10月4日)〉
関連で。公正取引委員会が10月4日に公開した「インボイス制度の実施に関連した公正取引委員会の取組」によると、独占禁止法違反につながる恐れがあるとして注意した事業者は、9月末までの時点で36件だったそうです。意外と少ないですね。捕捉されていないだけかも?
インフルエンサーに影響する「ステマ規制」10月からスタート、広告とわかるように明示しなければ「違法」に〈弁護士ドットコム(2023年10月1日)〉
ステマ規制も同時に開始。「インフルエンサーに影響」というタイトルになっていますが、フォロワーの少ない一般ユーザーがふつうに投稿する際にも関わってきますし、伝統的メディアにも関連する法改正です。本欄でも何度もお伝えしてきたとおり、ウェブの場合は過去記事・過去投稿にも関わってくる話なので注意しましょう。
ダイヤモンド・オンラインには「うちの店のことをSNSに投稿してくれたら、お礼にアイスクリームをサービスするよ」がステマになってしまう可能性を指摘する記事が出ていました。これを見て、宣伝に繋がるような投稿全般が禁止されたと勘違いしている反響も散見されましたが、そういう話ではありません。違法かどうかは、投稿の内容次第です。
要するに、利益供与された事実を隠さなければ良いんです。つまり、事業者側の予防策としては「SNSで宣伝してくれたらお礼に○○を無料サービスキャンペーン」みたいなキャンペーン名にしてしまう、というのが手ではないでしょうか。そういうハッシュタグを付けて投稿してね、と。「広告」とか「PR」と表記されているか否かというより、誰が見ても利益供与されていることが明らかであることが重要なのですから。
ちなみに、個人的に動向が気になっていた「新聞の書評欄」ですが、いまのところとくになにか対応をした様子が見られないことに正直ちょっと驚いています。たとえば広告朝日の「書評ができるまで」という昔の記事には「隔週で300~400冊程度の本をいただいています」と明記されていますが、少なくともウェブの書評コーナー周辺ではそれが触れられていません。
この記事には「献本だけでは見落としもあるので、定期的に書店でも本を買い」ともあり、すべてではないようですが、基本は献本、つまり、タダで貰った本なんですよね。「そういう慣習だから」というのは業界内しか通用しない話で、世間一般の人はそんなこと知りません。
これ、まずいと思うなあ。新聞も本件の当事者であるという意識がないんでしょうか。そのうち公取委から刺されそう。その場合、責任は広告主ですから、献本した出版社にある形になりますよ。「献本だと明記してください」と、早めにちゃんと依頼したほうが良いと思います。
生成AI利用企業も責任、政府案 事業者向け指針、リスク周知要求〈共同通信(2023年10月6日)〉
ん? と思ったんですが、とくに「新たな規制」といった話ではなさそうです。生成AIを利用する側にも一定の責任があることを改めて確認・周知するということだと理解しました。東京都「文章生成AI利活用ガイドライン」の後追いのようなイメージでしょうか。
AI時代の知的財産権検討会(第1回) 議事次第〈知的財産戦略本部(2023年10月4日)〉
関連で。傍聴しましたが、著作権法は文化庁管轄ですでに討議が進んでいるので、ここでは主に知財四法関連が討議されることになるようです。いまのところ「新たな規制」といった話は出ておらず、補償金も「(対象があまりに浅く広くなってしまうため)制度を設けるのは現実的ではない」と、消極的な印象を受けました。
AI時代における知的財産権に関する御意見の募集について〈e-Govパブリック・コメント(2023年10月5日)〉
もし「それじゃダメだ!」と思っているなら、この機会に意見を直接伝えましょう。募集期間は11月5日までです。
社会
E2631 – フランス人の読書文化と余暇:読書習慣に関する調査から〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年10月5日)〉
フランスの読書習慣に関する調査。「過去1年以内に実際に1冊以上読んだ人」が89%というのはすごい。日本は、文化庁「国語に関する世論調査」によると2019年3月の調査時点で、過去1カ月間に1冊以上読んだ人の割合は52.5%です(「読書」の調査は5年毎だったはず……次は来年かな?)。
ただし、他の多くの調査と同様「雑誌や漫画は除きます」なんですよね。市場規模から想像するに、雑誌や漫画も含めると少なくとも1.5倍くらいにはなりそう。面白いことに、電子書籍の利用については「雑誌や漫画も含みます」なんですよね。電子コミックだけ突出しちゃってるから、それはそれでどうなんだ? という気もしますが。
フランスの調査に話を戻すと、2022年の調査では「電子書籍を読んだ人は15歳から24歳までの若年層では52%」と結構高くなっています。元のレポートを参照したら、前年+15ポイントと急増しているようですね。ジャンル的には、25歳未満ではコミックが+11ポイントと伸びているようで、電子書籍の伸びと相関しているように見えます。
フランスの電子書籍市場は、現地の方からのレポートでは2021年時点でもまだ「全体としては市場のごく一部分に留まっています」という話でした。日本も数年で急に変わった印象がありますが、フランスもいままさに急変しているところなのかもしれません。
経済
担当者が交代→書籍化予定の作品が没に ベテラン作家から見た「非正規」編集者の功罪〈J-CAST ニュース(2023年9月30日)〉
いわゆる「編集ガチャ」みたいな、当たり外れがあるという話。編集担当を引き継いだ作品だと自分の実績にならないからボツにしてしまうみたいな状況が、非正規雇用の編集者の増加とともに加速しているようです。ただ、「担当者が変わったら急に取引減少あるいは取引停止」みたいな話は、出版に限らずよくある話ではあります。
ちなみにこれは下請法違反にならないのですよね……編集者からの依頼原稿ではなく、著作者からの持ち込み企画なので。他社へ持ち込める企画なら特注ではないから下請取引の対象外です。詳しくは、独占禁止法・景品表示法・下請法などを専門とする弁護士・池田毅氏に話を伺った際の記事を参照してみてください。
ビューン、電子雑誌読み放題、伸び堅調〈全国賃貸住宅新聞(2023年9月30日)〉
へー! と思ったら「集合住宅向け」が伸びているそうです。なるほどだから全国賃貸住宅新聞なのか。「主としてISP(インターネット接続事業者)の接続サービスの一部として提供を行っている」そうなので、B向け取引ということになるでしょう。つまり市場統計にこの伸びは出てこないはず。電子図書館サービスと同様です。
丸善とリーガルテック、税務・会計の電子書籍サブスク〈日本経済新聞(2023年10月2日)〉
「B向け取引だから市場統計には出てこない」繋がり。記事には「国内の電子書籍市場は漫画が9割を占め、一般書籍の利用は限定的」とありますが、それはC向け市場の話なんですよね。法律書籍読み放題やリーガルリサーチサービスはB向け市場です。こちらもやはり、伸びたとしても市場統計には反映されません。
少年ジャンプ+:海外向けマンガアプリがサブスクサービス開始 連載中80作品以上が読み放題〈MANTANWEB(2023年10月4日)〉
これまで完全無料だった海外向けの「MANGA Plus by SHUEISH」に、有料サービスが追加されました。従来は第1話と最新話だけが無料閲覧できる形でしたが、最新話まで読み放題、完結作品も読み放題の、2つのコースが追加されます。これで海外市場からデジタルでの直接マネタイズが始まるわけで、収益へのインパクトは大きそうです。
アクセシブルな電子書籍の市場を拡大するために、出版社、制作会社、電子取次、電子書店がやるべきことはなにか?【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年10月6日)〉
技術評論社の馮富久氏、W3Cの下農淳司氏、ボイジャーの北原昌和氏にご登壇いただいた「HON-CF2023」の読書バリアフリーセッションを、出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。経産省の調査報告は「制作」が中心で、もちろんそれも重要なんですが、作ったあとの「流通」にもいろいろ課題があるよね……というのを訴えたかったんですが、伝わってるかな?
技術
AI によるコンテンツ収集を止める効果的な手段はない? 懐疑の目を向けるメディアたち〈DIGIDAY[日本版](2023年10月6日)〉
その不信感、わかります。robots.txtに記述すれば、その記述した特定のクローラーに対し「収集するな」とお願いすることはできます。ただし、それを守ってくれるかどうかは保証されません。robots.txtの記述を無視するような行儀の悪いクローラーも存在します。
もっと言えば、新たに別のクローラーが収集を始めたら「収集するな」とrobots.txtへ記述するまでのあいだは収集され放題です。たとえば、「ChatGPT」のOpenAI社がクローラーをブロックする手法を公開したことが報じられたのは、2023年8月8日です。つまりそれ以前(2021年9月まで)に公開されていた情報は、収集され放題だったわけです。
OpenAI社の当該ドキュメントをWayback Machineで確認しましたが、このURLでブロックする方法を公開し始めたのは2023年8月7日からだったようです。仮にアクセスログを解析して怪しい User Agent を片っ端からブロックするようなマメな人でも、不特定多数からの最初のアクセスは防げません。
つまり皮肉なことに、紙には載っている記事がウェブには公開されないとか、会員限定のハードペイウォールを設置しているとか、過去記事をすぐに消しちゃう――みたいな、ユーザーフレンドリーではない、オープンウェブとは逆のメディアは、それなりに自衛できていたことになるでしょう。
ちなみにDIGIDAYには、OpenAIのクローラーがペイウォールを迂回してコンテンツを収集していたみたいなことが書いてありますが、これって恐らくペイウォールの実装方法の問題だと思うのですよね。ブラウザ上ではペイウォールに阻まれているように見えていても、実はソースを見ると全文読めちゃうメディアもありますから(名前は挙げません)。
Xで「偽見出し」の投稿続出 ニュース記事表示の仕様変更で〈Forbes JAPAN(2023年10月6日)〉
従来は、X(旧Twitter)でURLを共有すると、Twitter Cards(本稿執筆時点でもヘルプにはまだTwitterの名称が残っています)を設定してあるページであれば、カード型のサムネイルと記事タイトル・概要文・ドメイン名が自動的に表示される仕様でした。
その仕様が変更され、下図のようにサムネイルとドメイン名だけが表示される形になってしまいました。つまり、記事タイトルや概要文といった情報は、わざわざURLと一緒にテキストを投稿しない限り、ユーザーには届かなくなります。また振り回しやがって……こんちくしょう。
ご覧のように、画像投稿との違いは、左下にドメイン名があるかないかだけ。ピックアップした Forbes JAPAN の記事は、この仕様を悪用してリンク先の情報と異なる「偽見出し」で釣るユーザーがさっそく登場している、というものです。いやあ……これは困ったな。自分で投稿するときは記事タイトルのテキストを意図的に残していますが、ユーザーの行為までは制御できませんからね。
細かな仕様の話をすると、本稿執筆時点では、Twitter Cardsで<meta name="twitter:card" content="summary_large_image">を設定していると今回の仕様変更を食らうようです。ところが、<meta name="twitter:card" content="summary">の設定であれば、従来通り記事タイトルや概要文が表示されることが確認できました。
ただし、ご覧のようにサムネイルは小さいです。つまり、タイムラインで目立たなくなる副作用が発生します。しかし、「偽見出し」で釣るみたいな真似はできません。まあ、もうXで目立たなくてもいいなと思い HON.jp News Blog は”summary”に設定を変えました。キャッシュが残っているので、過去投稿への反映には少し時間がかかるとは思いますが。
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雑記
やっとエアコンなしでも快適に過ごせるような気候になりました。9月の大学講義は汗を拭きながら話をする感じでしたが、先週はハンカチの出番なし。快適、快適。でもこういう季節って、けっこう短いんですよね(鷹野)
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