「文化庁、文化芸術活動の法的問題FAQを公開」「若者と読書の統計」「電子のラノベ市場」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #590(2023年10月8日~14日)

紀伊國屋書店 新宿本店

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 2023年10月8日~14日は「文化庁、文化芸術活動の法的問題FAQを公開」「若者と読書の統計」「電子のラノベ市場」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

生成AI「統治」どこまで 国連会議、国家の関与で綱引き〈日本経済新聞(2023年10月9日)〉

 京都で開催された国連「IGF 2023」(インターネット・ガバナンス・フォーラム)の、生成AIのガバナンスに特化したレポートです。5日間で300以上のセッションが行われるという凄まじい規模のイベントで、映像はYouTubeにもアーカイブされています。

 記事を読む限りにおいても、透明性を確保するためにルールが必要だ、という大まかな方向性では合意できても、そもそもその「透明性」が意味する内容が微妙に食い違っていたりするようです。意図的にズラしている向きもあるんでしょうね。G7だけで決めるなみたいな声もあり、着地点が見えない。制度も思惑も違いすぎる。

 ちなみにIGFでは生成AI以外にも、福井健策氏、萩尾望都氏、村井純氏などが登壇する海賊版対策のセッション(The Fight Against Piracy)も行われています。ABJ「STOP!海賊版」などの取り組みについての報告やディスカッション行われたようです(まだちゃんと観られてない)。

文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問〈文化庁(2023年10月13日)〉

 契約に関する基本や注意点、トラブル、契約に反映すべき著作権などの権利関係や税金・インボイス制度まで網羅されています。文化芸術活動だけに限らず、発注側・受注側どちらにとってもわかりやすく役に立つ、素晴らしいFAQだと思います。文化庁、グッジョブ。

社会

子どもは読書しなくなった? 東京都調査「家に本がある」に顕著な差〈朝日新聞デジタル(2023年10月12日)〉

 東京都教育委員会による公立学校の児童・生徒の「読書状況調査」について、不読率が前回調査より増加しているが「統計的に有意な変化といえるのかは慎重に判断する必要がある」のと、むしろ家庭環境の差が読書の格差に繋がっていることが読み取れるという指摘です。

 家庭内蔵書の有無が子供の読書行動や学力にも影響する――という話は昔からちょくちょく目にするなと思い、改めてJ-STAGEで調べてみたところ、「小中学生の読書行動に家庭環境が及ぼす影響」(秋田喜代美、1992年)などの論文が見つかりました。興味深い。

21歳の6割「紙の本読まず」 電子書籍も「読まない」7割 文科省調査〈産経ニュース(2023年10月13日)〉

 「21世紀出生児縦断調査」というのが行われているんですね。知りませんでした。平成13年(2001年)生まれの方々の動向について、毎年行われている調査なのだそうです。この記事で取り上げられているのは、その中の一つ「読書習慣について」。

 1カ月に1冊も読まない割合が、紙の書籍(本)で62.3%、紙の書籍(雑誌・マンガ)で51.9%。電子書籍(本)で78.1%、電子書籍(雑誌・マンガ)で57.3%という結果になっています。平成30年度「国語に関する世論調査」の未読率は47.3%(漫画・雑誌を除くが電子書籍は含む)だったので、一般的な不読率よりちょっと高めだなあ……という印象です。

 ただ、もうちょっと深掘りして欲しい。どちらも真(AND)の場合とどちらも偽(NOR)の場合はどうなっているのか。つまり「紙も電子も読む」「紙も電子も読まない」あるいは「紙は読むけど電子は読まない」「紙は読まないけど電子は読む」といったパターンが考えられるわけです。その割合がわからないと……って思いますよね。

 とくに可処分所得の少ないこの年代なら、紙の本は読んでなくてもアプリで無料マンガ連載を読んでいる率はそれなりに高いはず。まあ、話読みで冊数を聞かれても困ってしまうかもしれませんが。あるいは、「本は読まないけど、『なろう』や『カクヨム』などでめっちゃ小説読んでます」って人は、この調査では「0冊」になってしまう問題も。まあ、これは、ゼロ年代のケータイ小説ブームのころから指摘され続けてますけどね。

経済

電子の文芸・ラノベ市場がコミックのように成長するには流通・制作においてなにが必要なのか?【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年10月12日)〉

 HON-CF2023の流通セッションレポートです。企画の初期段階では文字モノ全般をテーマにしていたんですが、範囲が広すぎて議論がぼやけてしまう可能性をご指摘いただき、文芸・ラノベに話を絞ることにしました。「ラノベ衰退論」がまた話題になっていることもあり、タイミングも良かった感。

 電子書籍(文字モノ)全体はまだ446億円と小規模ですが、出版科学研究所「季刊 出版指標」には「ライトノベルは堅調」という記述もあります。ブックウォーカーの売上比率は、2020年度下半期には「ライトノベルや文芸が25%弱」という情報もありました。

 つまり電子書籍(文字モノ)のうち、ライトノベルに限るとそれなりの規模になっているはずなんですよね。「電子書籍ビジネス調査報告書」のジャンル別利用率から試算してみると少なくとも70億円くらいはありそう(つまり文字モノのうち約16%)。まあ「ライトノベル」の定義(範囲)次第でブレるでしょうけど。

 ちなみに当日は司会として話題を回すことに必死で、なかなか各論に突っ込んでいくことができなかったのが反省点。KADOKAWA 万木氏が「パッケージとして本を売ることからどれだけ離れるか」とおっしゃっていたあたり、マンガのような「話連載」の可能性についてもう少し踏み込んでみたかった。

 たとえば馬場公彦氏の中国レポートでは、「網絡文学」と呼ばれ巨大ビジネスになっているという話がありました。

 あるいは、アメリカでは「Kindle Vella」が開始1年ちょっとで1000万ドル(約14.6億円)以上を著者に分配しているという話もありました。

 そういえば日本でも、投稿サイトでコンテンツが収益化できる(広告以外で)ところがいくつかありますが、市場統計には含まれているのでしょうか? 確認してみよう……。

関係性開示:ブックウォーカーには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

技術

AI学習源の著作権問題解消には、AIをunlearnさせるのが効果的?——MS研究者ら、ハリポタを例に出し提案〈BRIDGE(2023年10月10日)〉

 AIに学習させたデータを「忘れさせる」技術(マシンアンラーニング)は以前から研究されていましたが、なかなか難しいとされてきたという認識でした。それが、1時間のファインチューニングで可能となったという研究発表です(余談ですが記事タイトルの「学習源」は「学習元」のが良いような?)。

 それが本当なら、日本でも著作権法第30条の4但し書き「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」など、権利が制限されない場合に「削除」してもらうことが技術的に可能である、という話になってきますね。文化審議会著作権分科会法制度小委員会での議論にも影響しそうです。

ChatGPTで本を出した27歳、たった2カ月半で「11万字」を執筆・編集した秘密とは? | ChatGPT、あの会社はどう使ってる?〈ダイヤモンド・オンライン(2023年10月11日)〉

 生成AIに丸投げして書かせるわけではなく、自分の中にあるアイデアを整理してプロンプトエンジニアリングで出力させる、というやり方だそうです。それも長い文章ではなく、1回500字前後の「部品」を組み合わせていくようなイメージとのこと。「ChatGPTにライティングの実務を任せることで、ライターは編集者の立場になれる」という小澤氏の発言は、私の年始の予想「エディターシップの必要性が高まる」と符合しているように感じました。

Google-Extendedユーザーエージェントをrobots.txtでブロックしてもSGEによるコンテンツ利用は防げない〈海外SEO情報ブログ(2023年10月11日)〉

 先週指摘した robots.txt 問題の実例がさっそく。Google-Extendedは「Bard」と「Vertex AI」のユーザーエージェントであり、Google-Extendedをブロックしても検索に組み込まれている「SGE」での利用は防げない、という話。つまり現状では、防御したくても防御手段がない状態です。

My books were pirated’: Interview with Indie-author Angela G. Gentile〈Good e-Reader(2023年10月11日)〉

 セルフパブリッシング(KDP印刷版と思われる)した本が、単なるデッドコピーではなく、生成AIで著作権ロンダリングされ出版されてしまったという、ちょっと厄介な海賊版の事例報告です。表現が変わっているので、Amazonの審査(盗作チェック)を潜り抜けてしまうようです。サポートに訴え出たら最終的には削除対応してくれたようですが、そもそも著作者が気がつかなければ訴え出ることもできないわけで。審査する側に、単なるフレーズ一致だけではなく、類似性レベルでのチェックが必要になりそうです。

生成AI時代の新技術てんこ盛り。Adobe MAX 2023「Sneaks」を深掘りする(西田宗千佳)〈テクノエッジ TechnoEdge(2023年10月12日)〉

 現地で撮影された映像てんこ盛りレポート。どれも短い動画なので、ぜひ視聴してみてください。個人的には、illustratorでのベクターデータの生成が衝撃度高かったです。落書きレベルのラフとテキストから複数の候補を生成し、簡単に色を塗ったり、テキストの指示でポーズを変えたり。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 また新たな戦禍が。“新たな”というか、ずっと続いている話。報復の報復の報復……という連鎖を早く止めてほしい。戦争は嫌です(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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