「経産省、書店活性化プランを公表」「悪文が読解できないのは読み手が悪い?」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #669(2025年6月8日~14日)

【写真】 BOOKSHOP TRAVELLER(祖師谷)
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 2025年6月8日~14日は「経産省、書店活性化プランを公表」「悪文が読解できないのは読み手が悪い?」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

お知らせ

HON.jp Podcasting「#35 性的な広告と表現の自由(2025年6月10日版)」を配信しました

 私は、商品・サービスを売るための表現は「なんでもあり」ではダメ派ですが、さすがに「国が自主規制の後押し」は危険だと思うのです。あと、通報窓口などを用意していないダメな広告プラットフォームを使うの、そろそろやめませんか? そういうの、記事下レコメンドウィジェットが多い印象です。

 この番組ではみなさまからのお便りをお待ちしています。番組の感想や「こんなトピックスを取り上げて欲しい」「最近こんなことが気になっているが、どう思うか?」「こんな本が面白かった」など、本に関わることならなんでも構いません。こちらのページから気軽にお送りください。

【特番】2025年上半期の出版ニュースを振り返る ―― HON.jp News Casting / 大西隆幸×菊池健×libro×古幡瑞穂×西田宗千佳×鷹野凌(6月28日開催)

 恒例の出版ニュース振り返りを、今年は予告通り半期に1回開催! 前半はどなたでも無料でご覧いただけます。もっと深く突っ込んだ話が聞きたい(したい)場合は、後半まで参加できる有料チケットをお求めください。

政治

政府の「書店活性化プラン」、返本の抑制も研究…在庫管理のICタグ普及推進〈読売新聞(2025年6月8日)〉

 経済産業省が公表する2日前に「骨子が判明」というリーク。先週ピックアップした経済産業省文化創造産業課長へのインタビューでも強調されていたように、書店へRFID読み取り機器が導入されれば盗難が大幅に抑止できることは間違いないでしょう。

 しかし、RFIDのデータを分析して「適正な本の出荷量」って予測できるもんなんでしょうか? PubteX(というか丸紅)がずっと「AIで需要予測」と言ってますが、類書で予測可能なのは実用書などごく一部のジャンルだけだと思うのですけどね。

 私が少し不思議に思っているのは、2007年にJPOが公開している「出版業界における流通効率化の実証実験」の資料との乖離について。当時は「責任販売制度」を導入する前提で検証していたのに、今回の「RFIDでの返品抑止策」ではそういう話を聞きませんよね。なぜなんだろう?

 当時、新刊は責任販売制、追加注文は従来通りの委託という、同じ商品に複数の取引条件が可能かどうかが実験されています。RFIDで個品管理が可能だから、返品の可否判断や取次の識別など異なる取引条件が併用できた、という報告がなされているんですよね。

【画像】平成18年度経済産業省委託事業 電子タグ実証実験「出版業界における 流通効率化の実証実験」(日本出版インフラセンター・2007年5月23日付)P4より “流通実験結果①(概要)流通•多様な販売/取引条件による流通が電子タグにより識別可能 ■責任販売制度検証実験結果/電子タグを用いることで書籍の個品管理が可能となり、同タイトルの書籍でも、返本の可否や、仕入れ先取次会社の識別等の異なる取引条件の併用ができた。/出版社での出荷時には、返品可・不可等の情報書き込みの手順が現状の業務フローに追加されるが、電子タグの読み取り速度の向上等により、検品業務との同時作業を行うことで対応可能であると考えられる。/現状では電子タグを用いても、現行の検品作業に比べ作業時間の短縮は図られないが、今後の技術開発による、読み書き速度の短縮や、複数冊の同時読み取り性能の向上によって効果が期待できる。/責任販売制度の導入により、返品が現状より10%減少すると仮定すると業界全体の流通コストの削減効果は年間で約60億円であり、生産部数の最適化による生産コストの削減は約210億と試算できる。また、返品減少により廃棄物は年間1,336トン削減される。” と書いてある。

 書店自身による需要予測に基づく事前発注が適正に行われることで、返品が抑制される。そして、責任販売制を前提に正味を下げることにより、書店の利益率を上げる。「AIで需要予測」みたいな絵空事ではなくそういう話なら理解しやすいんですけど、なんか今回はその「責任販売制」って話を妙に避けてる印象があります。

政府 全国で減少する書店の支援計画「書店活性化プラン」発表|経済産業省〈NHK(2025年6月10日)〉

 というわけで発表された「書店活性化プラン」ですが、大半は既存パッケージの寄せ集めでした。RFID読み取り機器への補助金ですら、まだ「調整を進める」って記述で確定はしていません。それもあってか「肩透かし」という声も散見されました。表紙に公正取引委員会の名前があるから一瞬「なに!?」と思ったんですが、従来通りの見解を繰り返してるだけでした。まあそうですよね。

 良いところ探しをすると、経産省・公取委の要請でクレジットカード国際ブランドのインターチェンジフィーがぐっと下げられたって話は良いなと思いました。でも周知がまだ進んでなくて、実際の手数料引き下げにまで到っていないそうです。周知だけで下がるのかしら?

韓国AI教科書、政策大転換で「撤退」危機…学校現場は混乱、発行各社は猛反発 写真枚 国際ニュース〈AFPBB News(2025年6月11日)〉

 政権交代で、政策の大転換が行われています。政治に振り回される学校現場も気の毒だし、開発に時間とお金をかけた出版社も気の毒です。まあ、政権交代ってそういうものか。

社会

「過半数の大人は新聞記事が読めない…」有名数学者・新井紀子氏が語る日本人の《シン読解力崩壊の驚くべき実態》(週刊現代,新井 紀子)〈現代ビジネス | 講談社(2025年6月11日)〉

ガソリン車からEVへの大転換「EVシフト」は、自動車部品の製造に欠かせない工作機械にとって、EV部品の増産に向けた設備投資や、新たな加工に対応するための機械更新といった大きな需要が期待できる機会だ。

 この文章を読んで「大きな需要を期待できるのは」何か? を答えさせるというテストをやっているそうです。私は正答できましたけど、これは圧倒的に文章が悪い。読解不能ではないけど、こんな係り受けが複雑な「悪文」を出題するのは意地悪すぎる。そしてそれを根拠に「読解力崩壊」などと主張するのもちょっと違うのでは。「誤読は書き手の粗相」って発想がすっぽり抜けてませんか?

 ちなみにこの文章の出典は、2023年1月17日の日本経済新聞とのことです。まあ、こんな悪文を載せちゃった日本経済新聞にも責任があるなあ……と思いつつ念のため調べてみたら、記事には「出所:日経クロステック」と書いてありました。日経BPじゃねーか。日経BPからの転載を「新聞記事」と言っていいのだろうか?

《性的広告停止》で終わりではない!ネット広告「無法地帯化」で業界と広告主が向き合うべき大問題 | メディア業界〈東洋経済オンライン(2025年6月12日)〉

 境治氏の御意見。経営層が動かないと変わらない、今後はPMP(Private Market Place)が重視される。これらは私もほぼ同意見です。私はもうひとつ、ゴミみたいな広告プラットフォームを使うのを止めましょう、という提案もしています。とくに記事下レコメンドウィジェットは、ダメな広告プラットフォームが多い印象です。止めましょうよ。

「盗作の底なし沼」ディズニー、画像生成AIのミッドジャーニーを著作権侵害で訴える。学習段階の侵害や幇助も主張〈テクノエッジ TechnoEdge(2025年6月12日)〉

 超大物がついに動きました。この記事で挙げられた事例を見るに、プロンプトに作品名やキャラクター名を入れないAI出力で類似性が認められそうなものを徹底的に集めた印象があります。さてどうなるか。まあ、判決が確定するまでは何年もかかるでしょうけど。

経済

YouTube新時代 、メディアはどう向き合うのか? 文藝春秋PLUS村井弦編集長に聞いた「挑戦」と「展望」 オトナの女性の気になること、企業に人に聞いてみた!(1) 既存メディアはYouTubeでどう変わるのか?|教養〈婦人公論.jp(2025年6月12日)〉

 文藝春秋PLUSのYouTube公式チャンネル、気づいたら登録者数37.9万人にまで増えていました。すごいなあ。ビジネスモデルは運用型広告ではなく、タイアップ広告なのだそうです。しかし、毎日更新かあ……専属でやらないと無理ですよね。

 私もコロナ禍始まってすぐのころ、YouTube Liveで毎週更新にトライしましたが、めちゃくちゃ負荷が大きくて数カ月しか続けられなかったんですよね。いまはゲストを呼ばないポッドキャストを毎週更新してますが、きちっと台本用意してるからやはりそれなりに負荷が大きい。

AI学習用の画像を投稿→換金可能なポイント獲得 1枚数十円~数百円 フォトストック事業者から新サービス〈ITmedia NEWS(2025年6月12日)〉

 これはなかなか面白いチャレンジ。学習用データが2026年くらいには枯渇すると言われてますから、AI事業者にはニーズがあるはずです。問題は、悪用するユーザーが必ず現れること。それは事前にわかっているでしょうから、どうやって防ぐか? が注目点でしょう。

Mediahuis Ireland reaches 100,000 digital subscriber milestone(メディアハウス・アイルランド、デジタル購読者数10万人を達成)〈Press Gazette(2025年6月13日)〉

The company becomes the 53rd English-language news publisher worldwide to exceed 100,000 online subscribers according to Press Gazette’s 100k Club ranking.(プレス・ガゼットの100Kクラブランキングによれば、同社はオンライン購読者数10万人を超えた世界で53番目の英語ニュース出版社となった)

 ここを読んでちょっと考え込んでしまいました。人口の多い英語圏のニュースメディアでも、有料契約者10万人を突破しているのはまだ世界で53誌なのですか。うーん……わかりやすくするために、スケールを日本に合わせて考えてみることにします。

 京都産業大学の記事によると「日本語を母語とする人の数は約1億2,500万人」で「英語を母語とする人は約3億7,000万人」だから、約3倍です。つまり日本語ニュースで考えると、17媒体くらいが10万人超えという計算になります。

 実際にはどうか? 日本のデジタルメディアで有料会員数10万人超が確実なのは、日本経済新聞、朝日新聞、NewsPicksの3媒体くらい。日本ABC協会の発表している「ユニークユーザー数」は、「dマガジン」「楽天マガジン」など読み放題プラットフォームの合算で、それなら10万超えは20媒体くらいあります。

 ただし、プレス・ガゼットの100Kクラブランキングでは、読売新聞のような「紙を契約していると電子版は無料で閲覧できるモデル」は集計外です。また、ニュースアグリゲーター経由の場合も、個々の媒体の数字にはカウントしていないそうです。

技術

Google検索の「AIによる概要」で検索流入はどう変わった?同機能の概要とSEOへの影響を探る〈MarkeZine(2025年6月12日)〉

 けっこう影響出ているようですねぇ……でも、商品・サービスを販売するモデルの場合、流入数が減ったとしてもコンバージョン率が高くなれば良いわけで。要するに前より売れてればヨシ! そこがどうなっているか知りたいんだけど、この記事ではさすがにそこまではわかりません。また、無料コンテンツ配信&広告モデルだと、流入数が減るのは致命的ダメージになっちゃうんですよね。

お知らせ

ポッドキャストについて

5年ぶりに再開しました。番組の詳細やおたより投稿はこちらから。

新刊について

新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』各ネット書店にて好評販売中です。Kindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題、シーモア読み放題にも対応しました!

「NovelJam 2024」について

11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」で新たに誕生した16点の作品を合本にしました!

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HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

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雑記

 すっかり梅雨空に。気象庁によると、関東甲信は6月10日ごろから梅雨入りだったそうです(速報値)。洗濯物を部屋干ししなきゃいけないのが憂鬱。まあ、居間とかではなくバスルーム干しですが(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 866 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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